フィクサー事務所68   作:バラのレバー

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おはレバー(天下無双)
今年は亀じみたペースなんで来年にご期待。
あと40話ぐらいかかりそうなんですけどそれは...(戦慄)
ここに美食とか小話入れていくと...何が何だか分からなくなるぞ!(アストルフォ)


10世紀都市の疾病罹患者
「強くなったよ!マジで?」


「終わりましたよ〜」

眠りにつく前に最後に聞いた声と、赤く燃える瞼の裏の眩さを感じ、彼女は微睡みから覚醒した。

「う、うーん...」

床で寝た後のようなバキバキと全身が凝り固まった感覚を味わいつつ、ぼんやりする頭に手を当てて体を起こす。

「おはよございまーす。上手くいきましたよ〜」

白衣の女はカルテから目を離さないままにサムズアップしてみせる。

「もう動いて良いのかしら?」

「あー。難しいと思いますよ?神経の繋がり方が変わってるのでぇ、脳がまだ慣れてないんですよねぇ〜」

「それにお客さんが受けた施術凄い癖が強いんでぇ、そうだなー、軽自動車からF1カーに、しかもオートからマニュアルに変わったって考えたら分かります?F1カーにオートがあるのかは知りませんけど〜」

ま、試してみる分には止めませんけどね〜

なんて言いながらボードに何かを書き込んでいく主治医を横目に、アルは自分の体の変化を探していた。

外から見る分には特に変化は見当たらない。

受けた手術内容は人工筋肉の追加と、内部機能の強化。

身体能力向上目的で大半のフィクサーが選択する無難な組み合わせだ。

彼女は軽い調子で他のメンバーに手術を受けることを伝えたが、正直思うところがないわけではない。

今回の施術はかなり体の深くに踏み込んだものであるからだ。

動体視力強化眼球、高圧心臓、人工筋肉の追加。

彼女は自然体主義者では無いが、やはり、産まれた時からの体を弄り回すのに思うところはある。

個性が形骸化して久しく、人間が歯車のように画一化されたこの都市の中で、自分の存在の証明を一つ失うことになるのは少し怖かった。

それでも、アルに後悔はない。

大事な職員達を守れるのならば、それで良いのだ。

それがどんなときも自分を証明するから。

ところで。

これから起こることを前に、誤解されないように言っておきたい。

彼女はあくまで起きあがろうとしただけ。

そう、今まで通りに脚に力んだだけである。

「よいしょっ...」

しかし、悲しいかな。

その力み方は以前の感覚。

つまるところ、軽自動車の感覚でF1カーのアクセルを踏み込む行為であった。

「あら?」

体内の何かが猛スピードで脚に集まるような感覚の刹那、高く振り上がった脚は力強く手術台に振り下ろされ、一瞬の内にフライパン上の目玉焼きのようにアルは宙を舞った。

「!?!?」

突如遠く高くなったベッドに脳は思考を停めてしまうが、重力は再起動を待つほど寛容ではない。

当然の事ながら、自然の摂理に従って彼女は落下し始めた。

「いやぁぁぁぁ!!!」

再起動、絶叫。

わけも分からないままジタバタと動いてみるものの彼女は鳥ではないので揚力は生まれない、航空力学は非情であった。

「へぶっ!」

落下中に振り回した腕が薬品やら注射やらの入ったトレイをひっくり返しながら、彼女は手術台に見事な着地を決めた。

胸を起点にした手足が伸び切った姿勢。

半身でもなければ、受け身も取っていない。

如何に衝撃をダイレクトに受けるかという試みの理想系とも言えるフォームにより、寸分の減衰も無い衝撃が全身に走り、打ち付けられた反動で顔を強打する。

「いったぁ....あっ」

顔を押さえながら、アルが視点を上げた瞬間、ちょうど床の惨状に絶句している主治医と目が合った。

「ご、ごめんなさい....」

「あ、いや。ダイジョブですよ?全然。えへへへ。」

始末書、天引き、上司からの小言。

そんな言葉が頭を絶えず巡っている主治医は手癖なのか、上の空の状態でペンを動かし続ける。

無作為にただ手首のスナップに従って動き続けるペンは、斜線の束でキャンバス(カルテ)を埋め続けているが、彼女がそれに気が付いて項垂れるのはもう少し先の話である。

 

 

 

「1...」

足が地を蹴る。

視界が回る。

体が舞う。

「2...」

逆さ向きに着いた手が慣性の乗った体を更に前に押し出し、

「3!!!」

掛け声と共に心臓にギアが入った。

強化心臓が激しく鼓動し、加速した血流が脚の筋肉に爆発的な勢いを与える。

靴底が床を削る音と共に、身体はみるみる重力を失い、空中で翻した身体は6メートル上のバーを容易く飛び越し着地した。

アルは大きく息を吐いて拳を握る。

「よし!流石私ね!」

彼女は今、体育館にいた。

身体施術のプランで一ヶ月使用できる生活施設の一つだ。

広い敷地の中に宿舎や、グラウンドや体育館があり、彼女にはなんとなく学校に通っていた頃を思い出す風景だった。

このメーカーの施術は性能が良いが、体の操作の難易度が他よりも高いため、所謂「馴らし」の時間を取る目的で多くの人間が利用する。

一部の人間、例えば成金なんかは深い馴らしの期間を経ずにかろうじて日常生活を送れるようになった段階で戻るらしいが、それは自殺行為と言って良い。

護身用に身体能力を上げたとしても、動かし方を知らなければ半額以下の安い施術相手にすらサンドバッグ扱いを受けることになる。

将棋で持ち駒が少なくとも、名人が初心者に負けないように。

「プラス30cmぐらい行けそうね....」

アルが水分補給を終え、記録更新に熱意を燃やしていると、急に後ろから肩を叩かれた。

「お姉さん。あっちでスパーリング組んでもらえないっすか?」

聞き覚えのない声に振り返ると、そこに立っていたのは長い黒髪の女性だった。

「えーと...失礼だけれど、どちら様かしら?」

「あはは、申し訳ないっす。知らない人から急に話しかけられたら怖いっすよね。」

「仲正イチカっす。お姉さんのお名前は?」

「ふふっ、こう言う者よ。」

待ってました、と言わんばかりにアルはゆっくりとジャージのポケットから名刺を取り出し、人差し指と中指で挟んで見せ...丁寧に両手で端を持って手渡した。

「これはこれは。丁寧にどうもっす。」

イチカもお辞儀をしながら丁寧に端を持って受け取る。

「フィクサー事務所68代表陸八魔アル...へぇ〜!フィクサーやってる方なんすね。」

「ふっふっふ、意外だったかしら?」

「そうっすね。すごい丁寧に名刺を下さったんでどこかの翼の職員さんなのかなと。」

「な、なるほど。ありがとう。」

アルは虚をつかれた様子で返す。

彼女的には、先ほどの名刺渡しはハードボイルド満点の出来であった。

組織員に間違われるのはまだしも、翼の職員に間違われるとは夢に思わなかったのだ。

「やっぱりジャージが悪いのかしら...」

「えーと?」

「いや!何でもないわ!あっ、そうだわ!スパーリングのお誘いだったかしら?」

「そうっすよ〜。お姉さん強そうなんで、良い練習になるかなーなんて思いまして。」

「結構軽いわね...」

強化施術同士のスパーリングは普通の人間のそれとは訳が違う。

例えば、友人との小突きあいでうっかり良いのが入った場合どうするだろうか?

殴られた側が少し恨み言を言いながら水に流す、もしくは殴った側が缶ジュースでも奢ってあげればそれで解決するだろう。

レンガを素手で粉砕できる人間がうっかり良いのを入れてしまった場合...少なくとも入院費は補填することになるだろう。

そのため、その危険を知った上でお茶にでも誘うような調子で練習試合を提案してくる彼女の姿はアルにとって奇妙に思えた。

過度の自信家?

享楽主義者(ムツキタイプ)

それともストイック(カヨコタイプ)

イメージに従ったイチカの姿を頭の中で思い浮かべてみるものの、全てピンボケの写真のように解像度が低く、アルは一層首を傾げた。

だが、未知のものには好奇心を、カッコいいものには憧れを感じてしまうのが彼女の性。

ミステリアスな推定強者は正に興味の対象だった。

「良いわよ。こっちも練習したいところだったから。」

「模擬戦武器借りに行きましょう。」

「あ、必要ないっすよ?素手喧嘩(ステゴロ)なんで。」

相変わらず笑顔で言うイチカにアルは一瞬フリーズした。「え、あー...流石に冗談よね?」

「あはは!冗談に決まってるじゃないすか。流石にグローブは着けるんで。」

イチカは相変わらず笑顔のまま答えた。

好奇心は猫をも殺す。

なぜかそんな言葉が脳裏によぎったアルだった。

 

 

 

 

「やれやれー!」

「ぶちかませ!」

「お前に賭けてるぞー!」

「うるっさいわね!」

リングに上がって早々背に飛ぶむさ苦しい野次にアルが怒鳴ると、どっと会場に笑いが起こった。

「どうしてこうなったのかしらね...」

「いやぁ...ホントになんでっすかね?あんまり人目があって欲しくなかったんすけど...」

スパーリングを組むと言うだけで体育館内はちょっとしたお祭りになっていた。

物珍しさで見に来る者、純粋に技術研究の目的で来るもの、楽しそうだから来る者様々がリングの周りで賑やかに騒ぎ立て、商売どころと見たか、飲み物を売り歩く者までいる。

思わぬ事態に2人が悩ましげに顔を見合わせていると、イチカの後ろからも声が飛んだ。

「イチカ先輩頑張れー!」

「頑張れー!」

ちんまりした後輩達からの声援にイチカは一瞬ドキッとしたが、すぐに笑顔で振り返って手を振る。

「応援の落差が酷いわね...羨ましいわ。」

「ははは...自慢の後輩達っすよ。見てて欲しくなかったっすけど...」

「はいはーい、両者離れてー。」

レフェリーが二人を引き離し、折りたたみ机の即席実況席に目配せした。

「始めぇぇぇぇいいい!」

豪快な掛け声と共に振り下ろされたレフェリーの手が始まりを告げた途端、アルとイチカは相手の動きを観察するようにゆっくりと移動し始めた。

アル、イチカ両名ともガードを上げた構えで

円を描くように静かに対峙する中、先に硬直を破ったのはアルだった。

「行くわよ!」

アルは駆け出し、その勢いのままに殴りかかった。

「おっと。」

イチカは拳一個分引いて避け、すかさずアルの腹部に突きを入れる。

「ぐっ....」

呻きを飲み込み、腹部に手を当てながらイチカを睨むアルに対し、イチカは少し申し訳なさそうに笑ったが、構えを解く気は無いようだ。

「はぁぁぁあ!!!」

アルは懸命に腕を振り回し、イチカにラッシュを仕掛けた。

しかし、その攻撃は全てイチカの眼前で空を切る。

「このっ!」

アルは絶えず懸命に攻め続けるが、パンチは叩き落とされ、キックは余裕を持って間合いを外され、触れることすら出来ずに、スタミナを消耗していく。

早々に、声をかける相手を間違えたとイチカは考え始めていた。

徒手空拳が苦手なフィクサー、珍しい話ではない。

得物の都合、実戦経験不足、色々あるだろう。

体の動かし方が見事であったため、声をかけたが、見当が外れたようだ。

ならば、長引かせずにさっさと終わらせてしまうのが慈悲というもの。

イチカはラッシュを冷静に捌きながら分析を進める。

左が4回右が3回。精度を見るにほぼ両利き。しかし、左の動きがやや鋭いようだった。

息が切れたタイミングで恐らく入れてくる左の大振りを躱して、顎に一撃。

イチカはプランを整えた。

鼓動を速く、息を荒くしながらアルの連打は続く。

「当たりなさいよ!」

当たらない攻撃に耐えかねたか、アルが苛立たしげにその左腕を大きく振りかぶった。

「お疲れ様っす。」

軽い踏み込みと共にイチカの狙い済ました右ストレートがアルの顎に向かって伸びる。

大振りの描く弧を正面から貫く素早い一打。

このままストレートが顎に入り呆気なく勝負が幕を下ろす。

そう、思われた。

「へ?」

イチカの眼前から突如としてアルが消え、拳が空を打った。

思わず視界を下に向けると、そこには低い姿勢でアルが懐に潜り込んでいる。

「お疲れ様。」

虚をつかれて硬直したイチカの脇下に肩を入れこみ、おあつらえ向きに伸ばされた右腕を両腕でがっちり固定する。

アルが短く息を吐き、捻りを用いて振り抜いた瞬間、イチカの体は宙に弧を描くようにして強烈にリングに叩きつけられた。

『一本背負いぃぃぃぃいアァァァァァァァァ”ァ”ァ”ァ”ァ”!!!!』

大技の炸裂に実況席が絶叫し、会場から悲鳴と歓喜が湧き上がる中、アルはローランの教えを反芻していた。

‘’常に全力を見せる必要は無い。欺き、騙すのも技の一つだ。”

技術の偽装と限定的な身体能力解放を組み合わせ、緩急で消えたかのように見せかける。

短いフィクサー生活の中で、ローランの教えは確かに実っていた。

「あいたたた...初心者かと思ったらすっかり騙されたっすよ。」

イチカが起き上がる。

倒れる前と同じ微笑を浮かべ、倒れる前と同じ口調と共に。

足元がグラつき、浅く息をするその姿は先程受けたダメージの大きさを物語っている。

だが、この絶好の機会にアルは追撃を入れようとしない。

いや、できなかった。

強烈な違和感が彼女の足をその場に縛り付けていたからだ。

「あれ?来ないんすか?」

イチカがその目を薄く見開いたと同時に、吸い込まれそうな灰色の色彩がアルを射抜いた。

ただ視線を合わされた、それだけのことなのに、筋肉が強ばり、心臓がドクンと跳ね上がる。

イチカは微笑を浮かべているだけだと言うのに、まるで獰猛な肉食獣を前にしたような、鋭い威圧感がアルを取り巻いていた。

「あら...後輩に見せられない顔じゃないのかしら?」

「あはは...おっしゃる通りっす。頑張って隠してたんすけど...やっぱり取り繕えないっすね。本性は。」

イチカはなにか思い返すような、あるいは躊躇うような表情をしたが、直ぐに消して向き直った。

「ま、いいか。出し抜かれた分取り返さないとかツルギ先輩に申し訳が立たないんで...」

イチカはそう言って恥ずかしげに頭を掻き、

「一緒に地獄に行くっすよ。」

鋭さを増した灰色の視線と共に死刑宣告のような一言を放った。

イチカが前傾姿勢を取り、一瞬全身の筋肉を緊張させたかと思った瞬間、間合いが消えた。

「速っ...!」

瞬時に強化眼球を作動させたアルの瞳孔が赤く光る。

そして、強化された動体視力でスローになったイチカの動きを捉え、寸分の狂いも無いカウンターフックを側頭部に叩き込んだ。

イチカ自身の加速が上乗せされた強烈な一撃に、イチカの重心が揺らぐ。

だが、止まらない。

体が横に流れたと同時に、イチカは腰に捻りを加えて大きく拳を振り抜いた。

アルは咄嗟にガードするものの、巨大な衝撃はガードを上に吹き飛ばし、ガラ空きになった胴に正拳突きが叩き込まれた。

「かはッ...!」

槍で貫かれたと錯覚するほどの激痛と共に、アルはロープ際まで吹き飛ぶ。

「ゴホッ...ゲホッ...痛ったぁ...ひぃっ!?」

思わずロープにもたれ掛かると、息つく間もなくイチカのハイキックが飛んでくる。

アルは辛うじてしゃがんで躱し、頭上を横切った死の気配に戦慄した。

そして、強化眼球で上昇した動体視力で引き伸ばされた時間の中、こちらを見下ろすイチカの恍惚とした表情に内心毒づいた。

中身が凶暴な(ハルカ)タイプじゃないのよ!

今までよく隠し通したものだと思ったが、感心しているほどの余裕は無い。

ガードすら許されないパンチと当たれば昏倒どころか死の影すらチラつく蹴りの応酬がアルに襲いかかっていた。

何とか捌いてはいるものの、強化眼球は脳への負担が大きく、長く持続することができない。

その上、モロに受けた突きがマズかった。

()()()()()()()()()と言われるように、腹部への攻撃は筋肉を強制的に収縮させられているような激痛で後の動きに糸を引く。

「死なないでくださいね?」

イチカは回し蹴りの要領で蹴り出した脚をそのまま側面に落とし、スケートのスピンのように爪先で地面を拗じり、跳び上がった。

まるで一つの舞のような動作で加速された回転が生んだ破壊的な威力の飛び回し蹴り。

威力、速度ともに跳ね上がり、防御どころか回避すら不可能な詰みの一手。

リング上に鈍い音が響く。

惨劇の予感に目を背けた者も、目を離さなかった者も、等しく信じられないものを目にした。

「マジっすか?」

アルは、腕を盾のように構え、イチカの蹴りを耐え凌いでいた。

「悪く思わないでちょうだいね?」

アルの心臓の鼓動がギアを上げたように速くなり、瞳孔が益々赤く煌めく。

短期決戦のためだけの、一切の反動を無視した高圧心臓と強化眼球のフル解放。

「一緒に地獄行きよ。」




全世界500万人のお前ぶたれたい?しこたま?ファンのみんなごめんね。
ところで何で俺はブルアカとプロムンの二次創作でケンガンアシュラを書いてるんだろうな?(素朴な疑問)
施術関係を描写しながら今後の展開の導線を敷いておくのに丁度よさそうだったからやりました。
次話限りで格闘マンガみたいな展開は打ち止めなので御安心を。

御職業は?(展開の参考にするかもしないかも。)

  • 管理人(プロムンユーザー)
  • 先生(ブルアカユーザー)
  • その他(どっちも知らない)
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