フィクサー事務所68   作:バラのレバー

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ふふ...忙しすぎてままならないね...
気に入らないから遅くなるけど気に入ってはないので初投稿です。


「ハイ・ヴォルテージ」

「ハイ・ヴォルテージ」

「早く倒れなさいよ...!」

アルは渾身の連打を前にして、一向に膝をつかないイチカに驚きを隠せなかった。

強化眼球を通してさえ、残像しか追えない速度の拳の連打を耐え凌がれているのだ。

任意発動性の施術は平常時の性能の低さと継戦能力の低さの代わりに、フル稼働時には圧倒的な力を生む。

例えるなら4気筒エンジンを積んだ原チャリ。

エンジンの燃費と操作性を犠牲にして一時的に膨大な出力を生み出す暴走マシン。

実際、その性能はイチカの身体能力を遥かに上回っている。

だが、戦いにおいて肉体的スペック以上に物を言う要素がある。

それは経験。

積み重ねてきた戦闘経験、それがイチカに先読みにも等しい精度の予測を与え、不可視の打撃への対処を可能にしていた。

しかし、如何に攻撃をいなし、捌いるとはいえ、使っているのは神経の通った己の体。

「ぐっ...」

イチカが疲労から一瞬姿勢を崩した瞬間、アルの強烈な蹴りがイチカをとらえた。

一瞬表情を険しくしたが、イチカはすぐにステップで後ろに退き離脱した。

「お疲れっすか?勢いが足りてないっすよ?」

そう言いながらガードを固めるイチカの様子はセリフほどの余裕がないことを示している。

観客には一方的な戦局に見えているが、実態は真逆。

アルが燃え尽きるか、イチカが膝を着くかの壮絶なデットヒートだった。

時間の感覚が消える灼熱の中、終にこの戦いに最後の局面が訪れた。

縦横無尽にリングを動き回っていたアルは今にも膝を着きそうなふらつきを見せ、イチカもまた肩で激しく息をしている。

一度倒れてしまえばもう2度と起き上がれないであろう極限の疲労の中、向き合う二人は自然に悟った。

次の攻防が最後の一合になる。

アルは乱れた呼吸と跳ねる鼓動を無理やり押さえつけ、拳を握りしめた。

頬を伝う汗の一滴が落ちた瞬間、

「これで...最後!!」

アルの今生の拳が炸裂した。

計算も打算もなく、最短距離を突き進む正拳。

身体に残った全てを火に焚べた渾身の一打。

それを放った瞬間、鋭い衝撃が顔を穿った。

「....っぁ」

白い閃光が全身に広がり、骨が無くなったように体を支えられなくなる。

「っはぁ...はぁ...左の大振り。そう来ると思ったっす。」

イチカは絶え絶えの息をしながら座り込み、倒れたアルへと言葉を搾り出した。

アルは自分をカウンターで仕留めたことを示すように伸ばされた相手の右腕を見て、少し悔しそうに笑いながらその意識を手放した。

試合時間15分32秒、決まり手はカウンター。仲正イチカの読み勝ちであった。

 

 

 

「な、ななな何ですってーー!!??」

「そんなに驚かなくてもいいんじゃないスかね?」

「お、驚かない方がおかしいわよ!トリニティの正義実現委員会幹部とか!」

トリニティ連合、T社の巣に広大な敷地を持つこの組織は、古い宗教を信じる三つの名家が連なったことが始まりとなっている。

祈りを通しての主への信仰を尊ぶ社会を独自に形成しており、巣の中にありながら、翼と対等な関係を築いている巨大組織だ。

そんな雲の上の人間が裏路地の一角で自分の前に立っている。

アルの動揺ももっともなものだった。

「いやいや〜そんなに大したことないっすよ?私は部下もあんま居ませんし、出世できない立場なんで。」

「出世できない...?」

「あっ」

「えっ?」

二人の間に微妙な雰囲気が流れる。

アルは余計な詮索をしてしまったことを察して謝ろうとしたが、イチカは手を出して静止した。

「まぁ...お姉さんになら話しても良いかもしれないっすね。素顔はもうバレちゃってますし。」

「実は私裏路地生まれっす。」

「えええぇ!?嘘でしょ!?」

アルは二度目の絶叫を上げた。

「いやー?嘘じゃないっすよ?生まれも育ちも9区の裏路地っす。勿論お偉いさん達からめちゃくちゃ反対されたっすけど、拾ってくれたうちのボスがゴリ押しで黙らせたんすよね...」

「おかげで素行矯正するの苦労したんすよ〜?今日でご破産になったっすっけど。」

「それは申し訳ないわ...」

「いやいや、私がテンション上がっちゃったからなんで仕方ないっすよ。これから部下と気まずくなるだけっすから...」

「心中お察しするわ...」

なんとなく互いに気苦労を察し始めた頃、イチカがアルに聞いた。

「ところで、お姉さんかなり強かったんすけど、何級なんすか?」

「え?あ〜級ね!?えーっと〜...七級よ。」

「は?」

「え?」

遠慮がちに答えたアルに対し、イチカは一瞬真顔になった。

「いやいやいや、冗談キツいっす。どう低く見積もっても四級フィクサー相当の動きっすよ!?」

「いやいや嘘つかないわよこんなことで!ほらライセンス!」

イチカはアルが突きつけたライセンスを訝しげに見つめ、肩を落とした。

「えぇ...うっそー。私七級フィクサーと良い勝負してたんすか?新人教育でのブランクがあるにしろ、都市疾病ぐらい一人で片付けられる位の腕はあったんすけど...」

「一体どうしてその腕前で七級なんすか?もしかして降格させられたとか...」

「いやいや、清く正しく活動してるわよ!まだ事務所開いて半年ぐらいだし。」

「へぇ〜、じゃあ天才だったわけっすね?そうそう居ないっすよこんなに強い七級フィクサー。」

「て、天才?いや、そんなことは...」

居てたまるかと暗に言おうとしているイチカのおだてをアルが真に受けていると、後ろから声がした。

「イチカ先輩!」

ちんまりとして可愛らしい3人の後輩が、イチカの元に集まって来た。

イチカはみるみるうちに顔を青くしながら、あらぬ方向を見ながら喋り始めた。

「あ、えぇ...あ〜。どうもっす...今日見たのは忘れて欲しいと言うか..」

「カッコよかったです!先輩!」

イチカが言い訳する間もなく、正面に立った一人が叫んだ。

「先輩は普段から頼りになりますけど...あんなに熱くてカッコいい一面には気が付かなくて...!私達も先輩みたいに戦えますか!?」

全く予想していなかった反応に、イチカはしばらくぽかんとしていたが、言われた言葉の意味を理解すると、赤くなった顔を隠しながら小さな声で言った。

「な、なれるんじゃないすかね...」

「本当ですか!?」

「私でもなれますか!?」

「私も私も!」

彼女の周りが賑やかになる前に自然な流れで席を離れていたアルは、少し困惑しながらも楽しそうなイチカの様子を見ると、満足げな表情を浮かべた。

「ふふ、部下とのコミュニケーションに水はさすなんて野暮なことよ。デキる女は、クールに去る...わぁっ!?」

キメ顔のまま去ろうとしたアルは、突然脚をもつれさせ、倒れ込んだ。

「い、今更反動来るの!?」

十数分後、痙攣しながら床を這うアルがイチカ達に発見され、交友がより深まることになるのだが...これはまた別の話である。




辛いですね...悲しいですね...ちょっとだけ時間が見つかったので書いたら衰えをダイレクトに感じて辛いですね...
来年からはシャキッとするので今回だけ見逃してもらえると嬉しいですね...

御職業は?(展開の参考にするかもしないかも。)

  • 管理人(プロムンユーザー)
  • 先生(ブルアカユーザー)
  • その他(どっちも知らない)
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