フィクサー事務所68   作:バラのレバー

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リ・書・多・今・最


「小悪魔の魔魔ならない一日」

「やーめた」

読んでいた教本をその辺に放り投げると、浅黄ムツキはソファにうつ伏せになって猫のように唸り始めた。

ソファを掴んで暴れてみたり、顔を擦り付けたり、意味もなく転がってみたり、一見どうかしてしまったように見える奇行をしばらく繰り返す。

五分ほど経った後、彼女は掛時計を見てため息をつくとうつ伏せのまま誰もいない机を睨みつけた。

彼女は、退屈であった。

いじりがいのある幼馴染は長い外出中であり、神経質に鉛筆を走らせ時にはそれをへし折る音で彼女の資格勉強にBGMを与えてくれる会計も『ちょっと行ってくる』とだけ言い残してどこかに出払っている。

非日常とトラブルを愛する彼女にとって、『何もない平穏な1日』というのは息が詰まるような苦痛であった。

いっそ自分も遊びに出て行こうか。

そんなことを考えたものの副代表という立場上、更に言えば親愛なる幼馴染本人から留守を頼まれた以上、新入り一人事務所に残して遊び回るのはよろしくない。

浅黄ムツキは幼馴染のような一般道徳は無くとも、信頼と約束を無碍にすることは滅多にないのだ。

結局、味の無いクラッカーを食べているような気分でソファにへばりつき天井を眺めているしかなくなり、ストレス発散のためか彼女は唐突に手足をバタつかせた。

「あーあ!きっとカヨコちゃんもアルちゃんも私を差し置いて楽しいことしてるんだ!ずるい〜!!!」

「........」

子供みたいに駄々をこねても、ツッコミを入れてくれる人がいない。

駄々をこねるだけでも見ていてくれる人が必要なのだ。

虚しくなってこのままふて寝してしまおうかと思い始めた頃、ムツキの頭の中にふと疑問が浮かんだ。

あの新入りは今何をしているのだろう?

そう言えば『わ、私なんかが副代表と同じ高さの土を踏んで良いわけがないので...』

なんて言いながら朝イチから半地下に降りて行ったのを最後に見かけていない。

ムツキは退屈な時間に変化が起きそうな期待と、一抹の不安を覚えた。

"液晶タイマーが壊れた時限爆弾"それが新入り、伊草ハルカに対するムツキの第一印象だった。

表面的には平気に見えても着々と中でカウントダウンが進んでいき、誰にもわからないタイミングで爆発しそうな、そんなイメージ。

退院して早々アルが身体施術を受けに行き、カヨコは事務所を空けることが増えたのでハルカはまだ依頼に同行したことはないが、どうも何かが起こりそうな不安感が拭えない。

それに、血染めの夜事件の時のような堂々とした様子はいったいどこに置いてきたのか、加えて自己肯定感の低さと遠慮からか会話にも入ってこようとしないため、ムツキが彼女について知る機会はなかなか訪れず、アルの狂信者であること以外何もわからずじまいである。

掛時計がボーンと鳴って、お昼の時間を伝えた。

一緒に昼食を取れば、ある程度関係性も深められるだろうか?

「ま、誘ってみよっか。」

新入りを理解したい感情を半分、退屈から逃れたい願望を半分抱え、彼女はソファから立ち上がった。

事務所の端まで歩いて行きハッチを開けると、中から妙な匂いが漂ってきた。

少し硫黄のようなツンとくる感じで、何か焦げたような、鉄っぽい匂い。

「うえぇ...ほんとに何してるの?」

やや訝しみながら、ムツキは梯子を降りていく。

狭い地下の中、ハルカと思われる人物は薄暗い照明を頼りにし、一心不乱に何かの作業をしていた。

思われると書いたのは、作業している人間が溶接面を被り、厚い防護服と手袋を身につけていて、こちらに背を向けているからだ。

カチャカチャと金属の当たる音が聞こえるが、機械関係だろうか?

ムツキはいきなり後ろから驚かせようか迷ったが、それで作業が台無しになってしまうのは流石に忍びないので、そこそこの声量で名前を呼んだ。

「ハルカちゃーん、ご飯行かない?」

「うぇ!?あ、ああああああムツキ副代表!?いつからいらっしゃってましたか!?いやそれより申し訳ありません気が付かなくてごめんなさい本当に私はこんなので....!!!」

唐突に神にも等しい相手に話しかけられたハルカは、尋常ない取り乱し様を見せながら、椅子から立ち上がって溶接面を放り投げ、すぐにでも作業着を脱ごうとジタバタし始めた。

「し、少々お待ちください!すぐにきちんとした服装に整えますので...!!」

なかなか脱げない防護服から強引に引っこ抜いた腕が隣の棚に当たり、揺れた棚から何か細長い物がこぼれ落ちた。

それは床にバウンドすると白く光り、高圧の気体が漏れ出る甲高い音と共に内部が爆ぜた。

そして、爆ぜた手榴弾の先端から太い鉄芯が恐るべき勢いで射出され、ムツキのすぐ隣の壁に深々と突き刺さった。

「わぁ」

ムツキの感嘆か驚愕かわからない声に、しばしフリーズしていた爆弾職人の時限爆弾は、急激にその顔色を青くしていき、血走った眼でドライバーを掴み取って首元に押し当てた。

「し、死にます!!!ムツキ副代表への狼藉と施設の損壊今すぐに死んで償います!?わ、私なんかの命に価値は全くありませんが内臓でもなんでも売って少しでも皆さんの活動資金に当ててください!!!」

驚くべきスピード感でハルカがプラスドライバーを突き立てようとした瞬間、

「あはは!!!何これ!?面白ーい!」

ムツキが笑い声を上げた。

「ハルカちゃんすっごく面白いじゃん!?どうやって作ったのこれ!?」

壁に突き刺さった鉄芯を興味深げに観察するムツキの姿を見て、ハルカは戸惑いながらも一旦ドライバーを置き、恐る恐る壁側に近づいて口を開いた。

「が、外殻には熱遮断性軽量合金を使用していて、燃料には圧縮火薬を、鉄芯の部分は特注のネオマグナイトを使って貫通力を高めています...鉄芯は強度が高いので、基本的には回収して再利用を期待できるかと...」

「これ全部自分で組み立てたの!?」

「は、はいぃ...T社の巣を抜ける時に色んな設計図を盗んできたので工学系の知識は一応あります...」

「良いね!良いね!楽しそう!私にもこれ作れる?」

「はっ!?も、勿論です!私みたいな蛆虫なんかよりムツキ副代表がずっと上手く作れるはずです!あ、あと私はどうすれば良いでしょうか?死にましょうか?やっぱり死んだ方がいいでしょうか!?」

置いてきたドライバーをちらちらと見やりながら、しかし目を合わせないのはムツキに対する不敬であるかもしれないと気づいた彼女は両手を首に押し当て始めたが、ムツキがそれを静止した。

「ダメに決まってるじゃん!こんなに面白い知識持ってて、からかい甲斐がある可愛い末っ子を手放すわけないでしょ?」

「か、可愛い?私がですか...?」

事実上罪が許されたばかりか、仲間認定されたハルカはまた激しく取り乱し始めた。

小悪魔はそんな様子を堪能すると、新しい友人に向かって蠱惑的な微笑を浮かべ、耳元で囁いた。

「ねぇ、今から断れない提案をしようと思うんだけどさ...」

 

 

 

 

「ちょっと想像以上かも...」

ムツキは己の作り上げた作品に、最早恐怖に近い物を感じていた。

スッキリと後ろでまとめられながらも、ところどころ飛び出たくせ毛。

彼女の雰囲気に合う暗めの色のキリッとしたスーツと、手に持った青いジャケット。

普段のおどおどした態度はそのままだが、そのギャップがむしろ今までの要素と全て調和し、可愛さとかっこよさを両立させている。

「うぅ...わ、私がこんな上等な服を着させてもらって良いんでしょうか?」

少し不安げな顔で伊達メガネを触りながらこちらを見てくるハルカの、悪ノリで始まったとは思えない、完全に化けたと言っても良い圧倒的な完成度を目の当たりにし、ムツキは息を呑んだ。

「も、勿論!すっごく似合ってて良いと思うなぁ〜...」

顔を直視出来ない。

こんなにも顔が良いとは流石に予想できなかった小悪魔コーディネーターは、今回ばかりは自滅したと言って良かった。

「じ、じゃあ行こっか?思えば歓迎会もろくにしてあげられなかった気がするし...私一人でちょっと申し訳ないけど...」

「ムツキ副代表。」

「ん、ん?どうしたの?は、ハルカちゃん。」

「ドレス、とってもお似合いです。」

少しぎこちない笑顔から放たれた何気ないセリフはその威力を増幅し、最強の殺し文句と化してムツキの心臓を粉々に打ち砕いた。

「あ~アルちゃん……。 私、涙が出そうだよ……。」

縮こまって顔を赤くしながら背ける様子に、小悪魔のあだ名は少し重かった。

 

 

 

 

散々遊び回った翌朝。

ずっと打ち解けた様子の二人は、事務所への帰路についていた。

昨日楽しかったことや、今度行きたい場所。

互いの趣味の話に、爆弾についての願望やこだわり。

ハルカはまだ少し遠慮が残るものの、おおよそ友達と言っても良い雰囲気だった。

「結局...事務所を空けてしまったんですけど、良かったんでしょうか...?」

「大丈夫じゃないかな?事務所の鍵ちゃんと閉めたし、アルちゃんも親睦を深めるためって聞いたら喜んでオッケーすると思うよ?」

しかし、そう言いながらもムツキは何か引っ掛かるものを感じていた。

何か、大事なことを忘れているような...

事務所の前に着くと、人だかりができており、何やらざわざわとしていて、異様な臭気が辺りに漂っていた。

「ちょっと通して!」

ムツキが急いで人混みをかき分けて事務所の前に立つとそこには山の様に折り重なった掃除屋の死体と、なんだかわからない液体や血で汚れた床。

そして、全身を返り血と謎の液体で染め上げたまま脇に刀を抱えて事務所のドアにもたて座り込み、吸い殻で小さな山を作っているカヨコが居た。

彼女はしばらく吸い殻の山をボーッと眺めていたが、仲間の姿を見ると、それだけで人を殺せそうな視線を投げた。

「おかえり。」

「か、カヨコちゃん...ホントごめん。すっかり忘れてて...」

話を遮る様に吸いかけだったタバコが握り潰され、ムツキはビクッとしながら押し黙った。

「まぁ、とりあえず鍵開けなよ。シャワー浴びたいし、積もる話もいっぱいあるから。あとさっきから誰に許可取ってガンくれてるのかな?見せ物じゃないんだけど。」

鯉口を切りながら、ヤクザ時代の片鱗を覗かせるカヨコの凄みに野次馬はそそくさと逃げ帰っていく。

そして、散った人だかりから現れたハルカが半狂乱でケジメをつけようとし始め、事態はややこしさを増していくのだった...




「リハビリで書いた。多分今年最後。」って言ってるんだと思います......

御職業は?(展開の参考にするかもしないかも。)

  • 管理人(プロムンユーザー)
  • 先生(ブルアカユーザー)
  • その他(どっちも知らない)
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