めっちゃ楽しかったけど辛かったね...
カヨコが事務所に加わってから、しばらく過ぎた。
彼女の働きぶりは見事なもので、カヨコの意見で宣伝活動や他事務所への挨拶回りなどを行った結果、立地だけは元から良いこともあり、飛躍的に依頼が増加したのだ。
それが功を奏したのか、それとも黒雲会の幹部に深手を負わせたのが大きかったのか、
私達は晴れて七級フィクサーへの昇格を果たした。
まあ、とはいえまだまだ下級フィクサーには変わりないので依頼内容は大したことがないものばかりなのだが。
「はぁ...」
「なんで私が水道管の修理とかやらなきゃいけないのよ....」
「この前は電子レンジが動かないから直せとか、ネズミを駆除しろだとか、全然ハードボイルドじゃないわ...」
「文句言わないの、代表。」
「こうでもしないと家賃払えないから。」
額の汗を拭いながらカヨコが言う。
「うぅ....」
こうなったらカヨコは手強い。
浪費や甘い見通しを見つければ深いため息の後、「別に良いけどなんとかなるの?」と彼女の胸中で猛烈に渦巻く理詰めの言葉を濃縮した一言が飛んでくる。
その時のカヨコの剣幕といったら...
貫くような視線を躱して、スパナを持ち直し、渋々作業を続ける。
水道工事の依頼は何故か連日のように来続けているので、私のスパナさばきはもはや仕事道具と言えるほどに上達しており、背負った剣に恨まれそうなほどだ。
『あの事務所は金がないから雑用を押し付けられる』なんて噂されているんじゃ無かろうか。
あの四千万が有ったら...なんて思ってしまう。
あれはカヨコが組を抜ける為の手切金としてほとんど吹き飛んでしまった。
勿論、それのおかげで一生追われずに済んだので全く後悔はないのだが...
しばらく収入と支出のデッドヒートを続けることは避けられなさそうだ。
「カヨコ、部品取ってくれる?」
「はい。」
手渡された部品とヒビの入った部品を交換し、緩んでいた接合部をしっかりと締め直す。
確認に給水管を開けてみるが、水漏れは無い。
よし、こんなもので良いだろう。
仕事を終えた私達は依頼人から謝礼を受け取り、事務所に戻った。
「疲れた...」
私は半ば倒れるようにドサっと椅子に腰掛ける。
「お疲れ、アルちゃん。」
「休んでて良いよ。私は帳簿書いとくから。」
カヨコは私をアルちゃんと呼ぶ。カヨコが事務所に馴染んだのは喜ばしいのだが、私はそんなに威厳がないのだろうか?
もっとも、財布の紐をがっつりと握られて頭が上がらない時点で今更かもしれないが。
眠気で瞼がピクピクしてきたので腕を組んでしばしのうたた寝をする。
眠れない日は布団の中でもとことん眠れないと言うのに、こんな不安定な体勢ですぐに眠れるのは人体の妙なところだ。
一揺れごとに瞼が固くなり、段々と空間に溶けるように意識が薄れてきた時、
「アルちゃーん!!依頼とって来たよ!」
ムツキが勢いよくドアを開け放った。
「うわぁっ!?次は何よ...」
私は休息を妨げられてストライキを起こそうとする脳を回し、なんとか言葉を絞り出す。
「ガス管の工事だったら行かないわよ...」
寝ぼけているのかどうか私にも微妙に分からない言葉をムツキはスルーした。
「くふふ、アルちゃんビーックリすると思うよ?」
「じゃじゃーん!」
ムツキが私に契約書を突き出した。
眠い目をこすりながら、1文字ずつ読んでいく。
依頼内容は、
[15番通りで多発している行方不明の捜索もとい原因究明]
私の脳が急速に回りだす。
「やったぁ!」
「こういうので良いのよこういうので!」
「ようやく私に相応しい依頼が来たみたいね!」
「そう言うと思った!」
「依頼人連れてくるね〜!」
ムツキはぴょこぴょこと外へ出て行き、少しした後、黒いスーツの男を連れてきた。
まっすぐな背筋で足を揃えて歩き、
身だしなみは頭から爪先まで丁寧に整えられており、立ち姿からはどこかエリートっぽい気品を感じさせる。
そして顔には爽やかな笑顔。
最早不自然な程に理想の会社員のテンプレートのような男だ。
テンプレートから外れたところをあえて上げるなら、黒い手袋をしていることだろうか。
「私の依頼を引き受けていただけるのですか?」
「はい、お任せください。華麗に解決して差し上げましょう。」
久しぶりに来る「フィクサーらしい」依頼。否が応でも口調に自信と期待が乗る。
「そういってもらえると心強いです。」
そう言い終わったと共に、突然男は哀しそうな顔をする。
「実は、仲の良い隣人が居なくなってしまいまして、心配なんですよ。」
「是非、この一件を解決して彼を見つけていただけませんか?陽だまりの中で植物に囲まれるのが好きな素敵な人だったんですよ。」
「特定の人物の捜索なら追加の報酬を用意してもらう必要が...」
口を開いた会計を静止し、私は力強く宣言する。
「お任せください。依頼人は笑顔で帰すのがうちのモットーですから!」
カヨコはやれやれといった様子でそろばんを弾き、ため息を吐いた。
次の日、
彼女らは件の通りで聞き込みをしていた。
道行く人に行方不明者のリストを片っ端から突きつけていく。
顔を顰める者、忙しいと立ち去る者様々だったが、近隣住民も今回の事件に思うところがあるのか、案外スムーズに情報が集まった。
事件の概要はこうだ。
ある日突然、家に抽選が当たったという風な招待状が来るという。そして、その場所に行った者は誰も帰って来ないらしい。
「なるほどね...」
アルがムツキがどこからか拾って来た招待状に目を通す。
『おめでとうございます!あなたに5000万眼が当たりました!下記の住所に受け取りに来てください!』
そこには、失笑しそうになるほどの怪しさ満点の文面が書いてあった。
「今更こんなの引っかかる人居るのかしら...?」
「お金が無くて行かざるを得ない人なら居るかもね。ロクな結末にはならなかったみたいだけど。」
「さ、行きましょうか。」
アルは
「代表...?」
一瞬困惑したカヨコだったが、すぐに異変に気づき、アルに駆け寄って平手打ちした。
「痛い!な、なにするのよ!」
アルは頬を押さえて抗議する。
「それはこっちの台詞。剣捨ててどこ行くつもり?」
「え?」
カヨコが剣を手渡す。
「...なんで私の剣が落ちてるの?」
アルは背中の鞘を確認して絶句する。
「自分で捨てたじゃん。もしかして...気づいてないの?」
「わ、分からないわ。招待状を読んだあと気がついたら...」
言い終わったと同時にアルは気持ち悪い生き物でも触ったように招待状を離した。
「ひぃぃ!絶対これのせいじゃない!」
「ふーん?どれどれ?」
ムツキが招待状を拾い上げて目を通す。
「ムツキ!話聞いてた!?」
「別に何もないけど?」
「え?」
ケロッとした様子のムツキを見てアルはますます混乱したようで、「じゃあ本当に私がおかしいってこと...?」と頭を抱えている。
「.....」
もしかしたら、と前置きしてカヨコが口を開く。
「招きたい人が決まってるんじゃないかな。」
「目的に適した人かどうか判定してるのかも。」
「謝肉祭*1がそんな感じで人を集めてるの見たことあるし。」
「それなら代表に効果があってムツキに効果がないことにも説明がつくと思う。」
「そ、そうよ!そうに違いないわ!」
カヨコの助け舟にアルが飛び乗り、
「え〜?アルちゃんが忘れっぽいだけだと思うけどなぁ〜?」
ムツキがすかさず甲板に穴を開ける。
「いや、大丈夫だからぁ〜!!」
「はぁ...とりあえず行くよ。」
招待状をムツキに持たせ、一行はビルの前に辿り着いた。
窓は全てカーテンが閉められており、
重厚感のある木製のドアの横には「真心研究所」と書かれた金のプレートが掛けてある。
「カヨコ、企業のカタログで見たことあるかしら?」
「いや、初めて見た。」
ポケットからコイン大の機器を取り出し、ドアに貼り付ける。
ピピピと電子音がした後、中心のライトが青く光った。
「仕掛けは無さそうね。」
「先生が言ってたわ。『警戒は怠らず、大胆に行け』ってね!」
ドアを蹴破り中に侵入する。
「全員!その場に止まりなさい!」
アルの大声が薄暗く狭い廊下に木霊しながら、奥へと消える。ただし、なんの反応も返さずに。
「あっれー?誰も居ないね?」
「お、落ち着きなさい!ムツキ!きっと素早く隠れたのよ!」
「きっと今に出てく...」
「2人とも、静かに。」
「何か来る。」
廊下の奥から足音が響く。
剣に手をかけた途端、謎の足音の間隔が短くなり、突如として発せられた解読不可能な絶叫と共に疾走する。
薄暗いシルエットが照明に照らされ、その姿を現した。
巨大な鬼灯のように見える肥大化した真っ赤な頭を振り乱し、赤い液体と絶叫を撒き散らす人型の実体がこちらに走ってくる。
「ギィィィィィィ!!!」
「ひぃ!!!」
情けない声と共に、アルが首元に一閃。
逃げ腰とは思えないほど綺麗な太刀筋でよく熟れた鬼灯がゴロリと落ちた。
「なんなのよこれはぁ…」
恐る恐る剣で突いてみると、ボコボコと蠢き、水風船のように爆ぜた。
「うわぁあもう!!何なのよ〜〜!!」
飛び散った肉片と血を浴びて絶叫するアルを尻目に、カヨコは血溜まりの中から何かを拾い上げた。
それを顔の前まで持って来た途端、カヨコの顔が険しくなる。
「うわぁ!ちょっとカヨコ!何拾ってるのよ!」
「これ、見覚えない?」
指輪だった。
行方不明者の一人の持ち物と同じ物だ。
「はぁ...厄介ごとだね。」
お前急に下手くそになったなって?
スランプの時に書いてたやつだから許してください!何でもしますから!(何でもするとは言ってない。)
御職業は?(展開の参考にするかもしないかも。)
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管理人(プロムンユーザー)
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先生(ブルアカユーザー)
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その他(どっちも知らない)