とある日の昼下がりのショッピングモール。
事件が起きていた。
モール内で響く悲鳴と蜘蛛の子を散らすように訪れていた客が逃げ回る。
悲鳴の原因となったのは赤く血に塗れた4人とナイフを持った男の姿だった。
きゃあああ!
血塗れの4人の内2人は息があった。
1人は傷から溢れ出る血に息も絶え絶えで、1人はボーっと天井を眺めていた。
「あ……ああ……」
「兄…貴……」
兄と呼ばれた方は大人が腹や胸から流している血に染まり、茫然としている。
ナイフを持っている男は息のある2人に気付きとどめを刺そうと近寄る。
「まだ息があるのか……」
ゆっくりと近づいていき、その凶刃を───
「うわぁああああ!」
叫び声と共に少年は目を覚ました。
「はぁ…! はぁ…! はぁ…! またあの夢か……」
あの日の悪夢の結末を見る寸前で目を覚ます。
「……最近ほんとに夢見が悪いな」
そう言いながらベッドを降りて、階段を降りる。
「……ふわぁ。まだ四時か……でもなぁ…寝る気にならないしこの前まま起きてるか」
そう言って自室に一度戻りカーテンを開ける。
開けた先には紺色がかった髪の少女が窓を覗かせていた。
こちらに気づいたのか、窓を勢いよく開ける。
「おはよう!」
「……おはよう。早いね木綿季」
「えへへ…早く目が覚めちゃった。竜翔も?」
「そうだね…」
「じゃあ、ママ達起きるまでお話ししよう?」
「良いよ」
2人は日が上り始めるまで会話を続ける。
「それでさー姉ちゃんがね、穴に落っこちちゃってさー」
「あそこ滑りやすいから操作難しいよねぇ」
「そうそう! ……あ、ママ達起きてきたからまた後でね」
「わかった…じゃ後で」
窓を閉めて、着替え始める。
本食パンを切り、シュレッドチーズを乗せてオーブンで3分ほど焼く。
その間にシリアルをお椀に入れ、牛乳も入れ焼き上がるまで先に食べる。
チーン!
「お、焼けた焼けた」
サクッと焼き上がったトーストにチーズが乗っているだけで色々と変わるのは流石本食パンである。
「うん美味い……」
数分で食べ終えた竜翔は食器を洗い、学校へ行く準備を終えて、玄関に立ててある写真に顔を向ける。
「父さん、母さん、赤翔……行ってきます」
そう言って玄関を出る。
「おーい! 竜翔ー!」
大きな声で手をブンブンと振って彼を呼ぶのは先程、窓際会話をした木綿季だった。
「おはよう2人とも」
「おはようございます竜翔さん」
木綿季の双子の姉、藍子も隣で小さく手を振っている。
「それじゃあ行こっか」
登校中も尽きることなく会話をし続ける。
「それじゃあ休み時間ね」
そのまま2人と別れる。
木綿季達は一年生で竜翔は二年生なので教室は違う。
「おはよう蒼眞、琴音」
「おう……」
「おはよう!」
友人である寺井蒼眞と竹宮琴音の2人に挨拶をする。
「……竜翔は放課後もあそこに行くのか?」
「うん。これから出来る大作の一助がこんな僕に出来るなんて願ってもないことだからね」
「出来たら俺にもやらせろよ?」
「その辺りは優先してもらえるように頼んでるから、抜かりないよ」
「さんきゅ……」
「良いなぁ……私もやりたーい」
「そこは流石に譲れないんでな」
「アハハ……木綿季達の分も頼みたかったけど残念ながら1人だけだったからねぇ」
そして放課後になり、蒼眞達とも一緒に帰る。
「それじゃあみんなまた明日」
「ばいばーい」
「また明日」
「じゃあな」
「またね」
4人と別れ、竜翔と紺野姉妹は自宅へと入る。
「師匠はいつ帰ってくるのやら……」
家族が亡くなった後に彼を引き取った男、柊蓮は世界を股にかける謎の男だ。拾われた当初は胡散臭げだったが、今では信頼している。
竜翔が生活できるよう仕送りをしているのだが、この家に帰ってくることは殆どない上に、どこでそんな大金を稼いでいるのかわからない。
彼からコンピュータなどの英才教育を受け、3年間彼の下で世界を飛び回ったので様々なスキルも身についた。
「忘れ物は……ないね……よし!」
荷物をまとめてアーガス本社へと自宅前に呼んでいたタクシーで向かう。
「竜翔くん。いらっしゃい。茅場さんが上で待ってるよ」
「坂月さん。こんにちは。行ってきますね」
そのまま竜翔はエレベーターで上層へと移動する。
その間にカバンから『SAOアイデア帳』と表紙に書いたノートを取り出す。
「これが完成したらどんな作品になるんだろうなぁ……」
完成品への夢想が広がっている。
その完成品が大きな事件を起こすことになるとは梅雨ほど知らずに。