テリーside
シュバルトがネズハに《トーラス・リングハーラー》からレアドロップで入手した武器を渡し、体術スキルのハゲ親父のところまで案内した翌日。
フリーダムウィングナイツのリーダーである、ディアベルを中心に3人がボス部屋の前に立ち、最後の確認としてフロアボスの攻略会議が開かれていた。
集まったメンバーは俺達のような個人個人で固まったプレイヤーと、ディアベルの元に集ったプレイヤーで分かれていた。
ギルドと言ったら装備カラーが統一されているのが良くある事なのだが、FWKは違った。
キバオウグループの人らは深緑、リンドグループの人らは青色の防具を身につけ、その2グループをまとめるリーダー・ディアベルが深緑と青の2色の防具を身にまとっていた。
シュバルトから聞いた話によると、キバオウはリソースの共有を主に、リンドはリソースを攻略組に集中させる事を主に、と思想が分かれているそうだ。
ただ意見の食い違いというよりは役割分担に近い。ディアベル自身が行うには対応が追いつかないので、サブリーダーとして2人に役割を任せて、最終的なリソースの割り振りをリーダーが決めるそうだ。
階層によって割けるリソースも変わってくるからこそ、それがギルド内で共有できるのはいいことだと思っている。
ギルドが内部分裂するか否かはリーダーであるディアベルの手腕に期待しよう。
「しかし……シュバルト達は不参加か……」
「仕方ないよ、ユウキもミトも体術スキル取るって言ってたし、シュバルト本人は見落としが無いかアルゴと情報を集めるって二層を駆け回っているし……」
「俺達もあの岩を割ったけど……コツと方法含めても間に合わないよ」
と、経験者達が話している間に、チョコレート肌の巨漢が挨拶にこちらへ歩いてくる。
「よう、久しぶりだなお前ら」
「エギルじゃないか。今回も参加するのか」
「おう。一層じゃ、タンクとしても仕事を十分に果たせなかったからな。今回こそは守ってみせるぜ」
そういう彼の後ろには、がたいのいいおっさん達がサムズアップをしている。
「でだ…お前さん達はパーティの方は決まってるのか?」
「あー……俺とフィリアはディアベル達の4人パーティの所に入るんだが、キリト達が決まってなくてな……」
「なら、丁度オレたちの所も4人パーティなんだ。お2人さんがよければこっちに入れよ」
「なら、お願いするよ」
「ええ、よろしくお願いします。エギルさん」
「おう! こっちこそよろしく頼むぜ」
パーティ組の問題が解決したところで、ディアベルから「注目!」と大きな声が響く。
「みんな! これから、ボス攻略戦を開始する。作戦は先日の攻略会議で話した通り、A、Bが将軍アタッカーをC、DがブロッカーをEには遊撃を、F、G、Hには大佐の相手をしてもらう。これに異論はあるか?」
俺とフィリアの所属は大佐相手のFパーティだ。軽装備の上にフィリアは短剣だから丁度いい。
キリト達はGパーティで俺達同様、大佐の相手をする。
βでも大佐の相手は問題なかったので、3パーティもいれば抑えの間に倒して、本隊に合流することができるだろう。
「ちょっと待ってくれないか」
と、1人の男の声がディアベルに向けられる。
全員が一斉に声の主へと視線を集める。キリトから聞いた姿を見てその人物がオルランドだと把握した。
おそらく、ネズハが姿を消して焦ったのか、ボス攻略の経験値などで稼いで、一気に攻略組へと追いつこうとしているのだろう。
「我々はボスを倒しに来たんだ。ローテーションならばともかく、最後まで取り巻きだけの相手をしていろ、なんて指示には納得しかねる」
太い声が、迷宮の壁に反響しながら消えると、ディアベルのギルドの面々がざわめき始める。
「……分かった。アタッカーのローテーションに参加してもらうよ。キリトさん、ナト大佐の相手は2パーティで大丈夫か?」
「……抑えるのはギリギリかもしれないな」
「ああ、1匹とはいえ、中ボスクラスだと、事前情報にもあったからな」
「……やはりな……本隊のアタッカーローテーションには参加してもらうが、キリトさん達がナト大佐を抑えきれなくなったら、すぐにそっちの戦闘に行ってもらうで構わないか?」
「それで行くか。βと情報が違ったらすぐに撤退して、作戦を練り直し……で良いな?」
「ああ。今度こそ危険な状況にはならないようにするさ」
「そんじゃ、ボスの注意事項の確認するでぇ!」
ディアベルの隣にいるキバオウが一歩前に出て声を上げる。彼の野太い声はとても通りが良く、引き締めるには丁度いい声だ。
「ボスの注意事項としてはトーラス族の特殊攻撃の《ナミング・インパクト》に将軍の《ナミング・デトネーション》や!武器の発動をよう見て、確実に回避するんやぞ!特にデトネーションの方はインパクトより衝撃波の範囲がデカいから特に注意してモロに喰らうんやないで!ナミングを2連ちゃんで受けたら《
質問がないのを確認し、キバオウは元の位置に下がる。
「確認ありがとうキバオウさん……」
ディアベルがボス部屋への大扉を押し開ける。
「それじゃあ……行くぞっ!!」
「「「「オオオッ!!」」」」
俺達は声を上げてボス部屋へと突入した。
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「ナミング、来るぞ!」
俺が警告すると、同時に2パーティは後退し、ナミング・インパクトに備える。
牛男大佐こと、《ナト・ザ・カーネルトーラス》が『ヴゥゥヴォオオオオオーーーーーーッ!』と雄叫びを上げ、稲妻を纏った鉄槌を振り下ろす。
稲妻が衝撃が波紋のように広がり、こちらは向かってくるが、距離をとっているので、余裕を持って回避することができた。
「全力1本!」
攻撃指揮のキリトが叫ぶ。
全員がSSを全力で叩き込む。
「順調だね!」
「ああ…!こいつもHPを半分切ったからな……だが3本目に突入したらナミングを乱発してくるから気をつけろよ!」
「了解!」
「……本隊も問題なさそうだな…レジェブレの奴らも今の所は無事だしな……」
このまま行けば、誰も死にかけることなく、攻略できるだろう。
そう考えて、俺はナト大佐の動きを見て、チクチクと攻撃を入れる。
奴が吠えて突進しようとするが、尻尾の対角線上に向かっていくのが分かっているので、それを避けて近くにいたエギルが強烈な振り下ろしを喰らわせる。
再び突進をしようと奴は吠える。丁度俺の後ろには壁がある。
「オラ来いよ、牛ヤロー!」
その挑発に乗ったかのように、頭から突進してくるものの、俺にあっさりと回避されて、頭から壁に激突し、HPゲージの横に星が回るスタンのアイコンが点灯する。
「全力攻撃!」
大きな隙を晒した大佐は俺達の猛攻を受け、一気にHPゲージを減らされる。
「……しかし、前は王なのに今回は将軍なのか」
「テリー…?」
「いや、ただの考え過ぎだと思う…気にするな」
もう一度、バラン将軍の方を確認すると、HPゲージが黄色に丁度、染まったタイミングだった。
それと同時に『ゴゴォン!』と部屋の中央から大きな音が響く。
「は?」
石階段が出現し、新たなボスが出現した事を俺達に意識させた。
バラン将軍より一回り大きく、頭の角は6本、その中心に王冠を被っている、トーラス族が追加出現したのだった。
《アステリオス・ザ・トーラスキング》それがこの層の真のフロアボスの名前だった。
「っ……キリトォ!」
「ああ!大佐を無理にでも倒すぞ!」
俺とキリトの攻撃が大佐のHPゲージを消し飛ばす。
スキル硬直が解けると同時にパーティを引き連れて、俺の前に現れるLABの文字を無視しながら、本隊へと走る。
「ディアベルゥ!」
「わかっている!アタッカー!全員全力攻撃1本!ブロッカー!新たなボスのヘイト!」
「「「了解っ!」」」
ディアベルの冷静な指示でレイドメンバーは平静も取り戻し、行動を開始する。
その時、俺達も攻撃に参加し、バラン将軍の討伐を完了する。
そしてトーラス王へと視線を移す。
奴は何をしてくる?他の牛と同じく、ナミング攻撃か?それとも別の攻撃?
俺が考え込むと、奴は目を輝かせると同時に上体を逸らし、息を鼻から大きく吸い込む。胸が大樽のように膨らませる。
このパターンはブレス攻撃の前触れだ。しかしなんのブレスかわからない。
定番の炎か?それとも氷?そう考えていると、奴の名前がアステリオスだという事を思い出す。
そうだ、アステリオスはギリシャ語で『雷光』を意味する言葉だ。
「雷ブレスだ!左右に避けろォ!」
俺は回避指示を叫ぶが、自身は間に合わないと判断し、シュバルトお手製の黄色の対麻痺薬を飲み、そして後ろで防御姿勢を取るフィリアの前に立つ。
白い稲光はレイドメンバーの過半数を呑み込み、プレイヤー全体を痺れさせる。
辺りを見渡すと、全員が麻痺の状態異常に陥ってしまった。
「シュバルト……お前の薬、効果あったわ……」
俺は麻痺で立ち上がることの出来ないフィリアの肩に腕を回して、壁まで歩く。
「…テ、リー……」
「いまの……って……」
「雷ブレスだ……奴の名前はアステリオスつまり《雷光》だ……」
そして、後ろに気配を感じ、振り向く。
そこには鉄槌で俺を叩き潰そうとする、奴の姿だった。
「ぐっ……!」
俺はフィリアだけでも守ろうと盾を構える。
身構える俺の視界の端から光り輝く流れ星のようなものが、アステリオスキングの王冠へと吸い込まれていく。
ガァン!と甲高い音を立てた流れ星は元いた場所に帰るようにリターンしていく。
「今のは……!?」
俺が流れ星の軌道を追うと、そこにはシュバルトが渡した武器、《チャクラム》を持つネズハが立っていた。
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シュバルトside
不味い不味い不味い不味い!
こんなのわからないで突入したら確実に死人がでる!
アルゴと共に情報を集めていると、第二層フロアボスの情報が手に入ったのだが、その内容がとんでもなかった。
第一層のボスが武器が違うことよりもずっと不味いこと。それはボスが最後にもう一体出現するということだった。
「もう、攻略部隊は戦闘中ダ!」
「とにかく走るしかないよ!」
僕とアルゴは迷宮区を駆け抜ける。そこら辺の石を投げ、mobトーラスの意識を逸らして戦闘を避け続ける。
「アルゴ! 前! ユウキ達だ!」
目の前にはボス部屋に向かっているであろう、ユウキ達3人が走っていた。
丁度良く、mobも少ないので、僕はCアックスに事前に溜め込んだ剣撃エネルギーを解き放つ。
「うわぁ!? 何々!? シュバルト!?」
「3日ぶりだね3人とも!」
「2人もボス部屋に?」
「そうなんだヨ!ボスの情報で知らないトヤバイ情報が出てきたかラ慌ててボス部屋まで走ってるんだヨ!」
2人の後ろにいるナタクの姿が目に入る。
「ナタク、体術スキルを獲得できたんだね」
「はい……それとネズハでいいですよ」
「わかった…よし……君はトーラスの意識を逸らしてくれ。その間に駆け抜けるよ」
走っている間に、ボスの情報を伝える。
そうして僕達は一気にボス部屋まで辿り着くことができた。
突入した時にはすでに遅く、第三のボスが登場していた。幸いと言って良いのか、誰も犠牲にはなっていなかった。
「ネズハ!チャクラムで真ん中にいるボスの王冠を狙うんだ!」
「わ、わかりました!」
彼は僕の指示通りに、チャクラムを投げ、フロアボスを怯ませる。
「よし!今のうちに麻痺してる人を助けるよ!」
「了解!」
それぞれが僕の渡した麻痺治療のポーションポーチを持って走る。
数分している内に、壊滅しかけているレイドは立て直されていった。
「テリー!」
「シュバルト…!」
「無事でよかったよ……」
「ああ…お前の作った薬のおかげで麻痺を免れたさ」
「アレが?うっそー……」
あんなゴミ同然の薬が?
そのことに驚き、僕は少し困惑する。
「……さてと、僕達はボス部屋の端っこで待機してるよ。ネズハ君1人で丁度になったレイド人数がオーバーになっちゃうからね。その代わり、倒してよ?」
「……おう、任せとけ!」
そう言ってテリーはフロアボスまで駆け抜けていく。
「シュバルトさん……僕……僕、僕がボス戦でこんな……夢見たいです…!」
「感動は後だよ、ブレスを優先的に潰して…!」
「はい!」
鍛治師の彼が戦っていることに疑問を持つ人はいたものの、今は戦闘が優先と判断して、攻撃に戻る。
勢いを取り戻した攻略組はフロアボスへと勇猛果敢に突撃していく。
キリトとアスナのSSがフロアボスのHPゲージを削り切り、姿をポリゴン片へと爆散させた。
ボスの攻略をレイドメンバーが喜び合う。
「おつかれ様ネズハ」
「はい……!」
「これからはキチンと活躍できるね」
「そうですね……でも僕にはやらなくてはならない事があります……!」
ワイワイしていると、テリーの近くに立っていた1人が、この場にいる殆どのプレイヤーが思っている疑問を話す。
「なぁ、あんた……確か前まで鍛治屋をやってたよな?」
「はい……」
やはり強化詐欺事件の行方はこれからが本番になるようだ。
因みにエギルとドラ6のハッサンの声優さんは同じだったりします。
FGOやってるとこの時、何故雷ブレスなのかわかって楽しい。
アステリオス君は雷光の意味を持つ子ですからね。
雷光のトナカイ君よ君はかわいいぞ。
テリー
今まで描写していなかったが、バックラーを装備している。
シュバルト
ネズハに、チャクラムをプレゼントし、戦いに参加できるようにした。
あのゴミポーションが効果を発揮して1番驚いた。
作った本人なのに。