まるで舌に脂がのっているかのような進み具合。
シュバルトside
「なんでいきなり戦闘職に転向したんだ? しかも、そんなレア武器まで手に入れて………それ、ドロップオンリーだろ?鍛冶屋でそんなに儲かったのか?」
ネズハにディアベルのギルドの1人が問いただす。
確か彼は僕がネズハの強化詐欺を見抜いた日に武器を取られた人だったはず…
「………僕がシヴァタさん達の武器を、強化直前にエンド品にすり替えて騙し盗りました」
彼が自身の罪を告白する。そのことにフロア全体が重い沈黙に落ちる。
「それを今すぐ返品できたらすることは可能なのか?」
「いえ……全てcolに変えてしまいました」
「そうか……なら、金での弁償なら可能か?」
なるほど。シヴァタは彼を許せる範囲で許すつもりなのか。
彼の思惑とは反対にネズハ震えながら答えた。
「…………いえ……弁償も、出来ません。お金は全て、レストランなどの飲み食いで残らず使い切ってしまいました」
事情を知る、僕達は彼の行動に驚いてしまった。
この事件の罪を彼1人で背負うつもりなのだ。
我慢の限界を迎えたプレイヤーが声を荒げてネズハに掴みかかった。
「お前……お前、お前ぇえッ‼︎ 分かってるのか‼︎ オレが……オレ達が、大事に育てた剣壊されてどんだけ苦しい思いしたか‼︎ なのに……なのに、オレの剣売った金で美味いもん食っただぁ⁉︎高い部屋に泊まった⁉︎挙げ句の果てに、残った金でレア武器買ってボス戦に割り込んで、ヒーロー気取りかよッ‼︎」
「俺だって、剣なくなって、もう前線で戦えないと思ったんだぞ⁉︎ そしたら、仲間がカンパしてくれて、強化素材集めも手伝ってくれて……お前は、俺だけじゃない、あいつらも…………攻略プレイヤーも裏切ったんだ!」
これを皮切りにネズハへ周囲のプレイヤーの怒号が一斉に集まり始めた。
しかしそれを止めるプレイヤーがネズハの前に歩み出た。
「みんな! 一度落ち着いてくれ! ここで彼を糾弾しても、何も解決はしない!」
その声にプレイヤー達は落ち着いたのか、はたまた何かを期待しているのかはわからないが、声は静まった。
ディアベルは土下座しているネズハの前にしゃがみ込む。
「……君、名前はなんて言うんだい?」
「ネズハ…です」
「ネズハさんだね……ネズハさん、君のカーソルはグリーンのままだ。だからこそ、罪は重い。システムに規定された犯罪でオレンジになったのなら、カルマ回復クエストでグリーンに戻ることも出来る。でも、君の犯した罪はどんなクエストでも雪げない。その上、弁償も出来ないなら……他の方法で償ってもらおうと思っている」
ディアベルが贖罪の方法を伝えようとしたその時だった。
「違う……そいつが奪ったのは時間や金だけじゃない!」
プレイヤーの集団の中から、甲高い声でディアベルの声を断ち切った。
「オレ……オレ知ってる! そいつに武器を騙し盗られたやつは他にもたくさんいるんだ! そんで、その中の1人が、店売りの安物で狩りに出て、今まで倒せていたmobに殺されちまったんだ‼︎」
確か、この声は、第一層のフロアボス戦でも最初に叫んだ者と同じ声だ。
そのことを別のプレイヤーが掠れた声で言う。
「……し、死人が出たなら、そいつは詐欺師じゃねぇ……ピッ……ピ……」
そのプレイヤーが言えなかった単語を、甲高い声のプレイヤーが右手の人差し指をネズハに突き出して叫んだ。
「そうだ! こいつは、人殺し! つまりPK野郎だ!」
それに火を注ぐように新たにもう1人のプレイヤーが前に出る。
その声はキバオウとは別タイプの野太く、第一層で一度だけ聞いたものだった。
「土下座して許されると思うなよこの人殺し! 金を積んで死んだ者が帰ってくるはずがない! 貴様、どうやって責任を取るつもりだ!」
あの時は周りのことをよく見ていなかったが声の主の顔は相当渋く老けた顔で、身長も高く、それより高いプレイヤーはエギル達くらいのものだろう。
その外見から怒鳴られてしまえば、大体の人は萎縮してしまうだろう。
その男に対してネズハは2人の糾弾に、敷石で両手を握り、震える声で答えた。
「皆さんの、どんな裁きにも従います」
その声を聞いて、再びボスフロアに沈黙が訪れる。
しかし、その沈黙は最初の沈黙よりも早く終わる。
「じゃあ、責任取れよ…」
次の瞬間、うわっ、というような大音響が部屋いっぱいに広がった。
「そうだ、責任取れよ!」
「死んだ奴に、ちゃんと謝ってこい!」
「PKなら、PKらしく終われ!」
「命で償えよ、詐欺師!」
「死んでケジメつけろよPK野郎!」
「殺せ! そいつを殺しちまえ!」
そうしている内に、野太い声の主が、背中に吊り下げている両手剣を抜き、振りかぶり、ネズハの首目掛けて振り下ろす。
その剣を僕は剣で受け止める。
そろそろ頃合いかと、僕がこの場に割って入ったのだ。
「静かに!!」
僕の声にフロア全員の視線が集中する。
「今回の一件なんだけど、僕が情報屋の鼠と一緒に調査した事を説明するよ」
あの日、アルゴにレジェンド・ブレイブスの事を調査したもらう事ともう一つ依頼していた。
それは、彼に鍛治による強化を依頼したプレイヤーの名前だ。
その情報を元に、その呼び方通りに読むプレイヤーネームを黒鉄宮にある生命の碑で名前を確認した。
正直、この展開になることは予想していた。だが、この状況にならなければcolでの償で済むのなら、別の方法でネズハの仲間に、この事件の責任を連帯で取るように流れを作るつもりだった。
そもそもネズハに強化詐欺のロジックを伝えた、2人はこうなる事を予想しなかったのか? 僕が予想したと言うのに……いや、まさか、これこそが奴らの望みだと言うのか…?
いや、今はその事を考えている場合ではない。この場の収集をつけるのが先決だ。
「彼のせいで死んだプレイヤーは1人もいない! この紙に記したプレイヤーネームはいずれも死亡による横線は引かれていなかった!」
僕はストレージから紙をオブジェクト化させてプレイヤー全員に見せつける。
「なんなら今から確認しに行っても構わない!」
僕がそう言うと、周囲のプレイヤーの怒りが少しだが収まったような気がした。
そして、レジェンド・ブレイブスの面々がネズハの隣に座る。
「………ごめんな、ネズオ……本当に……ごめん………‼︎」
ネズハに謝った後に、オルランドは告げた。
「………ネズオ……ネズハはオレたちの仲間です。ネズハに強化詐欺をやらせたのはオレたちです」
こうして、強化詐欺事件は本当の意味で終わりを迎えたのだった。
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それからはディアベル主導による、レジェンド・ブレイブスの処遇を決める話し合いが始まっている。
僕が知る部分としては、オルランド達のハイレベル装備や武器を売却し、その分で被害額を補填するそうだ。
アルゴと共に調べた詐欺の被害者の人数もそんなに多い訳ではないので、すぐに弁償は行われるだろう。
僕の持っている紙も渡したし。
因みに金切り声の男に、プレイヤーが死んだ事をどこで知ったか聞いたところ、『噂で聞いた話だから知らない』と答えた。
黒ポンチョと眼帯男の事もあり、警戒せざるを得ない。
もし、黒ポンチョ達と金切り声の男がグルだとしたら、相当不味い。攻略に支障をきたすどころの話ではすまなくなる。
師匠も言っていたな『常に最悪の事態を想定しておけば、心境的にはまだ楽になる』って。
「全く……なんで私達が使いっ走りみたいなことしなきゃならないのよ」
と、アスナは愚痴をこぼす。
「まぁ、私達軽装備だからね。欲しい物は特に無かったわけだし、仕方ないよ」
ボス攻略報酬の分配の内容がほとんど重量系装備だったので目ぼしい物がなかった4人が、話し合いをしている彼らの代わりに、僕達が二層クリアの報告をすることになった訳だが。
そう言いながら僕達は三層までの階段を登る。
ドロップの事でふと気になった事がある。
「そういえばあのボスのLABはどうなったの?」
「大佐の奴は貰ったが、他2体は知らんぞ」
と、テリーが言うので、ボス戦に参加していたアスナとフィリアがキリトの方を見る。
「うぐっ……!」
どうやら残りのLABはキリトが全部が持っていったらしい。
「βと変わらず、取ってくなお前……」
「ちょっと、何ドロップしたのよ、教えなさいよ!」
アスナがキリトを問い詰めようとしたが、キリトが逃げるように小走りで階段を登っていく。
「元気な奴だなオイ……」
ボス戦後だと言うのに、階段を駆け上がっていく2人を見て、テリーが呆れたようにため息をつく。
「ほら僕達も行くよ!」
キリト達を追うように階段を駆け上がる。
「おい!待てって!」
「置いてかないで!」
僕達3人にも置いていかれると思わなかったのか、反応が遅れた2人が慌てて追いかける。
キリトが駆け足で登ったのは別の理由もあるのだろう。
「これからが、ソードアート・オンラインの本番みたいなものだからかな……」
「どうゆうこと?」
「……おっと、口に出てたみたいだね……そこの絵が理由だよ」
僕が指を刺した扉の絵には、2本の剣を交差させた2人の剣士が描かれていた。左の剣士は紫の髪に黒い肌、もう1人は金色の髪に白い肌。
次の層で何が待ち受けているのかを、ほんのり教えてくれるその絵に対してユウキが疑問に思うように首を傾げる。
「これは……実際に見たほうがわかりやすいね」
「それじゃあ楽しみにしてる!」
「因みそれ、長いから気をつけた方が良いわよ」
「え?」
「因みにβの醍醐味だったクエストだから楽しみにするのは間違いないね」
と、ミトが言うと、ユウキの足が速くなっていき、先にいた僕を追い抜いて行った。
「……元気1番なユウキは久しぶりに見たな」
追い抜いたユウキを見て少し懐かしくなってしまった。
デスゲームに囚われる前は無邪気にゲームをしたりして、ワイワイと遊んだ頃を思い出して、僕は、必ず彼女を現実世界に返さねばと、より一層、気を引き締める。
シュバルト
詐欺事件の被害者をあらかじめ調べていた為、大事になることを避けた。
なんか嫌な予感を薄々感じ取っている。