シュバルトside
アルゴの依頼の後、僕達は一度野営地の天幕で一眠りし、その天幕の中で、ユウキ、テリー、アルゴの3人に詰問されている。
「んで、あの時、お前はドライアの発言に対して自分が悪いと思ったわけか」
「そうだね……」
「アホじゃねぇの?」
アホとはなんだアホとは。
「SSを作ったのが悪い?そんなの俺たちが戦う為の力を使って何が悪いんだ」
「そうだよ。結局、それは使う人次第なんだから。ボク達が正しく使うんだからシュバルトは悪くない。だからあんな人達の言うことは間に受けないで」
「この世界の味覚エンジンには感謝してる人がいるだロ。噂じゃ、第一層で料理屋を開こうとしている人がいるって聞いたしナ」
「へぇ……」
そんな人がいるのか。
「なぁ…お前はこのゲームを作る時に、このデスゲームレベルの悪いことでも考えたのか?考えてないよな?」
「それは当然」
「外野に何言われようが、お前は気にするな」
「そうそう、悪意を持って作るなら、このデスゲームはもっと酷い物になってるはずだよ」
2人にそう言われるが、どこか自分に納得が出来ない。
「納得してないナ」
「みたいだね」
その後、3人にみっちりお説教された。
「納得したか?」
「…ハイ」
2時間くらいずっとこの体勢かつ、お説教はキツいです。
ごめんなさい。
もう少しポジティブに考えるようにします。
「お前は少し自分を許してやるべきだ」
「あはは……少し前向きに考えてみるよ……」
苦笑いをしながら僕はテリーの手を掴んで立ち上がった。
「よし、話も終わったことだし、クエスト。進めるか団長」
「うん。次は確か森エルフのキャンプから命令書を取ってくるんだけど……」
「けど?」
ユウキが不思議そうに首を傾げる。
「なんか嫌な予感がすると言うか……前にアルゴに探ってもらった鎖頭巾のプレイヤーの事が気になるんだよね……」
やっぱりどうしてもあのプレイヤーが引っかかる。何かをした訳でも無いと言うのにだ。
なんと言うか、ディアベルのギルドに新しく加入したのがたった1人というだけではない。何か変な感じがする。
ドライアの連れに同じような鎖頭巾を被ったプレイヤーがいたから、なのだろうかと、結論はつけている。
「そういえばアルゴ、ドライア達のギルドのこと聞いてたりする?」
「それはオレッチから情報を買うのカ?」
「うんにゃ、彼等もエルフクエ進めてたら鉢合わせるだろうなぁと思って」
「確かにエルフクエの報酬はウマイからナ。連中も進めていル」
と、何か濁すように顔を晒した。
「向こうがどっちを進めているか気になるな……対立してたら面倒だぞ…」
そう、この後の潜入クエで同じ所にいられると厄介である。
βなら対立側がいたとしてもインスタンスで別の場所になっているが、製品化にあたって変わっている可能性も捨てきれない。
キズメルがスタンドアローンになった事が気がかりだ。この影響によって、クエスト進行が、別プレイヤーと被ることになると厄介だ。
「実行はいつになるんダ?」
「今日の明日にはやる予定」
そう言うとアルゴが難しい顔をした。
「アルゴさん?」
「実はだナ……あの二つのギルドのクエスト進行が今日になるかも知れないンダ。しかも同じ進行度でナ」
「だから、クエストの進行を聞いたのか」
「…流石にわかりやす過ぎたカ」
アルゴがバツの悪そうな顔をする。
コロコロと表情を変えるのが多いな今日は。
流石に攻略のこととなると不安にもなるのだろうか。
「実はナ…フリーの同業者から、
同業者曰く、エルフクエにはボス攻略に必要なアイテムが手に入るという噂があった、と言った話だ。
「βじゃそんな話なかったがな……」
「ただ、第二層の体術スキルの事を考えるとね……」
「?あのおじいちゃんがどうしたの?」
「そういえばユウキ達は知らなかったね。実はアソコのお爺さんの建物の近くにバカデカい岩あったでしょ?」
「あー…そういえばそんなものがあったような…」
「アレを近くにいる牛mobに破壊してもらって、出てきたその階段を降りた先にアステリオスの情報があったんだよ……」
闘牛士のように一層の迷宮区にある隠し部屋で手に入れたマントを使って、破壊したのだ。
アルゴもフード付きコートを装備していたが、マントの方がヒラヒラしていたのか、僕ばっか狙われた。
「となるとただの噂とするには見過ごせないか……」
「そうなんだヨ……」
ここまで来たら情報を買うしかないか。昨日、あまりプレイヤーの情報のやり取りは良くないと言ったばかりだが、背に腹は変えられない。
「アルゴ。やっぱり、ドライア達のギルドからどっちの陣営か情報を買うよ。昨日の今日でこんな事するのは良くないとわかっているけど」
「それなら情報料はタダでイイゾ。シュバルト達とは対立してル」
「なるほど……となると…黒側で早急に進めておこう。第三者ギルドがクリアすれば、少しは対立の溝も深くはならないはず」
「ふむ……メンバーはどうする?」
「とりあえず、僕、テリー、キリトの3人でキャンプ地の周りを警戒して、残りの女子陣で潜入…になるかな。任せて大丈夫かな?」
「ボクは平気だよ。アスナ達にも聞いてみるね」
ユウキは別室にいるメンバーに確認しに行く。
「ン?なんでキャンプ地の周りを警戒するんダ?」
「思い過ごしならいいと思っているんだけど、ドライア達のギルドがクエストを進めるのが異様に早いのが気になってね……」
「確かに……βテスター嫌いのアイツらが俺達と同じ進行度なのは気になるな……」
「それに鎖頭巾のプレイヤーが新しく2つのギルドで見かけるようになったのも、引っかかる」
「モルテが二つのギルドに属しているってことカ?」
「そう。ドライア達にはスパイとしてディアベルのギルドに加入すると言えば、2つのギルドに所属してもバレないだろうし」
まぁこの辺は、言いがかりにも等しい考えなのだが、もし同一人物であるのならば、その可能性は否定できない。
強化詐欺の件もあって、顔を隠すプレイヤーを警戒せざるを得ない。
「なるほどナ……」
「そう言う訳だ。僕達はこの形でエルフクエを進める」
そうして僕への詰問と会議を終えてキリトに話をしようとした時だった。アルゴが僕のマントを引っ張る。
「オイラもお前のギルドメンバーなんダ。手伝うくらいさせろよナ」
「……いいの?」
「そもそもオイラにギルド所属を勧めたのはシュバルトじゃないカ。ならそのギルドの手伝いくらいするサ」
その後、アスナ達の許可も取れたことで、クエスト攻略へと向かうのだった。
─────────────────────────
そして夜になり、僕達はキャンプ地から3方をそれぞれ警戒する。
入り口を北とするなら、僕の東、テリーが反対の西、そして残りの南をキリトが警戒の為に監視している。
とは言えだ。キャンプ地から漏れ出る光があるとしても、この夜の森の暗さでは暗視スキルがないと、まともに人や敵mobの姿を認識する事が出来ない。
なので、僕は師匠から教わった音を聴き分けるシステム外スキルで周囲の警戒をする。
誰も来ないのだろうか。それならば良いと思ったその時だった。
「…!」
がさりと草木が不自然に揺れる音を感じ取る。音を鳴らした方向を凝視する。僕が見当違いの方を見ていれば、何もないが、何者かが隠れているのならば、ハイド・レートを下げる事ができる。
「……お前は」
僕の視線に耐えきれなくなったのか、姿を隠していたプレイヤーがその姿を晒す。
やはりと言うべきか、現れたのは1番警戒していたプレイヤーの姿だった。
「いやー、まさかこのハイド・レートでバレるだなんて思いませんでしたよ〜」
へらへらしながら、キャンプ地の森エルフに聞こえるか聞こえないかくらいの声量で話す、鎖頭巾のプレイヤー。
「君、ディアベルの所のモルテだっけ?」
「おー、主街区には殆ど寄り付かなかったのに、情報が早いですね〜いかにも自分、モルテってもんです。名前の由来は「イタリア語で死神かな?」……よーくご存知ですね〜あははは〜」
プレイヤーネームの由来はどうやら当たっているようだ。どうでもいいが。
「それで僕に何の用かな?」
面倒な前置きをさせるわけにはいかない。こう言うタイプに主導権を握らせるのは危険だ。
「ちょっとお話ししたいですよ〜自分」
「僕にはないよ」
吐き捨てるように催促する。
「そんな風に邪険にされると悲しいじゃないですかぁ〜」
「どうせ、僕にこのクエストをやめろとでも言いに来たんでしょ」
「なんだ。わかっているじゃないですか〜そうなんですよ〜シュバルトさんに進められると困っちゃうんですよねぇ〜」
「ドライア達が?」
「なんでそんな人の名前が出てくるんですか〜? 自分、FWKっすよ〜?」
「そう」
若干、口元が震えたのが見えた。どうやら僕の予想は合っていそうだ。
「まぁ、君の言う事を聞く気もないから、クエストを進めさせてもらうよ」
僕はモルテを無視して先に行こうとする。
「ちょっとちょっと待ってくださいってば〜」
「何?」
不機嫌そうにモルテを睨む。
「こうしませんかぁ? 自分とシュバルトさんでデュエルして勝った方が言う事を聞くって事で〜」
そう言いながら、モルテは僕に《半減決着》のデュエルを申請する。
デュエルには初撃決着、半減決着、そして完全決着の3つが存在する。
初撃決着は、相手に明確なクリーンヒットを当てた側の勝ちとなる、1番軽いデュエルだ。そして完全決着は文字通りHPゲージが0になるまで闘う、今のデスゲームでは実質禁止とされているデュエル。今回の半減決着のデュエルがギリギリ安全なラインの上でヒリつく戦闘を行うことができるデュエル。
「…いいよ。なら場所を変えよう。ここで暴れたら互いの目的も完遂できないだろうし」
そう言って僕は一度、申請を拒否する。
「良いですよ〜」
「それじゃあ、場所はアンタが決めて良いよ」
「そうですかぁ〜ならこの先に川がありますし、そこで
僕とモルテはキャンプ地を離れる。
僕はその間にギルメンに作戦開始のメッセージを送る。
「へっくしッ」
「どうかしましたかぁ?」
「ただのくしゃみだよ」
誤魔化す為にくしゃみの振りをしたが、おそらく気づかれてはいるだろう。
「それじゃあー始めちゃいますか〜」
目の前にカウントダウンタイムが表示される。
モルテの武装は片手用直剣と、スモールバックラーの基本的な物。そして片手斧を隠し持っている。奴があの時、ドライアと共に行動している鎖頭巾と同一人物ならばだが。
「それじゃあ〜こっちから行かせてもらいますよっ!」
カウントダウンが0になったと同時に、モルテが走る。そして剣を振りかぶりそのまま振り下ろす。
かなりの速さで突進してくる。
「くっ…!」
僕は上体を逸らして剣を躱し、足払いを仕掛ける。
モルテは左足を上げて、足払いを避ける。
その隙に僕は剣を持っていない、右手で体術SS《閃打》をモルテの腹を殴る。
モルテは後ろに跳ぶことでダメージを最小限に抑える。
「アハァ〜…容赦ないっすねぇ」
僕はそのまま立て続けに、剣を振る。
戦いは先手を取ったもん勝ちだ。とにかく攻め続ける。
「チッ…!」
ここでSSを使うのは悪手だ。初級スキルとは言え、技後硬直がない訳ではない。
こいつはおそらくβテスター。その中でも、デュエルをメインにしていたプレイヤーだ。そうでなければ、ここでデュエルを申請してこないだろう。
「ショウッ!」
モルテも負けじと、剣を振るう。
受け太刀はあまりしない方がいい。今僕が使っているアニールブレードは耐久に降っていない。ステータスの振り分けが、鋭さと正確さにそれぞれ4ずつ振られている。
下手に受け太刀すればへし折られる可能性もある。
こちらの攻撃を受け止められるのと同時に、体術SSの《弦月》が横っ腹命中する。
そのまま横方向へと吹っ飛び、砂利の上をゴロゴロと転がっていく。
「いやぁ…やりますねぇ…自分、デュエルには自信があったんですけどね〜」
土埃を払いながら立ち上がる。
「そうかい」
「釣れないですねぇ〜」
相変わらずへらへらした笑みを浮かべるモルテ。
「しっかしシュバルトさん…β時代と比べて弱くありません?」
「何が言いたいのかな?」
「第一層の時みたいに、なりふり構わないようなプレイをしていたら、こんな物じゃないと思ってますよ?」
煽るようにモルテの言葉は続く。
「原因はやっぱり彼女ですかぁ? 護るものができて、剣が鈍りましたか? それとも、醜悪な本性を隠していたいだけですかぁ?」
「別に関係ないよ。君こそ、デュエル中でもお喋りが好きなのか?」
「自分はいつでもお喋り大好きですよぉ。それこそシュバルトさんこそ、ゲームの中でリア充気取りですかぁ? だとしたら痛いですって…」
頭を抑えるように『アイタタタァ』とおどけて言う。
「でも彼女もやりますよねぇ。シュバルトさん達みたいなトッププレイヤーに取り入って、今や攻略組でもお姫様みたいな存在じゃないですか。もしかして彼女、リアルだとアレだったらします?」
考えるように頭をウンウン唸らせる。そして思い出したのか指をパチンと鳴らして、その思い出したモノを言う。
「そうそう、オタサーの姫ってやつ。あ、でももう死語でしたか? でもピッタリですね! シュバルトさん達ってなんか役得とかあったりするんですかぁ? あるなら自分にもお裾分けしてくれません?」
決めた。コイツちょっと、ぶっ飛ばそう。
「そこまでして煽るならちょっと本気を見せてあげるよ」
僕は一呼吸おいて、ソニックリープを使い、距離を詰める。
モルテはそれに反応し、受け太刀し、アニールブレードの刃で外へと流していく。
「シッ…!」
モルテの反撃の突きを頬スレスレで躱して、手首を掴む。
「ちょっ…!」
そのままガラ空きの腹に、膝蹴りを打ち込む。
「カハッ…!」
仮想空間とは言え、腹を蹴られてしまえば、怯む。
後退するモルテを引き寄せ、頭突きをかます。
「アガッ…!」
そのまま、一本背負で投げ、腕を切り落とそうと、剣を振り下ろす。
転がって逃げられてしまう。
モルテのHPは1割強削られたくらいだろうか、やはり体術SSでは大きなダメージは入らない。まだスキルとSS熟練度が低いせいだ。
「ひぇ〜…オッソロシイですよ……それが本気って…わぁっ!?」
喋る隙を見せたのならその隙を存分に突かせてもらう。
「フッ…!」
モルテは慌てて後ろへと下がりながら、受け太刀でなんとか防御する。
不意にスラントを無理な体勢から放たれ、僕と咄嗟に受け太刀で防御した。
ノックバックにより、大きく距離を取らされてしまう。
「あっははは! 怖いですって!」
川に座り込んだまま笑う。
「彼女のことをちょーっとdisっただけでこの怒りよう。とんでもなく入れ込んでますねぇ? もしどこの馬の骨とも知れない誰かに……
僕はモルテを黙らせるために駆け抜ける。水の抵抗でスピードは落ちる。それすら無視して駆ける。
「ヒヒッ…!」
モルテが不敵に笑いながら、水飛沫を上げて視界を遮断ってくる。僕はそれに動揺することなく、突き進む。そこに
「へっ?」
僕が剣を弾くか、咄嗟に大きく体を捩らせると思ったのだろう。僕はアニールブレードを歩法でスピードを殺すことなく躱す。
剣を投げて、空いた手に片手斧をクイックチェンジで装備し、大きく振りかぶっていたモルテは、間抜けな声を漏らし、更には危険も感じ取ったのだろう。顔が青ざめたように、口を引き攣らせ、片手斧SS《ダブル・クリーブ》を放とうとしていたその姿に、僕は片手剣SS《バーチカル・アーク》を叩き込む。
V字の斬撃痕を付けながら、モルテは後方へと吹っ飛ぶ。
片手斧のSSは一撃は片手剣より重いが、発生速度が片手武器の中でも遅い部類に入る。その為、僕のSSが先に決まった。
「ぐっはぁぁっ…!」
モルテのHPゲージが黄色を通り越し、赤の危険域まで減少した。
これにより僕がこのデュエルに勝利した。
「あ、あらぁ…負けちゃいましたかぁ〜」
モルテの声が震えていた。ギリギリ生きていることに少し恐怖しているのだろう。
「さてと……あわよくば僕を殺すつもりだったねモルテ」
「なんのことですかぁ?」
「半分ギリギリのHPゲージを片手斧の強力なSSで削り切る予定だったのかな? ダブル・クリーブで大きく削った後、慎重になった僕へ、更に強力なSSで削り切る。
今のいままで、合法的なPKをする為の、姑息な手段を防ぐ為に考えないわけがなかった。
そして今回、この状況で1番邪魔になるのはギルドリーダーの僕か、サブリーダーのテリーだ。次点で、ビーターのキリトになる。
「で、どうする?このまま
そう挑発するが、モルテは乗ることなく、立ち上がり武器を納める。
「いやぁ…死ぬのは嫌ですのでやめときます〜」
「そうか。ああそうだ。今後はこんなことから手を引いたらどうだ?」
「いやぁ…自分、人間相手の方が盛り上がるので〜…とりあえず考えておきますよ〜あなたみたいな人が相手でこそ、本当の
「は?」
「んじゃそゆわけで。次逢う時までご壮健で、また
「お断りだよ」
深追いは危険だ。奴の仲間が待ち受けているかも知れない。
そろそろクエスト進行チームも終わった頃だと思い、キャンプ地へと走る。
シュバルト
結構頑固だったりする。
お説教で少しだけ思考をポジティブに考えるようにした。
モルテの正体とか行動とか読み取っているあたり、デスゲーム前に師匠と呼ばれる人に仕込まれたことが活かされている。
何者なんだお師匠様。
テリー&ユウキ&アルゴ
シュバルトへお説教。
少しは前向きになっていると良いのだが。