夏の仕事がピークになったので、中々執筆する気力が残りませんでした……
涸れ谷に水が満ちたら川になる
シュバルトside
第4層へと続く螺旋階段を上り切り、毎層あるレリーフを見る。そこにはβとは全く別の絵が描かれていた。
僕達βテスター組はレリーフ違う事に意識が一杯だった。
「4人ともどうしたの?」
「あー、実はこのレリーフがβと違うからちょっとね」
「違うってどういうこと?」
「βの時は谷底を歩く旅人だったんだがな……今回のは小船を漕ぐ旅人に変わってるんだ」
「ならこの層はβとまるっきり違うってこと?」
「ええ。もしかしたら私達のβの知識が全く役に立たないかもしれないわ」
「この層だけか、若しくはこの層からβからは全て一新されているか……」
キリトがそう危惧するが、僕としてはそれはないと思っている。
開発目線で見るのなら、それはゲームとして『無し』だ。
そして、おそらくシステム面から見て水の抵抗力のOSが完成したのだろう。
僕はその辺、手を付けていないので、どういうものになった中はわからないので、直接確かめるしか方法はない。
そう考え、僕は階段の終わりにある扉を開く。
「わぁ……」
ボス攻略ぶりに見る陽光にユウキが感動した声を漏らす。
そして僕はβと違う点を探すまでもなく視界に入る。
「なるほどね……」
涸れ谷だったフィールドは水で溢れ、荒野のように一面真っ白だった地面は草が生い茂っていた。
「なるほどな……βのあの街もそう言うことか…」
と、テリーがβ時代の主街区を思い出したように言った。
「さてさてさーて……どうしたものかな」
先にアルゴに連絡を済ませ、僕達は立ち往生してしまった。
「ねぇ、キリトくん。βだと主街区までどんな道だったの?」
「ああ、この川になっているところの底を歩いていたんだよ。当時はこんなふうに川になるほど水があったわけじゃないからな」
「じゃあどうするのよ」
「この川をどうにか泳いで行くしかなさそうだ」
「泳ぐにしたって、
「そうだな……みなさん水着の方はお持ちになってますか?」
キリトの問いに対し、全員当然のように持っていない。
「シュバルト、この世界の水ってどんな感じなの?」
「そうだね……実際に体感した方がいいよ」
僕は要らない布製の手袋をオブジェクト化して、彼女に渡す。
「なにこれ?」
「それ履いて、水に手を入れてみて」
「はく?」
しまった、ついうっかり方言が出てしまった。
「……装備して」
多分、今僕の顔は赤くなっているだろう。
まさか手袋を履くか方言だと思わなかった。
「迂闊だったな……」
僕は一度思考をリセットする。
「うわぁ。ホントに濡れたみたいだよ」
「素材によって吸水率が変わるんだよ」
「ってことは…布系とかレザー系は」
「外さないとだね……なるべく」
とは言え、それだけでは泳ぐには危険だ。
僕は当たりを見渡すと、木の上に何かカラフルな木の実がなっているのを見つけた。
それを確かめるべく、その木に駆け寄る。
「どうやって取ろうか……」
とりあえず上るか。
僕は木をよじ上る。そして木の実を取ることができた。
「よし取れた……」
僕はなんとか木に付いていた6つの木の実を取ることができた。
「シュバルトそれは?」
いつの間にか着いてきていたミトの問いに軽く答える。
「そこの木についてたやつ」
「何かしら……ドーナツの実?」
「いや、多分この層の初見救済措置だと思う」
僕は息を吸い込み、ヘタの部分を咥えて空気を送り込む。
すると、ドーナツの実は『バボン!』と勢いよく膨らむ。
「これって……」
「多分浮き輪だね」
「これなら主街区まで溺れることは無いわね……」
「ただどこまで装備を外すかだね……」
僕達はともかく女子陣がなぁ……
「とりあえず、下着にならない程度に脱ぐわ……」
ミトがメニューを呼び出すと、こちらを見て頬を染めていた。
「見ないでよ…」
「ご、ごめん」
慌てて僕はそっぽを向いた。
「テリー達に渡さないとね」
僕は彼らの元へ戻り、浮き輪の実を渡す。
「……お前の分は?」
「僕は大丈夫。スキルあるから」
「もうなんも言わねぇよ…」
うん正直このスキルズルイと思う。
モンハンスキルのスキル熟練度で獲得して現れた専用スロットに『
浮き輪よりは難しいが、制作中に軽くやったからある程度は大丈夫だ。
「んで俺らはパンイチな訳だが」
「そうだな…」
布系や重くなる金属装備を外した結果である。
因みにキリトが履いてるバラン将軍のLABのパンツなのだが、お尻の部分に牛の顔が縫い付けられており、それを見たアスナを引き金に全員笑った。
「な、なんか恥ずかしいね……」
と、フィリアが浮き輪に入りながら、薄着の自分を見て少し身を縮こませていた。
「とりあえず、試しに俺らで泳いで見る。その後に女子陣だ」
僕達が先に川で泳ぐ練習をする。
数分でコツを掴んだので女子陣も入る。
「なんか、変な感じ……こう、水には浸かっているんだけど、水の質感が現実と違うせいなのかな?」
浮き輪でぷかぷか浮きながら、不思議そうに水に浸かる。
「まぁその辺は仮想との差だからね……文字通り実装まで漕ぎ着けたからフィールドもこうなったんだろうね」
「なるほど……」
浮き輪もあれば彼女達もすぐに安定して動けるようになり、街まで進むことになる。
「固まって行動した方がいいよな……」
「そうだな……」
どうしたものかと考えていると、ユウキとミトが僕の腕を掴み、そのまま浮き輪の実の穴に引きづり込む。
ユウキは大きくはないものの小さめなものを、ミトはそこそこ育っているものを、それぞれお持ちのようで……って何を考えているんだ僕は。
変な思考を消して何をすべきかを考える。
「こうしたらバラバラにならないでしょ?」
「た、確かにそうだけども……」
「そうね。特にシュバルトは浮き輪もつけてないから2人いた方が良いわよね?」
腕に伝わる2人の柔らかい質感に僕は戸惑いながらも、川を下っていく。
そんなこんなで、僕達3人以外は男女で別れて固まる。
「それじゃあ行くよ」
川下りを始める。
最初は戸惑いも多かったものの、流れるプールのような雰囲気に各々楽しんでいた。
「楽しいね」
「そうだね……現実じゃこんなことできないから、新鮮だよ」
「仮想世界ならではってやつね……」
現代地球でこんなことができる場所は限られている上、場所によってはウイルスがあったりなど、大変危険だ。
しばらく進んでいると、滝が見えてきた。
そう。 滝である!
「全員離れないよう気をつけて!」
僕がそう言って、滝からの落下に備える。
数秒後、3人まとめて滝壺へ真っ逆さまに落ちていく。
「「キャーーー!!」」
「わーー!」
どぼん! と音を立てて沈み込む。
事前に息を止めていた僕とミトは冷静に周囲を確認する。
ユウキだけはゴボゴボと焦っているのか、もがいている。
僕は彼女の口を手で塞いで、これ以上息を漏らさせないようにし、上へ浮上するようジェスチャーで指示を出す。
「ぷはっ!」
「いやー…驚いたね」
「まさか滝があるなんて…」
落ちたことに少しばかりの恐怖感を抱いたものの、ウォータースライダーのような勢いには楽しさもあった。
後続のテリー達も落ちてきたが、難なく浮上する。
「大丈夫ー?」
「ああ! 少し驚いたが問題ない!」
彼等の無事を確認し、前へと進んでいく。
「あと少しで目印になるはずの岩があると思うんだけど……」
「沈んでいたらお手上げね……記憶を頼りにしないといけないのはとても厳しいわ」
辺りを見渡し、目印を探していると、背後からピチョンと水音が敵mobがホップする音と共に耳へと入る。
そういえば練習やらなんやらをしていたので、もうすでにモンスターがホップする時間を当に過ぎていた。
「ね、ねぇ……あ、アレって……!」
ユウキが指を指した先に見えたのは薄い魚の背鰭だった。
それは徐々にこちらへと迫って来ている。
「う、嘘でしょ……」
流石にミトも動揺している。
そのmobのカーソルは赤。つまりこちらよりもレベルが高く、下手に水中戦を挑めば忽ちやられてしまう可能性を孕んでいる。
「とりあえず逃げよう…!」
僕達は焦るようにバタ足を加速させる。
もしアレが魚系のmobでとんでもない武器を持っていたとしたら、非常に不味い。
「倒せたりしないかなぁ!?」
「水中戦はあんまりやらないからやめておいた方がいい!」
「2人とも! あの岩を左に!」
目印の岩の所まで来ていたようだ。
僕達は後ろから迫るmobを見ることもせずに、一心になって足を動かす。
「陸だ!」
そうして水を蹴るように陸へと上がり、勢いそのままに、地面を滑っていく。
助かったと思ったその時、僕の視界は柔らかい何かで塞がれ、状況を把握できずにいた。
「
「シュバルトのエッチぃ!」
叫び声からしてミトだろうか。
僕の上に倒れていた彼女は声を上げながら、綺麗なモーションの平手打ちを、僕の左頬に叩きつけた。
「理不尽だー!」
そう言いながら僕は数メートル吹っ飛んだ。
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そんなこんなで、装備を元に戻した僕達は、第四層の主街区《ロービア》へとたどり着いた。
街の雰囲気は、昔見たポケ◯ンの映画のモチーフ舞台、ヴェネツィアのような街並みだ。
あの映画はメインキャラが死ぬと言う珍しい作品だったので、印象に残っている。
ゴンドラで水路を移動し、ついに到着した転移門を有効化させる。
「さてと……この後は夕方まで自由時間だ。寝るなり買い物するなり、自由にしてて」
と言うわけでしばらくの間、自由にこの街で休むことにした。
ただ大半は、疲れを癒す為に宿屋で眠ることにしたようだ。
僕はこの後、約束の人物と話をするので、このまま主街区を歩くことにした。
待ち合わせ場所まで、ゴンドラを使って水路を移動する。
数分で待ち合わせをしていた人物と顔を合わせる。
「よーす。えっと…シュバルトで良いんだっけ?」
「あってるよ。雪松。君もこのゲームにいたんだね」
「やりたかったからな。それとリアルネームは厳禁…って俺のプレイヤーネームを知らねぇか。なら改めて自己紹介させてもらうか。俺のプレイヤーネームは《スノーベル》だよろしく」
そんな彼なのだが、アルゴ経由でやり取りをした結果、ここで初顔合わせをすることとなったのだ。
彼女からは雪松の名前を聞きそびれていたのは失敗だったね。
「んで俺に用があるって聞いたんだが、なんだ?」
「えっとね…攻略ギルドに正義の戦士団っているでしょ?」
「ああ、あのいけすかない連中か」
「うん。彼らの情報をどこで拾ったのかなって」
「ただ小耳に挟んだだけだぞ。連中のメンバーのうち下っ端辺りが、公共の場で談笑するようにベラベラ喋ってたからな。一応、鼠に報告しただけだ」
「そうなのか……」
「それに、俺は情報屋と言っても、ニュースとかそんなもんだ。まあ正確なニュースを送りたいから、色々聞き込みはしてる」
「そっか。なら今後もよろしくね」
「おう」
そうして、彼と別れ僕はアルゴと共にクエストNPCの位置を確認する事にした。
βにはいなかったNPCがいれば、それがこの層の攻略に繋がる鍵となる筈だ。
「どうアルゴ?」
2人でまとめた地図を眺める。
「そうだナ……このNPCはいなかった気がするゾ」
街の外れにある建物にはβの時、誰もいなかったのだ。
「ならここだな……ここに攻略に必須なキークエストがあるはず」
「なるほどナ……」
「ありがとうアルゴ。お礼に何か奢るよ」
「んじゃ、チーズマシマシのピザをよろしク」
自分の夕食含めて屋台で食べ物を買い、チーズマシマシのピザを彼女に手渡す。
「はい。アルゴ」
「サンキュー」
「そういえば、さっきスノーベルに会ったよ」
「お、会えたのカ」
「うん。まさか彼もいるとは思わなかったよ」
「リアルの知り合いだったのカ」
「友達だよ。まぁ数少ないリア友だ」
「ふーン……この後はどうするンダ?」
「みんなと合流したら、このクエストを受けるよ」
「なら、クエストが終わったらその内容をまとめておいてクレ」
「勿論だ」
そうしてアルゴと別れた僕は、みんなが寝泊まりしている宿屋のホールでアイテム整理をしながら、待つ事にした。
日も落ちかけ、夕暮れ時になり、上の階からテリー達が降りてくる。
「おはよう。ゆっくり休めた?」
「ああ。お前は…?」
「勿論。それと雪松がいたよ」
「マジで?」
「うん。プレイヤーネームはスノーベルだって」
「アイツらしいな…」
そして、ユウキ達も降りてくる。
次の行動指針を説明し、僕達は新しく出現したクエストNPCの元まで向かおうとしたのだが。
「しまった……街開きで来た観光プレイヤーのことを忘れてた」
ゴンドラに乗ろうとしたのだが、プレイヤーの列を見て、どうしたものかと悩んでいる。
「シュバルト。あそこ」
キリトが指を刺した先には既に水路を移動している、ゴンドラがあった。
「まさか……」
「そのまさかだ」
「良いのかなぁ……」
「まぁやるだけやってみようぜ」
てな訳で、僕は残りのメンバーにその事を伝えると、数名がノリノリな事に、ちょっと引いたが、ともかくこの方法で移動する事にした。
「それじゃあいくよ……!」
僕を先頭に水路を飛び、移動中のゴンドラの屋根に着地し、再び別のゴンドラへ、飛び移る。
「あははは! これ楽しいね!」
笑いながらユウキは飛ぶ。
「怒られないかなあ……」
僕はそんな事を心配したが、次のテリーの言葉にその言葉杞憂だと分かった。
「アレ見てみろ」
「……楽しんでるね」
「リアルな八艘飛びは見た事ないんだろうな…」
この光景を楽しんでいる人がいるのなら、僕は何も言わない。
その後、地面に着地した僕達は目的地の小屋へと向かうのだった。
スノーベル(杭田雪松)
シュバルトとテリーの友人。
家族構成は父・母・自分・妹の4人家族。
基本的に、本を読むのが好きだが、身体を動かすことは特別嫌いではない。
色々とギリギリな場面に遭遇したりする。
クラスメイトの女子が喧嘩で投げた椅子が頭上を通過したり、部室の扉を開けた時に、女子が着替え中だったりしたなど。
散々な目に遭っている。
だが、シュバルトには及ばないものの割と運気は良い方。