休みがなくなったりで時間が取れず、横になると完全に意識が落ちてしまいまして…
シュバルトside
船の材料を集め終えた僕達は、船大工のお爺さんのいる小屋へと戻り、報告の為、彼の前に立っていた。
「随分とボロボロになって……さてはヌシにやられたな? 青いのう! ギルドの連中が束になっても敵わなかったんじゃ。たかが数人てなんとかなr…」
老人の言葉は最後まで続かなかった。
僕達がストレージからオブジェクト化された大量の材料に、目を剥いたのだ。
流石に全て持ってくるとは思わなかったようで、一つ一つ確かめるように手に取って観察する。
すると、テリーがオブジェクト化した熊の素材を見た老人は不思議そうに触る。
「なんじゃこれは……熊の素材なんじゃろうが、見たことがないわい……」
テリーは素材を手に入れた経緯を説明する。
「なるほどな……ヌシ熊だけでなく、外来熊も葬るとは……お前さんたちは、ワシが思っている以上の実力を持っとるようじゃの」
お爺さんは椅子から立ち上がり、金槌を手に取ると、やる気に満ちた目でこちらを見る。
「この老ぼれが全身全霊でお主達に最高の船を用意してやろう!」
「お願いします!」
「うむ。それじゃ、造りたい船の仕様を決めてくれ」
やはり、あるか船の設定決め。
こういうのはすぐに決めるのが僕だけど、女子陣は……
「わー! ねぇねぇ! どんな船にする?」
「いろんな項目がある!」
「おまけに設定内容も多いから迷っちゃう!」
と、興奮気味に設定メニューを操作する姿を見て、時間がかかりそうだと思ってしまった。
隣にいるテリーとキリトも同じことを考えたのか、困ったような表情を作っていた。
「昔から若い
とお爺さんが僕の肩をガハハと笑いながら叩く。
「ねぇシュバルト。船の名前どうする?」
「船の名前?」
「うん」
「そうだな……キズメルの妹の名前とかどうかな?」
「……キズメルは喜んでくれるかな?」
「大切に使うよう心掛ければ大丈夫さ」
「そうだね…!」
と、名前が決まり、船の見た目の項目も埋まったのかユウキが決定を押そうとした時、僕はふと、自分の持つヌシ熊の角を何処に使うか考える。
「ユウキ、ちょっと項目見ても良い?」
「? いいよ」
僕は未入力の項目を見つけ、そこをタップすると、どうやらヌシ熊の角が使えるような項目だった。
「よし、じゃあこれ付けようか」
持ってる素材は有効活用しないとね。
「テリーはどう?」
もう一艘の設定を見ている彼に尋ねる。
「ああ、いや、名前をどうするか考えててな……」
「候補とか出たの?」
「フィリアのやつが、『ミルフィーユ号』なんて言い出してな……」
「直ぐ沈みそうな名前だね……」
「文字通り、サクッとな……」
お洒落な名前なんだろうけど、船につける名前としてはあまり良くない気がする。
あまりにも不吉な名前だ。
「うーむ……」
「フローリア号ってのはどう?」
「お洒落な名前だが……なんというか……」
「テリーには合わないか」
「ああ…」
どうしたもんかと悩んだ末に決まったのが、
「サファイア号だな」
結果、テリーとフィリアらしい色と宝石の船の名前になったようだ。
「それじゃあ、これでお願いします!」
僕は2枚の設計図が書かれた羊皮紙を老人に手渡す。
「うむ。それではワシは下の工房に篭りっきりになるでな。完成すれば知らせるてやるから、大人しく待っておれ」
そう言うと、老人が道具置き場へと消えた。そして扉が閉まるや、ごごんと重い音と共に振動も伝わり、床が震える。どうやら道具室そのものがエレベーターのような作りになっているようだ。
正直、好奇心が湧いて来る。すっごい気になる。
「ねぇ、船ってどれくらいで完成するのかな?」
「リアルなら月単位だろうけど、多分
僕はウィンドウを出し、クエストの進行を確認する。
『船が完成するまで待つ』の文の下に[209:59]と1秒ごとにカウントダウンしていることから、おそらく3時間半で完成するようだ。
「3時間半だね」
「それなら一回出て戻る?」
「うーん。終わったらクエスト報告するし、それで別のプレイヤーがいっぱい来るだろうから、並び直しになと思う。仮にディアベル達が順番を譲ってくれたとしても、ドライア達が譲るとは思わないし、ここで休もう」
そう言って僕は、アラームを3時間半後に設定し、そのまま壁に背をつけて瞼を閉じる。目を覚ました頃にはできているだろうと思い、意識を切り離すのだった。
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アラーム音が鳴り響き、僕は浅い眠りから目を覚ますと、隣でスヤスヤと寝息を立てて眠るユウキの姿があった。
クエストログを確認すると、船が完成した事が書かれていた。
「……起きてユウキ」
「んぅ…? もう出来たの?」
「うん。だから他の人も起こそう」
僕は近くで1人眠るミトを起こす。
「…あと5分」
「なにテンプレみたいな事言ってるのさ。ほら起きて」
「……はーい」
目を擦り、背伸びをして立ち上がる。
残りの面子も起きて出来上がった船を確認する。
起きる際に何故かキリトとアスナの2人にちょっとしたいざこざがあった。どうやらテリーが過去にフィリアと同じことが起きた内容だったらしい。
彼らはラノベの主人公とヒロインかな?
そんな事を考えながら工房に繋がる扉を開ける。
「お爺さん。完成しましたか?」
『うむ。満足のいく船ができたわい。それも二艘な。ほれコイツじゃ』
親指で指された先にある完成品の船を見る。
白い船体。黒エルフの髪色を思わせる紫色の縁取りの一艘。蒼い船体に黄色の縁取りの別の一艘。
「おー……」
綺麗な艶光を放つ二艘に僕は感動した声を漏らす。
「すごい……綺麗……」
「当然じゃ。なんせこのワシが作ったんじゃからな。おぬしら、簡単に沈めたらなんかしたら許さんからな?」
と、圧をかけて来る老人に対して、すかさず返答したのがアスナだった。
「もちろんですよ! 材料を集めるのに苦労もしたんですから。大切に乗りますよお爺ちゃん」
満更でもなさそうにフンと鼻を鳴らすと、後ろに一歩下がる。
「それでは、この船はお前さん達の物じゃ。水門を開けてやるから、どこへなりとも漕ぎ出すがよかろう」
「はーい!」
僕が紫色の方の船頭の位置に立ち、ユウキとミトが乗り、蒼い方の船頭の位置に立つ。
どうやら、ちゃんとマニュアルはあるようなので、それを読み込む。全て理解した事を老人に伝える。
「よし。開けるぞ!」
水門開閉レバーを老人が下ろす。
そして左右に水門が分かれて行く。
「2人ともなれない運転になるから気をつけてね?」
僕はそう言って、櫂を力を込めて動かす。
「よっと……ほっ…!」
拙い動きで操船する。
「おー……シュバルト! 上手いね!」
「SSの経験が生きてるのかもね。これなら安心して乗ってられるわ」
「それならよかった」
ユウキとミトにお褒めの言葉をもらい、そのまま川を下る。
「お爺さーん。また来ますね〜!」
ユウキに老人に別れの挨拶を任せ、僕は操船に集中する。
「どうする? このまま外に出る?」
「うーん。あそこじゃ仮眠しか取れてないし一旦街で休もう」
「それもそうね。アスナ達もそれで良ーい?」
「いーよ!」
そういう訳で、僕達は一度の宿屋近くで船を停めて休むことにしたのだが、その間、ガラの悪い水運ギルドに怒鳴られ、おまけにクエストログにもう一度先ほどの老人を訪ねろとあったので戻ったのだが、はっきりしなかったので、今度こそ宿屋で休むのだった。
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テリーside
休憩を終えた俺は、外の様子を窓から伺う。
そこには俺達の船の前で腕組みしながら首を傾げる男性プレイヤー2人が見えた。
リンドとキバオウだ。
持ち主不明の船に対応に手をこまねいているようだ。
俺は皆を集めて外の様子を伝える。
「僕が説明して来るよ」
と、シュバルトが2人に話しをしに行く。
「さてと……とりあえずこのあとは水運ギルドを追う、その層の情報を集めるに分かれるんだが……水門ギルドの方は俺とフィリアに任せてくれないか?」
「私は聞き耳スキルがあるし、テリーも索敵スキルが結構高いから」
「そうだな。もしスニーキングクエストなら2人の方が適任か」
「確かにね……」
β組が納得したので、俺とフィリアは彼らと分かれて行動することとなった。
「皆、2人にはクエストのこと報告したから後は船使うだけだよ…ってどうしたの?」
俺は先ほどの話を説明する。
「…わかった。何かあったらすぐ引き返してよ?」
「ああ。当然死ぬつもりはない」
そう言って、5対2に分かれ、水運ギルドを追いかける。
4人乗りで造っていたので、船頭の分空きが出来て、丁度5人乗れた。
「んじゃ、水運ギルドの連中を追うぞ」
「了解!」
俺とフィリアはこのまま街の外へ漕ぎ出し、水運ギルドの連中を探す。
その最中、カニやデカいお玉杓子、それの成体らしきカエルや亀のような敵mobを倒しつつ、フィールドを探索する。
「なんだか何もないと船の揺れが気持ちいいね」
「こんな体験は中々ないからな……まぁこんなデスゲームじゃ楽しみも心から楽しめなさそうだな……レベルが高ければその限りじゃないんだが…」
「そうだね〜…移動が楽ならプレイヤーハウスも買う気も湧くし、この層に拠点も作りたくなるよね」
他愛無い会話をしていると、かなりの速度でこちらを追い抜く木箱を載せたゴンドラが横を通過していった。
「テリー…今の…!」
「ああ、間違いない。追いかけるぞ」
俺は自分が制御できる限界の速度で奴らを追う。
流石に本職に追いつくことは叶わなかったが、ゴンドラが素早く通れる道が一つしかないのもあって、足取りを探す必要はなかった。
「洞窟か……」
「灯りはつけない方がいいよね……」
「ああ、見つかる可能性が上がるからな……」
ゆっくりと船を動かして、暗い洞窟を進んでいく。
「…! テリー声が聞こえる」
「何っ…!」
俺は背を低くして船首近くで伏せて奥を見る。
そこには第三層で戦ったフォールンエルフが居た。
どうやら水運ギルドの連中と何か取引しているようだ。
「何してるんだ…?」
「うーん……聞こえた声を要約すると、木箱を受け取ったのがフォールンエルフでそれだけでウハウハなんだってさ」
「それだけで?」
よくわからん。とにかく木箱を調べないことには、クエストも進まない。
「とりあえずあの袋には金が入ってるんだろうな……」
「……じゃああのお爺さんが船作りの材料をもらえなかったのって」
「この為に集めてたんだろうな……」
木箱にする為の木材だったのか。
「……こっちに来る!」
「急いで引き返すぞ!」
俺は櫂を力の限り動かし、水運ギルドから逃げる。
「テリー! 追いつかれちゃうよ!」
「くっ!」
俺は左側に扉のある場所に船を停める。
「とりあえず部屋に隠れるぞ!」
「船は!?」
そう、船をどうするかだ。確実にこのままだとバレてしまう。
中に布が置いてあったので、これで隠せればと、俺はそれを手に取る。
手早く布をタップして説明を見る。
【アルギロの薄布:水中で暮らす珍しい蜘蛛の糸で織った布。周囲を水に囲まれた場所でだけ、この布で覆ったものを見えなくする効果がある】
「フィリア! コイツを被せる!」
「こんな布で大丈夫なの!?」
「説明は後だ!」
布を被せる。
これで隠せるはずだ。
「急いで扉の奥に!」
俺は彼女の手を引いて、部屋の奥へと隠れる。
部屋の戸を少しだけ開き、水運ギルドの船が通り過ぎるのを確認し、部屋から出る。
「はぁー……この手のスニーキングクエスト苦手だよ……」
「……緊張感がすごいからな。ともかく連中は過ぎ去ったから奥に行こう」
「そうだね。木箱の謎も解かないと」
「ああ、んでこの布は水場でなら姿を隠すことができるやつだ」
「それを駆使して船を隠すんだね」
布を剥がし、ストレージにしまおうとすると、耐久値がわかるくらい減っていた。
減った量と残り、そして時間を計算する。
「フィリア、これで隠せるのは45分だ」
「了解。ささっと済ませよう」
俺はフォールンエルフが中に引っ込んだのを確認し、船を停めて、アルギロの薄布を被せて隠す。
「行くぞ…!」
俺達は見回りフォールンエルフの目を掻い潜り、奥へと進んでいく。
そして辿り着いた先に、俺た達を出迎えたのは、
「うげ…」
すぐには調べきれないほどの扉だった。
「どうする? 手分けして探す?」
「いや、こういうのは1番奥が怪しいからな」
「OK」
完全マッピングをしたいが、そんなことしている時間はない。
見回りも戻ってくる。
下に降りる階段の影に隠れて、見回りをやり過ごす。
「テリーこの先にあるなかな…?」
「多分な…」
岩陰に隠れて奥を覗く。
そこには大量の木箱が積み上げられていた。
おまけに強そうな衛兵が見張りをしている。
「とりあえず古典的だが……ふっ…!」
俺は小石を投げて木箱に当てる。衛兵はその当たった音に反応し、視線を逸らす。
「今だ!」
俺とフィリアは急いで木箱の所まで走り、蓋を開け、中を覗く。
しかしその木箱の中は、
「空っぽだね…」
「ああ……」
何も入っていなかった。
やはり木箱自体に意味があるのか?
「あんなに大事そうに運んでたのに?」
「これ自体に意味があるんだろう……っ!?」
奥の大扉が開いた音がした。
「中に入るぞ…!」
「えっ…!?」
フィリアを抱えて中に入る。
2人だと狭く、ぎゅうぎゅうで満足に動くことができない。
外を覗くと、フォールンにしては体格のいい職人のような男が現れていた。
【Eddhu:Fallen Elven Foreman】と名前が表示されていた。
フォアマンの意味は後でシュバルト達に聞くとして、次に現れたのは赤いマントを付けた騎士鎧を装備した、エルフらしい痩身長躯の男だった。
【N,ltzahh:Fallen Elven General】と真っ黒なカーソルを持つ男に俺は鳥肌が立つ。
あれは不味い。確実に勝てない。
「今日の荷上げで、予定の量は揃いました」
「うむ、まずはご苦労と言っておこう。だが組み上げは少し遅れているようだな」
「申し訳ありません、閣下。遅れは3日後に解消の予定です」
「ふむ……では5日後までには間に合うのだな?」
「はっ、我が命に変えても必ず、ノルツァー閣下」
「良かろう。頼んだぞエドゥーよ」
そう言ってエドゥーの逞しい腕を叩く。
そしてノルツァー将軍はこちらに歩いてくる。
ひとまず蓋を閉じて息を殺して隠れることに全力を出す。
「……それにしても、実に滑稽極まる話だな。遥かなる昔の時代に聖大樹の恩寵が受けられなくなった何も関わらず、我々が今もなお、エルフ族の禁忌に縛られているとはな」
それに対して返事をしたのは別のフォールンだった。
「は……下らぬ禁忌さえなければ、薄汚い人族どもと取引する必要もなかったのですが」
「言っても詮無い事だ、カイサラ。金貨などいくらでも払ってやれ。我らの大願成就の時には人族に残された唯一の魔法も全て消え去るのだからな」
「その通りです。刻一刻と時は近づいてあります」
「特務隊司令官が取り零した第一の秘鍵を、早急に奪還せねばならん。5日後……全ての準備が整い次第、作戦を開始する。諸君らの働き、多いに期待している」
無数の足音が遠ざかり、大扉の奥へと消えた。
奴がフォールンの親玉なのだろうか。
そう考えているとフィリアが俺に声をかける。
「ねぇテリー……第一層と今回とわざとなの?」
怒ったような声でそう言うと、俺の手があらぬところに入っていた。
「えっ?」
そう俺の右手が彼女の胸当ての隙間に入ってしまっていたのだろう。
女性特有の柔らかい感触が手だけではなく、右半身に伝わるが落ち着いて息を殺す。
「す、すまん…! って手が抜けん…!」
掌に伝わる柔らかい感触に焦りながら
「ちょ…! テリー…! ひうっ! んあっ…!」
色っぽい声を出す彼女に俺は焦りながらも、腕を上手く畳んで、手を抜くことに成功した。
「済まんかった…」
「良いよ。焦ってたし……」
そう言って許しをいただいたので、俺達は急いで船の元へと戻る。
「……エルフの禁忌……空の木箱の取引……」
この二つから推測しなければならないが、とにかく一旦街に戻らねばならない。
おまけにクエストログは【然るべき人物に、このことを伝えろ】と変わっていた。
とにかく、この事を皆に伝えて、考えをまとめるとしよう。
ミルフィーユ号
ドラゴンクエスト6にて、バーバラが神の船に付けた名前。
ミレーユは若干引いていた。
シュバルト
仮眠中、結局眠りは浅かったが、うなされている。
ユウキ
うなされてるシュバルトに添い寝をして落ち着かさせている。
テリー
怪しい動きをしている水運ギルドを追って、謎を見つけた。
再びラッキースケベをした。
フィリア
スニーキングクエストで第一層以来、再びラキスケを喰らう。
今回は牢屋送りのメニューが出ていないようだが。