筆を取る意欲が湧かず、ずーっとダラダラしているうちにここまで経ち、オマケにコロナに感染。
本当に申し訳ない。
シュバルトside
「久しぶりキズメル」
「久しぶりだ。よく私がここにいるのがわかったな」
いつもと違い、ドレス姿の彼女は僕達から離れる。
「なんとなくだよ」
「シュバルトは勘が鋭いな。ここにはティルネルのやつが好きだったジュニパーの樹があってな……そのせいか、つい来てしまった」
「そっか…」
「ともあれ、皆、よく来てくれた。《天柱の塔》の守護獣を、首尾よく突破したのだな」
「野営地の司令官のお陰さ。彼が毒に気をつけろって教えてくれたから、誰も危険な目に遭うことはなかった」
「うむ、彼は信頼に足る男だ」
キズメルは深々と頷き、ユウキの背を押す。
「ここで立ち話もなんだ。一度、城内に戻ろう。ここまで船を漕いで来たのだろう。腹も空いている筈だ」
彼女の案内で訪れた大食堂はとても広く、某魔法学校のようで、ロープを着た魔法職のような黒エルフが長い机に並べられた椅子に座って食べていた。
僕の視線が彼等に向けられていたことに気づいたのか、キズメルが顔を寄せ、耳打ちする。
「彼等は聖大樹に仕える神官達だ。秘鍵回収任務の監督の為に、九層の王城から派遣されてきたのだ……」
「神官ね……」
「ただ、プライドばかり高くて困りものなのだがな……」
中々聞くことのない役職だが、キズメルの言い分からして、ファンタジー物だとお約束の如く、役に立たなさそうな気がする。
そんなことを考えていると、今度はユウキが小声で尋ねる。
「ねぇキズメル、あの子達は?」
「ああ、ここの城主の子供たちさ。皆いい子だよ……」
微笑みながら答えるキズメルは、奥まった机に僕達を案内した。
NPCのメイドが運んで来たのは、スープと前菜から始まる立派なコース料理だった。しかもメインディッシュは鶏のロースト。僕等は目を見開く。
「…? どうしたのだ?」
「ああ、人族は今日、明日とクリスマスにこんな感じの料理を食べるから少し驚いたのさ」
「くりすます? それは一体なんなのだ?」
僕は目線を一瞬だけユウキへと向ける。
「そうだね……簡単に言えばめでたい日かな。人族によっては信仰で大事な日だったり。普通にケーキを食べたり色々さ」
ユウキの家族は、皆クリスチャンだ。特に母親は熱心な教徒で、その娘である彼女も、教徒としての行為を忘れずにしている。
明日は教会を探しておいた方がいいだろうか。しかしクエストのこともある。どうしたものか。
そう考えつつも出されたコース料理を楽しむ。いずれはこの料理を作ってみたいものだ。
「ご馳走様でした……」
とても美味しかった。
「キズメル、ありがとう。とっても素敵な晩餐だったわ」
「礼を言うのはこちらの方だ。私も久々に食事が楽しかった」
メイドが食器を下げたのを見て、キズメルは立ち上がり、僕達を手招く。
案内に連れられるままに進む。
「城に逗留している間は、ここの部屋を使ってくれ」
中に入ると、大きなベッドに豪華なソファーと高級ホテルの一室のような部屋だった。
「素敵な部屋…」
「そうね……」
「こういう部屋に泊まるの初めてだよ」
感動しているアスナとミトとフィリア。
「それでは、私は左隣の部屋にいるからな。何かあれば遠慮なく呼んでくれ」
キズメルは隣の部屋に入った。
「さてと……どうしようか……」
「そういえば、エルフクエストを進めるのにここに来たのは良いが、どうするんだ?」
「ああ……テリーとフィリアが得た情報がね……いつ伝えたもんかね……」
そう考えていると、隣からキズメルの声が聞こえてくる。
「そうだ、大浴場があるのだが、そこで湯浴みするか?」
それに真っ先に反応したのが、
「大浴場! 行く行く!」
お風呂大好き(キリト情報)アスナさんだった。
「そうか。では準備をしてくれ」
そうして、全員が大浴場へとキズメルの案内で向かう。
「こ、ここって……」
第三層と同じく仕切りがない。つまりは、
「混浴か……」
どうしたものかと一瞬考える。
「先に女子陣が入ろう。交代で男子陣が入るって形で……」
キリトがそう提案したのだが、
「でもこれだけ広かったらすぐ知らせるのは難しいわよ」
と、アスナがこの広さを見た意見を述べた。
彼女の言う通り、この大浴場はとても広く、走り回ったりかくれんぼをすることが出来そうなほどだ。
「……水着を着たらいいんじゃない?」
「それならお互い大丈夫だね」
ミトの提案とユウキの賛成により、全員が水着を着てお風呂にお風呂に入ることとなった。
水着を持っていないので、僕以外の水着をアスナがパパッと作り上げる。
え? 僕? この層に来て、主街区に入ってすぐ買ったから作ってもらうことはなかったよ。
この環境なら必要になると思ったからね。まぁ結局は造船クエストで意味がなくなったけど。
プログラムとは言え気分的な問題だが、しっかりと身体を洗い、浴槽へと入る。
暖かいお湯が身体を包む。
「はぁ〜〜……」
「いい湯だ……」
僕とテリーが浴槽の縁に腕を回しながら、息を漏らす。
「不思議な効能とかあるのかなぁ〜…」
「エルフのお風呂だしありそうだよねぇ〜」
お湯を手で掬いながらユウキか呟く。
確かにそんな効能があっても良さそうだ。例えば、自動HP回復とか、状態異常耐性とかそんなのが。
そう考えている間にいきなり水飛沫が上がる。
「ぶぉあ!?」
「きゃあ!?」
思いっきりお湯を被ってしまった。
「いや〜広いなぁ…」
どうやら元凶はキリトのようだ。
「「キ〜リ〜ト〜(く〜ん)?」」
僕同様お湯を被ったアスナと共にキリトの背後に立つ。
「へ? あ……す、すまん……」
やらかしたことに気づいたのか、引き攣った顔をする。
「ちょ〜っとこっちでO☆HA☆NA☆SHIしよっかぁ?」
「そうね、君には勉強が必要みたいねぇ…?」
「あの……お二人さん?」
「「ん?」」
キリトを浴室の隅へ引きづっていく。
「アイツ死んだな……」
「キリトいい奴だったわ……骨がもし残ったら海に振り撒いてあげるわ」
十数分ほど説教してから浴槽に戻る。
「しかしこんな広い風呂、リアルにも似たようなのがあったりするのか?」
「ホテルとかにはあるんじゃない? 私達が行かないような高級なのなら」
確かに僕らじゃ手の出ないような所ならありそうだ。
「お風呂のお湯と水面の繋がりが見えないからかな……空に浮かんでるみたい……」
「こんなふうに、海や湖に繋がって見えるようなプールのことを《インフィニティ・エッジ》って言うのよユウキ。海外のリゾートホテルとかにあるの」
と、ミトの豆知識が披露される。
もしかして彼女、良いとこのお嬢様? そのリアル友達のアスナも同じなのかな?
「へー…流石外国だねぇ……」
「なんかソードスキルみたいな名前だな」
「ほんとだね。短剣カテゴリにありそう」
「いつか使えたらかっこいいね…」
インフィニットというのならあるが、今は黙っていよう。ネタバレは良くない。
そんな会話を眺めていると、突然、がちゃりと扉が開く音が聞こえてきた。誰が入ってきたのかと、扉の方へ視線を移す。
「皆、風呂に入っていたのか」
なぁんだキズメルか。と一瞬思考が安定した途端、ミトとユウキの手が僕の頭へと伸び、そのまま掴んで湯船へと沈めた。
「
「良いから沈んでなさい!」
「ごめんねシュバルト!」
「
上で何か言っているのだろうが、よく聞き取れない。
なんでだろう、この層に来てから理不尽な目に遭ってばっかりな気がする。水難の相でもあるのか?
「ぶはっ…! いきなり何するのさ!」
お湯から顔を上げた僕は軽く咳き込む。お湯を多少飲み込んだ気がする。
「ごめんなさい。突然のことだから咄嗟に……」
「咄嗟にって……説明くらいしてよ……戦闘中じゃあるまいし……」
その理由は『ペタペタ』と足音を鳴らしてこちらに近づいてきた。
「む、皆、ミズギを身につけているのだな」
彼女の発言で、頭を沈められた理由が分かった。
裸で来たんだ彼女。そら沈めるわ。
納得した僕は再び座って湯船に浸かる。
「しかし、野営地の風呂天幕では、確かシュバr「いい湯だねキズメル」…そうだな」
流石にそのことは話されては困る。
「シュバルト?」
「なんで目を逸らしたのかな?」
ユウキとミトの視線が痛い。やめてくれ、これ以上の面倒事はごめんだ。
「後で話してよ?」
「……ウッス」
ユウキの圧に勝てなかった。
「それはそうといいお風呂だね。九層の城の風呂はどれだけ広いのやら…」
僕は話を逸らす。
「ここより豪華だが、そこを使えるのは貴族の文官たちと、女王によって叙任された上位の騎士だけなのだ。残念ながら、人族の其方達が立ち入ることは難しいだろうな……」
「そっかぁ……でも、このお風呂もとっても素敵だわ。ずーっとこの城で過ごしていたいくらい」
アスナの答えにキズメルは笑みを浮かべるものの、すぐに暗い表情に変わる。
「城を気に入ってくれたのは嬉しいが……ここにはあまり長居するのはお勧めしない……」
「え…? なんでなの?」
「このヨフェル城は、見ての通り、四方を湖水と断崖に囲まれた難攻不落の砦だ。古のころから何物にも攻め入られたことはないと聞くほどだ」
「あー……だからか」
テリーが納得した声を出す。
「どう言うこと?」
「戦闘経験が浅い上に警戒心が足りないんだ」
「テリーの言う通りだ。ここにいる神官共は慢心している。その上鎧の音が耳障りだと言うものでな……」
「だからキズメルはドレスだったんだね」
フィリアの呟きに、女騎士は苦笑しつつ頷いた。
「似合っていなかっただろう?」
「そんなことないよ。あ、でも私達も鎧とか装備してたら怒られてたのかな?」
「おそらくな…試す必要は無いと思うが」
「やめとくよ」
そう笑い合う2人はとても仲が良さそうだ。
「……でもそのうち攻められるんだろうなぁ……森エルフには……」
気が緩んでいた僕は口から後で伝えるはずのことを漏らしてしまった。
「何っ!? どう言うことだシュバルト!」
それを聞いたキズメルが僕の前に立って問い詰める。
「あー……実はテリーがこの層でフォールンを見かけててね……」
「テリー……それは……」
「ああ、ノルツァーってやつもいた」
「奴もいるのか……」
ここで話すつもりはなかったのだが、こうなっては仕方ない。
「アイツらが水運ギルドから買ってた木箱って……」
「間違いなく船の材料だ。あの量なら数は……10人乗りの船を10隻くらいだな」
テリーとフィリアの2人は洞窟でのことを思い出したようで、納得していた。
「シュバルト……すまないが、一緒に来てくれ」
「わかった」
「待ってボクも行く!」
僕達は浴槽から出て、大急ぎで着替えを済ませ、キズメルの後を追う。
「ここだ…ここに閣下がいる。2人とも失礼の無いようにな」
そう言ってキズメルは重々しい顔で扉を開ける。
部屋の中には彼女が閣下と呼んでいる人物が席に座っていた。頭上に【Yofils:Dark Elven Viscount】と表示されていた。
ヴィスカウントいや、ヴァイカウント、確か子爵という意味だ。つまり、ヨフィリス子爵か。
「城主ヨフィリス閣下、執務中に失礼します。急ぎ報告すべき事柄があり、まかりこしました」
「報告とやらを聞く前に、何故人族を2人も伴っているのですか、騎士キズメル」
あまりの圧に僕は腹を貫かれた気持ちになった。あの時の傷が痛んだような気がする。
「は……」
キズメルが下がり、逆に僕が一歩前に出て、ベルトポーチにしまっていた紹介状を差し出す。
「なるほど……第一の秘鍵の回収に功のあった者達ですか。であれば、湖の魚の餌にする訳には行きませんね」
と、冗談か本気かわからないことを言った後、紹介状を机の引き出しに仕舞い、同じ場所から、指輪を複数個取り出す。数を数えると僕達、パーティ分用意されていた。
「それを身につけていれば、今後、リュースラの衛兵に咎められることはないでしょう。無論、お前達が我らを裏切らない限りに於いては、ですが」
プレッシャーをかけてる閣下に深々と礼をして、ユウキの隣まで下がる。
「それで、キズメルよ。報告とは如何なるものですか?」
「はっ。人族の剣士シュバルト達より伝えられた情報ですが、この四層に、我らが仇敵フォールン・エルフの将軍ノルツァーが降りてきています」
「………ほう。それは確かに聞き捨てならない話ですね。あの悪党がどんな悪巧みを?」
「それが、どうやらフォールンは本格的に森エルフと手を組んだようです」
「なるほど……奴らが建造している船の数は解りますか?」
「はい。おそらく10人乗りの船を最低でも10隻造るかと」
僕はテリーからもらった情報を間違えることなく伝える。
そこからは秘鍵をどうするかや、水上戦の編成をどうするかなど決めていく。
「あの、城主様。秘鍵が集まると、どうなるんですか?」
「ユウキ、それは……」
「よい、キズメル。それは私が説明します。と言っても私も詳しいことはわかっていません。それこそ知っているのは我らが女王陛下お一人……いや、ことによれば陛下でさえ知らないのかもしれません」
「ヨフィリス閣下それは……」
「すまない、失言でした。人族の剣士や、私が教えられるのはこれだけです。我らリュースラの民が教えられているのは六つ揃うことで壊滅的な破局が訪れると言うこと。逆にカレス・オーの民は、異なる伝承で解釈しており、聖堂を開けば、アインクラッドの全ての層が全て大地に帰還し、失われた魔法を取り戻すことができる…と」
「えっ……!」
そんなことができるのか…?
そんな疑問が僕の頭をよぎる。
もし、カーディナルシステムがそれを良しとするのであれば、アインクラッドが地に落ちるだろう。
100層をクリアしたこの鋼鉄の城はその後どうなるのか。それを考えた時、僕は一つの仮説に至った。
アインクラッド攻略は言わばグランドクエストだ。そのクエストをクリアしたこの城は不要なものとして廃棄される。その破壊がクリア報酬の一つとして設定されているのなら、破壊も可能なのだろうと。
あまりにも突拍子もない話だが、
僕の考えの遥か先にいるような人だ。こんなことを考えていてもおかしくはない。どうしてこんなことをしたのかわからない人だから。
「シュバルト?」
「すいません大丈夫です」
「そうですか。では明日、其方達はキズメルに同行し、秘鍵の回収を依頼します」
「承りました」
そう言って話が終わったのか、キズメルは一度礼をして外へ出る。
僕らもそれに倣って一礼してから部屋を出た。
「ふぅ……なんかすごい緊張したね……」
「無理もない、城主閣下は黒エルフの中でも長く生きられている方々のお一人なのだ。実際、私も少し緊張していたよ」
「そっか……さてと明日から忙しくなるね」
「そうだな……」
「そういえばなんであんな立派な城主様がいるのにここの雰囲気は緩んでいるの?」
「うむ……それについては理由があってな……閣下は、とある難しい病を患っておられる。そのため、明るい光の下にお出でになることができぬのだ。もう長いことお部屋に閉じこもりっぱなしで、殆どの兵士は、お顔すら拝したことがないはずだ……」
「そうなのか……だから次に偉いような神官が、威張ってるのか……」
「耳が痛いがそう言うことだな……」
話しているうちに自室の前に着く。
「また明日だ2人とも、明日の朝、秘鍵回収の任務だ。夜更かしだけはするなよ、特にシュバルト、お前はな」
釘を刺されたしまった。
「あはは……部屋から出ないようにはするさ。おやすみキズメル」
「ああ、おやすみ」
「キズメル、おやすみ」
「おやすみ、ユウキ」
僕達は既に部屋で待機しているメンバーに今後のことを伝えて、眠ることとなった。