馬魚と大事な日
シュバルトside
キズメルとヨフィリス子爵がボス攻略に参加すると言う、あまりにも異例すぎる事態に、僕達は驚きのあまり、軽く放心ししていた。
「と、とりあえずディアベルに連絡しないと」
僕は一度この湖の外へ出て、メッセージを送る。
「『強力な助っ人2人連れて行くから待ってて』」
『そうなのか。それは頼もしいな』
「『今はまだ最寄りの村にいるの?』」
『ああ。シュバルト達を待つからな』
「『了解。すぐに向かうよ』」
『わかった。今いる攻略レイドに伝える』
「『そしたら合流は迷宮区前でいいかな?』」
『そうだな。そこで落ち合おう』
ディアベルとのやり取りを終えた僕は、ユウキ達に出発の旨を伝え、黒エルフの10人乗りの船を借りて、迷宮区に向かった。
お付きの船頭は僕らが漕ぐよりも早く、あっという間に迷宮区まで着いてしまった。
「シュバルト! 早いな」
「ディアベル。黒エルフの船頭さんの腕が良かったからね」
「それで、助っ人さんは……」
「後ろの黒エルフの2人だよ」
ディアベルに紹介すると、目を思い切り見開いたが、すぐに表情を戻し2人の元へ向かう。
「シュバルトの友人のディアベルだ。今日はよろしくお願いします」
「私はレーシュレン・ゼド・ヨフィリス。シュバルト達に恩を返す為にここは馳せ参じた」
2人が握手を交わす。
彼が僕に向き直る。
「それで、今回のフロアボスの情報は」
「えっと、そこにいるヨフィリス子爵から聞いたんだけど。海を作るような能力持ってるみたいなんだ」
「なるほど……しかし、迷宮区に船は運ぶことはできないしな……」
「偵察は済んでるんだっけ?」
「ああ。だからそのままレイドを組んで攻略しようって話になったんだ」
「フロアボスの部屋とか部屋の前ってどうなってた?」
ディアベルによると、ボスフロアは、青い部屋で、通路のような造りになっており、その奥にフロアボスが鎮座していたようだ。そしてボスフロアの扉のある場所には、鉄格子があり、その後ろには川が流れている。
「なるほど……なら定期的に排水しながら戦う感じだね」
「誰か外に残ってもらう必要があるのか」
「ならその役目はオレっちに任せナ」
「アルゴ…!? 聞いてたんだと言うかいたんだ」
「酷いナシュバルト。ユーちゃんと連絡をしてたんだからいるに決まってるダロ」
そう言えばユウキがアルゴと連絡してたな。忘れていた。
「ごめん。それで、排水の役は任せていいの?」
「ああ。そっちの方がボスに戦力を1人でも回せるダロ」
「なら、お願い」
そう言うわけで、フロアボス攻略の作戦は、3組のチームが入れ替わりながら戦い、残りの2チームが遊撃という、普段通りの組み分けになった。
僕は念の為、とある人物に連絡を取り、援護に来てもらうようメッセージを飛ばした。
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「よし、それじゃあフロアボス攻略を始める。今回のボスはフロアに影響を与えてくる初めての特殊能力持ちのボスだ。無理だと思ったらすぐに撤退する」
「それで、今回、外に情報屋のアルゴさんが控えて、ボスがフロアを水で満たした時に、排水するよう頼んでいる」
「ちゅーわけやから、フロアが水で一杯になっても慌てず、近くのやつと一緒に固まって流されんよう、壁際によってしがみつくんやで」
FWKのリーダーとサブリーダーの3人がフロアボス前の情報確認とその対処法を説明する。
「他に質問はあるか?」
誰も質問することはないようだ。
「今回は龍歴院の人達が助っ人を連れてきてくれた。だからと言ってその2人に頼り切りにならないよう、俺達攻略組も負けずに頑張るぞ!」
「「「「おう!!」」」」
ディアベルが扉を開く。
「行くぞー!」
攻略組は勇ましい雄叫びを上げて、第四層フロアボス《ウィスゲー・ザ・ヒッポカンプ》へと突撃する。
すると、ヨフィリス子爵が、腰の細剣を抜き、縦に構える。
「我が名はレーシュレン・ゼド・ヨフィリス! 盟友シュバルト達の為に我が剣を守護獣に振るわん!」
そう言うと同時に僕達攻略組にヨフィリス城での戦闘と同じバフが発生する。
まさか今回の戦闘にも発動するとは思わなかったが、これが有ればそう簡単に危険な事にはならないだろう。
「A隊B隊C隊! ボスの側面から攻撃! H隊! メインアタッカーが気を引いている間に弱点部位を探してくれ!」
「了解!」
僕達はH隊は遊撃部隊。いろんなところからチクチクと攻撃をする。
キリトが威力もあり、硬直の少ないSSを叩き込む。
「うーん……あまりこっちは弱点部位は見当たらないね……」
「やっぱり頭辺りか?」
「……高い場所に上がられるとキツイな」
前身が馬なのもあり、よく動く上に頭をよく動かす。狙いを定めづらく、仮に弱点部位があったとしても、積極的に狙うのは難しい。
「後ろの魚の部分は、鱗が硬いからか、攻撃の通りも悪いわね……」
「ヨフィリス子爵のバフがあるから、普通よりは通ってるけど、時間がかかりそうね」
アスナの細剣SSも鱗に阻まれて中々大ダメージを与えることができずにいた。
Cアックスの剣撃エネルギーは溜まっているので、やろうと思えば高出力解放切りが使えないことはないが、隙が大きいので難しい。
「なんとか隙が出来たらなあ……」
そう考えているうちにボスのHPが半分を切る。
「ブルルルゥ……!」
ヒッポカンプが唸ると同時にボスの足元から水が発生する。
「波が来るぞ! 全隊壁か柱にしがみつくんだ!」
ディアベルの指示通り、全員が壁際に退避しようと動く。しかし、
「うわぁ!」
走り遅れた十数人が飲み込まれる。
「ユウキ! こっちだ!」
「うん!」
柱に剣を突き立て、流されるのを防ぎ、剣とは反対の手でユウキの手を掴み、こちらに引き寄せる。
「みんなは……」
周りを確認すると、僕達同様にテリー達は柱や壁に張り付いて流されるのを防いでいる。
ミトだけは、ヴァリアブル・シックルの変形機構で柱の上部に登っていた。
スパイダーマンかな?
キズメルも、サーベルを突き立てて壁に止まっていた。しかし、ヨフィリス子爵だけは水面を走ってボスへと切り掛かる。
嘘ぉ……エルフのトップ層だけが使える不思議なまじないか何か?
その後を追うように、キズメルが壁を走り、柱から柱へと、柱の装飾を足場にしながらボスへとSSを喰らわせる。
忍者ですかキズメルは……
そんなことを考えてる場合ではない。早くこの水を排水してもらわないと。
「アルゴ! スノーベル!」
僕は扉の向こうにいる2人に呼びかける。
「ホイ来タ!」
「はいはい…!」
声かけが聞こえたのか、ボス部屋の扉が開かれる。
「うわぁぁぁあ!」
「流されっ! ズボボボボッ! ボァッ!」
「タスケテッ!」
「ア゛ッヅァダズゲデズボロボロッ!」
なんか変な声が聞こえたが気のせいだろう。
「良し行くぞ!」
「「「おう!」」」
水が引いたのと同時に駆け出す。
「やァァァア!」
ユウキがシャープネイルで先制攻撃を仕掛ける。
「ここっ!」
フィリアが中段突き、回転斜め斬り下ろし、回転水平斬りの三連撃短剣SS《スロートステップ》で前脚を攻撃する。
「テリー!
「おう!」
僕とテリーが同時に2種類のSSを発動する。
僕の斬撃の後にテリーの斬撃が交差するように刻まれる。それを4回繰り返す。
β時代に編み出した僕とテリーの連携、ホリゾンタル・スクエアとバーチカル・スクエアを重ねた攻撃。僕らはこれをソリッド・スクエアと呼んでいる。
「ヒヒィーーン!」
4人のSSを食らったヒッポカンプは距離を取るように走る。
この狭い空間でデカい図体で走れば身体がどこかにぶつかるのは必然で、柱を何本か破壊していく。
「すまん押し流されてもうた!」
「おまけに塊みたいになっちまったから立て直すのに時間がかかった!」
そう言ってキバオウとリンドが走る。
がしかし。
「ヒヒィーーン!」
再び水が発生し、津波を作り出す。
「なんでやぁーーー!」
「またかよーーー!」
そして再び流されてしまうFWKのサブリーダー達。
哀れなり。
「フン、情け無い奴らだ」
「やはり我々こそが真の攻略集団ですよ」
ドライアとカーロスが津波に飲まれることなく、突っ込む。
「はぁっ!」
「せやっ!」
両手剣を持つドライアが上段右袈裟斬り、上段左袈裟斬り二連撃技の《サブサイデンス》、曲刀を持つカーロスが上段斬撃、下段斬撃の剣舞二連撃《ダブルムーン》で攻撃する。
更にJWのメンバーも追撃でSSを叩き込む。
「そこっ!」
柱の上部に登っていたミトが鎌を回した後、身体の左側に垂直に構えた準備動作から下段薙ぎ払い、上段薙ぎ払い、中段斬り飛ばしの三連攻撃、両手鎌SS《プロフェシー》を頭に命中させる。
もろに食らったヒッポカンプは大きく怯み、フラフラし始める。
「今なら行けるかも」
僕はその隙を見逃さず、剣を盾の裏側から刺し、変形させて両手斧にする。そのまま走り、高出力解放斬りをぶちかます。
「おっし…! キリト! アスナ! トドメよろしく!」
「ああ!」
「任せて!」
キリトとアスナが駆け出し、同時にSSを叩き込み、ヒッポカンプのHPをゼロにする。
「……討伐完了だ!」
ディアベルの宣言に続くよう、プレイヤー達の勝利の雄叫びが響く。
「ふう……」
「見事な連携だな」
「ええ、更に成長すれば、このアインクラッドも踏破できるでしょう」
黒エルフのお2人からお褒めの言葉をいただいた。
「2人もすごかったよ…。忍者みたいで……」
「人族の忍びはこのようなことができるのか……」
「それは興味深いですね」
「……今はもう見かけないけどね。本に載っているくらいしか知らないから」
そんなこんなで第四層のフロアボス討伐は、無事に完了したのだった。
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ユウキside
「第四層攻略おつかれ様!」
「「「「「お疲れ様!」」」」」
「……お疲れ様」
第四層のフロアボスを倒したボク達は、主街区《カルルイン》の食堂広場で夜ご飯兼、攻略おめでとうパーティを開いていた。
なぜかアスナだけちょっと機嫌が悪いみたいだけど。
「いやー、今回も犠牲0で攻略出来たナ」
「流石に水が発生するようになるのは不味かったけど、間に合ってよかったよ……アルゴ、スノーベルはどうしたの?」
「ああ、アイツなラ『仕事が終わったんなら、俺は帰る。残業はしたくない』っテ。そそくさと帰っちまったヨ」
「そっか……お礼したかったのにな」
そう言ってシュバルトは少し寂しそうな顔をする。
そう言えばボクはスノーベルという人のことを知らない。シュバルトとは同い年らしいけど。
「ぷはぁ……お姉さんお代わリ!」
新しいドリンクを注文するアルゴ。とても良い飲みっぷりだ。
「アルゴもボス戦手伝ってくれてありがとね」
「水没する情報を伝え損ねたからナ。それくらいのアフターサービスはするサ」
「それはタダですか?」
「いや? ギャラは別途請求だヨ」
「うへぇ……まいっか、手伝うよ情報収集」
「助かるヨ」
そう言って、2人はお肉やらポテトを食べ終えると、席を離れてフィールドの方へ向かっていった。
「それで……アスナさんや、なんでそんな不機嫌なんですか?」
流石にキリトが気になってしまったのか、アスナに聞いてしまった。
「最後のSS同時だった……」
「え?」
「最後のSS同時に当たったのに、キリトくんだけLAB持って行くの!?」
「え、えっと……俺の方が先に当たったからじゃないかなぁ……と」
キリトがしどろもどろになりながら答えるもののアスナは納得がいかないようで、ほっぺを膨らませながら言う。
「いいえ、同時でした!」
「でもシステムがそう認めてるんだから……お前らも説明してくれよ」
助け船を求めるのだが、
「犬も食わない物に関わりたくない。フィリア、そっちのローストチキン取ってくれるか?」
「これ? はい」
残念ながら助け船は出航しなかった。
「しかしハイペースだな攻略」
「確かに……」
「ディアベルが先頭に立っているのもあるが、ドライアのアホが対抗心剥き出しで競争みたいなことになってるからな……」
アホて……まぁボクもその人は好きじゃないけどさ。
と言うか何かを忘れているような……
「……ああー!」
「突然どうしたのユウキ!?」
いきなり叫んだことに隣に座っているミトが驚いてしまった。
「ごめん。でも忘れてた事を思い出しちゃって」
「何を思い出したのよ……」
「テリー、フィリア。ボク達すっかり忘れてたよ」
「え? あ……」
「そうだった……」
そう
「「「シュバルトの誕生日!」」」
司令塔役にディアベル置けるのホント楽。
やっぱ死ぬには惜しすぎるぜディアベル。
実は誕生日だった男シュバルト君。
なんでこんなことになったのかって?
どうせ忘れてたか、誕生日より優先すべき攻略があるからとかそんな理由でしょう。
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