そして出すか出さまいか悩んでいましたが……結果彼女を出すことにしました。
デスゲームが始まってあれから2週間が経過していた。その2週間、シュバルトは一度たりともユウキ達と会うことなく第一層の情報を集めていた。その際に知り合った同じβテスターのアルゴという金髪の少女と知り合った。彼女も攻略本を作ろうとしていた様で、目的が一致していることから、協力関係になっていた。
「ヨッ、こんな夜更けまでお疲れ様だナ」
「それはこっちのセリフだよ。攻略本の出来はどう?」
「それなら、問題ないゾ。完成しタ」
「そっか。製作費用は?」
シュバルトがコルのトレード画面を開き、金額を入力しようとすると、アルゴは手を出して拒否した。
「流石にここまで情報を集めてもらって更に代金を貰うなんてできないヨ。こっちとしては逆に払いたいくらいダ」
そう言ってコルの受け渡しを拒否する。
「そう……なら今の本の内容確認していい?」
「もちろんダ」
彼女の手から本を受け取る。
革素材を使った表紙をめくり、内容を一ページ、一ページ確認していく。
1時間で全てのページに目を通し終える。
「うん。大丈夫だ。これなら並べて問題ないよ」
「今から、商店に並べてくるヨ。シュバルトは休んでてクレ」
「いや、そういう訳にも行かないさ。まだ足りない情報がある筈。だからまた出かけるよ」
「なぁ、お前が最後に休んでたのいつでどのくらいダ?」
「さてね……チマチマ休憩とってるから正確なのはわからないよ」
「それって全然休んでないじゃないカ!」
この2週間、彼女はシュバルトが休んでいる姿を確認していない。このままではブラック企業の社畜もびっくりの連勤だ。
「これくらい日常茶飯事だよ。リアルでもこんなことあったし」
「リアルでモンスターと戦うことなんてないダロ」
「それもそうか」
「イイから今日は休むコト!宿にコルは支払ってルから活用しろヨ。そのまま無茶して死なれたら、オイラとしても目覚めが悪イ」
ずいっと人差し指を押し付けながら休みを取るように言う。シュバルトも強く出れなくなったのか、タジタジだ。
「うっ……わかったよ。しばらくここで休む」
「よろシイ。それじゃあオレっちは並べてくるかラ」
アルゴは宿屋を出るのを見送ったシュバルトはベッドの上に転がる。
「ふぅ〜……ボス攻略会議は……まだ先かな?情報収集する際に迷宮区でキバオウさんが混ざってるパーティの一団が見えたけど……」
天井に向けて手を掲げる。
2週間も経てば、
「馬鹿か……この程度で許される筈がない……」
ボスンと腕を顔に落とす。それにより視界が黒く埋まり目を瞑るような状態になる。そうなると当然、今までに溜に溜めた睡魔が襲いかかってくる。
「不味い……このままだと寝そうだ……」
シュバルトは眠るまいとベッドから起き上がり、ストレージ画面を開き、アイテムの整理を始める。
他のプレイヤーがこれを見たらまず目に止まるのはアニールブレード+8が3本並んでいる所だろう。
クエスト報酬でもらえる剣なのだが、メンテナンスを怠らなければ三層までは武器を変えずとも進むことが出るスペックを持っている。
武器強化の賭けにも3本分勝ったので、仮に折られたとしても戦線復帰は容易い。
「戻ったゾ。ちゃんと休んでたんだろうナ」
「もちろんだよ……流石に信用無さすぎない?」
「自分の胸に手を当てて考えて見るんだナ」
「さて?……ねぇアルゴ……今日までで何人のプレイヤーが死んだ?」
「800人ダヨ。そのうちの100人がβテスターダ。多いんだカ少ないんだカ、わからないケド」
「少ないかな。呼びかけなかったらもっと多い筈」
シュバルトの声かけがなければ今時点で1500人は越えていたと予想していた。
「そうカ……明日どうするんダ?」
「とりあえずレベル上げはここまでにするよ」
「なんでダ?」
「第二層のエクストラスキル取るのにレベル上げすぎるとクリアしにくくなるんだよ」
「ン?あそこのスキルにレベルなんて関係あるのカ?」
「体術じゃないよ?」
「…それオイラに言ってよかったのカ?」
「……言っちゃ不味かったか。ごめん今のなし」
「海軍中将?」
「僕は拳骨なんてしないけど?」
砲弾を投げつけるような化け物ではない。
「……そうダ。ちょっと新しい助っ人候補を連れて来たンダ」
「新しい助っ人候補?」
「ああ。いつまでもオレっち達だけじゃキツイだロ?だから良さげなプレイヤーを一人連れてきたんダ。入ってクレ」
アルゴがそう言って、扉の奥にいるであろう人物を呼ぶ。呼ばれた人がゆっくりと入ってきた。
「………」
薄紫のロングヘアをポニーテールで結んだ赤目の女性プレイヤーだった。
「アルゴ……彼女は?」
「ふらふらと街を歩いていたんだヨ。それで色々と話をして連れてきタ」
「大丈夫なの? 精神的に不味そうだけど……」
「本人は協力したいとは言ってたゾ」
「そっか……えっと…君の名前を聞いても良いかな?」
シュバルトが聞くと、彼女はボソリと答えた。
「ミト……」
「……ミトさんね。僕はシュバルト、そっちの金髪から話は聞いてると思うけど、僕らは今、ニュービーに攻略本を作っているんだ」
「……」
「コレからも情報を纏めて本にするんだけど……君はどうする?」
その言葉に彼女は答えることはなかった。
「……返事くらいは欲しいなー」
「少し話を聞いてもらってもいい……?」
「…どうぞ」
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「なるほどね……リアルでも友人の仲間を見捨ててしまった…と」
「最初は見捨てるつもりもなかった……! でも、彼女のHPが無くなるのが怖くて…! 見てられなくて…」
「それでパーティを解散したと」
「私……もう、わからない……もし、ううん。死んだ彼女に何を言われるかわからない……自分がどうしたら良いのかもわからないよ…!」
泣きながらミトは語った。
友達を見捨てた後悔、自分自身が恐れていることにシュバルトは少しだけ、共感していた。
「……僕は……僕もね……幼馴染同然に育った子を置いてった」
「……?」
「それだけじゃない。他にも仲のいい友達2人も置いて行った。このゲームに誘ったのも僕さ」
シュバルトも自身の経緯を語る。
彼女に共感してしまったからだろうか。
「コレから話す事は他言無用でお願い」
ミト、その後ろにいるアルゴも無言で頷く。
「このデスゲームを作ったのは茅場晶彦だ。僕もこのゲームを作るのを手伝ったんだ。まぁこんなことになるなんて聞いてないけど」
「貴方はこのゲームの制作に関わったのね……」
「妙に詳しいと思ったらそういうことだったのカ」
「……まぁ全部じゃないけどね。味覚エンジンとか、ソードスキルのデザインは僕が担当したんだ。おっと、話が逸れたね。……デスゲームが始まった時に、その幼馴染に嫌われちゃってね」
「っ……でも、貴方は知らなかったんでしょ!?」
「確かにね。でも、彼女にとっては僕は茅場晶彦と同類と思われてるからね……」
「……そうなのね」
「一つ言っておくけど、僕は彼女のことを恨んでなんかいない。デスゲームの世界になってこうやってすぐに戦える人なんてそう多くない。恐怖で錯乱する方が当たり前だ」
「…そうね」
ミトは一人の少女を思い浮かべる。
「だからまぁ、僕はこうやって攻略本作りを始めたわけなんだ」
ミトが彼の顔を見る。その瞳は日本人特有の黒い目なのだが、どこか遠いところを見ているように思えた。何か焦っているかのような、そんな危うさを感じていた。
それでも戦う意志が折れていない。
「……強いのね、貴方」
「強くなんかないよ。責任を放り出してそのことで糾弾されるのが怖いだけさ……」
困ったように眉をひそめ、肩を上げる。
「……私も貴方達の手伝い…させてもらっても良い?」
「…それは構わないよ」
「…私も立ち止まってられないから」
そう言ってこちらを見つめる。
その赤い瞳には既に暗い光はなかった。
「それじゃあ決まりダナ!」
「…よろしく、シュバルト」
「…よろしくね、鎌使いの元大男さん」
デスゲーム前の自身の姿を知っている事に目を見開き驚く。
「…! なんで知って……貴方まさかあそこにいた3人のうちの1人?」
「もしかしてキリトとテリーの事?」
βテストで10層のボスを倒し、次の層の扉を開けた、あの時の3人組を思い出した。
「あの時の黒い人、キリトって言うんだ…」
「名乗らなかったんだ彼」
こうして3人組による攻略本作りによる活動が始まったのだった。
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「それで今、情報はどこまで集まってるの?」
「そうだねぇ……敵mobの情報は大体揃えてるし……狩場も……」
「もしかして終わってる?」
「迷宮区のMAP埋めくらいかなぁ……」
「なら、行きましょう。善は急げよ」
シュバルトを先頭に迷宮区へと足を進める。
既に踏破した階層はサクサクと進み、未踏破の層へと辿り着く。
「βとはあまり変わってないな……」
「そうね……流石の茅場晶彦もそこまで鬼じゃないってこと…?」
「そうだといいんだけどナ…」
彼らはそのまま歩き、コポルドを倒し、MAPを埋めていく。
流石にこの高い塔を上り下りするのは時間もかかる上に、精神的疲労も積み重なっていく。
コレを3日ほど繰り返していた時だった。
「……結構踏破してきたね」
「そろそろ完全踏破目前かな?」
「攻略本に載せるには十分だナ」
「そろそろ降りるか……ん?」
探索を切り上げようとした彼らの目に映ったのは、壁に擬態している隠し扉だった。
「怪しい」
「如何にも過ぎてね……」
「β版にはなかったのカ?」
「第一層の事だからね……記憶が薄い……」
シュバルトとミトの2人もこの扉のことはあったのかどうかわからなかった。
「とりあえず、僕が行ってくる。2人は安全が確認できたら入って」
「わかっタ」
アルゴはそれに応じたが、ミトは違った。
「私も行く」
「……もしトラップだったら」
「……だとしても、2度と同じ後悔はしたくないの」
「わかった、でも僕が逃げろと言ったら逃げてね」
自分を見る目にシュバルトは押し負け、了承してしまった。
石作の扉を開ける。中は真っ暗で手元が薄らとしか見えなかった。
いつ襲われるかわからない上に罠が発動するかわからない為、二人は摺り足で移動する。
「何も……ない?」
「只の空き部屋だったのか?」
何もなかったことに2人は安心し、アルゴを呼びに行く。
「アルゴ、何もなかったよー」
「みたいだナ」
「だから、アルゴも入っても大丈夫だと思う」
「わかっタ」
そう言って彼女も部屋に入ると、扉が突然、しまってしまう。
「んなっ!?」
「誰も何も踏んでないのに!?」
「武器を構えろ!」
3人はそれぞれの主武装を抜き、いつ敵が現れても良いように構える。
部屋が明るくなり、その奥には片手鎌を携えた中ボス相当のサイズの亜人系の敵mob《ディビーイルド・コボルト・ソルジャーチーフ》が現れる。
HPゲージは2本だ。
その両隣には、この迷宮にも出る《コボルト・ヘンチマン》が現れる。
HPゲージは1本と半分と通常より強化されている。
シュバルトは背中のアニールブレードを、ミトはアイアンサイスをアルゴはボーンクローを抜刀する。
「ミト、アルゴの2人は子分をお願い。僕は兵士長を相手する!」
「一人で大丈夫なのカ!?」
「言ったでしょ?SSは僕がデザインした! 対処はなんとかなるから!」
シュバルトはソルジャーチーフに向かって駆け出し、剣を振り兵士長の片手鎌と撃ち合う。
「オイラ達は早くコイツらを倒して援護に行くゾ!」
「ええ!」
2人も子分コボルトと戦闘を始める。
「アルゴ! スイッチ!」
「任せロ!」
ミトの大鎌で子分の鎌を弾き上げ、ガラ空きになったところをアルゴのクローのソードスキル、《ソマリ》でダメージを与えるという、基本連携で攻める。
やはり中ボスのお供だからか、そこら辺にいる奴らより体力が多く、防御力も高い。
それを2人で相手にするのが一体なら問題なかったが、2体ともなると、少し苦戦しそうだ。
一方のシュバルトは兵士長の攻撃を連続パリィしながら的確な反撃を入れている。
袈裟斬りに鎌を振る。片手鎌、単発SS《アイビス》に対してシュバルトは紙一重を見切って横一文字にライトエフェクトをまとった剣を振るう。
片手剣、単発SS《ホリゾンタル》。
初期のSSはちょっとだけ強い通常攻撃のような物だ。だが最初の頃はそのちょっとが命運を分ける。
「ふう……まだ応用には至ってないから、1人でもなんとか捌けるね…」
兵士長が距離を取ろうと後ろへ跳躍する。
「ダイバーかバザードのどっちか使う気か!」
シュバルトは行動を読み取り、追いかける。
「せぇい!」
《レイジスパイク》を使い距離を詰めてダメージを与える。
「……コレで1本目の4分の1。この調子で行こう」
兵士長の通常攻撃をかわし、受け流しながら、確実に反撃を入れ、尚且つSSをクリーンヒットさせて、十数分が経過する頃にはゲージ1本を削り切った。
「シュバルト!」
「子分の方はもう片付けタ!」
「了解!こっちも半分削った! パターン変わるから、様子見!」
兵士長は木の盾と石鎌をこちらに投げつける。
ミトは鎌で逸らして、アルゴとシュバルトは飛んでかわす。
「武器変え……盾を外したってことは両手持ち系の武器?」
ミトがそう予想する。その予想は当たりのようで、そり返りが大きい剣、曲刀だった。
「曲刀…!」
兵士長は曲刀を後ろに構えながらこちらへ突進してくる。
「リーパーか…!」
中段の突進SSと判断したシュバルトは自身も同じ突進系SS、《レイジスパイク》でパリィする。
「スイッチ!」
後ろにいる2人がSSで切りかかる。
クロー突進SS《シムリック》、両手鎌突進SS《トーメント》が無防備な兵士長の胴体にクリーンヒットし、HPゲージを大きく削る。
「ナイス!」
そう言いつつ、体勢を立て直し、3回ほど切り付ける。現状では未修得のSS《サベージ・フルクラム》だ。
ミトも身体が覚えているのか、慣れた動きでアイアンサイスを振り回す。
両手鎌系SS《プロフェシー》。こちらも3連撃だ。
2人の未修得SSにより、兵士長のHPゲージがレッドゾーンへ突入する。
身の危険を覚えた兵士長が狂行状態へと移行し、暴れ始める。
「2人とも離れて!」
狂行状態だと攻撃力がアップする為、軽装備の二人がモロに喰らえばレッドゾーンまで一撃で減らされてしまうだろう。
そして曲刀がライトエフェクトに包まれる。
「っ! ダルード・ルーネイトか!」
曲刀SS《ダルード・ルーネイト》。左斬り上げ、右斬り払い、左斬り払い、右斬り上げによる広範囲4連撃。
「ミト! 2連SSでパリィしてくれ!僕もバーチカル・アークでパリィする!」
「了解!」
両手鎌SS《マーター》で最初の2発を弾き、そのままの勢いで後ろへ下がり、シュバルトとスイッチ、そして宣言通り片手剣SS《バーチカル・アーク》で残りの2発を弾く。
そして再びガラ空きになった身体をアルゴがクローSS《バーミラ》で追撃する。
「コレでどうダ!」
アルゴは今の一撃で倒したと思っていたが、ミリ単位でHPゲージが残っていた。
「ならコイツでトドメだ!」
シュバルトが《ソニックリープ》でトドメの一撃を喰らわせ、残っていたHPを0にする。
絶命した兵士長はその巨体を無数のポリゴン片へと姿を変えて砕け散った。
「……戦闘終了……だね。2人ともお疲れ様」
「なんとかなったわね」
「正直オイラはビビったヨ。いきなり閉じ込められて中ボスと戦闘なんだカラ」
「さてと……LABは……と《コボルト・ファー・マント》ほうほう…」
手に入れたLABの性能を確認する。
「打撃属性による被ダメージを軽減、更に火属性の攻撃に対してもダメージカットか……強化試行回数は……10回、その上に高いステータス値……」
「それ強いわね……」
「さてと…その奥にある宝箱も開けようか」
ボスクリア報酬のように置かれている青い宝箱を開ける。
「《シルバーガントレット》……性能は……斬撃属性による被ダメージ軽減、腕装備の割に防御力も高いし強化試行回数も7回あるけど……重くて私には無理そうね。シュバルト、装備する?」
「ならこのマントは2人のどっちか使う?」
「オイラはこのフード付きパーカーあるからいらないゾ、ミーちゃんはどうすル?」
「私もこれあるから要らない。2つとも貴方が装備することになりそうね」
「了解。貰っとくよ」
シュバルトは早速手に入った2つを装備する。焦茶色の毛皮のマントと、銀色に輝くガントレットが出現する。
「中々似合うじゃないカ」
「意外ね」
「そう?」
くるりと一回転する。
「シュバルトってモデルとかやってたの?」
「んー、やってはいないけど、SSのモーションデザインするときのモデルは自分だったね」
「へー。自分が動いてやってたんだ」
「他の人にもやってもらってたけど、自分でやる方がイメージしやすかったし。と言うかそろそろ街に戻ろう?疲れちゃったよ」
「そうだナ、ポーションも切れそうダ」
そうしてシュバルト達は迷宮区を降りて行った。
アルゴにすら心配されるオリ主くん。
これも一重にテメェが責任を取ろうとするからだが。
なんだかミトがヒロインみたいになってますねぇ…メインヒロインはユウキのはずなんですが、当の彼女には嫌われたままだと思っているし。
シュバルト君はアルゴにシュバ坊とは言われません。
坊呼びするには妙に年上の雰囲気が感じられたそうなので。
今回登場したオリジナルボス
ディビーイルド・コボルト・ソルジャーチーフ
作者のガバガバ翻訳。火を捧げるコボルトの兵士長。
そして今回出てきた聞き慣れないソードスキル名はソードスキルwikiから引用してます。