悪魔の実 Sレア   作:もやしモン

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原作4年前
第一話 俺はMr.5。社畜系男子で、趣味は推活だ。


 

「Mr.5……Mr.5ってば!」

 

「……ん?」

 

「そろそろ着くわよ。今回は海賊の殲滅任務なんだから、ちゃんとやる気出しなさいよね」

 

「あ、あぁ……そうだったな」

 

 のろのろと体を起こして部屋を出る。眩しい日差しに目を細める。

 薄暗い部屋にいたせいで目が痛む。そこは、太陽が照りつける船の上だった。

 

 俺は「ふっ」と笑い、遠い目をしながらポツリとつぶやいた。

 

 

 

「……ここ、どこっすか?」

 

 

 

 ───

 

 

 

 

 いやマジで、どこだここ。

 放課後にマガ○ン買おうとしてたはずが、その後の記憶がない。

 それにこの体。何かおかしい。ロングコートにサングラスなんて、俺の趣味じゃねぇ。

 

「いつも通り、ボムボムの実の力で爆破って流れでいいわよね? 」

 

 背後からさっきの美女が背後から声をかけてくる。

 けど、それどころではない俺は、頭の中で考えていたのでぼーっとしているように見えたのだろう。

 彼女が、俺の顔を覗くように前に出て来た。

 

「……ちょっと聞いてるの?」

 

 うおっ、顔近っ! まつげ長っ!

 しかもいい匂い! レモンっぽい女の香り!

 見た目ドンピシャで好みなんですけど!?

 

「……天使か?」

 

「は?」

 

 うわぁぁぁ!! 俺なに言ってんだ!?

 黙られちゃったじゃん!

 

「バカなこと言ってないで、さっさと行くわよ」

 

 あれ? もっと怒られるかと思ったけど、なんかスルーされた。

 ていうか、記憶喪失とか言って信じてもらえるんだろうか……

 

 あ、もう行っちゃった。

 

 

 

 ───

 

 

 彼女と向かったのは、何やら怪しげな林の中。そんなに歩かずに、すぐに目的地にたどり着いたみたいだ。

 それは、古屋だ。この古屋を隠すために林があるかのような、明らかに怪しい場所。すると、1人の男が、俺たちに気がついたのか、手に斧を持ちながら、近づいてくる。

 

「おい!! テメェら!! そこで何してやがる!!」

 

 うわ、すげぇ怖い顔、ヤクザか何かか? あんな顔、漫画以外で見ねぇんだが。隣の美女はまったく動じてないけど、知り合いなのかな?

 

「おいおい、上玉の姉ちゃんじゃねぇか」

 

「キャハハハ。ねぇ? Mr.8、女の子口説いてる場合?」

 

「な、なぜそれをっ!? お前ら、何者だ!」

 

「ミス・バレンタイン」

 

 ビシッとキメ顔で名乗る彼女。コードネームっぽいな。

 え、つつかれてる……あ、俺も言えってことか。

 

「……Mr.5」

 

「オ、オフィサーエージェントだと!? なぜお前らがここに……!」

 

「Mr.8、あなた、我が社の情報を賞金稼ぎに流してるわよね? まさか、そんな愚か者がいたなんて、驚き。ボスから抹殺命令が出たわ」

 

 なるほど、こいつが裏切り者で、俺たちは始末係……って、ちょっと待て! 俺いつの間にか裏社会の人間になってんのか!?

 俺はただの高校生だぞ!? ケンカすらまともにしたことねぇのに!!

 

「ちっ! こんなとこで、やられてたまるか!!」

 

 でけぇ剣出てきた!? あんなの漫画でしか見ねぇぞ!? ギャグか!?

 

「やっちゃって、Mr.5」

 

「え?」

 

 俺!?

 

「死ねやぁぁあ!!」

 

 剣が首に……あ、死んだわ。

 

 

 

 

 

 

 ───

 

 

 

 

 

「……Mr.5、Mr.5!!」

 

 名前を呼ばれる声が聞こえる。ということは、生きている?

 

「う、うぅ……な、何が……」

 

「ちょっと、あんた何してんのよ」

 

 彼女の背後には、さっきの男が黒焦げで転がっていた。周囲にも倒れた連中が数人。苦悶の表情で床に埋まっている。俺はその光景を見て──

 

「うっ……」

 

「え?」

 

「オロロロロロ!!」

 

 めちゃくちゃ吐いた。どっかのバラエティ番組だったら効果音と虹がついてるくらいの綺麗な奴。

 

「きゃああああ!! 汚い!!」

 

「ぎゃん!?」

 

 吐いてる最中に殴られるとか予想外。父さんにもぶたれたことないのに!!

 ……いや、あったわ。野球部でレギュラー取れなかった時、「気合が足りん!」って殴られた。熱血バカ親父だったわ。

 

「もう、しっかりしてよ! 今日のあんた、なんか変よ?」

 

「す、すまん……体調が悪いみたいで……」

 

「そんなことで任務失敗したら、私まで消されるのよ!」

 

「け、消される……?」

 

「当たり前でしょ。さっきのMr.8みたいになんて、まっぴらよ」

 

 その言い方、リアルすぎるんよ……ブラック企業どころの話じゃねぇだろ。

 

 

 ───

 

 

 その後、無事任務を終え、彼女は自分の部屋に戻り、俺も“自分の部屋っぽい場所”へ。色々あったけど、ようやく落ち着けそうだ。

 

 まず、状況を整理しよう。どうやら俺は“Mr.5”って男の体に乗り移ってる。さっきの美女は“ミス・バレンタイン”。

 バロックワークスって組織の一員で、殺しも盗みもOK。ただし、失敗や裏切りは即処刑。

 

 ふざけんなっての。

 

 逃げようにも、この力なしじゃ絶対に生き残れない。

 爆発の力、ボムボムの実って言ってたっけ? よくわかんねぇけど、頼れるのはそれだけだ。

 

 でも、どうやって爆発すんだ?

 

 マニュアルとかねぇの? 能力者ハンドブックとか。こっちは完全初心者なんですけど!

 

 ないなら考えるしかないけど、触れたら爆発するのか? ならこの船、もう吹っ飛んでるはずだろ?

 でもさっき、首を斬られそうになった瞬間だけ爆発した。……つまり、素肌で触れた部分が爆発ってことか?

 

 不便すぎるだろ。

 

 だから全身覆った服を着てるのか。手袋まで。

 ってことは、今靴を脱いだら……?

 

「まっさか〜…そんなことnぶえっ!?」

 

 足元が爆発し、勢いで天井に頭ぶつけて、そのまま突き抜けた。

 

「え?」

 

「あ……」

 

 ちょうど着替え中だったミス・バレンタインが、上半身裸のままこちらを見上げる。顔が真っ赤になり、目に涙を浮かべたかと思うと──

 

「ご、ごめんな「き、きゃあああああ!!!!」ざくれろ!?」

 

 謝る暇もなく、脳天に踵落としを喰らい、自室に落下。でっかいたんこぶができた。

 着替え中だったとは…ほんと、ごめんね。

 

 

 ──翌日──

 

 

 また殺し合いになるなんて恐ろしいのはごめんだ。

 生き残るために、俺は鍛錬をすることにした。さすがに部屋の中だと危ないので、船の甲板の上で。

 

 ──まずは正拳突きか? 殴るなんてしたことがないから、合っているかもわからないが……

 

「ふん!」

 

 ──お? なんかしっくりくるな。これはこの身体の元々のフィジカルなのだろうか?

 でも、これなら素人の俺でもなんとかなるかもしれない。

 

「そうだ! 爆発で正拳突きの速度を上げられるんじゃないか!?」

 

 ──えーっと、とりあえずさっき足の裏を爆発させたみたいに、拳を突き出すタイミングで肘を爆発させれば──

 

「せい! ……ん?」

 

 ゴキッという鈍い音とともに、俺の右腕がぷらーんと垂れ下がる。

 肘を爆発させることには成功したが、勢いが強すぎて肩が外れたようだ。

 

いでぇぇぇぇぇ!!!!

 

 地獄の苦痛が走り、悶絶。のたうち回り、涙と鼻水で床がベチャる。

 そこへ、運悪くタイミングよくやってきたのが──

 

「何の音!? ……へ?」

 

 当然ミス・バレンタインだ。だが、タイミングが大変悪い。

 

 何故か?

 

 先ほど、爆発の威力を見誤ったようで、吹き飛んだのは袖だけでなく、ズボンも、上着も、ブーツも、ベルトも、跡形もない。

 

 俺の装備はハート柄トランクス1枚。

 

 絶賛、初期アバター(全裸一歩手前)状態だ。

 

きゃぁぁぁ!!!

 

「ごっぐぅ!?」

 

 そりゃ顔ぶん殴られるわ。

 

 

 

 ────

 

 

 

「いでで……」

 

「我慢して」

 

 服を着直し、痛みに耐えて土下座したお陰でなんとか彼女に治療してもらうことに。

 といっても、脱臼なんて、野球部にいた頃のありふれたことだったし、治し方は知っている。体を脱力し、奥へと押し込めば……

 

「お……ハマった」

 

 外れた肩がうまくハマり、痛みが少しやわらいだ。本当は病院に行った方がいいんだが、あいにくここは海の上。自然治癒に頼るしかない。

 

「……ねぇ、あんたって露出狂なの?」

 

「すっごい誤解されてらっしゃる!?」

 

 唇をきゅっと結び、冷ややかな視線を送っていた。『我々の業界ではご褒美です!』 なんて言えねぇくらいには、心に突き刺さるよその視線。

 

「俺はただ能力の勉強をしていただけで」

 

「へえ。じゃあそのパンツは?」

 

「選んだ俺のセンスはちょっと反省する!!でも違うんだよ!!たまたま洗濯してた残りがこれしかなかったんだってば!!」

 

「今後は、常に着替えを持っておくことね。露出爆弾男」

 

「その異名、ぜってぇ公式にしないで!! やめて!? 俺の尊厳が!!」

 

 黄金比の土下座で、なんとか話を聞いてくれることにしてくれたようで、甲板にあるビーチパラソルに腰をかけ、話し変えてくれた。どうやら怒りよりも呆れが勝ったらしい。

 

「そもそも鍛える必要なんてあるの? ボスだって、私たちの実力を見て任務を与えるんだし、強くなる必要なんてないと思うけど。

 まあ、Mr.1になりたいって言うなら別だけど。私は嫌よ? 絶対大変だし、今の地位で十分よ」

 

 上の階級があるのか。多分、Mr.1がトップで、俺は上から5番目ってところか?

 まあ、上に上がるというより──

 

「いや、どっちかっていうと、守るためだな。強くなるに越したことはないから」

 

「守るね……まぁ、頑張りなさいよ。任務は月1くらいだし、その間は暇だしね……眠いし、お昼寝するわ。あ、ボムボムしないで見張りしっかりしなさいよ!」

 

「ボムボム」

 

 言い方可愛いな、と思った。

 

 

 

 

 ────

 

 

 

「いいぞ、いいぞ上腕二頭筋!」

 

 絶賛、船の上で筋トレ中。今日も筋肉と真剣に向き合っている。

 

 気づいたんだが、この船……ただ立ってるだけでもまあまあしんどい。

 常に揺れてるし、バランス取るのに体幹をゴリゴリに使う。たぶんコレ、ジムのバランスボールと同じ効果あるんじゃないか?

 

 しかも俺、鍛え方が正しいかどうか分かってない。だからモチベーション維持のために──

 

「俺の筋肉が今、喜びに満ちている!!」

 

 自分で自分を褒める。これだ。

 

 腕立て100回、腹筋100回、背筋100回、スクワット100回。これを3セット。

 合間に新聞読んだり、爆発の仕組みの本を読んだり、筋トレを2回目に突入したり──やってることは意外と多い。

 

「仕上がっている、仕上がっているぞ! これを乗り越えた先に──」

 

「……何してんの、あんた」

 

 静かに開いた扉の向こうで、ミス・バレンタインが俺を見ていた。

 

 部屋の中で上裸の男が、雄たけびを上げながらスクワットをしている。

 その姿を冷ややかな目で見てくるミス・バレンタイン。

 『我々の業界ではご褒美です!』なんて、そんな癖はないため、ただただ気まずい。

 

「き、君もやるか?」

 

「やるわけないでしょ、ヘンタイ」

 

「“ヘンタイ”はやめて……けっこう地味に効く……」

 

「バカやってないで、任務よ」

 

「エ?」

 

 

 ────

 

 

 潮風が火薬の匂いと混ざって、妙な刺激を鼻腔(びこう)に運んでくる。

 ここは、偉大なる航路の小さな無名島。地図にも載っていない補給拠点だ。

 

 今回の任務は、密輸海賊団の殲滅。俺たちは、補給港に潜伏しているターゲットを探していた。

 

 前回よりも鍛えた。少しは落ち着いているつもりだ。

 でも、胸の中に張りついた不安だけは、どうしても消えてくれなかった。

 

「……緊張してんの?」

 

 表情から読み取られたのか、ミス・バレンタインが、無表情で俺に聞いてきた。

 

「いやいやいや、してないよ? ぜーんぜん余裕。ほら、心臓の音も……え? めちゃめちゃうるさい」

 

「バカでしょ」

 

「大丈夫。任せて」

 

「……そう。はぐれないでよ?」

 

 彼女の後ろを付いていく。その背中はいつもの彼女よりも大きく、俺の小さな背中をより小さくさせた。

 

 ────

 

 

 木箱の影からそっと覗くと、密輸海賊団が5人、酒を片手に笑っている。

 

「カハハ! 大量大量! 盗みが成功した時の酒ほど、うめぇもんはねぇな!」

 

 5人か。アイツらの誰かがトイレとかに行った時に、不意打ちで速攻で終わってくれたらいいけど。

 

 

 

 

 

 

 ──っと、思ってた時期も俺にもありました。

 

 

 

 

 

ぬぉぉぉぉ!!!

 

「待てやボケェェェ!!!」

「逃げんなごらぁぁぁ!!」

 

 速攻でバレた。今、全力で港の裏路地を逃走中である。

 

 え、ミス・バレンタイン? あの人はもう他の敵片付けてた。

 なぜか俺に怒りのターゲットが集中しただけである。理不尽!!

 わりぃ、ミス・バレンタイン。やっぱ辛いわ!!

 

「ようやく諦めやがったか」

 

 細道の先が行き止まり。壁を背にして、逃げ場がなくなった。

 刀を構えて近づいてくる男に、拳を構える──やるしかない。

 

「うぉおお!!」

 

 イメージ通りに拳を突き出した。相手の顔に当たるかと思った瞬間、突き出した拳が、途中で止まる。

 拳だけじゃ無い。足もその場から動かず、体が石みたいに動かなくなった。

 

「……なんだ、これ…?」

 

 まさか、相手も何か能力を? その謎は、すぐに解決した。

 

「おいおい、なんだお前、ビビってんのか?」

 

 突き出した拳を見てみると震えていた。俺自身が、相手を殴ることに怯えて止めていただけだったのだ。

 その瞬間、左頬に鋭い痛みを感じた。斬られたんだ。

 

「ひっ!」

 

「へへ、仲間の分だ。ただじゃ殺さねぇぞ?」

 

 もうそこからは一方的だった。

 

 顔を腹を殴られ膝をつこうとしたが、無理やり起こされ殴られる。目が腫れ、前が見えなくなってきた。

 一歩、敵が踏み出すたびに、俺の心臓は、膝のあたりまで沈み込んでいくようだった。

 

 視界が狭まる。耳鳴りがする。

 目の前の男が、どれだけ殺意を向けていようと、それでも俺の右手は、わずかに震えたままだった。

 

「……これで終わりだ!!」

 

 刀が振り上げられ、俺は目を閉じた。

 

「1万キロプレス!!」

 

 砂埃を切り分け、真上から敵の頭にヒールを叩き込んだ。

 

「っ……が……ッ!」

 

 斬りかかろうとしていた男は、そのまま地面に埋まり、痙攣して動かなくなる。その男の上には、一緒に買いに行った、黄色の傘を刺した美女がいた。

 

「無事?」

 

「ミス・バレンタインぃぃん!!」

 

 涙で前が見えず、カッコ良すぎる登場に、体の震えが止まらない。地面に這いつくばっている俺に対し、彼女は優しく声をかけてくれた。

 

「なに泣いてんのよあんた。あんな小物、やろうと思えば一発じゃない」

 

「あ、いや…ちが……」

 

 いつも通りおちゃらけたことを言おうと思った。けれど、その言葉は口からは言い訳すら、出てこなかった。

 

「……体、震えてるわよ」

 

 涙はまだ出ている。けれど、これは嬉し涙では無いと、俺は分かっていた。それを自覚したら喉から出てこなかった言葉が、するりと出てきた。

 

「……怖いんだ……誰かを傷つけるのが」

 

 ──ただ触れる。それだけで相手は爆発し、重症を負うだろう。

 

 爆発させる能力。その光景が、その感触が、その焼けた匂いが、たまらず怖かった。

 殺し合いなんて、フィクションでしかなくって、爆発で人が吹き飛ぶなんて、CGかエフェクトの中だけの出来事だった。

 でも今は、目の前にいるその敵が、生きた人間であることが、否応なく胸を締めつける。

 

「こいつにも家族がいるかもしれない。友達だっているだろうし、誰かにとっては……大事な誰かかもしれない」

 

 そう思ったら、戦えなかった。手がどうしても止まってしまう。

 

「そんなことを考えている場合じゃないって、頭のどこかでは理解出来ても、どうしても『正しい』と思い切ることが出来ないんだ…」

 

 下を向き話し出した俺に、彼女は何も言わなかった。

 

 沈黙。それがとてつもなく長く感じる。その時、冷たくなった俺の手に温かみさを感じた。

 ぼやけた視界の焦点を合わせると、彼女は顔をこちらに向け、手を握ってくれていた。

 

「っ!!」

 

 突然のことで俺は目を見開き、言葉が出なかった。自分の心の奥底まで見られているようで、視線を外したくなった。

 けれど、彼女の目が、言葉が、それを許してくれない。

 

「……怖いのは、わかる。私だって、毎回怖いわよ。でも、怖いからって、逃げるだけの女に私はなりたくないの。だから、私はここにいる」

 

「ここにいやがったぞ!!」

 

 敵の増援がぞろぞろと現れた。

 

「私は死にたく無い。だから、戦う」

 

 彼女は刃を迎え撃つように前に出て、走り出した。

 彼女の傘が、鋭い金属音を立てて敵の刃を受けた。刃先は傘をかすめ、彼女の頬に血を滲ませる。その血を見た瞬間、心の奥で何かが弾けた。

 

「ミス・バレンタイン!!」

 

 ──そして、俺は見た。

 

 敵の一人が、回り込んでいるのを。

 

 ミス・バレンタインの視界の外。

 工場の奥から、誰にも気づかれず回り込んだ一人が、バレンタインの背に迫る。

 手には刀。気配を殺したまま、彼女の背へと振り下ろされる刃。

 

 それは、俺の左肩を斜めに裂いた。斬られた痛みが、遅れて、雷のように駆け上がった。

 

「がっ!!」

 

「Mr.5!?」

 

 彼女が振り向いた時には、俺の身体は傾いていた。

 

「ッ、あぶな……かった……!」

 

 良かった、怪我は無い。俺はめちゃめちゃやばい、本当に痛い……けど、()()()()()

 

「何してんのよバカ!! 戦えないなら、せめて逃げなさいよ!!」

 

「逃げない。君がそこにいるから」

 

「え?」

 

 震えながら、それでも構えを取る。彼女の怒声が耳を打つ。それでも、構えを崩さない。目の前の敵を逃さないために。

 

「今なら……やれる。たとえ怖くても……もう、目をそらさねぇ」

 

「カッコつけてんじゃねぇぞ!!」

 

 不思議だった。肩を裂かれたとき、全身が燃え上がるように熱くなった。それは恐怖じゃない。怒りでもない。

 

 ──守りたいって気持ちだった。

 

 そしてその瞬間、俺の中で何かが繋がった。

 力の流れがはっきりと分かり、生きていた。手のひらから熱を帯びて、体全体に広がる。

 

「くらえや!!」

 

 敵が刀を振り下ろしてくる。息を吐き、左手を前に、右手を出来る限り引き、一気に前に突き出す。

 

「ニーライト爆拳(ボンバ)!!!」

 

「ガハッ!?」

 

 懐に飛び込み、刀は空を切った。肘を爆発させ、加速した拳が相手の顔へとめり込む。その瞬間、さらに拳が光だし、接触した頬が爆発し、敵を壁へと叩きつけた。

 

「う、嘘だろ……ボスが一撃で!!」

「あ、アイツも悪魔の実の能力者!?」

「……マジかよ、なんなんだあいつ…!?」

 

 敵の目が見開かれる。それは、恐怖の表情だった。ずっと俺が感じてたものを、今、逆に敵に与えている。

 

 もう、俺にさっきまでの相手に対しての恐怖は消えていた。

 だからこそ、この言葉が言える。

 

 

 

「俺はMr.5。ボムボムの実を食べた全身起爆人間だ」

 

 

 

 

 ────

 

 

 

 無事任務を終えて、船へ帰還し、絶賛俺の治療中。

 

「もう無茶して!!」

 

 敵をすべて倒したあと、ミス・バレンタインが、俺の傷を手当てしてくれていた。止血、消毒、包帯巻きまで、丁寧な仕事をしてくれている。

 

「こんなもん…唾つけときゃ治るよ」

 

 嘘です。超痛いです、死ぬかもしれん。だが、これでも男、心配させるわけにはいかんから、目に涙を浮かべながら耐えております。サングラスかけてて良かった。

 

「バカ言ってないで、大人しく治されてなさい!!」

 

「はい」

 

 消毒が肌に染みるのを耐えていると、真剣な彼女がふと聞いてきた。

 

「……怖くなかったの?」

 

「怖かったよ。めっちゃ怖かった……でも、君が傷つく方がもっと怖かったんだ」

 

 その言葉に彼女の包帯を巻く手が止まった。

 

「……誰かのために痛がるなんて、バカのやることよ」

 

「じゃあ、俺はバカだね。何度でもなるさ。君のためなら」

 

「……はあ。ほんと、どこまでバカなの」

 

 最後の包帯をきつく締めて、胸元を軽く叩かれる。ちょっと、痛い。

 

「でも……ありがとう」

 

「な、なに今の! え? バレンタイン。今“ありがとう”って――」

 

「二度は言わないわよ。次言ったら殴るから」

 

「お口チャック!!」

 

 背中の傷は幸いにも浅く、縫合までは不要とのことだったが、横になるたびに鈍く痛む。

 仰向けには寝られず、うつ伏せで寝るしかない日々。

 

 漫画のキャラってよくこんな状態でバトルとかしてるけど、マジで尊敬する。現実、傷ってめちゃくちゃ痛い。

 

 まぁ、女の子を守れた名誉の勲章だ、男なら誇るべきで、痛みも我慢出来るさ。

 

 ────

 

 いつのまにか眠っていたらしい。というか気絶か。背中の痛みは、相変わらずで、針を刺されているかのようにズキズキと痛む。本当に痛い。

 

 嫌でも縫われた所に意識を向けてしまう。

 最悪なのは寝る時で、寝返りをうとうとしようものなら、すぐに痛みで起きてしまうので、まともに寝られん。

 

 嗚呼、ちょっと滲んだな血が、服にべっとり付いてんじゃn──っ!?

 

「ぎゃぁ!!」

 

 血が爆発した威力で宙へと飛んだ俺は、なすすべもなく激突し、天井を突き破った。

 

「え?」

 

「あ」

 

 ぷらんぷらんと体を揺らす俺と、目の前には何故か電気をつけて起きているミス・バレンタイン。うん、これはあれだ。デジャヴという奴で──

 

「誠に申し訳ご「き、きゃぁぁぁぁ!!!!」ざくれろ!!」

 

 脳天へと振り下ろされた踵落としにより一階へと落下し、ベッドにダイブからの傷がついた背中を強打。

 

いでぇぇぇぇえ!!!!

 

 彼女の悲鳴が俺の悲鳴でかき消された。

 

 

 ────

 

 

 痛みでのたうち回っていると、上から降りてきたミス・バレンタイン。その表情はかな〜〜り悪い。完全に怒っている。

 

「……ヘンタイ」

 

 美女に見下ろされながら、その前で正座させられている俺。いや、不可抗力ではあるのだが、覗きは覗きなので反省しているという誠意を見せなくてはならないのです。

 

「大変ごめんなさい」

「謝る気ないでしょ」

「とてもごめんなさい」

「もういいわよ」

 

 誠意を見せてもダメでした。

 

「もう、いいから。それより、ご飯、食べられそう?」

 

「え? あ……うん」

 

 どうやらご飯を作ってくれていたみたいだ。

 彼女が作ってくれたのは、お粥だった。出汁が効いていて胃に優しい。

 

「体に沁みるよ」

 

「あ、それと、これ……食べられたらでいいから」

 

 差し出されたのは、小さなチョコレートケーキ。

 ちゃんとデコレーションまでされてて、見た目からして本格的だ。

 

「え、手作り……?」

 

「……久しぶりに作ったから、自信ないけど」

 

 一口食べて、目を見開いた。

 

「……う、うまい!!」

 

「ほんと? よ、良かった……」

 

 彼女の顔が、ほんの少しほころぶ。

 

 庇ってから、どうにもミス・バレンタインの様子がおかしい。何処かよそよそしいというか、俺をチラチラ見てきてはいるが、何か言いたげだ。

 

「ね、ねぇ……どうして私を助けたの? 別に私たちは……ビジネスの関係だし、代わりはいるじゃない」

 

「え? 理由?」

 

 そんなこと考えてこともなかった。

 

 彼女が傷つけられるのが嫌だった。

 

 いつも失敗ばかりしている俺なんかに言葉をかけてくれた。 

 

 助けるなんて当たり前だ。

 

 いや、そんなことわかっているだろう。それこそ、任務に失敗して自分もやられるのが嫌だ。というのも立派な理由で、彼女もそう答えられるかもしれないと思っているのだろう。

 

 じゃあ、彼女の真意は……これは試されているのか?

 

 

 

 

 

 俺に下心があるのかどうかということを!!

 

 

 

 

 彼女いない歴=年齢の俺に、女の子に対しての扱いの回答を求められているということか!!

 

 まかせな、アイドルオタクである俺は、この答えの正解を知っている!!

 

「……君が推しだからだ」

 

「お、推し?」

 

「そう。推し」

 

 それは“好き”とは違う。

 ただそばにいてくれるだけで、心が救われる存在。憧れ。癒し。支え。

 

 つまり、下心などなく、善意100%だという事を伝えられるパーフェクトな答えではないか!

 

「……そう、答える気はないってわけね!」

 

 あ、これ選択肢ミスった。見るからに不機嫌。

 

「あ、いや、ちが」

 

「いいわよ、もう! Mr.5のあんぽんたん!!」

 

 そういうと、ドアを勢いよく閉め、出ていってしまった。

 

「……あんぽんたんって言い方、かわいいな」






トレクルのミス・バレンタイン(頼れるヤツ)見て欲しいです。
めちゃ可愛いので
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