──そして翌日。
「さぁビビ!! 新人研修のはじまりだ!」
「ビィオラです!!」
俺は両手を広げ、太陽を背に仁王立ち。港の倉庫街にて、ド派手にポーズを決める。
いつもの
「……それで、なんで、倉庫の掃除をやるんですか?」
「修行はまず掃除から! これは格闘マンガの鉄則だ!」
「そんなの、聞いたことないですよ」
「聞いたことないから面白いんじゃねぇか!」
ミス・オールサンデーから、頼まれた仕事。その準備のために倉庫の掃除をすることになった。ちょうど良いので、ビィオラにも手伝ってもらう。訓練になるらしいからな。
「良いか、ビィオラ。汚れを取ることは、悪を取ることに通じる!」
「え? そうなんですか!?」
「そう! 例えばこの油染み! これは世にはびこる“悪の象徴”だ!」
俺が指を刺した場所には、汚れた空の酒樽が山積みになっていた。
「これ、なんですか? 」
「魚のオイル漬けに使ってた奴。魚の劣化を防ぐから、航海にはいいんだ」
俺の解説に予想よりも興味を示し、「へぇ」っと感心しつつ、ビィオラはたわしで必死にゴシゴシと磨きだした。
「この油汚れって…全然落ちませんね」
「油汚れには、小麦粉を使うと取れるぞ?」
言われるがまま小麦粉を油に擦り付けて、擦るとみるみるうちに汚れが落ちていく。
「え、本当だ!?」
「さぁ、悪を滅ぼすのだ!!」
「はい!!」
「……いや、ただのシミに何をして……はぁ、私も手伝うか」
バレンタインが冷静に一刀両断。
結局、三人で体育館くらいある倉庫を半日かけて掃除を行なった。
──────
「つ、疲れた〜……」
ピカピカになった倉庫の真ん中に、座り込むミス・バレンタインとビィオラ。
「そうですね。でも、綺麗になった場所は見てて気持ち良いです」
「2人ともお疲れ様。ほい、飲み物」
「ありがとう」
「ありがとうございます」
少しの休憩を挟み、2人が飲み終わるのを待ってから俺が立ち上がる。
「それじゃあ、準備運動したし、修行するか」
「半日準備運動だったんですか!?」
倉庫の扉を閉めると、港町のざわめきが遠のいた。中は広く、天井の鉄骨が軋むような音を立てている。
「じゃあ、始めようか」
俺は掌を広げ、小さな火花を散らした。能力で作る“爆発”の前触れだ。
ビビは一瞬、肩を震わせる。だが目を逸らさない。
「安心しろ。これは威嚇でも脅しでもない。ただ、衝撃に慣れてもらうためのものだ」
そう言って、俺は床へ向けて小さな爆風を放つ。空気が一瞬だけ押し出され、埃が舞い上がった。
「きゃっ!」
ビィオラはとっさに体が動かず、尻餅をついてしまう。
「逃げるな。ちゃんと足を止めて、体を沈めるんだ。衝撃を下に流すイメージで」
「は、はい!」
もう一度、今度は横に向けて爆風を流す。吹きつける風に煽られ、ビビはよろめいた。だが左足を踏み出して体を支える。反射的なものだが、体が覚えているのだろう。
「よし、いい反応だ。相手の攻撃は避けられなくても、体の芯を残せば、崩れにくくなる」
「なるほど」
「戦いは常に次の動きを意識すること」
「はい!」
そんな修行の様子を見ていたミス・バレンタインから視線を感じる。凄く何かいいたげだったので、どうしたのかと尋ねると、
「……急に真面目じゃん」
冷静なツッコミが返ってきた。不思議だ、真面目にやっていると何故かツッコミを入れられる。
「良いことだろ?」
「寒暖差で風邪ひくわね」
「何!? 体調が悪いのかミス・バレンタイン!?」
「いや、ただの比喩で「それは大変!! 早くベッドに!!」あんたら、仲良しね!!」
なんやかんや、3人の仲が深まっていった。
────
それからの日々は、朝から倉庫に集まり、港のざわめきが聞こえる中での修行が続いた。
最初は爆発音に怯えてばかりだったビィオラも、三日目には膝を落として構えを崩さず、風圧に耐えられるようになった。汗で濡れた前髪が頬に張りついても、彼女は歯を食いしばって踏みとどまる。
「よし、そのまま! 腰を落とせ、視線を逸らすな!」
「っ……はいっ!」
俺は掌に火花を散らし、小さな爆風を何度も叩きつける。衝撃は床板を震わせ、倉庫の隅で眠っていた野良猫すら逃げ出した。それでもビィオラはもう悲鳴をあげなかった。
「少しは板についてきたじゃない」
ミス・バレンタインが肩を組むように近寄り、水筒を差し出す。
「……ありがとうございます」
ビィオラは額の汗を拭いながら、ほんの少し誇らしげに笑った。
その様子に、俺は心の奥で安堵していた。教えるのは思ったより難しい。自分では簡単にできることも、人に伝えるには言葉や例えを工夫しなければならない。だが彼女は必死に食らいつき、諦めることをしなかった。
──ふむ。ビィオラは格闘技は素人だけど、護身術が出来ると言っていたし、なかなか動けるようだ。飲み込みも早いし。
「それじゃあ、そろそろ任務の準備をするか」
「あ、はい。何処へ行くんですか?」
「ここだよ。そのために掃除したんだから」
「そ、そうだったんですか」
「今回は、ミス・バレンタインが頭上からターゲットを狙ってくれ。俺がサポート。ビィオラは、見張りだ。退出経路を確保してくれ」
「えぇ」
「わ、分かりました」
今回の任務は、取り引き相手の打捕。
取り引き相手として、俺が注意を引き、その相手をミス・バレンタインが頭上から埋めて確保する流れだ。
全員が配置についたとほぼ同時に、扉がギィと音を立てて開いた。
「時間より少し早いな」
その言葉に相手からの返事はなかった。何故なら、その入ってきた男が前のめりに倒れたからだ。
「お、おい!」
背中には、何かに斬られたように赤く染まっており、誰かにやられたのは明らかだった。
その男を踏みつけながら、中から姿を現したのは──背の高い、筋肉の鎧を纏った男。無駄のない体躯に、刃物のような瞳。
「……どちら様で? 掃除のバイトは募集してないけど?」
俺の問いに答えることは無く、攻撃の気配を感じとり、頭を低く下げた。頭上を風を切る音が耳を裂く。
拳。いや、拳というより、鋼鉄の刃を叩きつけられたような一撃。攻撃をする前に避けた俺に対し、相手は目を見開いていた。驚きたいのはこちらも同じだ。
「よく躱した」
「……取り引き相手じゃねぇな、お前。誰だ?」
「お前が知る必要は無い」
「あるわボケ」
──前にもあったぞ、人の話聞かなくて戦闘になった奴。この世界の奴らはどいつもコイツも会話が一方通行なんだよなぁ!!
まぁ、ハックの時と違うのは、コイツからは血の匂いがするってことだが。マジで殺る気だ。
「1万キロプレス!!」
ミス・バレンタインが頭上から高速で落下してくる。そこはちょうど奴の天辺。このまま潰されて終わ──やばい!!
俺は、足元を爆破させ、奴の元へと一気に距離を詰める。ミス・バレンタインが驚いた顔を見せるが、俺は構わず彼女の体へとぶつかる。
彼女の体は想定よりも軽くなっており、簡単に距離を取ることに成功した。
「あんた、一体何し……」
彼女の顔が怒りから驚きに変わる。本当は無傷で助けるはずだったが、流石に無理だった。アイツの刃が俺の肩を切り裂いていた。
「無事か?」
「私を庇って……」
「こんなもん唾つけとけば治る」
視界を埋める砂塵の中、俺は肩口をかすめた切創の痛みを顔に出さず、彼女に笑顔を向ける。足を滑らせながらも体勢を立て直す。血の匂いと鉄の擦れる音。敵意と敵意が衝突して、空気そのものが緊張で張り詰めていた。
「アイツは俺がやる。下がっててくれ」
俺が立ち上がると、服を掴まれ、止められる。その手は震え、その視線は、奴に向いていた。
「待って……アイツ、殺し屋 ダズだわ。懸賞金 7500万ベリー。私たちが勝てる相手じゃない!」
──なん……だと?
次の瞬間、心臓が妙な鼓動を打った。頭の中で、金の桁がぐるぐると回る。俺の背にのしかかる、返しきれない額。その現実が、恐怖をかき消すように熱を灯した。
「7500万ってことは……あいつを倒せば、俺の借金チャラ! 夢の無借金ライフ到来ってことだな!?」
「はい!?」
ドクトリーヌから請求された1億ベリー。会社負担で3000万払ってもらって、残り7000万ベリー。月々払い続けても、利息分しか払えず、どうにか減額出来ないかと、交渉し、その度に、炊事、洗濯、買い物、掃除と、今までこき使われて来ていた。それでも借金は全然減ってないんだ。
「お前をぶっ飛ばしたら、あの家事地獄は解放される!!」
「やめなさいって!!」
ビシィッと指を突きつける彼女。だが俺の耳には「倒せばチャラ」という甘美な響きしか残っていない。
「安心しろ、ミス・バレンタイン。あのカチカチ野郎を倒す算段はある。下がっててくれ」
──賭けだけどな。それに、コイツがこのまま逃がしてくれるとは到底思えない。
「……そこまで言うなら、邪魔はしないわ。でも、死んだら、許さないから」
「嗚呼」
ミス・バレンタインが何かを言いたげだったが、黙って飲み込み、その場を後にする。俺はその背中を見ずに、奴から目を逸らさずにいる。その腕には、赤い血と、鋭い刃へと変わっていた。それが、俺を傷つけた能力。悪魔の実だ。
「体を刃物にする能力。ハモハモの実の能力者だな?」
口角を無理やり吊り上げて笑みを作り、余裕を見せる。こうやって、命の危機を感じると思う。
軽口で気を散らせるのは俺の癖で、臆病な心臓を落ち着かせるための手段になっているのだと。
だが相手は眉ひとつ動かさない。無機質な眼差しを向けてくるその顔は、まるで切っ先そのもののように冷ややかだった。
「スパスパだ」
「……そうとも言うか」
「そうとしか言わん」
乾いた声。信念も、怒りも、余計な感情もない。ただ任務に徹する、刃物のような宣告。だからこそ厄介だ。こいつは揺らがない。
先に仕掛けてきたのは相手だった。フェイントも無く、俺に真っ直ぐ向かってくる。
俺は深く息を吸い込んだ。肺が焼けるほど空気を吸い込み、次の瞬間に右足を強く踏み込みハイキック。
「……ッ!」
だが相手の鋼鉄の体にはびくともしない。奴の腕が変形し、鋭い刃が俺の眼前へと迫った。
見聞色が警鐘を鳴らす。反射的に体を捻り、頬を掠めて鋼が通り過ぎる。俺の頬から血の飛沫が宙を舞った。
だが、止まらず、俺は掌を奴の胸板めがけて突き出す。
「ニーライト
拳を叩きつけ、鋼の巨体が後方へ押し返される。地面に爪痕を残しながらも、奴は両足で踏みとどまった。胸部に黒い焦げ跡が広がっている。それでも致命傷には程遠い。
「……少しは骨があるようだな」
首に付いた血を拭い、足元にあった小石を拾い指先で弾き飛ばす。
血のついたそれは相手の目の前で爆破し、目眩まし代わりに閃光と小さな煙を生み出した。その隙に間合いを詰め、低い姿勢から拳を突き上げる。
俺の周りの水を相手の体へと届ける。体がほぼ水の人間へと、爆発を内部へと浸透させる。
「魚人空手
奴が一瞬だけ目を細めた。刃の防御を貫き、波動が内部へ届き、爆発。
鉄の体が軋んだ音を立てる。内部へと響かせた、確かな手応え。
「無駄だ」
だが次の瞬間、奴の膝蹴りが俺の腹を捕らえた。肺から空気が強制的に吐き出され、視界が白く弾ける。
内臓がかき乱される痛み。だが踏ん張った。吐き出す血を飲み込み、倒れるのを拒否する。
煙と火花が舞い、夜空を背に鋼と爆炎が交差する。互いの息遣いが荒れ、地面には無数の裂け目と焦げ跡が広がっていた。
「人の癖に、魚の真似事をするとはな」
「……強くなる為ならなんだってするさ、大事な人を守る為にな」
「くだらん」
鋼鉄と爆炎の衝突は、夜の埠頭を昼間のように照らし出した。
焦げた板張りの床が破裂音と共に吹き飛び、倉庫内へお破片が散っていく。
──マジでかってぇなオイ。腹筋バキバキとかそういうレベルじゃねぇ!! 文字通り鉄の塊ぶん殴ってる感じなんだが!?
このまま拳で殴り続けたら、先にこっちの拳がイカれちまう!
「全く……爆発してんだから、効けよな。この世界の奴らはどいつもこいつも…」
冷静に考えてどうする?
奴の体は鋼鉄そのもの。武装色が安定すれば突破口になるはずだが、未だに力は霧散してしまう。腕を覆った覇気は黒く染まりきらず、ただの衝撃でしかない……もっと、火力を出す方法は。
「
次の瞬間、奴の姿が霞む。足をスケート靴のように変化させて地面を滑るように、刃となった右腕を振り抜いてきた。
見聞色が告げる。
下からの斬撃──避けきれない距離だ。
俺は咄嗟に右腕に武装色を纏わせようとした。
だが、不発。黒く硬化するはずの腕は染まらない。
「ダメかっ」
それでも、躊躇している暇はなかった。爆発を腹部で起こし、その風圧で相手を攻撃の速度を緩める。だが、相手はそれで終わりではなかった。
「
両手首を合わせ、掌底を繰り出すように斬撃を放った。倉庫の壁と、俺の体は、切り刻まれ、体から血が流れる。
「吹き飛べ」
更に、追い討ちと、衝撃波により、扉を吹き飛ばし、薄暗い部屋へと転がり込んだ。そこは、脱出経路の通路だった。
「Mr.5!!」
そこを見張っていたビィオラと、ミス・バレンタインが、俺に駆け寄って来てくれた。2人ともに怪我はなさそうでホッとしていると、ビィオラが、横たわる俺のそばへと屈む。
「ひどい怪我……早く手当を」
「……大丈夫だ。それより、良いところに来てくれた」
俺の言葉に、ミス・バレンタインが、何かを察してくれた。
「まさか、まだやる気? 今なら、どさくさで逃げられる。逃げるのも戦いよ!」
「逃げるのも大事なのは十分理解している。でも、全てを出し切りもせず、ただ逃げる事を選んだら、常に逃げるという選択肢が生まれる。そんな事じゃ、君を守るなんて絶対に出来ない……だから、逃げない」
「っ! もう、どうなっても知らないわよ!」
「嗚呼。だから、2人とも協力してくれ」
────
瓦礫ぶっ飛ばし、部屋の外へと出ると、そこには、刃物野郎がじっと見ていた。起き上がるのが分かっていたように。
「……フン、やはり立ち上がるか。さぁ、次はどう来る?」
俺は血が滲んだ目隠しを取り、久々に瞳を露わにする。そして、一度空気を大きく吸い、深く吐き出す。
──ここからは見聞色頼み。時間さえ稼げれば、俺の勝ちだ。だから、まずは……。
「逃げるんだよぉ!!」
背後から何してんの!?と聞こえた気がしたが、構わない。倉庫から飛び出し、外へと逃げる。そこは、防波堤に、倉庫が立ち並んでいる場所だ。
「何か企んでいる目だ……乗ってやるよ。
指を刃へと変化させて向かってくる。手を開けば手の内側が、拳を握れば手の外側が刃物となる。つまり、拳では決して受けられない。回避するしか無い。
避けるたびに地面が裂け、木片が舞い上がる。背中に冷や汗が伝い、腕には細かな切り傷が増えていく。
「どうした? 爆発も、空手も使わずに避けるばかりか、つまんねぇ」
視界の端に映った、背後の木樽に手を伸ばす。中身は油漬けの魚。重たい樽をそのままぶん投げると、軽々と切り裂くが、その一瞬の動きのロスが命綱だ。
「ちっ!」
気がついたみたいだが、遅い。油を盛大に被った奴に向けて、右手を向け爆破を起こす。その火により、油に引火した。
「炎で俺が焼けると思うか? 俺は鉄だ、熱など効かない」
作戦は逆効果。火を帯びた奴の刃が迫り来る。
呼吸が浅くなる。胸の奥が焼けるようだ。
見聞色で奴の動きを読もうとしても、もはや奴の刃は完全に俺の癖を見切っていた。斬撃が来る前の僅かな気配を感じても、体がついていかない。紙一重の避け合いが続き、神経が擦り切れそうだった。
そして、体の力
「ようやく隙を見せたな」
当然、その隙を見逃すはずもなく、拳が向かってくる。ここだ!
「武装色硬化!!」
賭けに勝ち、武装色は成功し、相手の一撃を受け止めた。しかし、衝撃は届き、体ごと吹き飛ばされ、倉庫の中へと再び戻された。
地面に手をついたまま、俺は顔を上げた。奴は悠然と歩いてくる。
「逃げ回るのも終わりだ。頼みの綱の油も既に残っては無いだろう」
唇の端に血がにじむ。それでも笑ってみせた。
「知ってるか? 油汚れには小麦粉が良いんだよ」
「……なんの話だ?」
「ここの倉庫は広いからな……油汚れを落とすために大量に小麦粉持って来てんだ」
「……くだらん時間稼ぎだ。もう黙れ」
──これ以上は、持たない。
膝をついた俺の前で、静かに歩を進める。逃げる隙も、反撃の力も、もう残っていなかった。
そのときだった。
「そこまでよ!!」
ミス・バレンタインの声が響いた。
目を向けると、粉袋を撒き終えた二人が、倉庫の入り口付近に立っていた。
ビィオラは震える手で、壁に取り付けられた灯具を外している。
ミス・バレンタインはその横で、真剣な眼差しをこちらに向けていた。いつもの皮肉やツンとした表情はなく、ただまっすぐに。
「ミス・バレンタインに、ビィオラ……お前らまで巻き込む気は──」
「バカね」
バレンタインが遮るように言い放った。声は震えていなかった。
「あなたが時間を稼いだんでしょ。なら──今度は、私たちの番よ」
ビィオラも頷いた。
「……こんなひどい職場、二度と戻ってこなくていいくらい、派手に吹き飛ばしてやります!」
笑いながらも、その手はしっかりと灯具を握っている。灯心の小さな炎が、粉塵の漂う倉庫の空気に照らされ、ゆらゆらと揺れた。
「……あんたが、ここまで踏ん張った意味を、潰させやしないわ」
その瞳に、一瞬だけ懐かしい温度が宿った気がした。
ビィオラが灯具を高く掲げる。
「まさか……っ!」
その動きにダズが何かを察し、一歩彼女たちの元へと足を踏み出そうとしていたが、俺は最後の力を振り絞り、その足首を掴んだ。
「つれねぇな……俺とのデートがまだ途中だろ?」
「貴様!!」
「なぁ……粉塵爆発って知ってるか?」
ビィオラが松明を粉塵の渦の中へと投げ込んだ。
一瞬、世界が止まった。
炎が白い粒子の海に触れた瞬間、光が爆ぜ、轟音が全てを塗り潰した。