悪魔の実 Sレア   作:もやしモン

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第十一話 あの日、想像したボムボムの強さを俺はまだ知らない

 

「……めちゃくちゃしやがる」

 

 瓦礫の山の中、俺は膝を立てて座り、向かいで地面にうつ伏せになっている男を見下ろした。ダズは、瓦礫の下敷きになって動けて無い様子だが、流石鉄人間。余裕そうなかんじだ。

 

「はっはっは!! どうだ!? 流石のお前も、倉庫ぶっ飛ばす火力には勝てないだろ!?」

 

 低く唸る声に、俺は肩をすくめて笑う。倉庫が一棟丸ごと吹き飛んで、なんだかテンションがハイになってきた。ぶっちゃけ、任務でここまで暴れたのは久々だ。

 

「チッ……予定にない標的にここまで苦戦するとはな」

 

「予定にない?」

 

 眉をひそめた俺に、男は冷たい目を向ける。

 

「そうだ。我が社のスパイを排除するのがオレの任務だ」

 

「ちょっと待て、お前、どこの所属だよ?」

 

「バロックワークス。コードネームは──Mr.1」

 

 ……。

 

 ……は?

 

「俺もバロックワークスだよバカヤロウ!!!」

 

「……は?」

 

「俺はMr.5! 同じオフィサーエージェントだ!!」

 

「お前が?」

 

 ──おいおい、どおりで強いわけだ! うちのトップクラスじゃねぇか!

 いや待て、じゃあなんで俺を攻撃したんだよ。任務の失敗はしてないし、裏切る理由もないぞ!?

 

 いや、コイツ予定に無いって言ってな。

 

「……最初、お前が斬った奴が標的ってことか?」

 

「嗚呼。傷を負い、逃げていた先に、お前らがいた。同じ裏切り者だと判断し、殺しにかかった」

 

 ──なるほど、勘違いってわけか。はいはい、なるほどね。

 

「ざっけんな!! 何だよこの会社の情報共有のなさは!! 隠すにも限度がある!! ブラック企業通り越して闇企業だろ!!」

 

「その謎が我が社の理念だろ」

 

「理念で済むか!! 俺の怪我と倉庫の弁償代はどこに請求すんだ!? 経費で落ちんのか!? いや、まず労災は!? 命の保証出せや!!」

 

 瓦礫の隙間に、妙な沈黙が落ちた。

 やがて、男が低く吐き出すように言った。

 

「……そこは同感だ」

 

「だろ!?」

 

 俺は瓦礫に背を預けて、にやりと笑う。

 

「じゃあ、お前は俺たちを殺す意味を無くしたってことでいいな?」

 

「お前らが本当にバロックワークスならな」

 

「ここ出たあとで、ミス・オールサンデーでも他のオフィサーでも好きに聞け。……それまでは何もすんなよ? また倉庫を一個ダメにすることになる」

 

「……それはやめろ」

 

 爆破男と刃物野郎の、瓦礫の中のぎこちない笑い。

 さっきまで命を取り合ってた相手とは思えない空気だった。

 

 

 ──────

 

 

 松明を投げ込んだ次の瞬間、倉庫の外では轟音が鳴り響いた。

 

 耳を裂くような爆音と、皮膚を焼く熱気。視界は一瞬で真っ白になり、何も見えなくなる。

 

「ビィオラ、伏せて!!」

 

 ミス・バレンタインがビィオラの肩を押し倒し、2人は転がるように倉庫の外へ飛び出した。背後で扉が吹き飛び、炎と煙が空へと噴き上がる。

 

 やがて余韻が収まり、炎の勢いが弱まっていった頃、そこに残っていたのは──崩れ落ちた瓦礫と、黒煙だけ。

 

「Mr.5!!」

 

 ビィオラの声が震える。

 

「……大丈夫よ…アイツは爆発じゃしなないわ」

 

「でも!!」

 

「アイツは絶対に帰ってくる」

 

 ビィオラの瞳が潤む。黒煙が風に流れ、瓦礫の山が沈黙する。

 

「だっはぁぁぁ!! よっしゃぁ!! 外だぁぁ!!」

 

 瓦礫が盛大に吹き飛び、黒煙を割って飛び出してきたのは──ボロボロの俺だった。

 髪はチリチリ、服は穴だらけ。でも、なぜか口角は上がったまま。

 

「お? 良かった、2人とも無事だったか!」

 

「ほらね? 言ったでしょ?」

 

「あ……そうですね。ふふ」

 

 ──なんか2人がまた仲良くなっている。ふむ、美女と美少女のカップリングか、素晴らしい。

 そういう俺は、ボロボロで、汚らしいが。爆発自体は俺の能力だから効かないが、瓦礫は普通に痛ぇ。全身がギシギシ言ってる。

 

 その直後、俺の隣で、鉄くずのような音を立てながら、黒煙を切り裂いて立ち上がる影があった。焼け焦げた鉄板の塊のような男──Mr.1、ダズ・ボーネス。

 

「あんた、まだ……!」

 

 Mr.1へと向かおうとするミス・バレンタインを俺は手で制した。

 瓦礫と煙を背景に、戦いの緊張感が再び空気を張り詰める。

 

「嗚呼、2人とも大丈夫だ。お前ももう俺たちを殺そうとしないよな? Mr.1」

 

「……嗚呼」

 

「「Mr.1!?」」

 

 

 ──────

 

 

 あの場にいた全員が集まり、誤解を解くための話し合いを行う事になった。

 

「俺たちはちゃんと、ミス・オールサンデーから直々に言われたんだ。倉庫を押さえろってな。……お前もそうなのか?」

 

 瓦礫と煙にまみれた倉庫跡で、ダズ・ボーネス──Mr.1が低い声で問いかけてきた。鋼鉄のような眼差しが、わずかに揺れている。戦いの最中には決して見せなかった、微かな戸惑いが滲んでいた。

 

「依頼だ。確かに受けた。……だが」

 

 言い淀む声に、嫌な予感が走る。俺は眉をひそめた。

 

「だが?」

 

「……顔を思い出せない」

 

「はぁ?」

 

 間の抜けた声が出た。思わず喉が裏返る。何を言い出したんだこの鋼鉄野郎はと、思った。

 

「依頼者がいるのに顔を思い出せない? そんなバカな話あるかよ! “おもちゃ箱から一体だけ抜かれても気づかない”ガキじゃあるまいし、そんなことねぇだろ」

 

 俺は瓦礫を足でどかしながら、声を荒げる。だが、ダズは落ち着き払っていた。むしろ戦いの最中よりも、妙に冷静な響きだった。

 

「……依頼は受けた。条件も内容も明確に覚えている。金も受け取った。だが、顔だけが……どうしても思い出せない」

 

 その声は、嘘を吐いているものじゃなかった。

 彼は本当に混乱している。あのMr.1が、だ。

 

 胸の奥が、ぞわりと逆撫でされるような感覚に包まれた。爆煙で煤けた天井を見上げながら、唇を噛む。

 

「記憶喪失とか、漫画じゃあるまいし」

 

「あんたが言う?」

 

 頭のどこかで、ひっかかる。何かが“根っこごと”いじられているような、完全になんとなく出し、そんな事ないはずなのだが。脳裏をかすめる、かすかな恐怖。感覚的なものでしかないが──嫌な感じだ。

 

「ミス・オールサンデーに直接確認を取る」

 

 そう告げると、Mr.1はしばらく沈黙し、それから短く頷いた。

 

「……異論はない」

 

 黒煙が立ち込める倉庫跡に、静かな沈黙が落ちた。

 つい数分前まで、命を懸けた殴り合いをしていたはずなのに、今は互いに冷静で、妙に理性的な空気が漂っている。その静けさこそが、背筋をひやりとさせた。

 

 ──そして数日後。

 

 ミス・オールサンデーにMr.1の任務について確認を取った結果、奇妙な事実が浮かび上がった。

 任務を受けた記録は確かに存在する。依頼人の名前も、書類上には残っている。だが、肝心の「顔」については──彼女もまた、まったく思い出せないというのだ。

 

 Mr.1とまったく同じ証言。

 それが偶然で済む話じゃないのは、誰の目にも明らかだった。

 

「大体の意味分からん現象は、悪魔の実のせいって結論でいいのかね?」

 

 俺がぼそっと呟くと、バレンタインが腕を組み、呆れたように肩をすくめた。

 

「そう考えるのが妥当ね。記憶を消す能力持ちによる、組織の弱体化を狙った……ってところじゃない? 自分の手を汚さず、オフィサー同士で潰し合いさせるあたり、なかなか狡猾なやつよ」

 

「……誰がそんなことを」

 

 ビィオラが低く呟く。その声には、得体の知れない不安が混じっていた。

 

「恨み買いまくってるだろうし、不思議じゃないわな。けど、組織の理念が“謎”のバロックワークスの内情をここまで把握してるなんて……スパイでもいるのかね?」

 

 俺が半ば冗談のつもりで言うと、バレンタインは小さく眉をひそめた。冗談に聞こえないのだ。

 この組織は、情報の分断と偽装を徹底している。それでも内部を撹乱できる何者かがいる──そう考えると、背筋が寒くなる。

 

「その辺りも含めて、あとはミス・オールサンデーに任せましょう。とりあえず、今回の任務は失敗ってことにはならないみたいだし、私はそこでホッとしてるわ」

 

 彼女が淡々と告げる。その声にはいつもの棘があったが、わずかに安堵も混じっていた。

 俺も、同じ気持ちだった。ただの戦闘任務のはずが、どうやらもっと大きな“何か”に触れちまったらしい。

 

 倉庫跡で感じたあの違和感が、じわりと胸の奥で形を持ち始めていた。

 

 ついでに、Mr.1ぶっ倒して借金返済はお預けとなったぜ、ちくしょー!!

 

 

 ──────

 

 

 任務が終わり、ドラム王国へと戻れた。

 そして、また、数日後の昼下がり。

 

 冬島のドラム王国では珍しく、雲の切れ間から柔らかな陽が差し込んでいた。

 凍えるような空気の中にも、かすかに春の匂いが混じっている。雪に反射した光が眩しくて、思わず目を細めた。

 

「ボム兄ちゃーん! そり、また作って!!」

 

「おう、まかせろ!」

 

 広場の隅で、子供たちに囲まれながら雪を集める。今日は雪合戦でも、かまくら作りでもない──特製そりレースの日だ。

 

「こないだのより、速いのがいい!」

「オレのはカーブ得意なやつ!!」

 

「いいぜぇ?」

 

 俺は軽く手を鳴らし、小規模な爆発を雪の下に走らせた。

 空気と雪を混ぜながら爆圧で圧縮すると、雪面は見事なまでに滑らかな氷のように変化していく。

 

「うわぁ! 兄ちゃん、すげぇ!!」

 

「これがプロの雪工作ってやつだ!」

 

 調子に乗ってポーズを決めると、子供たちは「かっけー!」と手を叩いて笑った。

 

 そりが数台完成すると、子供たちは一斉に山の斜面へと駆け上がった。

 村の外れにある小高い丘──冬になると子供たちの遊び場になる場所だ。

 

「位置についてー! よーい……スタート!!」

 

 俺の合図と同時に、子供たちは勢いよく滑り降りた。

 雪を切る音と、はじけるような笑い声が一面に響く。

 滑走面の出来がいいせいか、そりは思っていた以上のスピードで斜面を駆け抜けていった。

 

「わー! はやーい!!」

「兄ちゃんのそり、まっすぐ進む!!」

 

「そりゃ当然だ、職人の仕事だからな!」

 

 俺も最後に自作のそりに乗り、両腕を広げながら斜面を一気に滑り降りた。

 大人が同じ目線で遊ぶだけで、子供は喜ぶものだ。……まぁ、危なくないか見守るって目的もあるけどな。

 

「ひゃっほおおおおう!!」

 

 気付けば俺の方が一番はしゃいでいた。雪が舞い上がり、顔に当たる冷たさが妙に心地いい。子供たちの歓声に混ざって、自分でも情けないくらい大声を上げていた。

 

 斜面を下りきると、子供たちが雪まみれのまま駆け寄ってくる。

 

「もう一回!」

「次は競争しよう!」

「今度は兄ちゃんと勝負だ!」

 

「おっしゃあ、望むところだ! この俺様を抜けるもんならやってみな!! ……でも、安全第一な! 腹八分目くらいの楽しさを心がけろ! 俺が100パーセントにしてやるからな!」

 

「「「「「はーい!!」」」」」

 

 再び丘を駆け上がり、何度も何度も滑り降りる。

 雪の上を転げ回って笑い転げる子供たちの中で、俺も同じように転び、笑い、夢中になっていた。こんな時間を過ごすなんて、転生してくる前は思いもしなかったな。

 

「……子供に人気なんですね」

 

 不意に聞こえた声に振り返ると、ミス・バレンタインが腕を組み、少し離れた場所で俺たちの様子を見ていた。口元には、ほんのわずかに柔らかな笑みが浮かんでいる。

 

「キャハハ……あいつ、ああ見えて子供と遊ぶの好きみたいよ。すぐに仲良くなってね、時々遊んでるみたい」

 

 いつもの皮肉っぽさはなく、どこか懐かしさを含んだ声だった。

 彼女の横顔は、普段よりもずっと穏やかで、まるで弟でも見守る姉のような眼差しで俺を見ていた。

 

「……どうして?」

 

「ん? 何が?」

 

「あ、いえ、なんでもないです!」

 

 なんか2人で話してるのが聞こえたが、まぁ、いいか。

 

「おーい! 2人もやるか!?」

 

 俺が手を振ると、ビィオラが小さく笑いながら手を振り返してくれる。

 

「あ、せっかくだし遊んでこようかな」

 

「なら、私も」

 

 こうして、子供たちと遊び、広場は笑い声と白い息でいっぱいになっていた。

 

「ジェム、久々だな」

 

「おお、ハック! それに、クマさんも!」

 

 振り返ると、声の主はハック。肩口まで届く巨体をゆったりと揺らし、微笑んでいるクマさんがこちらを見ていた。

 

「どうしたんだその怪我!?」

 

「嗚呼、ちょっと任務でね」

 

「だだだ、大丈夫なのか!? いや、大丈夫じゃないだろ!!!早く安静にしないと!!」

 

 心配そうな表情で駆け寄ろうとするクマに、俺は笑って手を振る。

 

「クマさんは優しいな。大丈夫だよ」

 

 ──Mr.1との戦いの怪我は少し残っているが、もうほとんど完治している。少しのことでも、不安になってしまうのは、優しさから来るものだろう。大事に扱われるのは、悪い気はしない。

 今回のドクトリーヌからの請求は、会社が治療費を出してくれた。だが、借金生活は相変わらず。掃除、炊事、マッサージに加え、マッチ役まで──こき使われるのも続くらしい。

 

「そうそう、ちょうどいいところに来てくれた。紹介するよ。こっちがパートナーの、ミス・バレンタイン。で、こっちが部下兼俺の弟子のビィオラ」

 

「こんにちは」

 

「なんと、ジェムも弟子を取るようになるとは」

 

「俺もまだ修行中のみだけど、基礎くらいなら教えられる。ちょうど良いから見てやってくれないか?」

 

「ああ」

 

「私もお願いします!」

 

 振り返ると、ミス・バレンタインが頭を下げていた。

 

「私も強くなりたいんです」

 

「嗚呼、いいぞ」

 

 ──これは、驚いた。鍛錬を今までして来なかったミス・バレンタインが。 何か心境の変化とかあったんだろうか?

 

 こうして、二人の稽古が始まった。ハックは指導役、俺とくまさんは見学組。怪我人に無理はさせられないし、椅子の代わりにくまさんは大木に腰かけていた。

 

「記憶はどうだい?」

 

「相変わらずサッパリですね。早く取り戻したいですが……そう言えば、前の俺ってボムボムの実を食べてたんですか?」 

 

 ──Mr.1との戦いで思い知らされたが、爆発も空手も通用しない相手に対して、俺は奇策でしか対応出来なかった。

 いまだに、武装色は安定しないし、見聞色も避けるだけでは勝つことはできない。

 もし、前から使っていたのなら、何か強くなるためのヒントがあるかもしれない。

 

「嗚呼。出会ったのは12年前だが、すでに食べていたな。最初は暴発ばかりだったが、根気よく自分の能力に向き合って、3年後にはかなり扱えるようになっていた」

 

「見えない息の爆弾とか、近接攻撃に爆発を乗せたり?」

 

「してたな。でも体が出来ていない段階で、打撃を使うと危険だったからとジニーがやめさせてたけど」

 

「他には?」

 

「空気弾といって、銃を使ったりしていたな。見えない息の爆弾が、見えない弾丸へと変えて使っていた。幼いながらに強さに貪欲だったよ」

 

 ──遠距離攻撃か、確かに大事だけど、結局、爆発の威力に耐えられる相手への対策にはならないか。

 

「魚人空手をさらに極めたら、鉄の人間にも勝てるかな?」

 

 その問いに答えたのは、ハックだった。

 

「それはまだまだかかるだろう。今は成長速度が緩やかな時期だから、焦る気持ちもわかる。だが、一朝一夕で強くなれるものじゃない」

 

「でも、強くなりたいんだ。立ち止まってなんていられない」

 

 ──ハックの時も、Mr.1の時も、強くなれたと思っていたのに勝ち切れなかった。それじゃあ、ダメだ。俺の手から大事なものを溢すことは、絶対に嫌だ。

 

「……強さを求めるのは、昔から変わっていないな。なら、オレが力を貸そう」

 

「クマさんが?」

 

 ⸻

 

 曇天の下、空き地の空気はひりついていた。

 風はない。音もない。ただ目の前に立つ巨体が、そこに“在る”だけで、周囲の空間が歪んで見える。

 

「……いくぞ、ジェム」

 

 低く重い声が地面を震わせる。緊張で喉が渇き、冗談を飛ばそうと思ったが、その圧に押されて言葉が引っ込む。

 模擬戦とはいえ、胸の奥で心臓が爆弾のように脈打っていた。

 

 クマさんが一歩踏み出す。わずかそれだけで、視界の奥が揺れる。巨体の影が空間を覆った。

 

 俺は両手を軽く開き、呼吸を整える。指先に“爆弾”を生み出す感覚を集中させる。爆弾は俺の武器だ。空気でも、唾でも、指でも──俺の体から発せられるものはすべて爆弾になる。

 

「行くぜぇぇぇ!」

 

 半ば勢いで地面を蹴り、飛び出す。見聞色で相手の気配を感じ、一挙手一投足を逃さない。

 瞬間、クマさんの手のひらがこちらに振り抜かれる。反射的に飛び退くと、背後の岩が音を立て、そこには肉球マークが刻まれていた。

 

「なんだ、これ?」

 

圧力砲(パッドほう)。大気を弾き、相手へぶつける」

 

 見えない何かが恐るべき速度で向かってくる。咄嗟に体を捻って回避し、足を爆破して距離を詰める。

 

「ニーライト爆拳(ボンバ)!!」

 

 右肘を爆発させるストレート。しかし攻撃は空を切る。前にいたはずのクマさんは背後に出現していた。

 

 さらに、かかとを爆破して回し蹴りを繰り出すが、これも空振り。巨体はいつの間にか目の前に立っている。体がその場から、すぐに逃げろと警告してくる。

 

 ──動け動け動け!

 

 無理やり体を動かし、体の前面すべてを爆発させ、後方へ吹き飛ぶ。地面には深々と肉球マークが残った。肩で息をしながら、次の攻撃に備える。

 

 ──くそ、完全に相手のペースだ。こっちが息を整える時間がない!

 

「さぁ、待った無しだ。つっぱり圧力砲(パッドほう)

 

 ──圧力砲の多段攻撃!? いや、大丈夫。集中しろ。見聞色は、この時のための武き「甘いな」っ!?

 

 振り返った時には、遅く、体を大気が貫通し、足が止まった。

 

 そして、向かってくる圧力砲の前に、俺の意識は飛んだ。

 

 

 ⸻

 

 

 

「強すぎんだろ」

 

 ──当たれば効果的な技をあえて囮にし、背後への瞬間移動からの一撃。俺の感覚が追いつかなかった。常に後手に回されて、対応し切れずに圧倒的な敗北。圧敗(あっぱい)だ。

 

「分かったかな、オレの伝えたいこと」

 

「……俺は、自分の能力に対する理解度が足りてなさすぎる」

 

 俺は、勘違いしていた。ボムボムの実を。

 

 俺は爆弾人間であって、爆発人間じゃない。爆弾が起こした爆発でしか攻撃をしていなかった。クマさんのように、相手へと対応を求め、こちらの土俵へと引きずりださなきゃダメだったんだ。

 

「ニキュニキュの実と同じだ。ただ弾くだけではなく、攻撃・囮・決定打に応用する。君の爆弾も、可能性は無限にある」

 

 俺はうなずきながら拳を握った。心臓が、まだ戦いの余韻で高鳴っている。

 

「……でも、どうすれば“自在に”扱えるようになるんだ? 感覚だけじゃ限界がある」

 

 自分でもわかっている。魚人空手は体得しつつあるが、能力は感覚任せで、理論がまるで足りていない。

 

「オレの知っている人で、それが出来る奴がいる」

 

「え?」

 

 クマさんが空を仰ぐように視線を上げる。曇天の向こう、山の方角をじっと見据えていた。

 

「安心しろ。紹介はオレがする」

 

 クマさんの巨体がゆっくりと歩き出す。その背中を見ながら、俺は心のどこかでざわつきを感じていた。

 爆弾の力を“理論”で鍛える──そんなこと、一度も考えたことがなかったからだ。

 

 ⸻

 

 山奥の研究施設にたどり着くと、そこには白衣を着た男。

 

「ぺぺぺ、なんじゃクマ。急に訪ねて来て……」

 

「ベガパンク。この子に悪魔の実について教えてやってくれ」

 

「ちょ、ちょっと、くまさん。この人、頭が……!?」

 

「この人はドクターベガパンク。世界最大の頭脳を持つ、政府の役人だ」

 

「へぇ……はい!?」

 

 

 

 

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