──山奥の研究施設。外は吹雪いているのに、内部は機械の唸る音と、異様な熱気に満ちていた。
俺は額の汗をぬぐいながら白衣の男──ベガパンクに問いかけた。
「それで、ここどこっすか?」
「偉大なる航路の何処かにある島だ。バッカニア族のくまと繋がっているのを、バレるわけにはいかんからな」
答えは曖昧だったが、その声音には明確な“壁”があった。俺が踏み込むことを警戒している、というより……その背後に、何か国家的な事情があると誰でも察するだろう。
「へぇ、ていうか、くまさんと政府の人間が、なんで知り合いなわけ?」
「何をいう、お前がきっかけじゃろうが」
「俺?」
耳を疑って指を差すと、ベガパンクは白衣の裾をひるがえしながら、まるで昨日の昼食でも思い出したかのように言った
「嗚呼、ワシが記憶消したんじゃったか。覚えていないのも無理はない」
……。
……は?
「はぁぁぁぁぁ!? 何やってくれてんだジジィ!!」
島中に俺の悲鳴がこだました。
爆発の音より響いたんじゃないかってくらいだ。
「いや、お主が『失恋してマジで辛いから記憶消して』って言ったんじゃよ」
「誰だ、そんなテキトーな理由で消したバカは!?」
「だから、お主じゃって」
何やってんだ俺。いや、やりそうではあるが……流石に失恋で記憶を消すは無いだろ。
「そう。あれは、いつじゃったか。まだ幼い子供の頃、ボルサリーノが」
「あ、そういうのいらないです」
「えっ!?」
「俺、過去は振り返らないタイプなんで」
なんか今、過去回想が始まりそうな雰囲気だったが、そんなのは必要ない。
俺が知りたいのは、昔の物語じゃなくて、“今、どう強くなれるか”だ。
「……本当にいいのかい? 知りたがっていただろう?」
くまさんが、少し寂しそうに俺を見つめていた。
けれど、俺は笑ってみせる。
「くまさんとジニーさんが、許してくれるなら、ですけど」
「どういう意味だい?」
くまさんが首を傾げる。
俺は静かに息を吐いて、ゆっくり言葉を紡いだ。
「俺のことは、俺が一番知ってます。たぶん、ジニーさんを救うためにドクターベガパンクを頼ったんでしょう。そこから、何かが起こった。育ててくれた恩人の大事な思い出を消したいほどの何かが」
関係は良かったはずだ。何も言わず消えた俺を、くまさんはずっと探してくれていたんだから。
それでも、俺は──いや、“過去の俺"は、記憶を捨てた。
そんな優しい人たちとの思い出ごと、過去を切り離した。
それだけ、過去の自分を終わらせたかったんだ。
記憶ってのは、その人の人生そのものだ。
それを自分の意思で手放すなんて、ほとんど“死ぬ”のと同じだろう。
でも──それを選んだのが、他でもない俺なら。
その覚悟を、今の俺が踏みにじるわけにはいかない。
「過去の俺は、きっと“生まれ変わる”ために記憶を消したんです。
なら今の俺は、“その想いを無駄にしないために生きる”番だと思ってます」
静かな沈黙が、研究室に落ちる。
爆弾のように騒がしい心臓が、妙に穏やかだった。
「俺は、ミス・バレンタインのために強くなりたい。推しの為に、彼女がやりたいことを出来るように、強くなりたいんです」
自分でも笑ってしまうような理由だ。だが、胸の奥は不思議と熱かった。
「過去の俺が泣いてようが、怒ってようが、今の俺が笑えるなら……それでいい」
「ふむ……」
ベガパンクが髭を撫でながら、難しい顔をする。
「つまり、お主は“過去の原因”ではなく、“今の目的”で強くなりたいと?」
「はい」
ベガパンクが口の端を吊り上げた。
「強くなりたい理由が恋愛感情とは、実に面白い動機だ。恋する脳はドーパミンを分泌し、集中力と学習能力を飛躍的に——」
「恋愛じゃなくて“推し活”です」
「いや、そこはよくわからんが」
「いや、めちゃめちゃ大事なことだから」
推しに恋愛感情を持つなどナンセンス。適切な距離で、元気な姿を見られるならそれだけで俺は満足だ。
くまは目を閉じ、わずかに笑った。
「いいんじゃないか。ジェム。君らしい。ジニーもきっとそう言うさ」
あの巨大な手が、そっと俺の肩を叩く。
その温もりは、とても、温かかった。
「強くなれ。——“Mr.5”として」
「はい。ありがとうございます」
俺は、ぐっと拳を握った。
爆弾のように、心臓の奥で火花が散る。それは懺悔でも、後悔でもない。ただ純粋に、推しのために生きるという覚悟だった。
「では、よろしくお願いします。ドクターベガパンク」
深々と頭を下げて、改めて、返事を待つ。
「ぺぺぺ、やはり、お主は面白い。よかろう。この天才の頭脳を持って、お主と共に、ボムボムの実の強さを証明してやろう」
──────
くまさんは、革命軍の仕事があると、お礼を告げて別れた。
ベガパンクと2人になると、研究室へと案内された。ここは、別荘のようなものと言い、暇な時に、色々持って来たようだ。
背後の棚から厚い資料を取り出し、机の上にドンと広げた。そこには見慣れない記号や数式が並んでいる。
……いや、数式だけじゃない。爆風の拡散図、熱量の変化、酸素と窒素の化学反応、衝撃波の分布……見ただけで頭が痛くなるような情報量だった。
「お主、自分の能力を“感覚”で使っておるじゃろう?」
「使ってる、ですね。ドカンって感じで」
「それでは伸びん。悪魔の実の能力は、“発想”と“理解”で無限に広がる。……爆弾とは何か、説明してみなさい」
爆弾……爆弾って、なんだ?
今まで俺にとって“爆弾”は、ただの手段だった。鼻くそを弾けば爆発、パンチすれば爆発──理屈も何も考えちゃいなかった。
でも、それじゃダメなんだ。くまさんのように利用出来てもいないし、ベガパンクが言う「理解」は、その先にある。
ダイナマイトや核爆弾、それに俺が普段行っている爆発。
これらに共通しているものはなんだ?
「……」
思考がぐるぐると回り始める。
爆発の瞬間、空気が震える。熱が生まれる。光が走る。物が吹き飛ぶ。音が耳を打つ。
全部、一瞬の“反応”から始まっている。
「……爆弾ってのは、内部に詰まったエネルギーを、一気に外に解き放つ……そういう仕組み、ですよね」
「ほう?」
口から出た言葉は、思っていたよりもしっかりしていた。
「中には……酸素とか、火薬とか、爆発の元になるものが詰まってて。それが一瞬で反応して、膨張して、周囲を押し広げる……熱とか、衝撃とか、いろんな現象が一気に起きる」
言葉を探しながら、両手を握っては開き、空気を掴むように動かす。
頭の中で、今まで“感覚で使っていた爆発”が、少しずつ構造を持ち始める。
爆発とは、ただの“現象”じゃない。それは、エネルギーの蓄積と、解放の連鎖だ。
「つまり……爆弾ってのは、“仕掛けられたエネルギー”と“引き金”が揃ったときに発動する……“現象の装置”みたいなもん……です」
そう言った瞬間、ベガパンクの機械目が一瞬だけカッと光った。
「ぺぺぺ! なんじゃ、思ったよりも考える頭があるのう!!」
「思ってたよりってなんだ、思ってたよりって!」
俺は、息を吐きながら額の汗をぬぐった。たった一問答えただけなのに、妙な疲労感がある。
でも、同時に胸の奥に小さな灯がともった。
今まで“当たり前”だと思っていた爆発に、構造と意味がある──そのことを初めて自分の頭で理解した気がしたのだ。
ベガパンクは高笑いを機械音で響かせると、机の上の資料をバシバシと叩いた。
「お主のいうとおり。爆弾とは“化学反応による急激なエネルギー解放”じゃ。
圧力・熱・衝撃・酸素供給・媒介反応……それらが一瞬で連鎖し、膨大なエネルギーを放出する。お主はその“結果”だけを力だと思っておる。だが──」
ベガパンクは俺の胸を指差した。
「お主が“爆弾の理”を知れば、爆発を自在に組み立てることができる。破壊だけでなく、伝達・防御・推進・衝撃制御・内部破壊──応用は無限大じゃ」
その言葉が、心の奥にズシンと響いた。
爆弾の要素を理解して、組み替えて、分解して、自在に使う。
「……そんな事、考えた事もなかった」
ベガパンクの目がカッと光った。
「爆弾とは、愚か者が扱えばただの破壊。だが、賢者が扱えば“世界を変える力”にもなる……どちらになるかは、お主次第じゃ」
背筋に、ぞくりとしたものが走った。
この人は冗談を言ってるわけじゃない。
世界を揺るがす力を、本気で理解している。
「ははっ、乗せるのが上手いなドクター。やってやるぜ」
「うむ、それでよい。さぁ、楽しい化学実験じゃ。敬語もいらんぞ」
ベガパンクの口調に、ほんの少し愉悦が混ざっていた。
爆弾を感覚で使っていた俺が、“爆弾の理論”を叩き込まれる日々が始まる──。
──────
……これは修行というより、拷問じゃないか?
俺は天井からぶら下がった金属フレームの中に押し込まれていた。腕も脚も固定され、逃げることはできない。周囲には、見たこともない数式と管だらけの機械。足元には厚さ数十センチの鋼鉄板が敷かれている。
「準備はいいかね、ジェム」
白衣を翻し、ベガパンクが端末を操作する。淡々とした口調が逆に怖い。
「……いや、良くないなぁドクター。これは一体なにを──」
「“爆弾”を、自分自身で再現してもらう。酸化・燃焼・爆轟波の三段階を、すべて君の体内でな」
「俺の体を爆弾にするって……それ、いつものことじゃ──」
「違う。今までは“爆発した”だけだ。今からは“なぜ爆発が起こるのか”を、一秒ごとに意識してもらう」
「説明が足りな過ぎる。これでなんで強くなれるんだ?」
「お主はボムボムの実の爆弾人間で、爆発人間ではないということは理解しているな?」
「嗚呼」
「つまり、爆発を生み出すだけではなく、爆弾を構成する要素すべてを自在に操れる。熱、圧力、振動、衝撃波、燃焼に分解出来るとは思えないか?」
「さっき言っていたな、それ。これが?」
「さよう。お主は、体内から生み出したものを爆弾に変えている。それは、お前自身の体が、爆発の原理そのものなんだ。爆薬を“使う”存在ではなく、爆薬を“構成する”存在になっているのじゃ」
言葉の意味は理解できる。だが、心が追いつかない。
今まで俺は、「鼻くそを弾いて爆発」「パンチを爆発」「息を爆発」……それしかしてこなかった。どれも“起爆”という一点に能力を集中させていた。
だが、ベガパンクの言う「分解」とは、それとはまるで違う領域だ。
「力とは、理解した分だけ使えるようになる。悪魔の実も、例外ではない……お主は、今まで、“爆発”する能力だと思い込み、それ以外を切り捨ててきた。だが、それはほんの一部に過ぎない」
「ほんの……一部……」
爆発は、確かにエネルギーの解放だ。でも、その前には“蓄積”と“構成”がある。酸素、熱、圧力、摩擦、火花──それらが揃って初めて爆発は生まれる。つまり、俺が“爆弾”そのものであるなら、それらの要素も自在に操れるはずなのだ。
「……よし、やってくれ」
「よろしい。では、開始だ」
ベガパンクが端末に触れると、周囲の空気が急に重くなった。天井のノズルから酸素と窒素が吹き出し、空気中の濃度が人工的に変えられていく。微妙な変化が肌に刺さる。
「第一段階──酸化反応。君の肺に取り込んだ酸素を“燃料”に変えるんだ」
酸化反応、授業でそんなことやったな。
確か、化学式に
つまり、
理解が遅れれば、そのまま内部で酸化熱が暴走する。
胸の奥でチリチリとした熱が走った。爆発の“予兆”だ。
「おいドクター!! これ、ミスったらどうなる!?」
「爆発する」
「だよなァ!!!」
だが、その瞬間、なぜか笑っていた。
危険だというのに、心の奥がワクワクしていた。初めて、“爆弾”の中に自分が踏み込んでいる感覚だった。
「第二段階──燃焼反応。温度を意識して制御するんじゃ」
体内に熱が走る。汗が噴き出す。
熱を上げすぎれば爆轟になる。低すぎれば不発。ギリギリの温度を保ちながら、呼吸を合わせる。まるで細い綱の上を走るような感覚。
集中しろ。爆弾は俺だ。俺が爆弾を“起こす”んだ。
体の奥から、重く深い“ドン”という鼓動が鳴った。
その瞬間、掌の中に──何故か火が生み出された。
「……あちちちち!! 火が出た!?」
「落ち着け、暑さは感じないじゃろ?」
「お? 確かに……そりゃ、爆発の火も効かんし、そりゃそうか」
「ちなみに失敗じゃからな、それ」
ベガパンクが淡々と言い放つと、実験室に一瞬の静寂が流れた。
掌の火はパッと消えたが、指先には炭の匂いと、ほんのり焦げたにおいが残る。
「ちょ、ちょっと待てよ!火が出たら失敗なのかよ!」
「確かに、温度は上げた。しかし制御が甘く、局所的に燃焼が一気に進んだ。つまり“部分燃焼→不均一な熱膨張”が起き、火炎を生んだ。
目的は燃焼そのものではなく『反応の均衡』のはずじゃ。炎が出るのは調整不足の証拠だ」
「……これはこれで使えそうだが、温度の調整はできてないか」
「だが失敗は有益じゃ。データが取れた。次に活かせ」
「温度を感じないのに、どう調整すればいいですかね?」
ベガパンクは鼻で笑って操作盤の小さなレバーをいじる。
「感覚を『熱さ』で捉えるな。熱は結果だ。お主は今、『生成するエネルギーの速度』を意識しろ。
呼吸を“メトロノーム”にして、吸気で酸素供給量を微分し、吐息で反応の拡張率を抑える。言うなれば、火を起こすのではなく、火の“時間幅”を伸縮させるのじゃ」
相変わらず何言ってんのか分からん。
とりあえず、吸う時と、吐く時の酸素を意識してやってみよう。取り込んだ酸素を、体内にある熱へとエネルギーを送るイメージで。
深く息を吸って、ゆっくり吐く。吸うときに酸素を“僅かにだけ”引き込み、吐くときに胸の内を“軽く閉じる”感覚を持つ。火を出すのではなく、熱の立ち上がりをゆっくりにする。
数度目のトライ。胸の奥でぬるりとした熱が生まれたが、指先には炎は見えない。代わりに掌の内側に柔らかな光が灯り、モニターの温度グラフは滑らかな山を描いた。
「……お?」
ベガパンクの目が細まる。モニターの数値が安定し、耐爆パネルのセンサーも均一な分布を示している。
「よい。確かに燃焼反応は起きている。温度は臨界点を超えず、反応速度は均衡している。それが『制御された燃焼』だ」
「ふぅ……成功か?」
「成功じゃ。初歩中の初歩だが、お主にとっては第一歩だろう。次はこの温度帯で、膨張を回路に流し込む調整を覚える。そうすれば、手でお湯を沸かすことも、熱を打撃に変換することもできる。アツアツの実に似たようなものじゃな、流石に温度は向こうが上じゃが」
「……すっげぇな」
別の悪魔の実の再現とか出来るのね。
「第三段階──爆轟波の形成」
ベガパンクの声と同時に、金属フレームの拘束が一瞬だけ解かれる。
俺は反射的に右手を前に突き出した。次の瞬間、掌の周囲の空気がねじれたように歪み──
“ボン”という音すらなく、鋼鉄板が中央から陥没した。
爆発ではない。衝撃波だけを切り出した“無音爆破だった。
「……こ、これは……」
「爆弾は音でも炎でもない。反応と圧力の制御だ。君はようやく、入り口に立った」
ベガパンクの目が光る。
その顔を見て、俺は悟った──ここから先、地獄のような日々が待っていると。
だが、心のどこかで、確かに感じていた。
自分が“爆弾”を初めて自分の意志で扱えた、この高揚感を。
「……上等だ。もっとやってやる」
────
また、別の日、今度は戦闘に関する、ボムボムの実の使用方法について、考えることになった。
「くまとの戦闘データを見させてもらったが、はっきりいうと、宝の持ち腐れ。能力が下手。単純過ぎる。頭空っぽ」
「言い過ぎだろ」
泣くぞ。
「肘を爆発させてから攻撃に転じるのは悪くない。だが、お主は“爆発=攻撃”の固定観念に縛られている」
「というと?」
「守る事も覚えろという事だ。いつも怪我だらけだと聞くが?」
「うっ……その通りです。でも、武装色は苦手で…」
「覇気か、それはいずれ出来るだろう。出来ないことを今すぐにやれというのは酷じゃ。今出来る悪魔の実の能力を使う」
ベガパンクは背を向けたまま、床に描かれた円の中へ入るように俺を手招きした。
「次は、“出す場所”と“止める場所”を変える訓練だ。そこに立て」
言われるがまま、円の中心に立つ。周囲には壁ではなく、透明な耐爆パネルが囲んでおり、無数のセンサーが取り付けられている。まるで俺自身が実験装置の一部になったみたいだ。
「爆発の“熱”と“衝撃”を体表に沿わせ、意図的に外へ逃がさないようにしてみろ。簡単に言えば……内圧をコントロールするんだ」
簡単に言って、難しいのなんとかしろ。
え〜っと、つまり、今まで外側に放出していた爆発を、体内で爆発させることで……だからなんだ?
「内圧を自在に扱えれば、“攻撃”だけでなく、“防御”や“強化”にも転用できる」
おお、流石天才。俺の表情で全部理解してやがる。
「普通の生物なら、内側で爆発を起こせば膨張し、内圧に耐えきれず破裂する。だが君は“爆弾そのもの”だ。つまり——爆発を『発生』させる場所と、『逃がす』場所を選べる」
「……逃がす場所?」
「そうだ。肘の爆発は外へ放出した例だが、今度は皮膚と筋肉を“外壁”として利用し、圧力を内側に巡らせるんだ」
ベガパンクは手元のホログラムで、人体と爆発の流れを示す映像を表示した。
「これは普通の構造では無理だ。だが悪魔の実は、物理法則の一部を書き換える。お主の体は爆薬の塊でありながら、人間の骨格と筋肉を模している。だからこそ、“爆発を燃焼や膨張ではなく、圧力の流路”として操作できる」
「……つまり、爆発が“膨らむ力”じゃなくて、“体を内側から締め上げる力”になるってことですか?」
「その通りだ。ゴムが膨らむのではなく、鉄球が内側から圧縮されると考えればいい」
ベガパンクは操作盤を叩き、周囲の耐爆パネルが音もなく閉じた。俺はいつの間にか、完全に実験室の中央に閉じ込められていた。天井にはセンサーがびっしりと並んでいる。
「これからお主の身体を“内爆圧の循環炉”として使う。まずは胸部に小規模な爆発を起こし、外に漏らさず全身へ均等に拡散させろ。
膨らませるな。外に逃がすな。体の中で流れを作るんだ」
「そんな器用なこと、できるかよ……!」
「できるとも。お主は今まで、“無意識”にやってきた。肘の爆発も、鼻くその爆発も、すべては無意識の流路だ。それを今度は“意識的”にやる」
ぐっと拳を握る。内側で爆発を“閉じる”なんて、想像もしたことがなかった。
でも、ベガパンクの言葉が脳裏に引っかかっていた。
──爆発は放つものじゃない。“発生”が本質だ、と。
深く息を吸い、胸の奥に意識を沈める。
いつもは肘や指先に集中していた力を、今度は胸骨の内側へと引きずり込む。じわじわと熱が集まり、胸の中で火種が膨らむ。
ドン——。
一瞬、膨らみそうになった。けれど、踏ん張って意識を“外”に逃がさない。
代わりに、爆発の圧力を“全身に散らす”イメージを強く描いた。
足の裏、肩、背骨……圧が四方八方に走り、体の奥を縫うように巡っていく。
「……っ、うおお……!」
膨張は起きなかった。
代わりに、体の芯がギシリと軋むような重圧が生まれ、全身が一枚の金属板のように固く締まる。
床を踏み込むと、まるで体重が数倍になったように石畳が低く唸った。
ベガパンクのモニターが一斉に光る。数値の波が整い、均等な内圧の流れが映し出されていた。
「成功だ。外に漏れなかったな」
「……はぁ、はぁ……すげぇ……これ、外に出してないのに、力が内から湧いてくる……!」
「当然だ。爆圧を“内側に閉じ込めて巡らせる”ことで、お主の肉体そのものが締め上げられる。防御力と安定性は桁違いになる。
攻撃の反動も殺せる。重い衝撃を受けても、砕ける前に内圧が拮抗する」
ベガパンクは満足げに頷いた。
俺は拳を見下ろす。見た目は何も変わっていない。でも、確かに“中身”が違う。
爆弾が、ただ爆ぜるだけの存在じゃなくなった気がした。
「でも、動くのはちょっとまだ無理そうだ」
「初めてで成功させれば大したものだ。海軍の将校たちが使う六式の鉄塊のようなものじゃが、あれも動くことはできぬ。だが、お主のその技は、圧力を自在に操れれば?」
「動くことも出来るね……」
「そそるじゃろ?」
「そそるわ、これは」
そして、時は流れ、