悪魔の実 Sレア   作:もやしモン

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第十二話 過去編に入る……と思っていたのか?

 

 ──山奥の研究施設。外は吹雪いているのに、内部は機械の唸る音と、異様な熱気に満ちていた。

 俺は額の汗をぬぐいながら白衣の男──ベガパンクに問いかけた。

 

「それで、ここどこっすか?」

 

「偉大なる航路の何処かにある島だ。バッカニア族のくまと繋がっているのを、バレるわけにはいかんからな」

 

 答えは曖昧だったが、その声音には明確な“壁”があった。俺が踏み込むことを警戒している、というより……その背後に、何か国家的な事情があると誰でも察するだろう。

 

「へぇ、ていうか、くまさんと政府の人間が、なんで知り合いなわけ?」

 

「何をいう、お前がきっかけじゃろうが」

 

「俺?」

 

 耳を疑って指を差すと、ベガパンクは白衣の裾をひるがえしながら、まるで昨日の昼食でも思い出したかのように言った

 

「嗚呼、ワシが記憶消したんじゃったか。覚えていないのも無理はない」

 

 ……。

 

 ……は?

 

「はぁぁぁぁぁ!? 何やってくれてんだジジィ!!」

 

 島中に俺の悲鳴がこだました。

 爆発の音より響いたんじゃないかってくらいだ。

 

「いや、お主が『失恋してマジで辛いから記憶消して』って言ったんじゃよ」

 

「誰だ、そんなテキトーな理由で消したバカは!?」

 

「だから、お主じゃって」

 

 何やってんだ俺。いや、やりそうではあるが……流石に失恋で記憶を消すは無いだろ。

 

「そう。あれは、いつじゃったか。まだ幼い子供の頃、ボルサリーノが」

 

「あ、そういうのいらないです」

 

「えっ!?」

 

「俺、過去は振り返らないタイプなんで」

 

 なんか今、過去回想が始まりそうな雰囲気だったが、そんなのは必要ない。

 俺が知りたいのは、昔の物語じゃなくて、“今、どう強くなれるか”だ。

 

「……本当にいいのかい? 知りたがっていただろう?」

 

 くまさんが、少し寂しそうに俺を見つめていた。

 けれど、俺は笑ってみせる。

 

「くまさんとジニーさんが、許してくれるなら、ですけど」

 

「どういう意味だい?」

 

 くまさんが首を傾げる。

 俺は静かに息を吐いて、ゆっくり言葉を紡いだ。

 

「俺のことは、俺が一番知ってます。たぶん、ジニーさんを救うためにドクターベガパンクを頼ったんでしょう。そこから、何かが起こった。育ててくれた恩人の大事な思い出を消したいほどの何かが」

 

 関係は良かったはずだ。何も言わず消えた俺を、くまさんはずっと探してくれていたんだから。

 

 それでも、俺は──いや、“過去の俺"は、記憶を捨てた。

 

 そんな優しい人たちとの思い出ごと、過去を切り離した。

 それだけ、過去の自分を終わらせたかったんだ。

 

 記憶ってのは、その人の人生そのものだ。

 それを自分の意思で手放すなんて、ほとんど“死ぬ”のと同じだろう。

 

 でも──それを選んだのが、他でもない俺なら。

 その覚悟を、今の俺が踏みにじるわけにはいかない。

 

「過去の俺は、きっと“生まれ変わる”ために記憶を消したんです。

 なら今の俺は、“その想いを無駄にしないために生きる”番だと思ってます」

 

 静かな沈黙が、研究室に落ちる。

 爆弾のように騒がしい心臓が、妙に穏やかだった。

 

「俺は、ミス・バレンタインのために強くなりたい。推しの為に、彼女がやりたいことを出来るように、強くなりたいんです」

 

 自分でも笑ってしまうような理由だ。だが、胸の奥は不思議と熱かった。

 

「過去の俺が泣いてようが、怒ってようが、今の俺が笑えるなら……それでいい」

 

「ふむ……」

 

 ベガパンクが髭を撫でながら、難しい顔をする。

 

「つまり、お主は“過去の原因”ではなく、“今の目的”で強くなりたいと?」

 

「はい」

 

 ベガパンクが口の端を吊り上げた。

 

「強くなりたい理由が恋愛感情とは、実に面白い動機だ。恋する脳はドーパミンを分泌し、集中力と学習能力を飛躍的に——」

 

「恋愛じゃなくて“推し活”です」

 

「いや、そこはよくわからんが」

 

「いや、めちゃめちゃ大事なことだから」

 

 推しに恋愛感情を持つなどナンセンス。適切な距離で、元気な姿を見られるならそれだけで俺は満足だ。

 

 くまは目を閉じ、わずかに笑った。

 

「いいんじゃないか。ジェム。君らしい。ジニーもきっとそう言うさ」

 

 あの巨大な手が、そっと俺の肩を叩く。

 その温もりは、とても、温かかった。

 

「強くなれ。——“Mr.5”として」

 

「はい。ありがとうございます」

 

 俺は、ぐっと拳を握った。

 爆弾のように、心臓の奥で火花が散る。それは懺悔でも、後悔でもない。ただ純粋に、推しのために生きるという覚悟だった。

 

「では、よろしくお願いします。ドクターベガパンク」

 

 深々と頭を下げて、改めて、返事を待つ。

 

「ぺぺぺ、やはり、お主は面白い。よかろう。この天才の頭脳を持って、お主と共に、ボムボムの実の強さを証明してやろう」

 

 

 ──────

 

 くまさんは、革命軍の仕事があると、お礼を告げて別れた。

 

 ベガパンクと2人になると、研究室へと案内された。ここは、別荘のようなものと言い、暇な時に、色々持って来たようだ。

 背後の棚から厚い資料を取り出し、机の上にドンと広げた。そこには見慣れない記号や数式が並んでいる。

 ……いや、数式だけじゃない。爆風の拡散図、熱量の変化、酸素と窒素の化学反応、衝撃波の分布……見ただけで頭が痛くなるような情報量だった。

 

「お主、自分の能力を“感覚”で使っておるじゃろう?」

 

「使ってる、ですね。ドカンって感じで」

 

「それでは伸びん。悪魔の実の能力は、“発想”と“理解”で無限に広がる。……爆弾とは何か、説明してみなさい」

 

 爆弾……爆弾って、なんだ?

 

 今まで俺にとって“爆弾”は、ただの手段だった。鼻くそを弾けば爆発、パンチすれば爆発──理屈も何も考えちゃいなかった。

 でも、それじゃダメなんだ。くまさんのように利用出来てもいないし、ベガパンクが言う「理解」は、その先にある。

 

 ダイナマイトや核爆弾、それに俺が普段行っている爆発。

 

 これらに共通しているものはなんだ?

 

「……」

 

 思考がぐるぐると回り始める。

 

 爆発の瞬間、空気が震える。熱が生まれる。光が走る。物が吹き飛ぶ。音が耳を打つ。

 

 全部、一瞬の“反応”から始まっている。

 

「……爆弾ってのは、内部に詰まったエネルギーを、一気に外に解き放つ……そういう仕組み、ですよね」

 

「ほう?」

 

 口から出た言葉は、思っていたよりもしっかりしていた。

 

「中には……酸素とか、火薬とか、爆発の元になるものが詰まってて。それが一瞬で反応して、膨張して、周囲を押し広げる……熱とか、衝撃とか、いろんな現象が一気に起きる」

 

 言葉を探しながら、両手を握っては開き、空気を掴むように動かす。

 頭の中で、今まで“感覚で使っていた爆発”が、少しずつ構造を持ち始める。

 爆発とは、ただの“現象”じゃない。それは、エネルギーの蓄積と、解放の連鎖だ。

 

「つまり……爆弾ってのは、“仕掛けられたエネルギー”と“引き金”が揃ったときに発動する……“現象の装置”みたいなもん……です」

 

 そう言った瞬間、ベガパンクの機械目が一瞬だけカッと光った。

 

「ぺぺぺ! なんじゃ、思ったよりも考える頭があるのう!!」

 

「思ってたよりってなんだ、思ってたよりって!」

 

 俺は、息を吐きながら額の汗をぬぐった。たった一問答えただけなのに、妙な疲労感がある。

 でも、同時に胸の奥に小さな灯がともった。

 今まで“当たり前”だと思っていた爆発に、構造と意味がある──そのことを初めて自分の頭で理解した気がしたのだ。

 

 ベガパンクは高笑いを機械音で響かせると、机の上の資料をバシバシと叩いた。

 

「お主のいうとおり。爆弾とは“化学反応による急激なエネルギー解放”じゃ。

 圧力・熱・衝撃・酸素供給・媒介反応……それらが一瞬で連鎖し、膨大なエネルギーを放出する。お主はその“結果”だけを力だと思っておる。だが──」

 

 ベガパンクは俺の胸を指差した。

 

「お主が“爆弾の理”を知れば、爆発を自在に組み立てることができる。破壊だけでなく、伝達・防御・推進・衝撃制御・内部破壊──応用は無限大じゃ」

 

 その言葉が、心の奥にズシンと響いた。

 爆弾の要素を理解して、組み替えて、分解して、自在に使う。

 

「……そんな事、考えた事もなかった」

 

 ベガパンクの目がカッと光った。

 

「爆弾とは、愚か者が扱えばただの破壊。だが、賢者が扱えば“世界を変える力”にもなる……どちらになるかは、お主次第じゃ」

 

 背筋に、ぞくりとしたものが走った。

 この人は冗談を言ってるわけじゃない。

 世界を揺るがす力を、本気で理解している。

 

「ははっ、乗せるのが上手いなドクター。やってやるぜ」

 

「うむ、それでよい。さぁ、楽しい化学実験じゃ。敬語もいらんぞ」

 

 ベガパンクの口調に、ほんの少し愉悦が混ざっていた。

 爆弾を感覚で使っていた俺が、“爆弾の理論”を叩き込まれる日々が始まる──。

 

 

 ──────

 

 

 ……これは修行というより、拷問じゃないか?

 

 俺は天井からぶら下がった金属フレームの中に押し込まれていた。腕も脚も固定され、逃げることはできない。周囲には、見たこともない数式と管だらけの機械。足元には厚さ数十センチの鋼鉄板が敷かれている。

 

「準備はいいかね、ジェム」

 

 白衣を翻し、ベガパンクが端末を操作する。淡々とした口調が逆に怖い。

 

「……いや、良くないなぁドクター。これは一体なにを──」

 

「“爆弾”を、自分自身で再現してもらう。酸化・燃焼・爆轟波の三段階を、すべて君の体内でな」

 

「俺の体を爆弾にするって……それ、いつものことじゃ──」

 

「違う。今までは“爆発した”だけだ。今からは“なぜ爆発が起こるのか”を、一秒ごとに意識してもらう」

 

「説明が足りな過ぎる。これでなんで強くなれるんだ?」

 

「お主はボムボムの実の爆弾人間で、爆発人間ではないということは理解しているな?」

 

「嗚呼」

 

「つまり、爆発を生み出すだけではなく、爆弾を構成する要素すべてを自在に操れる。熱、圧力、振動、衝撃波、燃焼に分解出来るとは思えないか?」

 

「さっき言っていたな、それ。これが?」

 

「さよう。お主は、体内から生み出したものを爆弾に変えている。それは、お前自身の体が、爆発の原理そのものなんだ。爆薬を“使う”存在ではなく、爆薬を“構成する”存在になっているのじゃ」

 

 言葉の意味は理解できる。だが、心が追いつかない。

 今まで俺は、「鼻くそを弾いて爆発」「パンチを爆発」「息を爆発」……それしかしてこなかった。どれも“起爆”という一点に能力を集中させていた。

 だが、ベガパンクの言う「分解」とは、それとはまるで違う領域だ。

 

「力とは、理解した分だけ使えるようになる。悪魔の実も、例外ではない……お主は、今まで、“爆発”する能力だと思い込み、それ以外を切り捨ててきた。だが、それはほんの一部に過ぎない」

 

「ほんの……一部……」

 

 爆発は、確かにエネルギーの解放だ。でも、その前には“蓄積”と“構成”がある。酸素、熱、圧力、摩擦、火花──それらが揃って初めて爆発は生まれる。つまり、俺が“爆弾”そのものであるなら、それらの要素も自在に操れるはずなのだ。

 

「……よし、やってくれ」

 

「よろしい。では、開始だ」

 

 ベガパンクが端末に触れると、周囲の空気が急に重くなった。天井のノズルから酸素と窒素が吹き出し、空気中の濃度が人工的に変えられていく。微妙な変化が肌に刺さる。

 

「第一段階──酸化反応。君の肺に取り込んだ酸素を“燃料”に変えるんだ」

 

 酸化反応、授業でそんなことやったな。

 確か、化学式にO₂(オーツー)、つまり"酸素"を取り込むと変化する現象のことだっけか?

 

 つまり、O₂(酸素)を取り込んで……C(炭素)と結びつけて……燃焼反応を……?

 

 理解が遅れれば、そのまま内部で酸化熱が暴走する。

 胸の奥でチリチリとした熱が走った。爆発の“予兆”だ。

 

「おいドクター!! これ、ミスったらどうなる!?」

 

「爆発する」

 

「だよなァ!!!」

 

 だが、その瞬間、なぜか笑っていた。

 危険だというのに、心の奥がワクワクしていた。初めて、“爆弾”の中に自分が踏み込んでいる感覚だった。

 

「第二段階──燃焼反応。温度を意識して制御するんじゃ」

 

 体内に熱が走る。汗が噴き出す。

 熱を上げすぎれば爆轟になる。低すぎれば不発。ギリギリの温度を保ちながら、呼吸を合わせる。まるで細い綱の上を走るような感覚。

 

 集中しろ。爆弾は俺だ。俺が爆弾を“起こす”んだ。

 

 体の奥から、重く深い“ドン”という鼓動が鳴った。

 その瞬間、掌の中に──何故か火が生み出された。

 

「……あちちちち!! 火が出た!?」

 

「落ち着け、暑さは感じないじゃろ?」

 

「お? 確かに……そりゃ、爆発の火も効かんし、そりゃそうか」

 

「ちなみに失敗じゃからな、それ」

 

 ベガパンクが淡々と言い放つと、実験室に一瞬の静寂が流れた。

 掌の火はパッと消えたが、指先には炭の匂いと、ほんのり焦げたにおいが残る。

 

「ちょ、ちょっと待てよ!火が出たら失敗なのかよ!」

 

「確かに、温度は上げた。しかし制御が甘く、局所的に燃焼が一気に進んだ。つまり“部分燃焼→不均一な熱膨張”が起き、火炎を生んだ。

 目的は燃焼そのものではなく『反応の均衡』のはずじゃ。炎が出るのは調整不足の証拠だ」

 

「……これはこれで使えそうだが、温度の調整はできてないか」

 

「だが失敗は有益じゃ。データが取れた。次に活かせ」

 

「温度を感じないのに、どう調整すればいいですかね?」

 

 ベガパンクは鼻で笑って操作盤の小さなレバーをいじる。

 

「感覚を『熱さ』で捉えるな。熱は結果だ。お主は今、『生成するエネルギーの速度』を意識しろ。

 呼吸を“メトロノーム”にして、吸気で酸素供給量を微分し、吐息で反応の拡張率を抑える。言うなれば、火を起こすのではなく、火の“時間幅”を伸縮させるのじゃ」

 

 相変わらず何言ってんのか分からん。

 

 とりあえず、吸う時と、吐く時の酸素を意識してやってみよう。取り込んだ酸素を、体内にある熱へとエネルギーを送るイメージで。

 

 深く息を吸って、ゆっくり吐く。吸うときに酸素を“僅かにだけ”引き込み、吐くときに胸の内を“軽く閉じる”感覚を持つ。火を出すのではなく、熱の立ち上がりをゆっくりにする。

 

 数度目のトライ。胸の奥でぬるりとした熱が生まれたが、指先には炎は見えない。代わりに掌の内側に柔らかな光が灯り、モニターの温度グラフは滑らかな山を描いた。

 

「……お?」

 

 ベガパンクの目が細まる。モニターの数値が安定し、耐爆パネルのセンサーも均一な分布を示している。

 

「よい。確かに燃焼反応は起きている。温度は臨界点を超えず、反応速度は均衡している。それが『制御された燃焼』だ」

 

「ふぅ……成功か?」

 

「成功じゃ。初歩中の初歩だが、お主にとっては第一歩だろう。次はこの温度帯で、膨張を回路に流し込む調整を覚える。そうすれば、手でお湯を沸かすことも、熱を打撃に変換することもできる。アツアツの実に似たようなものじゃな、流石に温度は向こうが上じゃが」

 

「……すっげぇな」

 

 別の悪魔の実の再現とか出来るのね。

 

「第三段階──爆轟波の形成」

 

 ベガパンクの声と同時に、金属フレームの拘束が一瞬だけ解かれる。

 俺は反射的に右手を前に突き出した。次の瞬間、掌の周囲の空気がねじれたように歪み──

 

 “ボン”という音すらなく、鋼鉄板が中央から陥没した。

 爆発ではない。衝撃波だけを切り出した“無音爆破だった。

 

「……こ、これは……」

 

「爆弾は音でも炎でもない。反応と圧力の制御だ。君はようやく、入り口に立った」

 

 ベガパンクの目が光る。

 その顔を見て、俺は悟った──ここから先、地獄のような日々が待っていると。

 

 だが、心のどこかで、確かに感じていた。

 自分が“爆弾”を初めて自分の意志で扱えた、この高揚感を。

 

「……上等だ。もっとやってやる」

 

 

 ────

 

 また、別の日、今度は戦闘に関する、ボムボムの実の使用方法について、考えることになった。

 

「くまとの戦闘データを見させてもらったが、はっきりいうと、宝の持ち腐れ。能力が下手。単純過ぎる。頭空っぽ」

 

「言い過ぎだろ」

 

 泣くぞ。

 

「肘を爆発させてから攻撃に転じるのは悪くない。だが、お主は“爆発=攻撃”の固定観念に縛られている」

 

「というと?」

 

「守る事も覚えろという事だ。いつも怪我だらけだと聞くが?」

 

「うっ……その通りです。でも、武装色は苦手で…」

 

「覇気か、それはいずれ出来るだろう。出来ないことを今すぐにやれというのは酷じゃ。今出来る悪魔の実の能力を使う」

 

 ベガパンクは背を向けたまま、床に描かれた円の中へ入るように俺を手招きした。

 

「次は、“出す場所”と“止める場所”を変える訓練だ。そこに立て」

 

 言われるがまま、円の中心に立つ。周囲には壁ではなく、透明な耐爆パネルが囲んでおり、無数のセンサーが取り付けられている。まるで俺自身が実験装置の一部になったみたいだ。

 

「爆発の“熱”と“衝撃”を体表に沿わせ、意図的に外へ逃がさないようにしてみろ。簡単に言えば……内圧をコントロールするんだ」

 

 簡単に言って、難しいのなんとかしろ。

 え〜っと、つまり、今まで外側に放出していた爆発を、体内で爆発させることで……だからなんだ?

 

「内圧を自在に扱えれば、“攻撃”だけでなく、“防御”や“強化”にも転用できる」

 

 おお、流石天才。俺の表情で全部理解してやがる。

 

「普通の生物なら、内側で爆発を起こせば膨張し、内圧に耐えきれず破裂する。だが君は“爆弾そのもの”だ。つまり——爆発を『発生』させる場所と、『逃がす』場所を選べる」

 

「……逃がす場所?」

 

「そうだ。肘の爆発は外へ放出した例だが、今度は皮膚と筋肉を“外壁”として利用し、圧力を内側に巡らせるんだ」

 

 ベガパンクは手元のホログラムで、人体と爆発の流れを示す映像を表示した。

 

「これは普通の構造では無理だ。だが悪魔の実は、物理法則の一部を書き換える。お主の体は爆薬の塊でありながら、人間の骨格と筋肉を模している。だからこそ、“爆発を燃焼や膨張ではなく、圧力の流路”として操作できる」

 

「……つまり、爆発が“膨らむ力”じゃなくて、“体を内側から締め上げる力”になるってことですか?」

 

「その通りだ。ゴムが膨らむのではなく、鉄球が内側から圧縮されると考えればいい」

 

 ベガパンクは操作盤を叩き、周囲の耐爆パネルが音もなく閉じた。俺はいつの間にか、完全に実験室の中央に閉じ込められていた。天井にはセンサーがびっしりと並んでいる。

 

「これからお主の身体を“内爆圧の循環炉”として使う。まずは胸部に小規模な爆発を起こし、外に漏らさず全身へ均等に拡散させろ。

 膨らませるな。外に逃がすな。体の中で流れを作るんだ」

 

「そんな器用なこと、できるかよ……!」

 

「できるとも。お主は今まで、“無意識”にやってきた。肘の爆発も、鼻くその爆発も、すべては無意識の流路だ。それを今度は“意識的”にやる」

 

 ぐっと拳を握る。内側で爆発を“閉じる”なんて、想像もしたことがなかった。

 でも、ベガパンクの言葉が脳裏に引っかかっていた。

 ──爆発は放つものじゃない。“発生”が本質だ、と。

 

 深く息を吸い、胸の奥に意識を沈める。

 いつもは肘や指先に集中していた力を、今度は胸骨の内側へと引きずり込む。じわじわと熱が集まり、胸の中で火種が膨らむ。

 

 ドン——。

 

 一瞬、膨らみそうになった。けれど、踏ん張って意識を“外”に逃がさない。

 代わりに、爆発の圧力を“全身に散らす”イメージを強く描いた。

 足の裏、肩、背骨……圧が四方八方に走り、体の奥を縫うように巡っていく。

 

「……っ、うおお……!」

 

 膨張は起きなかった。

 代わりに、体の芯がギシリと軋むような重圧が生まれ、全身が一枚の金属板のように固く締まる。

 床を踏み込むと、まるで体重が数倍になったように石畳が低く唸った。

 

 ベガパンクのモニターが一斉に光る。数値の波が整い、均等な内圧の流れが映し出されていた。

 

「成功だ。外に漏れなかったな」

 

「……はぁ、はぁ……すげぇ……これ、外に出してないのに、力が内から湧いてくる……!」

 

「当然だ。爆圧を“内側に閉じ込めて巡らせる”ことで、お主の肉体そのものが締め上げられる。防御力と安定性は桁違いになる。

 攻撃の反動も殺せる。重い衝撃を受けても、砕ける前に内圧が拮抗する」

 

 ベガパンクは満足げに頷いた。

 俺は拳を見下ろす。見た目は何も変わっていない。でも、確かに“中身”が違う。

 爆弾が、ただ爆ぜるだけの存在じゃなくなった気がした。

 

「でも、動くのはちょっとまだ無理そうだ」

 

「初めてで成功させれば大したものだ。海軍の将校たちが使う六式の鉄塊のようなものじゃが、あれも動くことはできぬ。だが、お主のその技は、圧力を自在に操れれば?」

 

「動くことも出来るね……」

 

「そそるじゃろ?」

 

「そそるわ、これは」

 

 

 そして、時は流れ、

 

 

 

 

 





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