悪魔の実 Sレア   作:もやしモン

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第十四話 チェリーパイ同好会解散!!

 

 俺とティーチの拳がぶつかり合う音が、島の静寂を裂いた。

 爆発音と木々の断裂音が重なり、獣たちが悲鳴をあげて森の奥へ逃げていく。砂と葉が舞い、空気の密度が一瞬変わる。

 

爆歩(ばくほ)

 

 足元を爆発し、その反動で宙へと浮かび上がる。

 更に、圧力で“空気の足場”を瞬間的に形成し、次々と踏み換える。空中で方向転換するたび、圧縮された爆気が白い軌跡となって散り、俺の身体はスーパーボールのように跳ね回った。

 

 そして、急停止。止まったのは、ティーチの頭上──奴の視線の届くギリギリ外側。

 そこから俺は踵を振り下ろし、背中の爆圧を推力に変え、垂直の線のまま奴の頭蓋へ迫る。

 

「おらぁッ!」

 

「ちっ!」

 

 ティーチは腕を交差させて受けたが、衝撃が地面に深い亀裂を刻んだ。

 だが衝撃は終わらない。俺は接触点へ爆圧を集中させ、内部に押し込むように解放した。

 直線的な圧力の芯が腕を突き抜け、奴の体内へ深く食い込む。ティーチが血を吐き、膝を折りかける。しかし、倒れない。

 

 すると、奴が、俺の足首を掴み、薄ら笑いを浮かべてきた。

 爆発で振り払おうとしたが、そこで違和感に気がつく。

 

 ──能力が……使えない?

 

 考える間もなく、奴に引き寄せられた体勢のまま、腹部へ拳が突き刺さる。

 

「がはっ!?」

 

 ただの人間とは思えない一撃。胃が裏返るような衝撃。岩へと殴り飛ばされ、体から空気が抜けた。

 

「なかなか効くなぁ、お前の攻──」

 

 言い終える前に、周囲で空気が弾けた。

 

不可視の息弾(キラーマイン)

 

「ぎゃぁ!!」

 

 空中で撒いておいた“見えない息の爆弾”が炸裂し、ティーチが地面に転がり込む。

 

 ──能力は発動出来ている。だが、先ほどの瞬間は発動できなかった。

 つまり、気をつけるべきは──あの掌か。触れられた瞬間だけ、能力を奪う能力。

 

「厄介な能力に、化け物みたいな耐久……参るよ、まったく」

 

 こちらの技は効いている。というか、普通の奴よりも、効きは良いように見える。悲鳴とか聞こえるしな。

 けど、ティーチはダメージを負いながらも、まるでHPバーがやたら長いゲームボスのように、立ち上がってくる。爆発もあまり効果がないようにみえる。

 

 ──いや、何でやねん。普通爆発したら死ぬんだわ。この世界の奴らはどいつもこいつもピンピンしやがってからに。

 

 このままのんびりしていたら、こちらが削り切られる。消耗度外視の短期決戦だ。

 爆圧で瓦礫を吹き飛ばし、距離を取る。

 

「逃げても無駄だぁ。黒渦(くろうず)!!」

 

 闇が渦を巻き、巨大な引力が発生する。

 体が引き寄せられ、足が地面にめり込むように重くなる。まるで重力の沼に沈む感覚。

 触れられたら終わりだの状況だったが、俺は冷静だった。

 

 ──ベガパンクに鍛えられた化学によるボムボムの力、見せてやるよ

 

衝光玉(フラッシュバン)!」

 

 掌の奥で瞬間的に爆圧を広げ、光と高周波を同時に放つ。目の前が白く弾け、世界が一瞬だけ無音に包まれる。

 

「小賢しい!!」

 

 スタングレネードのような音と光の目眩し。視界を奪おうと、見聞色の前では無意味。だが、一瞬の硬直さえあれば、十分だ。

 

 右手の指を揃え、“円錐の空洞”をつくる。

 その内側に、圧が跳ね返る壁をつくる。爆圧は構造で強度が変わる。円錐なら圧力は先端へ集約され、一点突破の“穿孔力”へ化ける。

 

 外側へは一切の気配を漏らさず、手の内部だけが一気に熱を帯びる。殴りつける瞬間、俺は掌に隠した逆円錐を“前へ向けて開放”した。

 

衝爆棘拳(パンツァーフィスト)!!」

 

「ぎっがぁぁぁっ!?」

 

 触れたのは皮膚の表面だけ。外側はびくともしないのに、内部だけが沈む。頑丈な体でも、内部は別だ。この攻撃は、戦車の硬い装甲すら打ち抜ける。

 

 息を呑むより早く、巨体が揺らいだ。内臓をひっくり返されるかのような痛みのはず──だが、ティーチは倒れなかった。その手を掴みとられ、ぴくりとも動かない。

 

「……捕まえたぞ」

 

「耐えやがっ──!?」

 

 ティーチの逆手が、俺の首に強烈な一撃を叩き込む。地面を転がり続け、痛みが全身を駆け抜ける。空気が押し出され、肺が悲鳴をあげる。

 

 能力を封じられれば、体内で爆発させ、爆圧での防御力を強化することもできない。久しく忘れていた痛みの中で俺は、生の実感を噛みしめていた。

 力を求める者達の頂点が、ここにあるのかもしれない──そう思うほど、俺は何故か笑っていた。

 

「げほっゴホッ!……つえぇな。世界すら飲み込めるんじゃねぇか? その闇は」

 

「ゼハハハ…… “世界”なんざ、最初から呑まれてるんだよ!! だからオレは、世界が欲しいんだ!!」

 

「世界なんて興味ねぇよ。俺はただ、強さが欲しいだけだ」

 

「何故、それほどまでに強さにこだわる? 高みを目指したところで、人には限界がある。この世界は、持って生まれた素質で、全てが決まるんだからな!!」

 

「……出たわ、その理論。大嫌いなんだよ」

 

 俺は苛立ちを込め、指を銃のような形に構え、先端に火を抽出。爆炎を圧縮し、指向性を極限まで高める。

 

火絨弾(ナパームボム)!!」

 

 放たれた瞬間、空気を切り裂く尾を引き、対象の心臓を爆芯として燃焼。悪魔の咆哮のような轟音が鳴り響く。その炎は、燃え続ける……だが──。

 

「なに?」

 

 火が奴にたどり着く前に消失した。何かに丸呑みされたかのように、一瞬にして消えたのだ。ニヤニヤとティーチがあざ笑う。

 

「どうした? 間抜け面さらしてる場合か?」

 

「かっ!?」

 

 次に見えたのは、地面。

 叩きつけられる衝撃で、肺の中の空気がすべて抜ける。

 

 ──息が、吸えな……いや、空気が無い?

 

「爆発ってのは酸素を使うもんだろう? その酸素を奪われりゃ、お前は無力だ!」

 

 ──そういうことか。野郎、闇で真空状態を作って、火絨弾の周りの酸素を消しやがったんだ。

 

 体表を這う黒い靄が地面を飲み込み、やがて視界を真っ黒に塗りつぶした。

 

 視界が揺らぎ、意識が遠のきかける。

 黒い渦が視界を埋め、肺が悲鳴を上げる。

 

「……ねぇ……なら、作れば……いぃだ……ろ」

 

「あぁ?」

 

 ティーチの闇が港を覆い、空気そのものを奪っていく。肺が焼けるように痛い。

 爆発を起こそうにも、酸素がねぇんじゃ燃焼が続かない。完全な真空に近い。普通なら終わりだ。けどな──爆発はそうじゃない。

 

 右手を開く。微細な爆薬反応を体内で連鎖させ、掌の空間を極限まで圧縮。

 

臨界圧(ツァーリブラスト)!!」

 

 瞬間、俺の全身から放たれた爆風が、周囲の闇を押しのけた。

 

 だが本命はその“後”だ。押し出された空気のあとに生じた減圧域が、遠くの空気を猛烈な速度で引き寄せる。

 水をすくうと周りの水がすくった場所に集まるように、闇の中に酸素が“戻って”いく。

 

「はぁぁぁああ!! 死ぬかと思った!!」

 

 肺が久しぶりに膨らむ感覚に、思わず叫ぶ。

 肺いっぱいに空気を吸い込み、爆風で海が荒れ、風が吹き荒れる。

 

 爆発の原理を逆算すれば、前方では圧縮、後方では減圧が起きる。

 その真空を埋めようと周囲の空気が流れ込み、結果として“酸素が戻る”。

 

「……そうか。お前は爆弾人間。酸素を燃やすんじゃなく、爆発の構成物質そのものを生み出せるのか」

 

「正解だ。頭が回るな」

 

 空気が金属のように悲鳴を上げ、火花が波頭を照らす。

 ティーチが歯を見せ、愉快そうに笑った。

 

「ゼハハハ!! なるほどなァ。お前の能力、他の奴が食ってりゃ、せいぜい鼻くそだの、体の垢を飛ばす程度だろうよ!」

 

 ──妙に具体的だな。

 

「まぁ、勉強と、ちょっとのズルのおかげだけどな」

 

 鼻から流れた血を拭いながら、俺は遠い記憶を思い出していた。

 

 ──────

 

 ベガパンクとの修行中の時だ。くまさんの飛ばしてもらいたどり着いたのは、エッグヘッドと呼ばれる政府の島。そこにはベガパンクの研究施設と、巨大な培養液の中で浮かぶ異様な頭部──ベガパンクの頭脳があった。

 

『パンク……何?』

 

『パンクレコーズじゃ。私の脳を切り離した、知識の図書館じゃな。アクセスすれば、全人類が私の知識を共有できる代物じゃ』

 

 ──wikiかよ。木造の船が主流のこの時代で、これは完全にチート技術だろ。

 まあ、この島には空飛ぶ靴だの、ホログラムだの、常識のほうが負けてるけどな。

 

『なんでそんな話を俺に? まさか』

 

『お主が被験体第一号じゃ。お主の脳にパンクレコーズのアクセス権を埋め込む』

 

『はぁ!? なんで俺!?』

 

『今まで過ごしてきた仲で、お前は根っからの悪人じゃ無いと分かったからな。それにゆするネタもあるし』

 

『クソジジィ!!』

 

 ──絶対嫌だ!! 俺に(サテライト)になれってか!?

 

『お主を強くするため、ワシが手を貸した時間があれば、どれほどの発明が生まれたことかのぅ……チラチラ』

 

『ぐぬぬ……圧が強ぇな……戦闘丸!! なんとか言ってやってくれよ!!』

 

 隣でおにぎりを食べていた戦闘丸に助けを求めたが、何かを悟ったかのように俺の目をじっと見つめてくる。

 

『嗚呼〜……頑張れ』

 

『諦めはえぇ!?』

 

 ──世界一のガードでも、俺を守るの無理なのかよ!?

 

『何、心配いらん。ちょっと脳に機械が埋め込まれるだけじゃ』

 

『それが嫌なんだって言ってんだよ!!』

 

『言ったか?』

 

『脳内でな』

 

『言ってないではないか』

 

 結局、人体実験は決行され、無事にパンクレコーズのアクセス権を手に入れさせられたわけだ。

 

 

 ──────

 

 

 なぁにがちょっと脳内に機械を埋め込むだけだ。

 

 パンクレコーズにアクセスすると、情報は洪水のように流れ込み、脳が処理しきれず、糖分を摂取し続けないと吐き気と頭痛のダブルパンチ。

 長時間は無理で、一戦闘につき一回が限界。その一回までに可能な限りの情報を集め、パンクレコーズへと接続しなきゃいけないわけだ。

 

 ──まぁ、何が言いたいかというとだ。

 

「……お前の闇を攻略する方法を思いついた」

 

 その言葉に、ティーチの笑みが深くなる。

 口角が裂け、瞳孔が狂気で揺れる。

 

「ゼハハハ!! 闇の力を打ち破るだと!? おもしれぇ! やってみせろよ、爆弾野郎!!」

 

 ──だが、こいつの闇を攻略するには隙が無いとダメだ。一対一の今の状況じゃどうやっても無理。どうする?

 

 そう思ったその瞬間、ティーチの背後。

 

「1万キロストライク!!」

 

「ぐぉぉっ!?」

 

 轟音とともに、ティーチの体が真横に吹き飛ぶ。

 飛び膝蹴りで蹴り飛ばしたのは、黄色の影だった。

 

「無事?」

 

「ミス・バレンタイン…! なんでここに!?」

 

「任務で近くにいたのよ。まったく、放っておくとすぐ死にかけるんだから!」

 

 風を切るように、彼女の背のパラソルがひらめく。

 月光に反射する銀色の骨組みが、綺麗で、場違いなほど美しかった。

 

「気をつけろ。アイツの手のひらに触れると能力が使えなくなる。それと──あの黒いモヤは引力の塊だ。使われたら逃げ場がない」

 

「何その能力。強すぎでしょ……!」

 

 ティーチが、瓦礫を押しのけながら立ち上がる。

 口角が裂け、黒い霧が再び溢れ出した。

 

「ジェムと飲んでた女か……2人まとめて相手になってやるよ」

 

 掌が掲げられ、夜空が飲み込まれる。

 闇が広がり、重力が空気ごと歪ませる。闇の縁に近づくだけで、足が地面に縫い付けられる感覚。

 

「ミス・バレンタイン、下がっててくれ。アイツの狙いは俺だ」

 

「バカね、下がる気なんてないわよ。援護任せるわ」

 

 ──援護?

 

 俺の答えを聞かずに走り出すミス・バレンタイン。何か策があるようだ。だったら、信じるだけだ。

 

鼻空想砲(ノーズファンシーキャノン)!」

 

 ティーチよりも闇の届かぬ遥か前方で爆発。爆風に巻き上げられた砂が視界を遮る。

 

「良い、風圧っ! 」

 

 その爆風に乗り、彼女から飛び上がる。だが、いつものように高高度では無く、ティーチの頭上を飛び越える程度。そして、奴の肩にふれる。

 

()()()()()()()

 

 声音は静かで、いつもの皮肉じみた調子をわずかに帯びつつ、どこか凜としていた。

 ティーチが振り返るより、彼の足元が沈み込むほうが早かった。骨が、筋肉が、軋む音が空気を震わせた。

 地面が割れる。土台の岩盤が悲鳴を上げる。ティーチの両膝が、限界に達した柱のように崩れ落ちた。

 

「っ!? な、なんだ、体が重いっ!」

 

「私は()()()()()()()()()()の重さを変化出来る」

 

 ──いつのまにあんな芸当を。

 

「ゼハハハッ……油断したぜェ……いい能力じゃねぇか……だがッ!」

 

 地面からゆっくりと、だが、確実に体が動き始めた。

 

「嘘っ……! 十トンの体で、なんで動けるわけっ!!」

 

「オレは闇だ。闇は、引力を操り、引力は、質量が大きければ大きいほど強くなる!!」

 

 ──間に合え!!

 

「爆歩ッ!」

 

 爆発を最大にし、キリモミ回転しながら、闇のふちをなぞるように滑り込み、ミス・バレンタインの腰を抱えたまま飛び去った。

 

「っ……!」

 

 黒が大地を這う。先ほどよりも明らかに質量のデカい闇。ほんの一歩遅れていたら、二人まとめて闇に飲まれていた。

 

「あっぶねっ! ギリギリセーフっ!」

 

「ちょ、ちょっと……! どこ掴んでんのよっ!」

 

「今そういうこと言う!? 命のが先だろ!?」

 

 奴と距離をとり、彼女をそっと下ろす。

 息がまだ荒い。俺も同じだ。ティーチは闇を再構築しながら、目を細めてこちらを見ている。

 

「はぁ……はぁ……言ったでしょ、あんたは援護してって」

 

 彼女は照れも怒りも見せず、ただ淡々と、悔しさだけを滲ませて吐き捨てる。

 

「君とアイツじゃ相性が悪い」

 

 ──さっき思いついたものはやはり無理だ。彼女を危険には晒せない。ここは逃げる方法を考える方が。

 

「……まだ私は負けてない。あんたの足手纏いになんて……なりたくないのよ」

 

 それは強がりでも毒舌でも皮肉でもなかった。ただ、真っ直ぐで、脆くて、それでも折れていない何か。

 俺はそれを知っている。その横顔を見つめ、胸の中がじんわり熱くなる。

 

 ──そうか、君も同じ気持ちだったのか。

 

 俺は最初、君の隣に立ちたくてずっと力をつけたかった。君に心配されたくなくて、安心させたくて、置いていかれたくなくて、ただ強さを求めた。

 そして今、君もまた俺と同じように、知らないところで力をつけて、隣に並ぼうとしている。

 

 ティーチは重さをねじ伏せ、なおも笑いながら近づいてくる。

 空気が揺れ、押し寄せる“吸い込み”が地面をズルズルと削っていく。

 

 俺はミス・バレンタインを庇うように前に立つ。すると、彼女は唇を噛み、悔しさをあらわにする。

 

「また……またそうやって、あんたが先にっ!」

 

「ミス・バレンタイン——」

 

 俺は彼女へと視線を向ける。

 その目は強がっているようで、ほんの少しだけ震えていた。

 

 俺は短く息を吸い、笑った。

 

「援護って言ったろ。俺は俺で、まだ“やってないこと”がある」

 

 ティーチの闇が迫る。

 湾曲した海面ごと吸い寄せ、瓦礫が弾丸のように飛び交う。

 

 俺は拳を握り、足の内側で“爆圧の回転”を作った。

 爆発の火種を、ただ外へ向けるんじゃなく、螺旋状に循環させる。

 

 黒い渦に負けない、もうひとつの“渦”。

 

「行くぞ、ミス・バレンタイン。今度は二人で仕掛ける」

 

 彼女は一瞬驚き、それからほんの少し、口元を緩めた。

 

「……えぇ、Mr.5!」

 

 その声には、悔しさと誇りと——信頼があった。

 

「ゼハハハハァ!! さぁ、最後の勝負だ!!」

 

 

 

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