悪魔の実 Sレア   作:もやしモン

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第十六話 借金が減ったら何が起こると思う? 借金が増える。

 

「お前は本当に入院が好きだね」

 

「面目次第もございません」

 

 開口一番、それだった。

 

 薄暗い診療室に、薬品と乾いた血の匂いが混じって漂っている。

 鼻を刺すその臭いを、俺はもう何度も吸い込んできた。嫌になるほど慣れているはずなのに、今回は妙に重たく感じる。

 

 全身を覆う包帯の感触が、じわじわと意識を現実に引き戻す。

 腕も脚も、胴も首元も。少しでも動かせば軋むような痛みが走り、まるで自分が人間じゃなくなったみたいだった。

 

 ティーチと戦闘後、なんとか意識を保ったまま、ミス・バレンタインに引きずられるようにして、ドクトリーヌの治療を受けることができた。

 

 満身創痍で状況も伝えられない俺たちを、ドクトリーヌたちは何も言わずに治療をしてくれた。

 その事実が、今になってじわじわと胸に重くのしかかってくる。

 

「それにしても──」

 

 ドクトリーヌが俺の胸を指で突いた。

 力は強くない。だが、正確すぎる。そこが一番まずいと、俺自身が分かっている場所。

 

「いででで!!」

 

「心臓を爆発させて心拍を無理やり引き上げ、全身に酸素を叩き込む身体強化。寿命を削るどころじゃない。自殺行為だ」

 

 向けられる視線は、呆れと怒りがないまぜになったものだった。

 怒鳴られた方が、まだ楽だったかもしれない。

 

 言葉が、一つ一つ重たい。

 殴られるより、よほど効いた。

 

 反論はできない。なぜなら、事実だからだ。

 

 パンクレコーズでアクセスした知識。理論としては筋が通っていた。

 心拍数の上昇、酸素供給量の増加、筋出力の一時的な限界突破。

 どれも、数式にすれば正解だった。

 

 ──理論上は。

 

 でも、あの時の俺は、正解かどうかなんて、正直どうでもよかった。

 

 勝つか、俺の命が尽きるか。ただそれだけだった。

 

「……」

 

 沈黙を肯定と受け取ったのだろう。

 ドクトリーヌは、ため息を一つ吐いた。

 

「……小僧、お前は英雄になりたいのか?」

 

「英雄?」

 

「そうさね」

 

 彼女は俺の目を見たまま、逸らさない。

 

「全部を背負って、限界までやって、最後に“仕方なかった”って言って終わらせたい」

 

 胸の奥が、きしんだ。

 その言葉で、思い出してしまった。

 ティーチと対峙した時の、あの静かな諦め。

 

 命尽きるまで、()ぜて、燃え尽きれば、それでいい。そんな考えが、確かに頭をよぎったこと。

 

「……医者を相手にしといて、よくそんな顔ができるね」

 

 ドクトリーヌは呆れたように言うが、声は鋭い。

 

「それはもう、生き残るための無茶じゃない。死ぬ覚悟を正当化する無茶だ」

 

 図星だった。

 

 誰かを守るため。誰かのために勝つ。

 そう言い聞かせていたけれど、どこかで俺は──これで終わってもいいと、逃げ道を用意していた。

 

「……それは」

 

 言い訳が喉まで出かかって、引っ込んだ。

 代わりに、別の言葉が出た。

 

「それはもう、やめたんだ」

 

 自分でも、驚くほどはっきりした声だった。

 ドクトリーヌが、興味をひかれるように眉を上げる。

 

「ほう?」

 

「だから、今、俺は生きてる」

 

 ──この世界に来て、俺は1人だった。

 

 16年間の思い出が全部無意味だったような、そんな感覚。この世界には、存在してはいけないような、そんな風に思えて仕方なかった。

 

 だから、誰かの役に立ちたかった。

 

 誰かに必要とされて、自分がここにいても良いんだと、誰かの役に立つことでしか、自分の価値を測れなかった。

 

 強くなることでしか、価値を証明出来なかった。

 

 強くなろうとしていた時だけは、他の心配事を忘れられると思ったから。

 

「正直に言うと……あの時、死んでもいいって思ったのは本当だ」

 

 ミス・バレンタインがティーチにやられた時、目の前が真っ赤になった。守れない強さになんの意味があるんだと、自分が許せなかった。

 こんな弱い奴は命でもかけなければ意味がないと。

 

「でも……」

 

 一泊、置き、俺はしっかりと前を向く。

 

「俺が死んだら、悲しむ奴がいるのを思い出させてくれた人がいた」

 

 あの時、叫ぶように俺を止めた、彼女の顔。

 くまさんや、ハック、ビィオラ、俺が今までかかわってきた人達。その人たちの顔を思い出せた。

 

「それを無視してまで死ぬのは……それこそ、楽をしたいだけだ」

 

 ドクトリーヌは、しばらく黙っていた。

 やがて、ふっと口角を上げる。

 

「……ようやく患者らしいことを言うじゃないか」

 

「それは……褒めてる?」

 

「及第点だね」

 

 彼女は立ち上がり、カルテを抱える。

 

「生きる理由なんて、最初から立派じゃなくていい。死なない理由が一つでもあれば、人は生き延びる。あとは、その数を増やしていくだけさね」

 

 そう言い残し、扉が閉まった。

 

 俺は、深く息を吐いた。

 胸はまだ痛む。

 体も、まともに動かない。

 

 それでも──

 

 生きている。

 

 それだけで、今は十分だった。

 

 

 

 ──────

 

 

 翌日、朝だか昼だか分からない時間に、俺は目を覚ました。

 

「ぐぉぉ……ギャグ漫画みたいに、1日でふっと治ったりしないのがリアルだなぁ」

 

 身体は相変わらず重い。包帯が軋むたび、あちこちが鈍く主張してくる。

 指先を動かすだけで、痛みがぶり返し昨夜の無茶が思い出される。

 

「おーい! ジェム! 起きてるか!」

 

 扉の向こうから、聞き覚えのある声が聞こえて来た。

 

「起きてるけど、起き上がれねぇ。人体って不便だな、チョッパー」

 

 扉が開き、ぴょこんと顔を出す。薬を手に持ち、角を揺らしながら、俺の寝るベッドの上へと飛び上がって来た。

 さっきまで友達に会いに来たような顔だったのに、俺の体を見るなり、医者の顔つきへと変わる。

 

「また派手にやったな……」

 

「それほどでも」

 

「褒めてねぇよ!」

 

 聴診器を当てながら、チョッパーは眉をひそめる。

 

「心臓の鼓動、弱々しいな……無茶しすぎだ。ドクトリーヌが怒るのも無理ないぞ」

 

 俺は天井を見ながら、軽く笑った。

 

「でも、今回もちゃんと生き残った」

 

「それ基準おかしいからな!? 」

 

 そのやりとりを、少し離れた場所から見ている視線があった。

 

 ミス・バレンタインだ。

 

 俺の隣のベッドに寝ていたが、いつもよりずっと大人しい。

 包帯越しでも分かる怪我の重さが、彼女から余計な余裕を奪っているのかもしれない。

 すると、彼女の方から口を開いた。

 

「……あんたらいつのまにそんなに仲良くなったの?」

 

「何回も遊んでるからな。もう顔なじみだ」

 

「遊んでるんじゃない! 診てるんだぞ!? しょっちゅう怪我してくるんだから」

 

「そうだな。いつもありがとう」

 

「いや、そんなに褒められても、嬉しくねぇぞ! コノヤロが!」

 

「漫才やめてくれる?」

 

 彼女のジト目が俺とチョッパーへと刺さる。

 

「ごめんごめん。そうだな、初めてここに来た時だな。最初はさ、チョッパーは俺のこと完全に危険物扱いだったんだ。"この人また爆発する!”って顔で」

 

「想像できるわね」

 

「で、俺がもう大丈夫だろって筋トレしようとしたら、チョッパーに見つかってな。そしたらチョッパーがさ、怒るかと思ったら凄い心配そうな顔で」

 

 俺は、声色を少しだけ真似る。

 

「『動くな、死にたいのか!?』って」

 

「そんなに?」

 

「うん。めちゃくちゃ必死で」

 

 思い出すだけで、胸の奥が少し温かくなる。

 

「それで、あぁ。人の姿してないとか、トナカイだとかよりも前に、医者なんだなって」

 

 包帯越しに、胸が微かに痛む。

 心臓じゃない、もっと奥。そこで寝ずに張り詰めていた俺に、そっと布団がかけられたみたいな、そんな感覚。

 

「だから、変な駆け引きしなくてよくてさ。それで、俺が一方的に懐いた」

 

「犬みたい」

 

「否定しない。一緒にいたら楽しいしな。ちょっとずつ心開いてくれてんだよな? チョッパー」

 

 チョッパーを見ると、帽子を深く被り顔を見せないようにしていた。

 

「いや、そんな……オレは別に、医者として当然のことしただけで」

 

「……そう」

 

 その様子に、バレンタインがくすっと笑った。

 ほんの一瞬、気を抜いたみたいな笑顔。その笑顔に、俺は、目を奪われた。

 戦闘でも作戦でもない。ただ、同じ空間で呼吸してるだけの時間。

 ようやく、日常が帰って来たんだと、思えた。

 

 

 ────

 

 

「右肩脱臼で安静。出血が酷かったから、輸血は継続して、鉄分はしっかり食べること。それと、しばらく絶対安静だからな? 無茶禁止!」

 

「はいはい、模範囚でいきます」

 

「信用ならない返事だ……」

 

 俺はベッドの上で半身を起こし、壁にもたれかかっていた。

 正直、起きているだけで体力を削られる。呼吸のたびに胸の奥がじくりと痛み、心臓が「まだ許していない」と主張してくる。

 だが、横になるよりはマシだった。横になると、どうしても──何もできない自分を意識してしまう。

 

「それじゃあ、次はバレンタインだな」

 

 チョッパーが診察台の近くで薬瓶を並べながら、視線だけをこちらに向けてくる。

 これは、外に出といた方がいいな。ミス・バレンタインも、見られたく無いだろうし。

 

「それじゃあ、俺は外に──」

 

「いいわよ、別に。そこにいて」

 

 被せるように、ミス・バレンタインが言って来た。

 

「え? でも」

 

「良いから、いて」

 

 強い口調だった。拒絶じゃない。念を押すような、逃がさない声音。

 俺は一瞬だけ迷い、それから小さく肩をすくめた。

 

「……わかった」

 

 言われた通り、その場に留まる。

 正直、ありがたかった。立ち上がるだけで眩暈がする今の体じゃ、廊下まで歩く自信もなかった。

 

 ミス・バレンタインは診察台に腰を下ろし、コートを脱ぐ。

 室内は暖炉が焚かれているが、冬島の空気は骨の奥まで冷える。それでも彼女は、わざわざ袖をまくった。

 

 チョッパーが無言で近づき、腕を取る。

 

「……重度の火傷だな」

 

 淡々とした声。だが、その目は誤魔化しが効かない医者のそれだった。

 包帯を外す音が、やけに大きく聞こえる。

 赤く変色した皮膚。ところどころ、治りかけの痕。

 

 俺は、目を逸らさなかった。

 逃げたら、また“守ってるふり”になる気がしたからだ。

 

「ドクトリーヌの薬は効くから、ほとんど痕は残らないけど、これは残りそうだな」

 

 ミス・バレンタインは、少しだけ唇を噛んだ。

 それでも、視線は落とさない。

 

「……仕事に支障は?」

 

「動きに制限は出ないよ」

 

「十分ね」

 

 ミス・バレンタインは、俺を見なかった。

 だが、その肩の力が、少しだけ抜けたのが分かった。

 

 

 ────

 

 

 その日の夜。

 

 暖炉の火がパチパチも燃えていた。

 隣で寝ているはずのミス・バレンタインの様子が気になる。

 

 包帯の隙間、焼け跡が覗く位置。

 

 俺は、目を逸らさなかった。

 

 胸の奥が、きゅっと縮む。

 怒りでも、悲しみでもない──ただ、悔しさに近い感情。

 

「……診察、痛かっただろ」

 

 出てきたのは、それだけだった。

 彼女の肩が、わずかに揺れる。

 

「今も痛いけどね」

 

「そうか」

 

 俺がそう答えると、彼女は首を傾げてくる。

 

「……それだけ?」

 

「他に聞いた方が良かったか?」

 

「てっきり、無茶するなとか。俺のせいだとかいうと思った」

 

「言わない」

 

 即答だった。

 彼女が、少し目を見開く。

 

「どうして?」

 

「それは全部、俺が楽になる言葉だ」

 

 暖炉の火が、ぱちりと鳴る。

 

「君がどう感じたかより、俺が納得したいだけになる」

 

 俺は、視線を外さずに続けた。

 

「……君はさ。あの時、前に出るって決めたんだろ」

 

「ええ」

 

「なら、その結果を俺が否定する権利はない。それに」

 

 彼女の呼吸が、わずかに早くなる。言葉を継ぐ前に、喉が鳴った。

 

「守ろうとしたのは、俺だけじゃない。君も俺を守ろうとした。その証拠が、それだ」

 

 視線で、焼け跡を示す。彼女の手が、膝の上でぎゅっと握られたのが分かった。

 

「……それを可哀想とか見たくないとか言うのは、違うだろ」

 

 一瞬の沈黙のあと、彼女が、ふっと力を抜いた。

 声が、少し震えている。

 

「また、自分を責めると思ったのに」

 

「前科が多すぎてな」

 

「怒ると思った」

 

「怒る元気は、今はないな」

 

 そう言うと、彼女は小さく笑った。

 

 いつもの勝ち気な笑いじゃない。

 どこか幼くて、安心したような──

 可愛らしい微笑みだった。

 

 彼女は、ゆっくりと息を吐いた。

 

「……ごめんなさい、試すような真似して」

 

「いいよ。俺もごめん。俺は君を第一にし過ぎてた。推し活じゃ、やり過ぎは厄介ファンになるからな」

 

 彼女を守らなきゃと、思い過ぎていた。彼女の意思を尊重せず、彼女を危険からただ遠ざけて、俺だけで解決できればと、俺の意思を尊重してくれる彼女に甘えていたんだ。だから、

 

「俺は前で、守らないし、責めない。でも、隣にはいる」

 

 短い答えだった。

 

「選択するのは君だ。その結果を、横で支えるのが俺の役目だ」

 

 彼女は、しばらく黙っていた。

 それから、ふっと笑う。

 

「……ずるいわね。逃げ場ないじゃない」

 

「逃げなくていいだろ」

 

 彼女はコートを閉じ、椅子に深く座り直した。

 さっきより、少しだけ距離が近い。

 

「そうね」

 

 暖炉の火が揺れる。

 雪の音が、窓の向こうで静かに続いている。

 

 傷は、見せた。

 試した。

 そして──責められなかった。

 

 それだけで、十分だった。

 

 

 

 ────

 

 

 

 あれから日が経ち、少し体の傷が癒えた頃、

 

「ドクトリーヌ。治療費なんだけど」

 

 木の床は相変わらずきしみ、薬草の匂いが鼻につく。

 俺は包帯だらけの身体で立ったまま、財布代わりの革袋を手にしていた。

 

 覚悟はできている。

 どうせ、また数字を聞いて頭を抱える羽目になるのだ。

 ドクトリーヌは書類から目を離さず、ぶっきらぼうに返した。

 

「今回はいらないよ」

 

「……え?」

 

 思考が一瞬、完全に止まった。

 

「お前の成長が見れたからね。今回は、負けてやる」

 

「ドクトリーヌっ!」

 

 思わず涙が溢れ、声が裏返った。

 心臓に悪いこと言うの、やめてほしい。止まったらどうするんだ。

 

「勘違いするんじゃないよ」

 

 彼女はようやく顔を上げ、眼鏡越しに俺を見る。

 

「あの娘──ミス・バレンタインの治療費は別だがね」

 

「……あ、そっちは請求されるんだ」

 

「当然だろ」

 

「まぁ、それならいいけど」

 

 俺は小さく肩をすくめた。

 

 ──正直なところ、余裕はある。

 

 ここ数ヶ月、大きな怪我はしていない。

 無茶をしなかったわけじゃないが、致命的な怪我は避けてきた。

 

 任務一件で、だいたい百~一千万ベリー。

 波はあるが、運が良ければ一回で人生が変わる額だ。

 

 積み重ねた結果──

 手元には、ざっくり言って一億ベリー前後。

 

 借金を全部返して、なお余る。

 

 だからこそ。

 

「とりあえず」

 

 俺は革袋を持ち上げた。

 

「前の借金、七千万ベリー。で、あとはいくら?」

 

 床に置いた瞬間、袋の中で金属が重たい音を立てる。

 

 ドクトリーヌはその音を聞いて、鼻で笑った。

 

 

 ──────

 

 

 

なんでだぁぁぁ!!

 

 静かなはずの昼下がりに、俺の声だけが病室に不自然に響いた。

 

「うるさ」

 

 隣のベッドで、ミス・バレンタインが毛布を引き上げ、耳を塞ぐ。

 その仕草が妙に慣れていて、何度目の叫びかを物語っていた。

 

 ──あんの、ババァ。相変わらず容赦ねぇ!!

 

 六千万だぁ!?ねぇよ、そんな大金!!

 

 しかもだ。"もう無茶はしない"なんて、あの口で言っちまった。

 

 無茶しないと、派手な任務は受けられない。

 派手な任務がないと、金が入らない。

 

 詰みである。

 

「借金返済のためにと、ハックに鍛えてもらってはや数年!!一向に減りません!! 何故でしょう!?」

 

「怪我するから?」

 

「正解!! はなまる百点!!」

 

 乾いた笑いが喉から漏れる。

 

 強くなった。

 確かに強くなったはずなんだ。

 

 なのに、怪我も借金も比例して増えていく。

 人生ってやつは、どうしてこう等価交換が下手なのか。

 

「……いくら必要なのよ」

 

「諸々引いて、三千万」

 

 治療費、薬代、安静期間中の滞在費。請求書を頭の中で反芻するたび、胃の奥がきりきりと痛む。

 

「いいわよ、Mr.5。私が任務で稼いでくるから」

 

 彼女は、何でもないことのように言った。

 その声は落ち着いていて、現実的で、だからこそ──胸の奥がざわついた。

 

「まだ無茶できないだろ。右腕は複雑骨折。火傷も残ってる」

 

 言ってから、少し後悔した。

 責めたかったわけじゃない。

 

 彼女は、少しだけ目を細める。

 

「それでも。私に出来ることなら、やるわ」

 

「ん?」

 

 ──今、なんでもやるって?

 

 

 ──────

 

 

 数週間後、俺は、ウイスキーピークへと足を運んでいた。

 

 酒と歌と、どこか作られた笑顔の島。

 歓迎の熱気に包まれながらも、裏側では常に別の顔が息を潜めている。

 

 酒場の扉を押し開けた瞬間、聞き覚えのある声が上がった。

 

「え? Mr.5!? なんでこんなところに」

 

 振り返った先にいたのは、見覚えのある青い髪。

 少し背が伸びて、雰囲気も大人びているが、驚いた時の目の見開き方は記憶のままだ。軽く手を挙げて、彼女の名を呼んだ。

 

「よぉ、ビビ、久々だなぁ。元気してたか?」

 

「ビィオラです!……あ、じゃなかった。ミス・ウェンズデーって呼んでくださいよ」

 

「ああ、ごめんな。つい昔の癖で」

 

 苦笑しながら肩をすくめる。

 

 ──そんなに時間が経ったわけじゃない。

 それなのに、こうして名前を呼び間違えるだけで、妙に懐かしい気分になるから不思議だ。

 

「それで、何をしに来たんですか?こんな偉大なる航路(グランドライン)の端っこまで」

 

 ミス・ウェンズデーは、少し警戒を滲ませながらも首を傾げる。

 

 探るような視線。

 だが、敵意はない。ただ“理由”を知りたいだけだ。

 

 俺は顎に手を当て、わざとらしく少し考える素振りをしてから、口を開いた。

 

「ふむ……単刀直入に言おう」

 

 一拍置き、彼女の目をじっと見ながら、こう言った。

 

「ちょっと、アイドルやらん?」

 

「…………はい?」

 

 

 










ここから先は、作者の語りです。


今年最後の更新となりました。
2025年5月から書き始めた作品が、ここまで続けられたのは、読んでくれる皆さまのお陰です。ありがとうございます。

前話を投稿してから、ありがたいことに高評価を頂きまして、お気に入り登録が通常では考えられない数増えました。
評価の力ってすげぇ!と、モチベが上がり、前話の投稿が1ヶ月かかっていたものが、1週間で投稿出来るくらいになりました。
この場を借りて感謝申し上げます。

最初のプロットでは、この話数辺りで完結予定だったのですが、気が付けばMr.5 強化プロジェクトにより、まだまだお話が続きそうです。(寄り道もしてたりしますが)

低評価が続き更新が遅れたり、話が綺麗に書けずに削除したり、そんな中、続けて行って、ランキングに乗って嬉しい限りだったりと、色々あった2025年でした。

悪魔の実 Sレアを良ければ来年もどうぞよろしくお願いします。




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