悪魔の実 Sレア   作:もやしモン

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第七話 サボコアてぇてぇ

 

 相変わらず、ずっと修行と任務の繰り返し。

 変わった事といえば、前よりも傷を負わないようになったことと、人と戦うことに慣れたと言うことくらいだ。

 

「あ〜ら、ボムちゃんじゃな〜い、最近どゅー!?」

 

「おお、Mr.2。久々だな」

 

 そんなある日、Mr.2が俺の元へとやって来た。怪我の様子と、近くに用があるということで来てくれたみたいだ。

 

「訓練中ねーん? その目隠しはファッション?」

 

「いや、修行」

 

 見聞色の覇気は、相変わらず訓練中。誰か来たのかくらいは分かるようになったな。あとは、歩けるようになったくらい。

 けど、相変わらず、能力に振り回されている。右肘を爆発させての攻撃は、狙いを定めるのが難しい。魚人空手の方が、全然マシだ。

 

「そんなんじゃダメダメよ〜ん」

 

「え? 何が?」

 

「あなた空手やってるみたいだけど〜ん、それだけじゃダメねん! しっかりステップを決めなくっちゃ。こ〜んなふ〜にね!」

 

「いや、バレエにはあんまり興味ねっ!?」

 

爆弾白鳥(ボンバルディエ)アラベスク!!」

 

 前蹴りにより俺の身体は蹴り飛ばされ、壁に叩きつけられた。

 距離は十分にあった。気がついた時には、一瞬にして詰め寄られた。

 

「い、一体なにを……」

 

「戦いっていうのはいかに美しく踊るかよ!! あちしのオカマ拳法はただ飛び跳ねてるんじゃないわ!!」

 

「……つまり、ただ片足で跳ねてるんじゃなく、小刻みに動いて左右半身の重心移動を身につけなければ、いくら力をつけようとも動きに無駄があり、相手には届かないってことか?」

 

 クルクルと回っていたボンちゃんがピタッと止まる。そして、信じられないものを見たような顔で驚いていた。

 

「そ、そういうことよ……」

 

「予想だにしてなかったなお前!!」

 

 説明する気なかっただろコイツ!!

 

「分かったのならいいわん!! あちしと一緒にトレーニングすればあんたは強くなれるわ!」

 

「頼むMr.2!! 俺に戦い方を教えてくれ!!」

 

友達(ダチ)のお願い、聞かないわけには行かないわネーン!!」

 

 それから、Mr.2と修行をし、更に力をつける。

 ゲームのレベル上げみたいで、楽しくなって来たな。

 

 ────

 

 そして、さらに時が過ぎ、俺は今、とある場所で行動中だ。

 

 草の葉が顔にまとわりつく。

 鼻がむずむずするが、くしゃみはこらえた。

 

 茂みの向こうでは、サボとコアラが並んで座っていた。

 朝日が差し込む港町の外れ、誰も来ない古い波止場。ふたりは、まるでそこだけ別世界みたいに、穏やかに笑っていた。

 

「サボ君。ちゃんと食べてる? この前なんて一日二食で済ませたでしょ」

 

「いや、あれは任務で……」

 

「ダメ。君が倒れたら誰が困ると思ってるの」

 

 コアラが包みを開くと、ふわっと温かい匂いが漂う。

 まだ湯気の立つパンとスープ。サボは耳の後ろをかきながら、ちょっと照れたように「ありがとな」と短く答えた。

 

 はい、尊い。

 

 完全にこれは尊いシーンですよ。委員長気質なコアラちゃんと、彼女に頭の上がらないサボ。

 なんだろう、甘酸っぱい青春ドラマを生で見ている気分。

 

 あ、何故、俺が2人を見ているのかって?

 

 ハックが『自分とだけじゃ戦いに癖がつく』って、他の人との対人を想定した訓練のために、2人の所へ連れて来られたってわけ。移動はくまさんが、ポンと弾いて一瞬で連れてこられたわ。ここが何処かは全く分からん!!

 

 ま、こんな尊い2人を見れただけでも儲けもんですわ。

 

 不意に、サボがコアラちゃんの手からスープを受け取る瞬間──

 

 バキッ。

 

 足元の枯れ枝を踏んだ。ふたりの視線が一斉にこっちへ向く。

 

「……今、何か音しなかった?」

「気のせいじゃないか?」

 

 危ない危ない。2人に見つかってはこの尊いシーンが台無しだ。俺はただの壁。さっさと、ここから移動して──

 

「……何をやっておるんだお主は」

 

 その声にびくりと身体が跳ねた。

 振り向けば、両腕組んだハックが立っていた。完全に見られていた。ていうか、最初からいたっぽい。

 

「は、ハック…いやぁ〜、ちょっと現場の安全確認を……」

 

「安全確認? サボとコアラの会話を茂みからニヤニヤ眺めるのがか?」

 

「2人の愛の邪魔をするものがいれば、即座に爆破する係が必要かと」

 

「するなバカ」

 

 ハックは呆れ顔でため息をつく。

 

 肩をすくめて、俺は茂みを離れた。

 でも、心の中ではメモしていた──“本日も尊みMAX”。

 

「バカ言ってないで、修行をするぞ。2人も来てくれ」

 

 呆れ顔でため息をつくハック。そこへ、視線に気づいたコアラちゃんが歩いてくる。

 

「あ、ジェムさん。またそんな所で掃除ですか?」

 

「そうだよ。俺は綺麗好きなもんで」

 

 嘘である。この俺、Mr.5は、2人の尊い姿を見たいがために、掃除というていで、コッソリ見守っているのである。

 その度にバックに見つかっては、罰として、修行が倍になったりしたりしているが、これも仕方ない犠牲である。

 

「助かるけど、物好きだよなあんたも」

 

「サボくんも見習いなよ。自分の部屋の掃除とか、この前行ったら部屋すっごいことになってたし」

 

「ほっとけ!」

 

 え!? 部屋に行ったことがあるの!? そんな幼馴染シチュエーションがあるんですか!? 完璧じゃないか、そのままゴールインしよう!!

 ラブコメでも幼馴染と結ばれる漫画欲しい!! 今んとこ見た事がない!! 負けヒロインでも勝って欲しい!! 相手にされてない方を応援しちゃうタチなのです!!

 

「何をさっきからくねくねしとる」

 

「……オタクの妄想に土足で踏み入るな」

 

「っ!? 覇王色!?」

 

「いや、違うだろ」

 

 冷静なサボのツッコミが平原に消えていった。

 

 ────

 

 地面に敷かれた布の上に座り、俺はあぐらをかいていた。向かいにいるハックは、背筋を伸ばして正座している。その姿はまるで禅僧のように静かで、一本の木のように揺るぎない。

 

 しばらくの沈黙のあと、ハックが口を開いた。

 

「今日は“覇気”を学んでもらう」

 

「はき……?」

 

 その言葉に、胸の奥が不意にざわついた。

 

 どこかで聞いたことがある。いや──知っていた気がする。

 

 “覇気”という音が、記憶の深い場所に微かな波紋を広げる。名前も顔も浮かばないのに、何かが呼応するような、そんな感覚。

 

「“武装色”と“見聞色”。力ある者には必須の技だ」

 

「武装ってことは……鎧装備みたいな?」

 

「己の意思を纏う。自然系に対抗するための力だ」

 

 自然系──ロギア。物理攻撃が通らない化け物ども。俺の爆破パンチが効かない相手とか、想像するだけで胃が痛い。

 

「じゃあ“見聞色”は?」

 

 そこでサボが横から補足する。

 

「相手の気配を読むんだ。攻撃の意図や位置……極めれば未来すら見える」

 

「み、未来!?」

 

 めちゃくちゃ便利スキルじゃん!? そりゃ覚えなきゃ。

 

 俺は、強さが欲しい。誰かを守る力が。だから、なんだってやってやる!!

 

「まずは、武装色から始めよう」

 

 ⸻

 

 だが、訓練は──甘くなかった。

 

 力を“外”に放つことには慣れている。ボムボムの実の能力を使って、爆発で吹き飛ばすのは得意だ。

 

 けれど、“内”に意志を通すという発想は、まるで逆の回路を使うようなもので、どうしてもうまくいかなかった。

 

「……全くセンスがないな」

 

「包んで!! せめてオブラートに包んで!!“お薬飲めたね"のように優しく!!」

 

「現実から目を逸らしても、力は身につかん」

 

 ぐぬぬ……正論のラッシュが止まらない。ボムボムの実の時もそうだったが、イメージがしずらいものはダメダメらしい。

 

「サボとコアラちゃんは出来るんだっけ?」

 

「私はまだ完璧じゃないけど、サボ君はもう実戦でも出来るくらいだよね?」

 

「マジンガー!? サボ師匠!! 何卒こつなどをー!!」

 

「そりゃ、ぐって感じだよ。そしたら、ぶおんって感じになるから、バコンって殴るんだよ」

 

「なるほどな。出来るか!! 何一つ理解出来ねぇわ!! させる気もなかったでしょ!!」

 

「お主の爆発は“外に放つもの”だ。常に出力し、解放し、壊すことに慣れすぎている。

 そのせいで、“内に力を通す”感覚が鈍いのだろうな」

 

「……まぁ、とりあえず継続していくしかないってことね」

 

「見聞色ならいけるんじゃない? 」

 

「すって感じでぶおんってなるんだよな」

 

 ぶおん好きだなおい。

 

「とりあえずは、これだな」

 

 そう言って、ハックが渡してきたのは黒い布だった。

 

「……なにこれ。新しいファッション?」

 

「今日から、お前は“常時目隠し”だ」

 

「はい!?」

 

 こちらの返答を待たず、問答無用で視界を奪われる。

 真っ暗な世界。外の光は完全に断たれ、風の音、木のざわめき、自分の呼吸──そういったものだけが意識に届く。

 

 その静寂の中で、妙に心臓の音が大きく感じられる。

 

「……こえぇ……」

 

 闇は、恐ろしい。見えないというだけで、人はこうも不安になるのか。

 

 だが、そこにこそ意味がある。視覚を奪われたことで、他の感覚が研ぎ澄まされていく。

 

 人は五感の一部を失っても他で補えるという話を聞いたことがあるが、それもまた違うんだろう。

 第六感的なものの感覚を会得しろってことなんだろうが──そんな簡単に出来るものじゃない。

 

「私の気配を、感じられるか?」

 

 静かに問われる。だが──その声がどこから聞こえてきているのかすら、もう分からない。

 

 木々の葉がわずかに揺れる音、雪を踏む小さな音、遠くで鳥が羽ばたいた音。

 

 そんな中に──確かに、“誰か”の気配があった。

 

 風の流れがわずかに変わった。誰かの体温が、空気の密度を変化させる。視界は奪われているのに、その存在は“そこにある”とわかる。

 

 まるで、霧の中に灯るひとつの火のようだった。

 

 懐かしいような、けれど明確には思い出せない感覚。

 

 どこか、心の奥がかすかに震えた。

 

 ──もう少しで、届く。そんな確信があった。

 

「……っ」

 

 息をひそめ、集中する。耳ではなく、感覚で“そこ”を探る。

 

 過去のどこかで、この訓練をしたことがある──そう思えてならなかった。声ではなく、背中で語ってくれた誰かがいた。気配を読むことを、教えてくれた人が。

 

 その記憶の断片に、手が触れかけた──その瞬間。 

 

「……ぶべっ!?」

 

 鈍い音とともに、後頭部へ鋭い衝撃が直撃した。

 予想外の攻撃にバランスを崩し、前のめりに地面へ突っ伏す。髪が濡れた感触がじわりと広がり、全身の力が抜けていく。

 

「ふむ、流石に無理か」

 

 背後から、どこか冷静な声が届く。ガバっとすぐに起き上がり、視界を向けるが目隠しのせいでなんもみえんが、声のする方へと指をさす。

 

「何投げた!? めっちゃ濡れたんだけど!!」

 

「水風船だ。これならば怪我もせず、修行になる」

 

 怒りと悔しさと、ほんの少しの期待が入り混じる。今の感覚は確かだった。何かが、確実にそこに“あった”のに。

 

「そうか。なら、大丈夫そうだな」

 

「いやいやいや!! だから、がぅっ!? いや、それ投げびぐろ!! 人の話を聞けぇぇぇぇぇ!!」

 

 怒鳴り声は雪に消え、その日は休む間もなく、水風船を喰らい続けた。

 

 

 

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