グリンガムが使っていたムチを手に入れるために海底宝物庫にやってきたレック、ハッサン、ミレーユ、バーバラの4人は、いよいよキラーマジンガ2体との勝負に挑むことになった。
(チャンスは一度。何としてもこのマダンテを成功させなければ…。)
魔法使いのバーバラが恐ろしいまでのプレッシャーに襲われている中、キラの合図とともにいよいよ勝負が始まった。
するとキラーマジンガAが彼女をターゲットにしてきた。
(えっ?あたし?)
思わずはっとした彼女はせっかくの集中が途中で途切れてしまった。
(あっ、あぶねえっ!)
危険を感じたハッサンはとっさに身代わりに入り、攻撃を肩代わりした。
(いけない!今度攻撃をされたら!)
はっとしたレックは強化攻撃を受けて「ぐおおおっ!」と大声を上げるハッサン目掛けてとっさにベホマを放った。
幸い呪文は間一髪で間に合ったため、ハッサンは2回目の攻撃を受けてもどうにか踏みとどまった。
すると今度はキラーマジンガBがレックとミレーユをターゲットにしてきて、2人に一撃ずつ攻撃をヒットさせた。
「ぐあっ!」
「きゃあっ!」
結果的にミレーユはこのターンで行動が出来ず、レックとともにその場にうずくまってしまった。
「みんな、大丈夫?」
「私達にかまわないで!」
「早くマダンテを!」
「わ、分かったわ…。」
ミレーユとレックの声を聞いて、バーバラは素早く気持ちを切り替えた。
(早く何とかしないと、みんなやられてしまうわ!)
もしここで決着をつけないと敗色濃厚となるだけに、バーバラは祈るような気持ちで魔力をためた。
そしてキラーマジンガ2体が次の攻撃に入る前にいよいよ全ての魔力を解き放った。
「くらえっ!マダンテーーーーッ!」
彼女が大声で叫ぶと体中がまぶしく光り輝き、ついに切り札となる大魔法が発動した。
そして辺りは目を開けられなくなるほどの光に包まれていった。
その時点で2体のキラーマジンガは既に攻撃態勢に入っていたが、間一髪でマダンテの方が先に着弾し、これまで経験したことも無いほどの大ダメージを与えた。
「話には聞いていたけれど、ものすごい威力だな。」
「こんな大魔法、こちらとしても空恐ろしいぜ。」
「後は、これで決着がつくことを祈るのみね。」
光がおさまった後、レック、ハッサン、ミレーユは勝利を信じて疑わなかった。
しかし、そのターンでの行動こそ防げたが動きは止まっていなかったため、まだ決着はついていなかった。
「えっ?どうして?これで倒せるはずだったのに。」
「マダンテが下振れしたのか?」
「それとも初めて唱えたから?」
事前のシミュレーションと異なる結果になってしまい、ミレーユ、ハッサン、レックは立ち尽くしてしまった。
一方、バーバラは生まれて初めて放ったマダンテの威力のせいなのか、それとも一発で倒せなかったショックのせいか、その場に崩れ落ちるように両ひざを着き、うつぶせに倒れ込んでしまった。
「バーバラ!」
「待って、レック!行ってはダメ!」
「でも、バーバラが!」
「まだ勝負は終わってねえんだぞ!」
ミレーユとハッサンは懸命にレックを制止した。
一方のキラーマジンガは動きこそ鈍っていたものの、次第に態勢を立て直し、次のターンに備えて攻撃態勢に入ったため、再び早く何とかしないといけない状況になった。
(このままではまずいぜ。)
(何とか手を打たなければ。)
ハッサンとミレーユはそれぞれとっさに捨て身と受け流しを使うことにした。
そしてハッサンの攻撃が見事Aに命中し、HPを削り切ったため、ついに一体の動きを止めた。
レックはほぼ同時に不完全な形ながらもベホマラーを唱え、3人のHPを50程度回復させた。
一方、ミレーユはBの2度攻撃をはね返し、1度目の攻撃をBにヒットさせてHPを削り切ったものの、最後の悪あがきとばかりに仕掛けてきた2回目の攻撃は、あろうことかハッサンに向かってしまった。
「ぎゃあああっ!!」
捨て身のために無防備な状態で右足に攻撃が命中した彼は、これまで見たことも無いような表情で痛がりながら、その場に倒れ込んでしまった。
しかも倒れた時の衝撃でさらに痛みが走ったため、彼はさらに悲鳴をあげた。
「きゃあああっ!ごめんなさい!ハッサン、ごめんなさい!!」
目を覆いたくなるような光景を目撃してしまったミレーユは、すぐさま彼のところにやってきて、患部にベホイミをかけた。
一方、レックはバーバラを仰向けにした後、ベホマを唱えた。
「レック…。」
「あっ、バーバラ。気が付いてくれたんだね!」
「頭が…目が…、痛いよお…。助けて…。たす…けて…。」
「大丈夫だ!絶対に助けてあげるから!」
レックは動けないまま声を震わせているバーバラに再度ベホマをかけた。
(さすがに捨て身の状態で強化攻撃を受けることまでは想定していなかった…。)
キラは計算外の状況が発生してしまったことで動揺しながらも、ハッサンの患部の状態を見るためにくつを脱がそうとした。
しかし、ハッサンがあまりにも痛がるためにそれが出来ず、ミレーユにラリホーをかけることを依頼した。
「えっ?そんな。仲間にラリホーなんて、私には…。」
「頼む。このままでは応急処置すら出来ない!」
このようなことを言うのはキラ自身にとってもつらいことだったが、それでも彼はお願いを続けた。
しかし、ミレーユはわなわなと震えるばかりで、呪文を唱えられなかった。
するとそこにグランマーズがテレポートするようにその場に姿を現した。
「えっ?おばあちゃん!?どうしてここに!?」
「決まっとるじゃろう!このままでは冗談抜きで大変なことになってしまう!そんな状況を黙って見ていられるわけがないぞい!」
彼女は迷うことなくラリホーマを唱え、ハッサンを眠らせてしまった。
「さあ、これで応急処置が出来るぞい。お前さん達、手伝ってくれ!」
「分かったわ。おばあちゃん。」
「私も協力させていただきます。」
ミレーユとキラはそう言うと、協力しながらそっとハッサンのくつとくつ下を外した。
すると右足首辺りは大きくはれ上がっている上に不気味な色に変色しており、骨折していることは誰の目にも明らかだった。
「これは大変なけがじゃ。復帰まではかなりの時間を要するじゃろう。」
「そんな…。」
グランマーズから受け入れがたいことを聞かされてしまい、ミレーユは体中の力が抜けてしまったかのように呆然としてしまった。
そんな中で、キラはゲントの杖を添え木として患部に当て、グランマーズの自身のマントを使って縛った。
一方のレックはまだバーバラにベホマをかけていた。
しかし、戦士に転職したことがあだとなって、MPがあっという間に残りわずかになってしまった。
(バーバラの声が段々小さくなっている…。このままでは取り返しのつかないことになってしまう…。どうすればいいんだ!)
彼が手をわなわなと震わせていると、グランマーズがそばにやってきた。
「おばあさん!バーバラを助けてください!お願いします!」
「わし一人では助けられん。」
「じゃあ、どうすればいいんですか?」
「今からわしが持てるだけの魔力を使ってお前さん達をテレポートさせる。そして地上に出たら、即座にルーラを唱えてカルベローナに行きなさい。」
「分かりました。お願いします!」
レックはすがるような気持ちで返事をすると、バーバラを抱え上げた。
「それでは、いくぞい!」
「はいっ!」
レックが立ち上がると、グランマーズは魔力をため込んで2人をその場から移動させた。
地上にやって来るとレックは残り僅かなMPを使ってルーラを唱え、その場から飛び立っていった。
(バーバラ!今助けてあげるからね。もう少しの我慢だから!絶対に助けるから!)
彼は泣き叫びたい気持ちを懸命にこらえながらカルベローナに向かっていった。
「お願いします!バーバラを助けてください!」
現地にたどり着くと、レックは近くにいた人達に手あたり次第声をかけた。
その切羽詰まった表情と、彼の腕の中でぐったりしているバーバラを見た町の人達は、すぐさまみんなで協力して治療にあたることにした。
(みなさん、お願いします。そしてバーバラ。頑張ってくれ!)
すでにMPを使い切ってしまったため、もはやなす術がないレックは町の人々の姿を見ながらひたすら祈り続けた。
応急処置の後、バーバラはブボールの家に運ばれ、みんなの懸命の治療を受けた。
その甲斐あって、彼女の容体はすっかり安定した。
「みなさん、本当にありがとうございます。この恩は忘れません。」
レックはブボールをはじめ、町の人達に何度も頭を下げた。
「まあ、確かにバーバラは一命をとりとめた。しかし…。」
「しかしって、何ですか?ブボールさん。」
「生まれて初めてのマダンテだった上に、魔法使いの状態で魔力を暴走させたわけじゃから、体には相当な負担がかかっておる。恐らく、体に何らかの不調が生じるじゃろう…。」
「えっ?そんなの、嘘ですよね?」
「嘘であればよいが…。とにかく、バーバラがパーティーメンバーから離脱するのは間違いないじゃろう。その間は、彼女抜きで何とか切り抜けていってほしい。」
「……。」
彼はガックリとうなだれたまま、返す言葉も無かった。
そして、この日は彼女の手を握りながらこの場所に居続けることにした。
やがて日は西に大きく傾いていき、辺りが赤く染まってきた頃、ふと「うっ…。」という声が聞こえ、そして少しずつ目が開いた。
「あっ、気が付いてくれたんだね!」
「レック…?」
「そうだよ。良かった、気が付いてくれて。」
「本当に…、レック…なの…?」
「うん、僕だよ。分かるかい?」
「分からない…。あたし…、目が…ぼやけて…。顔が…よく…見えないの…。」
「えっ?」
レックは思わぬ発言を聞いて、耳を疑った。
そして自身の顔をバーバラに近づけていったが、それでも彼女は判別が出来なかった。
(そんな…。マダンテの影響で、こんなことになるなんて。本当ならバーバラはこれからグリンガムさんからムチをもらって、大活躍をするはずだったのに…。)
受け入れがたい現実を突きつけられた彼は、奈落の底に突き落とされたバーバラの手を握りながら、とうとう動けなくなってしまった。
しばらくすると住人が夕食を持ってきてくれたため、レックはバーバラに口を開けてもらって一口ずつ食べさせていった。
そして彼女が食べ終わった後、ようやく自分の分を食べた。
「レック…。」
「何?バーバラ。」
「あたし、役立たずかな…。」
「えっ?そんなことないよ。だって、君のおかげでキラーマジンガに勝てたんだから。」
「でも、今のあたしはほとんど目が見えないし、これじゃ役に立てない…。あたし、戦力外よね…。」
「そんなことは僕がさせない。君がいない冒険なんて考えられないよ。だって、君は僕が大けがをした時『レックと離れて旅なんて出来ない。』って言っていたよね。」
「うん…。」
「じゃあ、僕も君を置いていかない。どんなことがあっても、一緒にいる。この手をつないでいるから。」
「ありがとう…。」
バーバラは一瞬笑顔を見せてくれたが、それでもショックは隠せず、すぐに悲しげな表情になってしまった。
それを見るのはレックにとってもつらいことだったが、それでも彼は目を背けず、彼女が眠りにつくまで。いや、眠りについた後もその手を離さなかった。
翌朝。レックはバーバラが目を覚ますと「おはよう。」と声をかけ、次に一晩中考えた末に思いついたアイデアを打ち明けることにした。
「バーバラ。僕、君にお願いしたいことがあるんだけれど、いいかな?」
「こんなあたしに、何?」
「僧侶に転職してくれる?」
「僧侶?」
「うん。」
レックは戦闘の合間の回復役になってほしいことをお願いした。
「どうかな?これならたとえ戦闘に参加出来なくても、呪文で役に立てるよ。」
「そんなこと言われても、あたし、呪文すら唱えられるかどうか…。」
「きっと唱えられるよ。たとえ唱えられなくても、回復アイテム係で貢献出来るから。」
レックはこれからバーバラがカルベローナで治療をしながら活動することを提案した。
「あたし、治療したら本当に回復するのかな…。」
「きっと回復するよ。そのために出来ることがあるなら、何でもする。そして僕が君にキアリーやベホイミを教えてあげるからね。」
「ありがとう…。」
バーバラはまだ不安や心細さでいっぱいだったが、次第にレックを信じようという気持ちになっていった。
そして一緒にダーマ神殿に行き、僧侶に転職することに同意してくれた。
「良かった。じゃあ、朝食を取ったら一緒に出掛けよう。」
「うん…。いいわよ…。」
彼女は迷いを吹っ切り、レックと一緒に行動することにした。
食事が終わった後、レックはベッドで横になっているバーバラをお姫様だっこする形で抱え上げた。
「えっ?何?何?あたし、この状態で外に出るの?」
「そのつもりなんだけれど…。」
「やだ。こんなの、恥ずかしいよおっ!」
「じゃ、じゃあ、手をつないで一緒に歩こう。」
レックはバーバラをベッドに下ろすと、今度は手をつないだ。
そしてバーバラはゆっくりと立ち上がり、2人で一緒に歩き出した。
しかし、彼女は体力が落ちたのか、それとも前がよく見えないからか、ヨロヨロ歩きの状態だった。
外に出ると、早速何人かの町人に出会った。
「バーバラ様。気が付いたんですね。」
「良かったです。心配していましたから。」
彼らはほっと一安心した後、喜んでくれたが、レックが彼女の状況を説明すると、表情が一変した。
「そうですか。それは大変なことになりましたね。」
「私達に出来ることがあれば、何でも協力します。」
「もしこれから出かけるのであれば、いいアイテムを用意します。」
「本当ですか?どんなアイテムを用意してくれるのですか?」
レックの提案を受けて、町人の一人は早速それを取りに向かった。
そして他の2人のうち、一人はバーバラの治療を始め、もう一人は他の人を呼びに行った。
みんなの治療を受けた結果、バーバラは多少なりとも元気を取り戻した。
すると一人の人があるアイテムを持って戻ってきた。
レック「それは何ですか?」
「これは魔法のじゅうたんです。これに乗れば陸地だけでなく、海の上を飛んでいくことも出来ますよ。」
町の人は、さらに夢の世界でも現実の世界でも使えることを説明してくれた。
「ありがとうございます。じゃあ、僕達はこれに乗ってダーマ神殿に行くことにします。」
レックはそれを受け取ると、早速じゅうたんを広げ、バーバラと手をつなぎながらその上に乗った。
するとじゅうたんはゆっくりと宙に浮いていき、少しずつ水平に動き出した。
「きゃあっ!」
思わずバランスを崩したバーバラは、とっさにレックの体にしがみついた。
「わあっ!」
「あっ、ごめんなさい!あたし…。」
「いいんだ。さあ、このままダーマ神殿まで飛んでいくよ。」
「うん。お願いね。」
バーバラは手をつないだまま、レックに寄り添い続けていた。
そして彼はじゅうたんを操縦し、2人でカルベローナから飛び立っていった。
レック、ありがとう。
あたし、明けない夜を数えることになるかもしれないけれど、あなたがいればきっと立ち直れる気がするわ。
あたしが迷わないように、これからもこの手をどうかつないでいて。