マスゴミのブルアカ   作:連載停止

1 / 6
その1

 プルルル!

 

 電話?

 なんだよ……今運転中なんだぞ。

 

「もしもしこちらクロノススクール報道部、キヴォトス青春新聞担当の河澪(かわみお)璃修(りしゅう)ですが」

『璃修君! 今どこで何してるのよ!?』

 

 いやうるっさ。

 

 

 


 

 

 

 俺はどうやら転生者というものらしく、前世の記憶を持ち合わせていた。

 あくまで『らしい』のは実感がないからだ。

 俺は俺であり、前世は第三者。そういう認識が体を、精神を支配している。

 ゆえに、俺は前世を俺として認識できないのだが……まあそんなことは些事だ。

 

 それによると俺は前世ではろくに良い青春を仰げず、無味無臭の日々を過ごし、ブラック企業に酷使されて過労死……なんともまあ、面白みのかけらもない前世だった。

 

 だがその前世によって俺のいるこの世界には『主人公』がいるのだろうということを理解できた。いわゆるラノベ・ゲーム世界の『お約束』だ。

 このキヴォトスはまさにゲームの世界と言ってもいいほどに不思議な世界だ。

 頭に輝き浮かぶヘイローを持つ美少女学生たちが銃を手にドンパチやり合う。これはまさしく非日常。前世世界においてはすでに日常が崩壊していると言える演出だった。

 

 こんな非日常を日常にしている世界において、『お約束』通りであれば、『主人公』が現れることは想像に難くない。

 

 『主人公』がいるということは、目まぐるしい活躍劇があるということでもある。

 俺はその活躍を見てみたかった。

 

 だが、俺は男子生徒。

 頭にはヘイローを浮かばせず、身体能力はそこらのヤンキーにも劣り得る。

 とてもじゃないが、『主人公』の傍で戦うなんてことは不可能な存在だった。

 

 だが、俺は前世の知識の中から有力な情報を手に入れることができた。

 

 俺が望むのは『主人公』の活躍の見物であり、『主人公』の仲間になることではないいのなら……

 マスコミになるのは、いい手段だと思ったのだ。

 

 『主人公』に、その仲間たちにインタビューと称して合法的に見物とお話しができる素晴らしい職種。

 俺のような弱い人間でも、『主人公』の傍にいることが許される方法。

 

 これだと思った俺は、キヴォトスでも有数の報道機関でもある高校のクロノススクールへの進学を決めたのだった。

 

「そんな怒鳴らなくても聞こえていますよ、風巻(かざまき)さん。いったいどうしたんですか」

『どうしたもこうしたも……なんで学校にいないの!?』

「取材に出てるからに決まってるじゃないか」

『どうして取材に出てるんですか!? テレビのメインパーソナリティになるっていう部長からの提案はどうしたんですか!?』

「そんなことしたら取材に行けないじゃないか」

『蹴ったんですか!? 大スターの道ですよ!!?』

 

 スターになったら取材にいけないじゃないか。

 俺は芸能人になりたいのではなくて、報道記者になりたいのだ。

 

「部長に伝えてほしい。俺をテレビに出すなら現場のリポーターのポジでしか出ないからな」

『ヘイローもないのに現場での報道は無茶ですって!』

 

 やってみなけりゃわからんだろう。

 それに、前世の世界では戦場でもカメラを回す鋼の精神を持つ一般人がいた。

 つまり、できるということだ。

 

『無茶ですって! おとなしく部室にいてくださいよ!』

「やると言ったらやるぞ」

『くっ、なんて強情な……』

「別にそこまででもないですよ、みなさんの記者魂に比べれば」

『いや、あなたほど命知らずではないんですけど……とにかく、早く帰ってきてください! シノンちゃんが悲しみますよ!』

 

 なんでそこで川流(かわる)さんが出てくるのだろうか。

 

 ただテレビの顔にならないかと部長から打診されたときの数回程度しか顔を合わせてないはずだが。

 

 俺のヒロインにするには出番が足りてない。

 その程度では俺の心は動かない。

 

『くっ、本当に悲しみますよ、シノンちゃんは!』

「ただ街に出向くだけですよ、問題ないですって」

『……というか、取材なんですよね。何処に取材に行ってるんですか?』

「連邦生徒会ですよ」

『なんで!?』

 

 なんでも何も、最近のキヴォトスの現状についてどう考えているのか聞きに行くのだが。

 

 ミレニアムでは一部の風力発電所がシャットダウンした。ゲヘナ、トリニティでは不良が増加……明らかに最近のキヴォトスは犯罪率が上がっている。

 

 最近数週間も現れない連邦生徒会長も不穏だ。

 何を考えているのか……取材する価値は十分にあると思っている。

 

「それに……」

『それに?』

 

 今日は(そら)がいつもより(あお)い。

 

 こういう日には、何かビッグニュースが起こりそうなんだ。

 

 

 


 

 

レセプションルーム

 

 

 セミナーの早瀬(はやせ)さん! ここ数週間の騒動についての意見をお願いします!

 

「え、えっと、その……」

 

 どうぞ!

 ささっ、心に思うことを言うだけですので!

 

「あーもう! なんでクロノスがここにいるのよ!」

「なんて行動力……私たちが集うタイミングに現れるなんて」

 

 ミレニアム、トリニティ、ゲヘナ……キヴォトス三大学園が勢ぞろいしているとは、俺も運がいい……!

 絶好の取材チャンスだ! 

 

 トリニティの正義実現委員会である羽川(はねかわ)さんも、どうぞ!

 

「私から言うことはありません。今回は連邦生徒会の動向について確かめようと赴いただけですので」

 

 うーむ、お堅い。

 別に本心を言っても構いませんけど。

 

「そうやってしゃべってしまえば、あることないことやりたい放題するのがクロノスでしょう? そりゃあ口を噤むわよ!」

「ええ、最近のクロノスは少々情報の正確性というか、信憑性に対して低さが目立ちますから」

 

 ぐっ、ほかの報道部が好き勝手してるせいで肩身が狭い。

 俺が担当している新聞は信頼できるので、どうか定期購読お願いします!

 

「そう言われてもねえ……」

「……みなさん、エレベーターが動いてます」

 

 ゲヘナの風紀委員である火宮(ひのみや)さんの言った方向を向くと、確かにエレベーターが稼働していた。

 あのエレベーターはこのサンクトゥムタワーの上階に通じている。

 つまり連邦生徒会の役人が来るということ。

 

 それと同時に、俺はエレベーターから現れる誰かについて、ある程度の予感があった。

 

 待ちわびた存在、待ち望んだ存在。

 それが今、やってくるのだろうという期待があった。

 

 そして、エレベーターはこの階に到着し、軽快な到着ベル音を鳴らして扉を開いた。

 

 首席行政官である七神リンと、一人の男性がエレベーターから出てきた。

 

「ちょっと待って、代行、見つけた「激写ァッ!」

 

 主席行政官、キヴォトスの危機の最中に男性と密会!?

 これはいい記事になる!

 

「あなたは……」

「えっと……彼女たちと、彼は……?」

 

「はぁ……やってくれましたね、クロノス」

「そういうところですよ、報道部」

「あんたねえ……!」

 

「はぁ……厄介な人たちの中でもさらに厄介なクロノススクールの報道部まで。面倒な……」

 

 申し訳ないとは思うが、これでも俺は報道部。

 ゴシップネタは見逃せないんだ!

 

 まあ迷惑なのでこちらの写真の入ったSDカードは捨ててしまいましょう。

 キッチリ踏んで壊してもいいですよ?

 

「そこまで行動力あると怖いわよ、あなた……」

 

 それはそれとして……あの男性。

 

 見るだけでわかる。彼が『主人公』だ。

 見た目はパッとしない大人、って雰囲気だけど……

 

 でも、それでも、このキヴォトスを変えてくれる――『特ダネの種』なのだと、俺は確信した。

 

 

 


 


 

 

 

「なぜ、そこまで私に歯向かうのですか?」

 

 ――特ダネ、だからな。

 

「死ぬかもしれないのに? あなたはヘイローもない人間。銃弾一発で生死を分けるでしょうに」

 

 殺す覚悟はないだろうに?

 そもそも……殺せるのか?

 

 そんな罪で捕まってたのか?

 

「……生意気な」

 

 真実を教えてくれよ……お前は『特ダネ』なんだからさァ……

 

 俺は、お前の真実を激写する、ワカモォ!

 

 




評価してくれれば続く。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告