マスゴミのブルアカ 作:連載停止
「えっ、アビドスに?」
「ああ。砂漠の地区に行ってみるよ」
「どうしてですか? あそこは今じゃ過疎化した地区じゃないですか」
まあ、勘としか言いようがないな。
強いて理由をつけるなら――連邦生徒会に要請している支援が来ないことに対して、何か意見はないか……とか?
「記事にするにはちょっとインパクトが弱くないですか?」
じゃあそうだな……先生が行くから、って言ったらどうだ?
「先生? シャーレの、ですか?」
ああ。
連邦生徒会が現状身動きできない以上、それができるのはシャーレのみだ。
とはいえシャーレがその支援要請を受けたのかどうかは分からないけど、まあ……あの先生なら行くだろうからな。
前もって先回りしておこうと思ったんだ。
「へえ……先んじてシャーレの記事を書こうと、そういう算段ですか」
「なんだよそんな恨めしい声出しやがって……風巻さんはゲヘナの取材で忙しいんだろ?」
「それはそうですけど……」
「だったらそっちをちゃんとやってくれよな。エデン条約も数カ月先にまで近づいてきたんだ。きちんとトリニティが微笑むような内容を作ってくれよ」
「それって大分厳しいの分かってますよね?」
まあな。
ゲヘナの姿を見て笑うとかそれどんな失態だってなるレベルで犬猿の仲だからなあ。
「でも、そういう意気込みでやってくれよ、な?」
「まったく……でも、元気入りました。ありがとうございます」
そういって、風巻さんはデスクから立ち上がり、荷物を纏めたショルダーバッグを肩にかけた。
「それじゃ、行ってきます。璃修君も気を付けて」
「ああ」
「決して、怪我なんかしちゃダメですからね? シノンちゃんがまた悲しみますからね!」
いや、だからなんで川流さんが俺の心配をするんだ……
うーむ、参ったなあ。
よりにもよって砂嵐に巻き込まれるとは。
ここ近年のアビドスでは日常的だとは言え、よそ者からしてみれば異常気象極まりない。
せっかく乗ってきたマイカーも砂で傷ついちゃうし、散々だ。
はぁ……視界は完全に不良。一寸先も見えない。
完全に立ち往生だな。
どうしたことやら。
「なんなのよ、この砂嵐はー!」
「アビドスは砂嵐がひどいって聞いてたけど、これほどだなんてね……」
「うーん、いったん帰らない? 身体中砂だらけになっちゃうよー?」
「ア、アル様のご命令でしたら、たとえ砂嵐でも、私は――!」
あー……俺と同じように立ち往生してる人がいるのか。
まあこの砂嵐だし、そういう人もいて仕方がないか……
「あ、ねえあれ、装甲車じゃない? あれを奪って休ませてもらお?」
「なるほど……でもあの色、クロノススクールの報道部の車じゃない? 仮に報道部に手を出すと余計な悪評を撒かれるかも……」
「だ、大丈夫ですアル様! たとえ報道部でも、私は――!」
「……そんな強硬策に出る必要はないわ。普通に接すればいいのよ。普通に」
「すいません、この車のお方、いるでしょうか?」
車の外からノックの音が聞こえてきた。
ノックされた窓を見てみると、そこには人影が四つほど見えた。
「どうしました?」
「この砂嵐で立ち往生してしまいまして……申し訳ないのですが、この車の中で砂嵐が収まるまで休んでもいいでしょうか?」
「ふむ……」
まあ、わかりましたよ。
でも、カージャックは勘弁願いたいですね。
そうしようとした瞬間にこの車を爆発させますので。
「爆発っ!? い、いや、そんなことしないですから、お願いよ!」
まあ、カージャックしないのでしたらいいですよ。
今カギを開けますね。
「ふー、助かったあ……身体中砂だらけだよお……」
「助けてくれてありがとう」
「あ、ありがとうございます……でも、アル様に危害を加えるのなら、私っ」
加えないってそんな急には……
……アル?
「へ?」
「アルなのか? ひょっとして、
「え、ええ……ま、待って、まさかアナタ……」
「本当にアルなのか! 久しいな!」
「り、璃修!? なんでここに――!?」
いやー懐かしいな。
中学卒業以来か。
あのころとは見違えるような格好になったな!
ガリ勉優等生として名を馳せていたころの面影がなくなってて思い出すのに若干苦労しモゴモゴ。
「だだだ黙ってて頂戴……!??」
「へー、中学時代のアルちゃんの同級生なのー? すごーい! 運命感じちゃうねー!」
「ア、アル様……大丈夫ですか? アル様に不都合な存在なら、私が始末して……」
この子たちはアルの友達か?
ずいぶん楽しそうな子と友達になったんだな!
あの頃のアルは陽キャ絶対許さないガールだったのにずいぶん変わったなあ。
髪も伸ばしちゃってー。
高校生になって心機一転したんだな。
「本当に黙ってくれるかしら……?」
「社長……社長の過去がどんなものでも、私たちは今の社長についていくから」
「カ、カヨコ……!」
「そーそー、でも、私は昔のアルちゃんについても知りたいだけでー?」
「ム、ムツキっ!? ダメよそんなの! 教えないんだからっ!」
そーだ!
せっかくまた会えたんだ、この砂嵐が止んだら一緒にご飯でも食べないか?
俺が奢ってやるからさ?
「……本当?」
ん?
なんでみんなして俺の方を向くんだ?
しかっもそんな期待に満ちた目で……?
「ほ、本当に奢ってくれるの? 嘘じゃないわよね??」
嘘を言うわけないだろ。
しかしなんだ?
お前たちのその目……
まるで今日の食費がないかのような目で、俺に希望を見出したかのようなきらめきを浮かべてるんだが……
まあそんなことはないよな。
だってアルがいるんだものな!
「うっ」
生徒会会計として中学の金銭問題の悉くを解決していたアルに限って、金欠になるだなんてそんなことあるわけないよな!
「ううっ」
そのあまりに無駄のない予算設計で、みんなから『会計王女』と言われた女に限って、そんなことないよな! アル!
「うぐうっ」
今日金がないのは……あれだ、盗まれたからだろ?
あるいは財布を忘れたか。
まあ、そんなところだろ「無いのよ」……う?
「お金が!!! 無いのよ!!!」
「…………マジですか」
どうやら、中学時代のアルは……もう過去の人物と化してしまっていたようだ。
「便利屋
「そうよ! 私、起業したのよ!」
へえ、起業を。
あれ、でもゲヘナって起業なんて許されたっけ……?
「まー許されてないよ? おかげでアルちゃんの銀行口座は開かなくって年中金欠気味なんだよね~。あっ、私は塩ラーメンで!」
「よくそんな会社で働こうと思えるな……」
「ま、そんな社長でもやるときはまあ、やるときにはやる人だから……私は醤油ラーメンで」
「だろうな。昔からそんな人だもんな、アルは」
「やるときはやるって何よ!? 何時だって私はハードボイルドなアウトローとして……」
「
「話を聞きなさーい!」
「あ……私は……こ、この豚骨ラーメンなんか……」
「おっけ。じゃあそれな」
「あああ、でも、高いですよね!? 他のラーメンに比べても130円も高いですし! ごめんなさいごめんなさいごめんなさいっ!」
「いいっていいって。俺の奢りなんだから素直に食べとけって」
「…………私は味噌ラーメンでいいわよ」
「よし、じゃあ俺も味噌ラーメンで――オーダーお願いしまーす!」
「はーいっ」
「それにしても、報道部って儲かるんだね?」
そこまで儲かってるかな?
俺の場合は新聞の購入費用でだいぶ稼げているが、その収入のうち半分以上は出版社と配送業者に回してるし、取材した人への取材料金として割と大金を支払ってたりもする*1から意外と手元には残らないのだが。
だから俺が使っているお金は実は中学からバイトして貯めていたお小遣いだったりする。
「へえ~立派なんだね?」
「ウウッ」
「……社長は依頼の運が悪いだけ、気にする必要はないから」
「わ、わかってるけど……っ」
それはそれとして、だ。
みんなは便利屋としてこのアビドスに来たんだろ?
わざわざゲヘナからこんな砂漠の辺境に来るだなんて、どんな理由があって来たんだ?
「――よく聞いてくれたわ。私たちがここに来たのは当然、依頼よ」
依頼?
「ええ、とある依頼人に頼まれたの。その依頼のためにここに訪れたのよ」
その依頼について、教えてくれたりは……いや、それはないか。
アルはそういうところはビシっと決めてるもんな。
「へえ~ほんとにアルちゃんのこと、何でも分かってるんだ」
そんなんじゃないさ。
中学の頃のアルはそれはもう有名だったからな。
しかし……うん、せっかく出会えたんだ。これも何かの縁。
実際に現地に行って依頼内容を観させて――できれば撮影とかもしたいんだけど……いいかな?
「えっ、それって」
「ああ、ちょっと予定を変更して、君たちを取材しようと思う。取材料は弾むよ、便利屋68」
「ほ、本当なのよね!?」
「やったねアルちゃん! これで貧乏生活からおさらばだよっ」
「お、おめでとうございます、アル様!」
「いらっしゃいませーって、みんな?」
「やっほーセリカちゃん、お邪魔するよ~」
「ん、邪魔する。とりあえず柴関ラーメン5つお願い」
「手を引っ張らないでくださいっ、ホシノ先輩」
「今回のお金は私が払いますから……私たちが悪かったですし」
「いやいや、先生も悪乗りしちゃったからね。先生が払うよ……って、あれ? 璃修君、なんでここに?」
おや、先生。
それにその子たちの制服はアビドスの……
…………なるほど。
主人公の脚は速いな。
俺が予想していたよりも早くアビドスの生徒たちと交流しているようだ。
予想通りなら今しがたにアビドスにたどり着いたかどうか、という感じだったが、ちょっと今後についての取材計画に修正が必要になるかもしれない。
「ねえあの子たち……」
「うん、あの制服、アビドスだよ」
おや?
ふむ、これは……依頼内容はアビドス絡み、か。
そしてそれを依頼する依頼者っていうのも、だいだい見当がついてきた。
思っていたよりも闇が深そうだ。
そして、思っている以上に、先生の戦いは――激しくなりそうだと考えた俺は――心をときめかせていた。