マスゴミのブルアカ   作:連載停止

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その6

 覚悟を決めたアルは手早くバイト傭兵を集め、アビドス高校へと足を進めた。

 

 アビドス高校もまた、近寄る彼女たちの情報を確認し、校門前で待ち構える姿勢を採った。

 

「あーっ! あんたたち、さっきの! あんなに楽しくお話しておきながら、私たちの敵だったって言うの!?」

「う、ううっ。そ、そうよ! 私たちはあなたたちアビドスを倒すためにやって来たのよ!」

「まあ、悪いけど仕事だから、ね。公私は区別しなきゃ」

「仕事……それが便利屋だったんだ」

 

 さて、俺はこのマイカーで後方から戦闘の様子を確認させてもらうとするか。

 とりあえずはアビドス高校の人員を把握しておかないとな。

 

「もう! こんなアルバイトするよりも、もっと健全な仕事があるでしょう!」

「ちょっ、アルバイトじゃないわ! これはちゃんしたビジネスなのよ! 私は社長で、彼女は課長、こっちは室長で――」

「あはは、薄っぺらい企業にしか聞こえなくなっちゃうよーアルちゃん?」

「仕事中は『社長』でしょ!?」

 

 ふむ、先生の傍にいるのが一人、ラーメン店で一人脹れていた子か。

 

 彼女は後方支援役か?

 その手元にはノートパソコンがあるが、武装を確認できない。

 いや、ちがう……? ああ、見えた見えた。腰のホルダーに留められたハンドガンを確認できた。

 武器の携帯を確認することはできたが、あれは報道部と同じように、非常用の物だろうな。

 

 確か彼女の名前は……奥空(おくそら)アヤネか。

 

「誰の差し金……いや、答えるわけないか」

「っていうかあんたたち! こんなことやるって言っておきながら私たち対策委員会のこと応援していたの!? 信じられない! 最低!」

「う、ううっ」

 

 銀髪に水色のマフラーを撒いている、アサルトライフルを手に持っているのが砂狼(すなおおかみ)シロコ。

 

 暗い紺色の髪をツインテールにした彼女。便利屋に対し厳しい批判をしている彼女は、ラーメン屋で店員をやっていた子だったか。名前は黒見(くろみ)セリカ。

 

「そういえば、あなたたちと一緒にいた報道部の方は……」

「彼はあそこ! 戦わないからちょっと離れた場所で待機させてもらっているのよ!」

「璃修には手を出さないでね。彼はあくまで私たちを取材に来た報道記者だから」

「そーそー、彼の取材で明日も美味しいご飯を食べるんだから、ね?」

 

 おっと、俺に話が回って来たか。

 車に備え付けられたスピーカーをオンにして、俺の声を届ける。

 

「俺にはヘイローはありませんよー! 銃弾一発でも受けたら死にますからねー!」

「は、はぁ……」

「熱心な報道記者なんだね、璃修君は」

 

 この場に鉢合わせた赤の他人からすれば、何やら物騒ながらも不穏さのかけらもない話だと誤解されてしまうような雰囲気。

 しかしその空気感は、砂狼のアサルトライフルがリロードされる音でかき消えた。

 

「ん、彼のことはどうでもいい。今は便利屋の依頼者が誰なのかを探ることを考えるべき」

「うんうん、そうだねー。正直に言ってくれればいいんだけど……力技で答えてもらうしかないかなあ?」

 

「ふふふ、それはもちろん企業秘密よ。――総員、突撃!」

 

 そして、アルの号令により傭兵たちはいっせいにアビドスに対して銃撃を開始した。

 

 アビドスは校庭に拵えた簡素なバリケードたちに身を隠しながら、迎撃を始めた。

 

 

 


 

 

 

 だが、まあ。

 先生がバックについたアビドスは強い。

 いや、今までにも何回もあった襲撃をしのげている以上、彼女たちの実力はかなり高い部類だ。

 人員の少なさだけが問題だが、それさえ何とかなればゲヘナの風紀委員とだっていいようにやり合えるかもしれない実力者と言えよう。

 

「くっ、総員、まずはあのガトリングガン使いを何とかしなさい!」

 

 アルがとにかく目障りだと思ったのは、ガトリングガン使いの十六夜(いざよい)ノノミ。

 彼女の弾幕が傭兵たちを大きく妨げている、そう考えたのだ。

 

 その指揮のもと、傭兵たちは十六夜を狙うが――それはデコイ。

 

「――社長、彼女は囮だ! 別方向から来ている!」

「くっ! なんて的確な行動……!」

 

「ノノミちゃんに注目している隙に攻撃だ~」

「ん、攻勢に出る」

 

 十六夜の攻撃により巻き上がった砂塵に隠れながら、砂狼と小鳥遊(たかなし)ホシノが離れた場所から近づく。

 

 それに気を取られた傭兵たちを、今度は黒見と十六夜が狙い撃つ。

 

「全体の被害は30、40%……」

 

 少しずつ、しかし確実にこちらの部隊の損傷は拡大していく。

 無論、迎撃こそ行っているし、彼女たちにも被弾しているが止まる気配はない。

 

 そもそもの被弾が弱かったり、急所に当たっていなかったりと技量不足も目立つが、何より――彼女たちの防御を打ち破れていないのが問題だった。

 

 小鳥遊の折り畳み型のシールド。

 それを展開しながら進んでくる小鳥遊を止められていないのが致命的だった。

 

 ただのシールドとなめてかかってた部分もあっただろうが、手榴弾を用いても止まることのないその頑強さたるや戦車の如くと言ったところだ。

 

 その危険度について、理解したときには――制圧されている途中になってしまっていた。

 

「……社長、どうする? 大分押されているけど」

「こ、こうなったら残っている部隊で一気に総攻撃を」

「……残っている部隊なんてないけど」

「えっ、あれっ!?」

「あはは、アルちゃん『総員突撃』って言ってたじゃん~!」

「だ、だったら私が爆弾を抱えて突撃してきましょうか!?」

 

 さすがに自分たちも出なければならないか、そういう損壊度合いになってきたころに、アビドス高等学校のチャイムが鳴った。

 その音色を聞いた傭兵たちは、銃撃を止めて自身のスマホや腕時計などを確認し、現在時刻を知る。

 

「――あ、もう時間だね」

「えっ」

「出された日当だとこの時間までだね。みんな、帰るよー」

「えっ、えっ」

 

「そっちに確保されちゃった子、解放してくれない? もう戦わないからさ」

「え、えーっと……」

「解放していいんじゃないかな?」

 

 傭兵たちのリーダーと思わしき少女の号令により、戦闘を停止して撤退を開始した。

 また、アビドスのみんなにやられて縄で縛られてしまった者たちも続々と解放されていく。

 

 傭兵たちはアルのことをちょっとだけみて「お疲れっした―」と言った。……たったそれだけで、ぞろぞろと立ち去って行った。

 

「……まあ、こうなるわな」

 

 アルの、というか会社の所持金で傭兵を雇えばこの程度の時間しか仕事させられないのは分かっていた話だ。

 

「さて、あとはあなたたちだけだね」

 

 砂狼さんたちはアルたちに詰め寄り、銃口を向ける。

 さて、アルはここから何をするのか。一応銃口を向けかけの応戦体制ではあるが、向こうには先生という『主人公』がいる。

 対面は不利だが……

 

「お、おぼえておきなさーい!」

「そのセリフ、三流の悪役っぽいよ……はぁ」

「うるさいうるさーい!」

「きゃはは、それじゃーね?」

「し、失礼しました……」

 

 なんとも小物っぽい捨て台詞を吐いて、アルたちは逃げるという選択を取った。

 まあ、現状ではその選択がベストではあるだろう。

 

 さて、俺も逃げるか。

 アルたちに今回の戦闘の感想を聞かなくちゃならないし。

 

 でも、その前に……一回彼女たちに尋ねておきたいんだよな。

 車から出て、校門前でアルたちの逃げっぷりに唖然としているアビドスの人たちに声をかける。

 

「止まって、さっきのやつらの仲間でしょ?」

「あいにく、俺は便利屋68の取材者だよ。ラーメン屋で言った通り。そこに嘘偽りはない」

「私たちに何か用?」

「単刀直入に聞くけど……君たちはアビドス生徒会で間違いないかな?」

「違う。私たちは対策委員会」

「アビドス生徒会は2年前に閉鎖されました。現在は対策委員会が生徒会の権限を所有しています」

 

 奥空さんが丁寧な口調で説明してくれた。それにより違和感が解消されていく。

 ……感じていた違和感はこれだったか。

 

 ラーメン屋で彼女たちは『対策委員会』とは言ったものの、『生徒会』の名称は一切使っていなかったこと。

 そこに俺は疑問を抱いていた。

 

「何? 何かおかしいところでもあるの?」

 

 黒見さんが睨みつけてくるが……彼女の言う通り、おかしい、というか……

 

「面白いではなくて、奇妙、という意味でのおかしい点があったんです」

「奇妙?」

「はい。ここに来る前に連邦生徒会の公開データベースでアビドス高等学校の認定部活についての資料を拝見しました。ですが、そこには対策委員会についての記載がされていませんでしたから」

「えっ、それほんと?」

「嘘は言いません」

「あー……そっか。確かに連邦生徒会に届け出するのを忘れてたような……」

「それなら後で私が公認の部活に指定するよ。シャーレの権限ならそれぐらい余裕だからね。璃修君もありがとう、このことを教えてくれて」

 

「いえ、ただ気になったことを伝えただけですからお気になさらず」

 

 さて、聞きたいことも聞き終わったし、俺もアルたちのもとへ行かないとな。

 そう思いながら、俺は車のアクセルを踏み、アビドス高等学校の校舎を離れるのだった。

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