東方短編集   作:文織

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今回も思い付きでぽちぽち。
ただし今回は前回と違って少し重めの内容。
いつも通り駄文警報。


とある毘沙門天の昔話

 私はある日、一人の僧侶に出会った。

 それが、私の生き方を変えた分岐点だった。

 その機会をくれた聖に一生感謝してもしきれないほどだ。

 ただ人に怯えられる妖獣に過ぎなかった私を毘沙門天の弟子とさせ、信仰の対象にしてくれた。

 なぜ私を選んだのかと聞けば聖は。

「貴女が一番適役だと思ったのよ」

 と答えた。

 聖から信頼されているという事が嬉しくて、私は一生懸命に仕事をこなしていた。

 最初に聖の志を聞いたときは驚いたものだ。

『人間と妖怪の共存』

 聖の掲げる志の実現は非常に難しいだろう。

 しかし、私は信じていた。

 聖ならばきっと実現することができると。

 皆が聖の言葉に耳を傾けるようになった時、聖の志は達成されると。

 それにほんの少しでも助力できるのならと私は尽力した。

 

 

 

 それからいくらか年月が経ち、だいぶ寺がにぎやかになっていた。

 亡霊となっていた村沙を説得し未練を消して、新たな意味を与えた。

 今は聖輦船の船長をこなしている。

 聖の志は確実に実を結んでいっている。

 これならきっといつか……

 

 

 

 聖の目指すところを人間達が知った。

 きっと賛同してくれると思った。

 素晴らしいと手を叩き称えると思った。

 

 しかし、現実はそんなに甘くはなかった。

 

「聖っ!どうしてわかってくれないのですか!」

 もうすぐそこまで人間達が迫ってきている、もう時間がほとんど無いというのに聖は本殿から動こうとしない。

 今思えば、無理矢理にでもどこか遠くへ連れていくべきだったのかもしれない。

「大丈夫ですよ、星。きっとちゃんと話し合えば皆さんわかってくれます」

 そう言って聖は微笑む、痛々しいほど悲痛な微笑みで、あの顔はまだ脳裏に張り付いている。

「大丈夫なわけ……っ!無いじゃないですか…」

 もう本殿の目の前に人間が迫っており、声が聞こえる。

 殺せ、悪魔を追い出せ、と。

「聞こえているでしょう!?あの人間達は……聖のことを悪魔扱いしているのですよ!?」

 聖は既にあらゆる苦痛を克服した僧侶である、さらに妖術の類いも扱い、きっと人間達の手で殺すことはかなわないだろう。

 しかし、それでも私は赦せない、人間達が無抵抗の聖を蹂躙する様など見ていられるはずがない。

「だったら、私が……毘沙門天の私が説得します、だから聖は……後生です、聖は逃げてください……」

「それはできないわ、星」

 そう言うと聖は私に近付き、私を優しく抱擁した。

 聖の体はとても暖かく、私は堪えていた涙が溢れてしまった。

「これは全て私が起こしてしまったこと……全ての責任は私にあるわ。だからその苦痛を星、貴女に背負わせる訳にはいかないの」

「聖……」

「代わりに、私のお願いをひとつ聞いてもらってもいいかしら」

「ひとつだなんて言わないでください聖……これからいくつだって貴女の願いは私が聞きますから……」

「だったら星、貴女は──」

 貴女は逃げてください。

 聖は確かにそう言った。

 私に、聖を見捨てて逃げろと。

「そんな……そんな残酷なことをお願いしてしまうのですね……聖」

「だって、星は私の大切な家族ですもの、貴女に無事でいてもらいたいの」

「しかし、聖は……聖はどうするのですか……?」

「私がすることは変わりませんよ、いつものように、皆さんに仏の教えを説くのです」

 聖の表情がいつものような柔和な笑顔に変わる。

 きっと、今の聖には何を言っても無駄なのでしょうね……

「わかりました……聖、必ず、必ずご無事で」

 

 私は、この場を後にした。

 

 

 

 

 しかし、結局私は聖の事が心配で半刻もしないうちに戻ってきていました。

 まだ本殿にはあかりが灯っており、中でうごめく影が見える。

 私は意を決して本殿へと踏み込んだ。

 

「何を……しているんだ?」

 

 自分でも恐ろしいほど冷めきった声が喉を震わせた。

「び、毘沙門天様……」

 そこにあった光景はあまりにも残酷だった。

 身体中から血を流し、倒れている聖。

 辺りにはもう何人も殺したようなおびただしい量の血液が飛び散っていた。

「こ、この者が妖怪に加担する悪魔だったものですから……」

「言い訳なんて聞いていません、聖は今まで往々にして説いてきたはずでしょう、全ての生き物は平等であると。私も、人間も、妖怪達も」

 私は聖の元まで歩み寄り、ひざまずいた。

「聖……」

「あぁ、星……戻ってきてしまったのですね」

「当然です、貴女の為、不肖寅丸星戻って参りました」

 その様子を見て人間達はざわめいている。

「聖白蓮、貴女を封印いたします……」

「星?」

「貴女の志はあまりにも高過ぎた……あまりにも、尊かった……」

「そうですか……」

 聖が残念そうな表情となる。

「どうやら、そのようですね」

 とたんに聖の体が白く輝き始める。

「聖……なにを」

「優しい貴女には、こんな酷な仕事を任せられないわ」

 そう言うと聖の体がだんだんと薄くなっていく。

「それでは星、私が居なくなった後のこと、任せますね」

「……はい、仰せつかまつりました……」

 そして聖の姿は完全に虚空へと消えていった。

「聖、やはり貴女は変なところで抜けていますね……私が貴女を本当に封印なんてするはず無いじゃないですか……」

 この時流した涙を最後に、以降私は涙を流さなかった。

 

 

 

 今でも、はっきりと思い出せるものですね……いったいどれ程前のことだったでしょうか……

 あれから私は聖から預かった命連寺でずっと毘沙門天としての仕事を続けている。

 かつてほどの檀家はいなくとも、それが聖の願いであるのなら、この身尽きるまでこの仕事を続けようと思う。

 そう思っていた時だった、ずいぶんと懐かしい顔が命連寺を訪れて、こう言った。

 

『聖の封印を解こう』

 

Next stage is 東方星蓮船




命連寺のSSを読みたいというリクエストがあって最初は星が宝塔無くすいつものコメディ書いてたんですけどね、途中で天恵めいたアモトスフィアが……
(ついでにナズーリンでちょっと詰まっちゃったんだ……)
そっちもそのうち完成させたい
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