東方短編集   作:文織

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千里を見通す程度の能力を持ってるのに哨戒兵止まりは惜しいと思う。
今回はスペルカードルールが作られるよりも昔、妖怪と人間が捕食者と食料だった頃のはなし


人の子拾いました。

「うーん……」

 妖怪の山にすむ犬走椛はここ数十分ほど同じ場所で唸っていた。

「うーん……」

 その原因となったものが今目の前にある。

「どうすればいいんだろう……」

 人間の赤子が妖怪の山の麓に捨てられていたのだ。

 

 

 

 椛がその子供を見付けたのはほんの偶然だった。

 散歩中にただなんとなく千里を見通す程度の能力を使った時、麓にこの子供を見付けたのだ。

 もちろん椛は子供を育てた経験はないし、捨てられた子供の親を見つけ出すことは至難の技である、それに万が一親が見つかっても子を捨てた人間に返してどうにかなるとも思えない。

「うーん……」

 それが今椛を悩ませていた。

 素直に上司に報告すればきっと捨て置かれるか、よくても人里に持っていくだけだろう。

 かといって子供を育てるのかというとそれはそれで自信がない。

 はてさてどうしたものか。

 

 

 

「とりあえずつれてきちゃったけど……」

 椛は結局子供をつれて自宅へと戻っていた。

 椛は白狼天狗でありながら、その『千里を見通す程度の能力』を評価され、哨戒任務からは外されていた。

 しかし、やはり白狼天狗ということもあり自宅は集落から少し離れたところにあった。

 それが今回子供をつれてくることを後押した。

 しかし育てる覚悟を決めたというわけではなくただあの場に放置して他の天狗に報告されたり獣に襲われたりしたらまずいと思った故の一時しのぎだった。

「え、えっと、なにを用意すれば……とりあえずミルクと、おむつの替えとそれから……」

 

 

 

 それから数日の時が経ち、大分子育ての慌ただしさにも馴れてきた頃だった。

 初めての子育ては苦難を極め、ミルクを与えるのも一苦労だったり、おむつの代え方に四苦八苦したりと慌ただしくも、ここしばらくの暇でしかたのない頃よりも張りのある毎日を過ごしていた。

 突然カシャッというカメラのシャッターをきる音が椛の決して広くない部屋に響いた。

「誰っ」

 椛は急いで振り返り、玄関口に立っている人影を見据えた。

「あやややや、誰とは随分な、友人の私を忘れたっていうんですか?」

 そこにいたのは最新式の射影機を手に持った鴉天狗の射命丸文だった。

「なんだ、文か……」

 そこにいたのが同僚である文であるとわかり、まだ安心できる相手であると少し安堵した椛だった。

「なんだとはまたひどい言われようね……せっかくここ数日顔を見せないあなたに会いに来てあげたというのに」

「余計なお世話。もう、用もないなら帰ってちょうだい」

「いやぁ、元々用は本当にちょっと顔を見に来ただけだったんだけどね……あやや、まさかあなたが人間の子供を育てていたとは」

「……それがなによ」

 余計なことをすればその翼叩き斬ると言わんばかりの意思を込めて椛は射命丸を見た。

「おお、怖い怖い、別になにもしないわよ、見てるだけで面白そうだし」

 その答えを聞いて安心した椛は、再び子供の世話へと戻った。

「ところでその赤ちゃん名前決めたの?」

「いや、付けてないけど」

「……いや、子供育てるならちゃんと名前付けなさいよ」

 

 

 

 その後二人であーだこーだと相談して子供の名前は『(かえで)』に決定した。

「男の子で楓ぇ?」

「別にいいじゃない、育て親は私なんだから」

 

 

 

 さらに数日が経った。

 もうすっかり子育てがいたについてきて、なんだかんだで射命丸も出来る限りの手伝いをするようになった頃。

「かぁ~、かぁ~」

 今まで泣くか笑うかしか出来なかった子供が、初めてそれ以外の言葉を発するようになった。

「え、えっと……」

「お母さんって呼んでるつもりなんじゃない?」

「わ、私のこと?」

「そりゃそうでしょうよ」

 椛は楓の元に近付き、いつもそうしているようにそっと抱き上げた。

 すると、楓は笑顔になり、笑い始めた。

「私が……お母さん」

 この子を育て始めてから、この時初めてこの子の親になれたような気がして、心が不思議な感覚で満たされる椛だった。

「……勝手に変なナレーション付けるのやめてくれない?」

 ひそかに感動していたのは事実だが、人に言われるのはちょっと癪な椛だった。

 振り返った先には片目を瞑り舌を出した射命丸が立っていた。

 

 

 

 それから数年が経ち、赤子はもう少年へと成長していた。

「ねえねえ母さん」

「どうしたの?」

 もうすっかり母親になって子煩悩な椛はほとんど毎日楓に付きっきりだった。

「母さんは天狗なんだよね」

「ええ、そうね」

「なのになんで僕のこと育ててくれたの?」

「うーん、たぶんそこに種族は関係ないんじゃないかな、私は私がそうしたいから楓を育てたんだから」

「そっか……母さん」

「ん?」

「ありがとう」

 

 

 

 それから時は進み数年の時が経った。

 椛の家では今も椛と楓の二人が一緒に暮らしていた。

「ねぇ、椛さん」

「ん、なに?」

 今となってはすっかり少年すら越えて青年へとなった楓は、見た目的に自分の母親に見えない椛を『母さん』と呼ぶのはいつ頃からかやめていた。

 実はそれに密かな寂しさを覚えている椛だった。

「僕にも剣の修行を付けてくれない?」

「どうして突然」

「もしかしたら、いつか必要になる日が来るかもしれないから」

「うーん、まあいいか」

 そうしてその日から椛は楓に剣の修行をつけることにした。

 

 

 

 それから一年が経ったある日だった。

 バンッと大きな音を立てて椛の家の扉が開かれた。

 その先に立っていたのは射命丸だった。

「急にどうしたのよ騒々しいわね」

「楓は?どこ?」

「たぶん奥の部屋にいると思うけど?」

「だったら、今すぐ逃がしなさい!」

「逃がすってどうして……」

「あんたぼけちゃったの!?上にばれたから早く逃がしてあげなさいって言ってるのよ!」

「……っ!」

 椛は急いで奥の部屋の扉を開き、中へと入った。

「あれ、椛さんどうしたんですか?」

「今すぐ逃げなさい!」

「は、はい?」

「いいから!必要なものだけ持って逃げるの!」

「わ、わかりました」

 急いで荷物を纏めさせ……と言っても着替えと刀だけなのだが、急いで外へと駆け出すと、そこには大天狗やその部下が立っていた。

「どうやら本当に人間を匿っていたらしいな……」

「くっ……楓、今すぐ下山して人里を目指しなさい!」

「わ、わかった!」

 楓は楓に育てられただけのことはあり、状況判断能力に長け、今どうするのが一番かすぐに理解した楓は駆け出し、山の麓を目指した。

 もちろん天狗もただでは逃がそうとはせず、楓を追いかけようとしたが、より楓側にいた椛に回り込まれ道を塞がれてしまう。

「そこをどけぃ椛、今あの人間を差し出せば今回のことは目を瞑ってやろう」

「それはできません」

 椛は腰から普段使っている肉厚の鉈に近い剣を引き抜き、自らの上司にその刃を向ける。

「そこまであの人間に肩入れするか椛」

「当然です、私は彼の母親ですから」

「そうか……椛を斬れぃ」

 大天狗がそう号令をかけると、天狗たちは戸惑いながらも刀を抜き斬りかかろうとした、その時だった。

「待ってください」

 さっきまでどこかに隠れていた文が姿を現す。

「どうした、文」

「椛は私が押さえます」

 大天狗はその言葉を少し考えてから首肯した。

「いきますよ、椛」

「文……」

 文の周囲に風が集まっていく、下手に動けばあの風で撃ち抜かれてしまうだろう。

 そして動けずにいる間に天狗たちは飛びたち……

 

 

 

 文の風によって叩き落とされた。

 

 

 

「文……っ!貴様もか!」

「こ、今回だけ、今回だけですからお目こぼしを!」

 文はすぐに身を翻して椛の横に立った。

「文あんた……」

「本っ当に今回きりだからね!?もう上司に歯向かうなんてまっぴらなんだからね!?」

 こうして数十分後に二人が捕らえられるまでに天狗たちは楓を見失い、逃げ切るに至った。

 

 

 

 それから数日後。

「いやぁ、いい様ですね椛」

「うるさい……ですよ、文……さん」

 先日の一件で文の立場はそのままなものの、上司からの風当たりは強くなり、さらに一年間の妖怪の山領域内に謹慎という指示が下った。

 椛に至っては哨戒天狗に格下げだった。

 だからあの日以来腹いせにと文は哨戒任務中の椛を訪れてはからかっていた。

 事実上上司となった文はいつもなら使いなれない敬語を使う椛をゲラゲラと笑っては満足そうに去っていくのだが、この日は少し違った。

「そうだ、あの子のその後のこと、わかりましたよ」

「あの子って言うと楓のこと?……ですか」

「ええ、今は人里で用心棒みたいなことしてるらしいわよ、あなたに教わった剣術で」

「そう……ですか」

「よかったじゃない、あなたが教えたことが役立って」

「そうですね。ところで文……さん」

「ん?なに?」

「あなた謹慎中じゃないんですか?」

「ばれなきゃいいのよ、ばれなきゃ」

「相変わらず……ですね。ああ、あとひとつ」

「なにかしら」

「楓のこと、私知ってました」

「はぁ!?」

 あまりに衝撃的なカミングアウトに空中でバランスを取っていた文が墜落しかける。

「な、なにそれ、せっかくあなたのためにわざわざ人に化けてまで人里まで行って調べてきたってのに……」

「いえ、昨日私の哨戒行動中に一度山の麓まで来まして、その時に少しだけ」

「な、なんと……」

「とりあえず、人里でも元気にやっているようで安心しました」

「ええ……ほんとうにね」

 

 

 

 またまたさらに数年後。

「号外~号外だよ~」

 空中からヒラヒラと新聞が舞い落ちてくる、そのうちの一枚を椛は手に取り、目を通した。

『犬走楓棋士、堂々の優勝』

 どうやら人里であった将棋大会の結果らしい。

「あや、もう読んでましたか」

 人里で新聞を配って(ばらまいて)きた射命丸が椛の元へとやって来た。

「またあの子を記事にしてるんですね」

 また、というのもつい最近剣道の大会でも楓は優勝しており、射命丸はその内容を誰よりも早く記事にしていた。

「あの子()記事に()()()んじゃなくて、あの子()記事に()()()()のよ」

「そういうことにしておきましょうか」

 この事をからかうといつもこうだと呆れながら今回の決勝の棋譜を読む。

「あなたたち本当に血繋がってないのよね」

「当たり前じゃないですか、拾った子供なんですから」

「それにしてはあなたたちそっくりよ、生真面目な性格も、棋譜も太刀筋も」

「それはまあ、私の息子で、一番弟子ですから」

「……本当にあなたたちそっくりね」

 

 

 

 将棋も剣術も秀でていますが、どういった理由があると思うかという質問に対して、彼はこう答えた。

『僕の母が、師であり目標だからです』

                   文々。新聞より抜粋




という話を思い付いたから誰かこれをもっとしっかり書き直してくれ(他力本願

文はお年を召しているということと、風を操る程度の能力を持っているがゆえに高い立場にいる。
しかし自由気ままでやりたい仕事しかしないからなかなか昇進しない。
椛は逆にこの能力と、バリバリ仕事をすることにより、白狼天狗としては最上くらいまで昇進していた。
こういうわけで最初文と椛は階級が近くやけに親しげだった。
という設定で書いてました。
鴉天狗と白狼天狗のネームバリューの差で事の後の始末が違った。
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