デジタルモンスター。
それは文字通りデジタルなモンスター。「デジタルワールド」と呼ばれるコンピュータネットワーク上の擬似電脳空間に生息する人工知能を持った生命体である。
20XX年、そんな存在が密かに跋扈するようになった日本:東京。原因不明の行方不明者もちらほらと現れはじめ、そこには確かな暗雲が立ちこみ始めていた。
これはそんな場所に不幸にも居合わせてしまった一人のテイマーとそのパートナーの物語である。
◆
「あ……」
人気のまるでない裏路地。
そんな中で黄金色の髪が特徴の少女が地面に力なくへたり込んだ。制服らしきものを身に着けていることから高校生ぐらいだろうか。
「シャアアアアア……」
原因は目の前の
およそ現実世界には存在しないスケールの昆虫が彼女の目の間に鎮座していた。赤い体躯。クワガタムシを無理矢理人型にして、あまつさえ巨大にさせたような姿だった。
そして何よりも特徴的なのが、その分厚い鋼板ですら易々と切断してしまえそうな鋏だ。
そんな存在相手に成人男性ですら二秒も持たないだろう。ましてや華奢な体つき少女など言わずもがなである。
つまり、まさに少女にとって絶体絶命な状況と言えた。
しかし、しかしだ。地獄にも救いはあるとはよく言ったものだ。そんな少女の前に背を向けるように一人の男が立ちはだかった。
その男はなんとも胡散臭い雰囲気を纏っており、そのヘラヘラした表情が張りついた顔がそれを増幅させていた。残念ながら少女の立ち位置からはその胡散臭さを視認することが出来ない。
「うわっ、なんでこんなところにクワガーモンが出現するかな?」
「無駄口叩いてないで早く倒しちゃおうよ
「おーけードル。推しの配信時間も迫ってるし、さっさと済ましますかね」
「お推活は構わないけど身の丈に合わない投げ銭とか辞めたほうがいいと思うけどなぁ。あ、後ソシャゲとかの課金も!」
「うるさいうるさいうるさいやい! あれは僕の人生そのものだからいいのっ!」
「なんて虚しい人生なんだ……」
更にはいつの間にか巨大昆虫に立ち向かうように、紫色の体毛を纏い、額には深紅色の宝石のようなものを装飾した犬のような獣が現れた。見たこともない犬種かつ喋る犬など、あまりにも非日常的な存在に少女は瞳をパチクリとさせた。
「ア、アナタタチハ……?」
少女はたどたどしく、そして恐る恐る目の前の青年に尋ねた。
「――通りすがりのデジモンテイマーってやつさ」
それに対して青年はやはり不敵な笑みを浮かべてそう答えるのだった。