喜多ちゃんを怒らせてしまったかもしれない、と落ち込むぼっちの話

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ひとりちゃんにはあげません!

 後藤ひとりは浮かれていた。今日が調理実習の日だからである。

 調理実習という名のコミュ障ぶっ殺し強制グループワークイベントなど、昔は嫌で嫌で仕方がない憂鬱な授業だった。

 

 だが! なんと! 今は喜多ちゃんがいるのです!

 

 去年、郁代はクラスが違うのにも関わらず、実習で作ったマドレーヌを可愛らしくラッピングしてひとりに持ってきてくれたのだ。

 『実習で作った手作りお菓子を貰う』だなんて青春イベントが自身の身に起こるなど考えもしなかったひとりは、喜びのあまり気絶し、郁代に起こされ意識を取り戻すと感激で噎び泣き、その後は嬉しすぎて風呂に入る時も寝る時もマドレーヌと共に過ごし、三日三晩常に肌身離さずにいた結果腐らせた。

 去年は貰えるとは思いもしなかったのでお返しを用意していなかったから、今年はきちんと喜多ちゃんにお返しするぞ! 気合を入れて調理実習に臨む。

 

 

***

 

 

 グループワークではなるべく息を潜めて存在感を消すひとりが積極的に参加していることを珍しがられたものの、特段失敗はせずに今回のテーマであるクッキーは完成した。

 授業後の休み時間に早速郁代の元へと向かう。が、郁代の周りにはすでに人が集まっており、クッキーの交換会が開かれていた。少しは慣れてきたとはいえ、郁代の友人たちを掻き分けてクッキーを渡しに行くのはハードルが高い。

 郁代の席から少し離れた所でおろおろしていると、郁代の友人の一人が気が付き声を掛けてくれた。

「後藤さん、もしかして喜多ちゃんに用事あるの?」

「えっあっはい!」

 すると郁代の友人たちは二言三言告げてから各々自席へと戻っていった。どうやらひとりが大人数に囲まれていると慣れている郁代相手ですら上手く話せなくなることが理解されているらしい。

 クラスメイトの優しさに感謝しつつ郁代の席へ向かう。

「ひとりちゃんどうかしたの?」

「きっ喜多ちゃん! あの! こっこれ、良かったら、食べてください!」

 初めての行為に緊張で震えながら先程作ったクッキーを手渡した。

「ありがとうひとりちゃん! 早速一つ食べてみてもいいかしら?」

「あっはい!」

 郁代は袋からクッキーを取り出し、口に入れ咀嚼する。ひとりは心拍数の最高記録を塗り替えながら、その様子を目をかっぴらき凝視した。

 大丈夫だろうか? 味見をした時には美味しく感じたけど、郁代の口には合うだろうか?

 ごくり、と郁代が呑み込んで口を開く瞬間、ひとりも大きく息を呑む。

「とっても美味しいわ! ひとりちゃんありがとね!」

 にっこり笑顔で褒めて貰い、ひとりは思わず両手をあげて喜んだ。

「あっ良かったです!」

「残りは後で頂くわね!」

「あっはい!」

 浮かれてスキップしながら自席へ戻った後に気が付く。

 

 あれ? 喜多ちゃんからクッキー貰ってないぞ?

 

 

***

 

 

 後藤ひとりは沈んでいた。郁代に調理実習のクッキーを貰えなかったからである。

 あの後もちらちらと郁代を見ながらクッキーを貰えるのを待っていたのだが、他の友人には渡しているのにひとりには渡されなかった。

 渡したクッキーがやっぱり美味しくなかったから怒っているのか!? とも思ったのだが、昼休みのギター練習などでも郁代は普段通りの態度で、微塵も怒っているようには見えなかった。

 ならば一体どうして? 知らず知らずのうちに何かしてしまったのか?

 クッキーを貰えなかった悲しみ、怒らせてしまったかもしれないという不安、それらでひとりの精神は非常に不安定になってしまい、午後の授業以降は放心状態になってしまった。

 

 そして放課後のバイト。

 ひとりは陰鬱な空気を身に纏い、変わらず放心したまま過ごしていた。

 閉店後、そんなひとりからやや離れた所の掃除をしながらリョウはひとりをじっと見つめる。そのまま近くを掃除していた虹夏に声を掛けた。

「ねぇ虹夏。今日のぼっち、様子おかしくない?」

「え、そう?」

「目はうつろで会話もままならないし、ぼっちの周囲の空気は淀んで湿度が高いし……」

「いつも通りのぼっちちゃんじゃん」

「それにジメジメしすぎてるのか、頭からキノコ生えてる」

「それはおかしいね!」

 虹夏は慌ててひとりの所へ駆け寄り、頭のてっぺんに生えていた派手な紫色のキノコを引き抜こうとするが、直前で手を止めた。

 こんな得体の知れないものに余計な刺激を与えるのは不味いのでは?

 後藤ひとりの生態にはまだまだ謎が多い。今日は後藤研究の第一人者である喜多博士も休みだし、手を出す前にひとまず本人に話を聞こう。

 そう思い直した虹夏が手を下ろしひとりに話しかけようとしたところ、横からにゅっと、遅れてやってきたリョウの手が伸びてきた。

「ぼっち、小腹空いたからキノコ貰うよ」

「あっはい」

 確実に話を聞いていないであろうひとりは気の抜けた返事する。それを了解と受け取ったリョウは頭のキノコを鷲掴もうとするが間一髪で虹夏が止めに入った。リョウの手を思いっきり叩きながら虹夏は叫ぶ。

「駄目に決まってんだろ!?」

「いだぁ!?」

 快音を響かせながらリョウの手を弾き飛ばす。赤くなった右手を涙目で摩るリョウを虹夏は睨みつけた。

「こんないかにも怪しいキノコを食べようとするな!」

「いや私だってそこら辺に生えてるキノコだったら食べないよ。ぼっちに生えてるんならまぁ、いけるかなって」

「ぼっちちゃんに生えてるからこそ危ないんだよ!」

 流石に目の前でここまで騒がれると調理実習後からずっと意識があやふやだったひとりも正気に戻る。

「──はっ! あ、あれ? いつの間にか学校どころかバイトが終わりかけてる……?」

「お、ぼっちちゃんやっと会話ができるようになったんだね」

「ぼっち、ぼっち茸には毒無いよね? 食用でしょ?」

「えっあっぼっち茸?」

「リョウはちょっと静かにしてて」

「むぎゅ」

 折角ひとりの異変を解明する機会がやってきたのに茶々を入れて脱線させようとするアホの両頬を片手で握り黙らせる。リョウを静かにさせてから改めて虹夏はひとりに向き直った。

「さてぼっちちゃん。なんだか色々様子がおかしいけど、どうしたの?」

 虹夏の問いで、バイトの間意識を飛ばしてしまっていたことを認識したひとりは慌てて頭を下げた。

「あっ仕事中なのにぼーっとしててすみませんでした!」

「そうだね、次から気をつけようね! それでなんでぼーっとしちゃってたの? 学校で何かあった?」

 ちらちらとひとりの頭上のキノコに目をやる虹夏に心配そうに尋ねられ、ひとりは郁代にクッキーを貰えなかった事を思い浮かべる。

 でも『喜多ちゃんにクッキーを貰えなくて落ち込んで意識を飛ばしていました』なんて言ったら、まるで郁代のせいだと言っているみたいで嫌だった。

 勝手に貰えると思い込んでいて、それが実現しなかったことに勝手にショックを受けているだけなのだ。全部ひとりの思い上がりのせいだ。しかし理由を話そうとすると、どうしても郁代の名前を挙げることになってしまう。

 悩んだ結果、ひとりは黒目を上下左右に高速移動させ大量の汗を搔き頭上のキノコを枯らしながら早口に捲し立てた。

「あっいや別になんにもないです! ちょっと地球温暖化に伴う海面上昇問題について考えてただけなので!」

「ぼっちちゃん嘘下手だね」

「うぇえ!?」

「ぼっちはすぐ顔に出るからね。私のようにクールにならなきゃ。ポーカーフェイスだよ、ポーカーフェイス」

「リョウは逆にぼっちちゃん見習ってもうちょっと顔に出したら? そしたら学校で怖がられることも減るんじゃない?」

「いや私は孤高の天才、高嶺の花ポジだから少し怖がられてる位が丁度良い」

「孤高ポジなら学校で私に世話されないでちゃんと孤立しろよ」

 リョウの茶化しを遇ってから、一瞬虹夏は困ったように少し眉を寄せた後、にぱっとひとりに笑いかけた。

「まぁぼっちちゃんが言いたくないならいいけどさ。でも、もし相談したくなったらいつでも言ってね?」

「にっ虹夏ちゃん……」

 正直、ひとりは困り果てていた。自分が何かしてしまったから郁代はクッキーをくれなかったのではないかと思っていたから。ただ、何をしてしまったのか思い当たることが無い。自分一人で考えるだけでは到底解決できそうにもない。

 その点虹夏ならば相談相手としてはとても頼りになる。話しやすいし、優しいし、常識的だから郁代がクッキーをくれなかった理由もわかるかもしれない。

 ひとりが相談するか悩んでいると、別室で事務作業をしていた星歌が入ってきた。

「おうお前らおつかれさん。帰る前に頂き物のクッキーあるから、良かったら食べてきな」

「やったぜ」

「お姉ちゃんありがとう! ほらぼっちちゃんも取り敢えず食べよう!」

「あっはい」

 虹夏に手を取られテーブルへ向かう。さっきからひとりの頭上のキノコを狙う位には飢えていたリョウは早速クッキーを貪っており、星歌に睨まれていた。

「おいリョウ、ぼっちちゃんの分まで食べるなよ?」

「むがむが」

「なんて?」

「ごくん、じゃあ虹夏の分を食べます」

「いや自分の分だけ食べろよ!」

 すかさず虹夏に突っ込まれるもリョウはクッキーを食べる手を止めない。星歌は気の弱いひとりならクッキーを取られても何も言えないだろうと思い、リョウが虹夏と揉み合っている間にひとりの分をキープした。

「ほらぼっちちゃん、今のうちに食べちゃいな」

「あっありがとうございます」

 星歌からクッキーを受け取る。喜多ちゃんからもこんな風に貰いたかったなぁ……。ついそんな考えがよぎってしまう。

「ん? ぼっ、ぼっちちゃん?」

「えっ? あっ……」

 星歌の困ったような、驚いたような声に我に返る。いつの間にか涙を流していたようだ。自分が泣いていることを自覚すると、堰を切ったように止まらなくなってしまう。

 急に泣き出したひとりに星歌は慌ててティッシュを差し出す。

「すっすまん、泣くほどクッキーが嫌いだったとは!」

「あっ……ずび、ちが……ぐすっ」

 ひとりが泣いていることに気が付いたリョウと虹夏も揉み合いを止め、ひとりの方へと寄ってきた。

「あーあ、店長がぼっちを泣かした」

「も~お姉ちゃん何したのさ! ぼっちちゃん大丈夫? どうしたの?」

「いや違っ! ぼっちちゃんがクッキー嫌いだなんて知らなかったんだ!!」

 クッキーを渡しただけで泣かれてしまい、その事を妹とその幼馴染に責められた星歌も泣きそうになっていた。

 星歌への疑いはひとりが泣き止んで事情を話すまで解けなかった。

 

 

***

 

 

「成程ね、それで喜多ちゃんを怒らせちゃったかもしれないって思ったんだ」

「あっはい……」

 結局ひとりは事情を包み隠さず全て話した。虹夏と星歌は真剣な表情で、リョウはいつも通りの表情で静かに聞いた。伊地知姉妹が真面目に聞いていて気が付いていないのを良いことに、リョウはさりげなくひとりの分のクッキーを食べながら。

 ひとりの説明が終わるまで黙って聞いていた星歌は口を開く。

「でもクッキーをくれなかったってこと以外はいつも通りだったんだろ? 作るのを失敗しちゃって渡せなかった、とかじゃないか?」

「あっ他のお友達には配ってました……」

 じわりと涙を滲ませながらひとりは答える。

「あっご、ごめん……」

「じゃあ本当にぼっちちゃんにだけクッキー渡さなかったんだね。でも態度は普通なのか。う~ん、不思議だ」

 郁代が怒っているのだとしたら、対人関係に疎く鈍いひとり相手になら『私は怒っています!』とわかりやすくアピールしそうだ。というか普段、ひとりがやらかした時などにそうしている郁代を度々目にする。

 という事は、ひとりに対して怒っているというよりは何か理由があってひとりにはクッキーを渡せない事情があったのではないだろうか? 虹夏が考えを話すと星歌が首を傾げる。

「ぼっちちゃんにだけクッキーを渡せない理由ってなんだ?」

「それはわからないけど……」

 三人が悩んでいるとクッキーを食べ終わったのか、リョウが手を拭きながら意見を出す。

「考えてもわからないなら本人に聞けばいいよ。という事で今日はもう解散。お腹膨れて眠くなってきたし」

 ふわぁ、と欠伸をしながら席を立つ。リョウの言葉に引っ掛かりを覚えた星歌は机の上を確認した。

「お腹膨れた? ってあぁー!てめぇぼっちちゃんの分まで食べたな!?」

「っていうか、残ってたクッキー全部食べてるじゃん!」

 星歌と虹夏が悪事に気が付き騒ぎ出したので急いで階段を駆け上ったリョウは、

「という訳で明日郁代に聞いてみよう。それではまた明日!」

 そう言い残し、帰ってしまった。リョウに逃げられてしまった為、星歌は溜息をつきながら空になったクッキーの箱を片付ける。虹夏は、明日来たらとっちめてやる、と呟いてからひとりに声を掛けた。

「確かにリョウの言う通りでもあるから、明日のスタ練でさりげなく聞いてみるよ。ぼっちちゃんも今日は帰りな~」

「あっはい、お願いします」

 幸いにも明日は休日で学校は無い。練習時間ギリギリにスターリーに着くようにすれば、真相が解明される前に郁代と二人きりになることもないだろう。

 虹夏達のお陰で解決方法が見えてきたので、ひとりは相談する前よりは心が軽くなりなんとかその晩は眠ることができた。

 

 

***

 

 

 翌日、ひとりが計画通りに集合時間ギリギリにスターリーに入ると、丁度郁代が話している最中だった。

「──だから私、ひとりちゃんには手作りの食べ物はあげないって決めてるんです!」

「えっ」

 思わず声を出してしまい、皆がひとりが来たことに気が付く。虹夏と星歌は微妙なタイミングでひとりが来たことに、しまった! と、額に手を当てる。しかし郁代とリョウは気にしておらず、いつも通りに挨拶をしてきた。

「ひとりちゃんおはよう!」

「おはようぼっち」

「あっえっ、おはようございます……?」

 先程の郁代の台詞に、やっぱり怒ってたんだ! とショックを受けていたのに普通に挨拶をされてひとりは困惑する。

「おはようぼっちちゃん。あー、なんというかその……」

 星歌は言葉に詰まりながら、虹夏は挨拶そっちのけで、どう説明しようか一生懸命考えていると、リョウがさらっとひとりに言った。

「ぼっち、昨日の事だけど結論から言うならぼっちが悪い」

「やっやっぱり私が何かしたせいで喜多ちゃんは怒ってたんですか!?」

 すかさず星歌は余計なことを言ったリョウに手刀を食らわし、瞬く間に顔色を悪くし涙目になって土下座をしようとしだすひとりを虹夏と郁代は慌てて止める。

「あー! ストップストップ! 喜多ちゃんは怒ってるわけじゃないから! ね、喜多ちゃん!?」

「そうよひとりちゃん、今更怒ってないわよ!?」

 土下座防止で二人に両脇を抱えられ囚われの宇宙人のようになりながら、目に涙を浮かべたひとりは不思議そうにしている。

「おっ怒ってないんですか? じゃあ、さっき言ってたのは……?」

「ほら、ひとりちゃん手作りのものあげても食べてくれないじゃない。だから昨日もクッキーあげなかったのよ」

「去年郁代に貰ったマドレーヌ食べずに取っといて腐らせたんだって? 勿体無い、私なら貰ったら即食べるのに」

「えー! リョウ先輩食べてくれるんですか!? じゃあ次何か作ることがあったら持って来ますね!」

 黄色い声をあげてリョウに駆け寄る郁代をよそに、ひとりは去年の事を思い出して固まった。

 そう、後藤ひとりには前科があったのだ。一生懸命作ったお菓子を腐らせちゃったのだから、もう手作りお菓子を貰えなくても仕方がない。項垂れるひとりに虹夏は諭す。

「ぼっちちゃん、喜多ちゃんに手作りお菓子貰って嬉しかったのはわかるけど、食べ物は長時間持ち歩いちゃ駄目だよ……」

「あっはい……。腐ることを失念してたんです……」

 まさか去年の出来事のせいで貰えなかったとは。理由がわかり、郁代も怒っていなかったのは良かったが、もう郁代の手作り料理は貰えないことまでわかってしまいひとりは落ち込む。

 見かねた星歌は助け舟を出そうと郁代に声を掛けた。

「なぁ喜多、ぼっちちゃんも反省してるみたいだし、何か作ってあげたらどうだ?」

「え~そうですね……」

 郁代は人差し指を顎に当て、少し考えてからひとりを見る。つい癖で目を逸らしそうになるが、ひとりは必死で郁代を見つめ返した。

「もう腐らせない?」

「ぜっ絶対腐らせません!」

 真っすぐに郁代の目を見てはっきりと言ったひとりに郁代は、

「……じゃあ明日家でクッキーやいてきてあげる。リョウ先輩が食べてくれるって言ったしね!」

「ありがとう郁代。楽しみにしてる」

「リョウのついでかよ……」

「まぁでも良かったね、ぼっちちゃん!」

「あっはい!」

 

 

***

 

 

 次の日、郁代は結束バンドとスターリー職員分の手作りクッキーを持ってきた。リョウは宣言通りその場で食べ、他は休憩時間に食べたり帰宅してから食べたりした。ひとりは家に持ち帰り、約束通り腐らせることは無かった。

 しかし一週間後。虹夏とリョウがスターリーに着くと……

 

「ひ~と~り~ちゃ~ん……!」

 

 郁代が、怒っていた。

 腰に手を当て眉を吊り上げ、『私は怒っています!』と体全体でアピールしている。

「えぇ、ぼっちちゃん今度は何したのさ?」

 郁代の前で正座をして縮こまっているひとりを見ながら虹夏は尋ねる。

「あっえっと、その……」

 もごもごと口籠もるひとりに堪えきれなくなったのか、郁代が聞いてくださいと言わんばかりに話し出す。

「ひとりちゃんったら、またクッキー食べてくれなかったんですよ!」

「えっ、ぼっちまた腐らせたの?」

「いっいえ! 腐らせてないです!」

 リョウの問いにひとりは慌てて否定する。食べなかったけど腐らせてはいない。どういうことだろう? 虹夏とリョウは首を傾げる。

「ひとりちゃんに先週あげたクッキーの感想を尋ねたんですけど、見た目や嬉しかったことしか言ってくれないから味について聞いたら…………防腐処理したから食べてない、って言ったんです」

「うわぁ……」

「ふふふっ、流石ぼっち……!」

 まさかの行動に虹夏はドン引くが、リョウはツボに入ったのかお腹を押さえて笑っていた。

 説明が終わった郁代は再びひとりに詰め寄る。

「もうっ! どうして食べてくれないのよ!」

「だっ、だって食べたらなくなっちゃうじゃないですか……」

「食べ物なんだから当たり前でしょ!」

「せっ折角貰ったから取っておきたくて……。そっそれに、今回は腐らせてないですよ?」

 だからそんなに怒らないで欲しいな~。ひとりはそう言いたげにちらりと上目遣いを送る。

 怒っている理由を正しく理解していないひとりに対し、郁代はわなわなと肩を震わせてから叫んだ。

「もうひとりちゃんには金輪際手作りのものはあげません!」

「そっそんなぁ!」




マドレーヌと添い寝するぼっちを想像して笑いながら書きました
ぷりぷり怒る喜多ちゃんは可愛い

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