ファイレクシア・ダンジョン! 作:名無しの永遠衆
「ヨーグモス、ね。まあ医者……
悩んでも仕方ないから、パパっとヨーグモスを副官に設定してしまう。
【一度設定すると、変更できません】と警告が出るが、まあ多分変更しないし良いだろう。なにせガチャのSSRだ、相応の能力があるのは間違いないだろ。
「む? ……ふむ、これが副官としての知識か。理解した」
どうやら副官に設定されて、俺をサポートするための知識が流し込まれたようだが混乱する様子もない。頭の回転の早い男だな。
医者と名乗ったが、迷宮のモンスターたちにも応用が利くんだろうか?
彼に聞いたところ、この背の高い男は得意気に言った。
「私の修めている優生学は生物への応用に長けている。
「ユーセー学?」
俺が聞き返すと、ヨーグモスは"これだから無知の輩は……"と眉をひそめ、説明をした。
「優生学は生物の構造や反応を探究し、より強靭で効率的な種族への進化を目指す崇高な学問だ。医術もその応用例の一つに過ぎん」
「よく分からんが、治せるんだな?」
「愚問だ。だが、ただ治療するのでは芸が無い。より優れた
うーん、悪の組織のマッドサイエンティストみたいな奴だな。まあ俺は邪神サマの手先だからあながち間違ってないが。
一応の能力は把握したし、副官として分厚い迷宮の
そうしたら出るわ出るわ、見落としていた迷宮の法則が。
「基本的に無機物の召喚コストの消費DPは低く、モンスターの消費DPは割高だ。だが、モンスターは迷宮内で侵入者に殺された時に幾らかDPが還ってくるから長い目で見れば得だろう」
「モンスターは迷宮の外へ出すこともできる。迷宮の外でモンスターが拠点を作ったり生物を殺してもDPを得られるが、迷宮外でモンスターが殺されてもDPは還ってこないから注意することだ」
「支配下に置いた外の生物も迷宮のモンスターと同様に運用できる。しかし、裏切る意思を持った瞬間から判定から外れるので知性の高いものは扱い辛いぞ」
「迷宮は迷宮主が死ねば滅ぶし、迷宮主は迷宮から出ることはできない。邪神が作ったその身体は普通の人間よりは死ににくいが、ゆめゆめ忘れぬように」
いやはや、最初に副官を設定してよかったな。この分厚い
迷宮の構造変化・拡張案に関しても、ヨーグモスは意地の悪い……いや、優秀なアイディアを出してくれた。
「初期に使えるDPは限られている。あまり複雑な構造はDPの無駄だ」
「だけど俺の所まで来られたら困るだろ」
「通路の何か所かを水没させておけばいい。水には毒を流しておけ」
「なんかの魔法とかで水を突破するかもしれなくないか?」
「ならば前後の通路が水没した空間で火を焚け。水の中で暮らせるものは少なくないが、息のできない環境で生きられる者は少ない」
「お前なかなかえげつないな……」
性格が悪いとは思うが、命には代えられない。侵入者たちにはぜひ初見殺しで物言わぬ骸になってもらいたい。
迷宮の構造が決まったら次はモンスターの配置の時間だ。
副官のおススメは《大ネズミ》か《ゴブリン》。迷宮内の構造を自然の洞窟風にしておけばその2種なら殲滅されても迷宮だと気づかれないかもしれないとのこと。
《スライム》だと一か所に集まり過ぎているのが不自然だと思われるし、コスト面でも消費DPに見合った仕事ができるとは限らないそうだ。
ちなみに強さとしてはスライム>ゴブリン>大ネズミ。犬ぐらいの大きさのネズミというと強そうだが、道具が使える器用なゴブリンと物理的に倒しづらいスライムと比較すると専業戦士の相手にはならないんだと。
コストのDPも安いのでとりあえず大ネズミにしたが、召喚したうちの数匹をヨーグモスが『強化してみる』と言ってDPで出した万能資材片手に持って行ってしまった。
改造手術……仮面ライダーでも出来るんじゃないだろうな、マジで。
迷宮の構造も計画案通りに変更し終わって、さあ外界と迷宮を繋ぐか! ってところでヨーグモスが大ネズミ……ネズミ? を連れて戻ってきた。
なんか金属製のフレームみたいなのやケーブルが身体のそこかしこから見えてるし、目からギトギトの油みたいなの垂れてるんだが。
「それなりに強化しておいた。素体がアレだから気休め程度だが、足止めにはなるだろう」
「お、おう……」
ま、まあ、強そうかそうでないかと言われれば強そうだし、悪くはなってないだろ! しょせんモンスターだし勝てばいいんだよ勝てば!
辺境の村の木こりが森で間伐作業をしていたら、にわか雨が降りだし雨宿りの場所を探した。
商売道具の斧を担いで見つけた洞窟に入ると、どうやらそこは大ネズミの巣だったらしい。
まあしかし、しょせん大ネズミだ。その辺の農夫でも退治できる相手を木こりは苦も無く倒していく。
あらかた片づけた所で、奥から雰囲気の違う大ネズミが現れた。
黒い涙を流すその大ネズミに、すわ変異種か、と心を引き締めて相対する。
普通の大ネズミより力が強く少々ひっかかれはしたが、なんとか斧で頭を叩きつぶすと血の代わりに黒い油のような液体が噴き出した。
まともに被るのは避けられたが、その酷い匂いまでは避けられない。
ちょうど雨も弱くなったことだし、とっとと此処を離れて村へ戻ろう。
ひっかき傷が膿んだら困るし、村の薬師に診てもらわなければ。
しかし、酷い匂いだ。吐き気がする。