ここは薄暗く、物が少ない彼女の居場所だ。四方を壁に覆われて、天井から伸びた消えかけた電球が明滅している。追い立てられるように逃げ込んだ先、ほんの少しだけ安心できる場所。
身体中に浮かび上がる痣と火傷、治りかけたかさぶたは剥がれて血を滲ませる。いつもならすぐに消える小さな傷が、今は長く残って治らない。全身から痛みの信号が届けられているハズだが、それらを無視して無理矢理に意識の外へ弾き出す。
体力が、活力が尽きかけている。
傷の手当てを放り出して、自然治癒に任せる事に決めたらしい。手当てをしようにも、ここにはそもそも道具が置いていないのだから。
「ばぁどばぁど、あんらっく…今日もまた、ツイてない…」
のっそりと緩慢な動きで1枚の毛布に包まり、溢れた独り言。こんな日々、慣れたもの。だとしても文句の一つも言いたくなって然るべきだろう。
彼女は人形で、退屈な存在だとしても、心が無い訳ではないのだから。
こんな時、誰かが手を差し伸ばしてくれたなら。
ありもしない幻想を妄想して、ため息と共に吐き捨てる。
いつかあったあの陽だまりを、失くさぬように持ち続けていたのなら。いつか見た燈火を、追う事が出来たなら。この暗がりから抜け出していたのだろうか。
後悔だけが積もる思考を振り払う。今さら変えられる事でもないが、それでも過去の『もしも』が彼女を蝕んでいる。
苦しいのは楽しさを知っているから。
寂しいのは温もりを知っているから。
忘れられない優しさが彼女へ与えられる罰なのだとしたら、犯した罪は計り知れない。
彼女はもう、救われる事は無い。そして、救いを求める事もない。徒に傷付けられる日々に諦めを、ただ過ぎていくだけの時間を眺めているだけ。
変化はいらない。
痛みに耐えるだけなら、もう慣れたから。
刺激はいらない。
憂鬱に身を委ねる事に、もう慣れたから。
希望はいらない。
もう、絶望の苦しみに耐えられないから。
一度見た太陽は暖かくて、一度感じた風は柔らかくて、一度訪れた奇跡は美しかった。思い出は彼女の心を守るが、同時に彼女を苦しめる呪いのように貫いている。
貼り付けただけ、自分を誤魔化すだけの無感情も限界に近い。先に壊れるのは心か身体か。永遠の沈黙までを指折り数えて目を瞑る。このまま、目を覚まさなければいいのにと。
この小さな暗がりの中。
太陽を奪われた彼女は、冷え切った身体を震わせた。
こんな時、誰かが手を差し伸ばしてくれたなら。
いつかあの時、手を取っていたのなら。
ほんと、ブルアカ要素どこ行った?
透き通るような世界観を返して…返して…