ばぁどばぁど、あんらっく   作:インチネ・ズィ・マゼタルーノ

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 マジで何もない日常が書けました


雨が呼ぶ幸福の香り

 

 

 今日は実に良いお散歩日和。

 絶妙に強く吹いている風、必要か否か悩む程度に雨が降っています。

 

 傘を打って跳ねる雨粒の音に耳を貸しながら、水溜りを避けて公園の遊歩道を歩いています。結構楽しいですよ、雨の日のお散歩。

 

 こんな日は、外を出歩く人の数が減るのは当然。特に羽のある方は、雨の日は外出を控える傾向が強いですね。羽に染み込んで乾かないからだそうです、生乾きの匂いが取れなくなると言っていました。

 ちなみにセイア様は、晴れていたら日焼けが嫌、雨の日は濡れるから嫌、曇の日は眠くなるから嫌、風の日は埃が飛ぶから嫌と文句ばかりです。まぁ、学校にはちゃんと行くんですけどね。アレコレ理屈を捏ねた所で、数少ないお友達と会えるのは楽しみなのでしょう。

 

 

「ふう、…さてと、何処なんでしょうね…ここ」

 

 

 お散歩に夢中になっていたら、知らない場所に来ていました。なんなら、歩いていた公園だって知らない公園です。

 

 俗に言う、迷子とやらですね。

 

 来た道を引き返せば済む問題ですし、そこまで困ってはいません。ですが今日のわたしは機嫌が良いので、前しか見ません。前進あるのみ、決して引き返したりはしないのです。いざ、知っている道を目指しましょう。

 

 

 そう思って、無駄に広かった公園の遊歩道を抜け出して、続く道を歩いていました。

 

 人通りの少ない道に、1軒のカフェを見つけました。トリニティでは珍しい、コーヒーをメインに据えている様です。わたしはどちらかと言えばコーヒー党なので、吸い込まれるようにお邪魔しました。

 

 

「いらっしゃい。お好きな席にどうぞ」

 

 

 『マスター』とか『バリスタ』って感じの方が出迎えてくれました。映画で見た気がします。格好良いですよね、そういう雰囲気って。マスターさんとお呼びしましょう。

 

 わたしは外の見える窓際の席に座りました。

 せっかくですし、止む気配のない雨と、窓を伝う水滴を眺めながら寛ごうと思ったからです。

 

 テーブルの隅に立てられているメニューに目を向けて、1番上に書かれている物にしました。オリジナルブレンドです。ある程度味の想像が出来る豆の指定より、このお店の味を知りたいので。

 

 

「ご注文はお決まりかな?」

 

「はい。オリジナルブレンドをお願いします」

 

「かしこまりました。…甘い物は平気ですか、お嬢さん」

 

「? はい」

 

 

 突然聞かれても、わたしは対応しきれません。

 わたしは事前に、脳内で会話のシュミレーションをしてからでないと喋れませんから。口下手なんですよ、笑いたければ笑って下さい。慣れてないんです、コミュニケーションに。

 

 そんな無様なわたしを気にした様子もなく、マスターさんはカウンターの向こうへ。外を眺めるのも悪くはありませんが、この穏やかな時間の音を聴くために、目を瞑りました。

 

 ここからでは手元を見る事が出来ませんが、音から察するに豆を挽いているのでしょう。わたしの他にお客さんがいないせいか、静かな店内に心地よく響いています。

 豆が挽き終わるのでしょうか。ミルのハンドルが軽くなり空回りする音が聞こえます。そして同時に、コポコポとお湯が沸く音がし始めました。

 

 ドリッパーにフィルターをセットして、沸いたお湯を注ぎ密着させています。コーヒーサーバーにもお湯を入れ、容器を温めていたのでしょうか。お湯がシンクに注がれ捨てられています。

 

 ミルから挽いた豆をフィルターへ移し、お湯を注いで蒸らしています。流石にここからでは豆の膨らむ音は聞こえませんが、無駄に鋭いわたしの嗅覚は店内に広がるコーヒーの香りを捉えました。。

 はやりこの香りがコーヒーを淹れる醍醐味でしょう。お湯を注ぎ、湯気と共に立ち上る香り。花開く様に空間を満たしていく間は、まさに幸福の時間と呼んでも差し支えありません。

 

 ホッ…と一息ついて、わたしは目を開け外の景色を眺めています。

 

 

「お待たせ。オリジナルブレンドだよ」

 

「ありがとうございます……こちらは?」

 

「こんな雨の日では、ただでさえ少ないお客が更に減ってしまうからね。雨の日の限定サービスさ」

 

「なるほど」

 

 

 コーヒーと一緒に出てきたのは、甘い匂いのパイですね。なんでしょうか、フルーツだと思うのですが…あっ、良く考えたらわたし、フルーツはいちごとぶどうしか知らないですね。あれ、いちごは野菜なんでしたっけ? まぁ、その程度の知識しかありません。

 

 ともあれ、食べてみないと分かりません。

 好奇心に押され、口へ放り込みました。

 

 

「……ッ!」

 

「美味しいかい?」

 

「ん!(コクコク)」

 

 

 美味しいですよこれ!すっごく美味しいです!

 

 口に入れて最初に感じるのは香ばしく焼けた表面のパイと、中に入っているフルーツ?の甘い匂い。少量のシナモンの香り。歯を立てれば、シャクッと小気味良い食感を返してくれる謎のフルーツが甘ったるい程の蜜を弾けさせています。少し遅れて、やや硬めのカスタードクリームが顔を覗かせて、フルーツとパイの風味を1つに纏めてくれました。

 最後に、僅かに存在した爽やかな酸味とバターの風味が余韻となって抜けていきます。

 

 これは、素晴らしい物です!

 

 しかもこれ、コーヒーとも良く合うんですよね。ベストマッチですよ、多分これが正解の組み合わせです。間違いありません。

 

 

「はぁ〜…ごちそうさまでした。とても美味しかったです」

 

「気に入った様だね。お土産、要るかい?」

 

「要ります!全部下さい!」

 

「そんなにかい!?嬉しいねぇ…はいどうぞ、落とさない様に気を付けて」

 

「…あの、お会計は?」

 

「貰ったよ。………………あっ、そのアップルパイの事か!クハハッ、いらんいらん。それは商品じゃないからね。言っただろう?雨の日のサービスさ」

 

 

 コーヒー分のお会計だけで、なんとアップルパイまで頂いてしまいました。アップルパイって言うらしいですよ、多分フルーツはアップルなんでしょう。アップルってなんでしょうね?美味しいって事は知りました。後でセイア様に聞いてみま……ハッ!!そうでした!わたし、迷子なんでした!

 

 

「すみません、1つ…2つ程伺ってもよろしいでしょうか?」

 

「何かな?」

 

「ここから、トリニティ総合学園まではどのように向かえばよろしいのでしょうか?」

 

「トリニティ?それなら店を出て左へ真っ直ぐ行くと、右手に大き目のアクセサリーショップがある。そこ超えて最初の交差点を右に曲がるとメインストリートだ。後は道なりに進めば着く筈だよ」

 

 

 なるほど、結構近くだったんですね。

 何時もと違う道を曲がったせいで訳が分からなくなってしまっていたみたいです、これで1つ賢くなりました。

 

 

「もう1つ、また来てもよろしいですか?」

 

「勿論良いとも。晴れてる日はフィナンシェだよ」

 

ふぃなんしぇ? 楽しみにしておきます」

 

「またおいで」

 

 

 マスターさんに手を振って、お店から出ました。まだ雨が降っています。ですがわたしの心は快晴です、なんてったって素晴らしいお店を見つけてしまったのですから。あと、コーヒーの美味しい淹れ方も調べてみましょう。紅茶なら教わったのですが、コーヒーは機会がありませんでしたからね。

 

 左手に傘を持って、右手にはアップルパイ。最強の装備ですね、帰りましょう。

 

 関係ない話ですが、わたしが暮らしているのはセイア様のお家と同じ場所です。そこの1部屋を間借りしています。そう言うとなんとなく居候ですね、間違ってはいませんけど…

 セイア様のお家、と言うのが良くないのかも知れません。正確に言えば、サンクトゥス派閥のトップが生活する為の寮ですね。寮…で良いんですよね?あれもうお屋敷ですよ、小さめのお城です。生活に使ってる場所は、全体の2割くらいじゃないですか?使わない部屋のお掃除が大変です。わたしは諦めて程々にやってます。

 

 そんな取り留めのない事を考えながは歩いていました。他には、帰ったら何をしようか、セイア様は何時になったら朝起きられるようになるのか、人は何故生まれ、どうして生きどのように死ぬのか、なんて事も考えていました。

 

 アクセサリーショップを通り過ぎた辺りで、背後から銃声が聞こえてきました。なんてこった、関わりたくありません。

 

 

「待てやコラー!あたしらの前でチョコミントを食うとはいい度胸してんじゃねぇか!」

 

「もう何なんですか!?や、やめてください!」

 

 

 これは困りましたね。

 わたしはセイア様に助けられ、生きる事が許された身。追われている彼女を見て見ぬふりは出来ません。見逃す事は、助けられたわたしを否定する事と同意、ひいてはセイア様を否定する事になるでしょう。

 

 そしてなにより、これを無視してしまうのは……非常に目覚めが悪い。

 

 今のわたしは、おそらく昔よりも強いでしょう。試験機であった頃と比べ、経験や知識が大幅に増えていますし、行動を縛る命令もありません。

 

 手の平の中で、セイア様から頂いた圧縮情報媒体(オーパーツ)を分解しながら、騒がしい集団に声をかけます。もう少し時間が欲しいのですが、追われている彼女の方が無理そうですので。

 

 

「騒がしいですよ、貴方達」

 

「なんだオマエは!オマエもチョコミントを食うんか!!」

 

「…は? チョコミント? えっと、まあ好きですけど…」

 

 

 チョコミント、この前初めて食べました。

 セイア様が信じられない物を見る目でわたしを見ていましたが、多分1つしかなかったチョコミントが羨ましかったのでしょう。優越感です。

 

 思わぬ時間稼ぎでしたが、必要分は確保しました。

 

 

「ああもうどうでもいい!オマエらで鬱憤を晴らしてやる!!」

 

 

 チンピラみたいな事を言いながら、チンピラみたいな方達が銃を撃ちながら突撃してきます。もう遅いですよ、こちらは準備を整えました。

 

 リソース確認完了。

 プロジェクト:GENESIS、4幕。

 

 確かにわたしは《出来損ない》と呼ばれていましたが、それはそこの基準を満たさなかったから。一品物のオリジナルとしてなら、わたしは量産型を上回っています。

 この程度の相手に、わたしが負ける道理はありません。

 

 

「ばぁどばぁど、あんらっく…わたしと出会った不運を呪え──…来なさい、追従者(Divi:Sion)達」

 

「うわ!?なんだコイツら、どっから出てきやがった!!?」

 

 

 昔は良く見た姿の家族達。わたしに内蔵された設計図を元に、同一の人形を作って戦わせます。本来であれば生物以外の全てを情報リソースに変換し、兵器として戦わせ、生き物ではなくなった物も吸収しながら数を膨れ上がらせるものですが……まあ、そこまではしなくていいでしょう。

 

 数は19体。あの圧縮情報媒体(オーパーツ)1つでこれだけ作るんですね、思ってたより優秀な物でした。セイア様には感謝しなければなりません。

 

 素晴らしきかな権力、ビバ財力。

 追加で複数個をねだっておきましょう。

 

 今の内に、追われていた彼女の様子を見ておきましょうか。

 

 

「大丈夫でしたか?ずいぶんと追われていたご様子でしたが…」

 

「えっ、あ…はい!だ、大丈夫です」

 

「それなら良かった。気を付けておかえり下さい」

 

「あ、あの…え?」

 

 

 向こうの掃除も終わる頃でしょう。

 この場を離れて逃げたしているので、適当に追従者(Divi:Sion)を回収してからわたしも帰ります。セイア様の夜ご飯を準備しなければいけないので。こんな事に時間を掛けていゆ暇はないのです。迷子で時間を使ってしまったので。

 

 

 

 

 

 さて、今日の夜ご飯は何にしましょう。

 温かい物が良いですね。スープは作るとして、メインは何にするべきか…リクエストを聞いてみるとしますか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 少しだけイベントが起こりましたが、本人的には晩御飯の献立よりも優先度の低い案件でした。
 
 今の所、戦闘能力メンタル強度的にも、この『主人公』ちゃんがぶっちぎりで最強です。

 次はアビドスで考えて居たのですが、見つけてもらえずに黒服に拾われる未来しか見えないんですよね…
 なので思いつくまでは、思い付いた所を書こうと思います。

 
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