無機質な部屋。白い照明。乾いた足音。光を反射した刃物が、銀色の軌跡を描いて振り降ろされました。
飛び散る鮮血が自分の物だと気付いた時には、燃えるような痛みが、焼き付けるような苦しみが、全身をのた打ち回り口から迫り上がる様な感覚でした。
いったい、わたしがなにをしたのでしょうか?
わかりません。ですがきっと、わたしがいけないのでしょう。
だって、わたしは《出来損ない》なのですから。
冷たい床。無数の機械。痛む頭。在りし日の家族達が、一斉に銃口を向けました。
あの感情が悲しみだと、当時は知る事がありませんでした。思考は単純でした。死にたくないと、消えたくないと一心不乱に。まだ、倒れてはいけないと自分に言い聞かせて。
わたしは《出来損ない》です。ごめんなさい。ごめんなさい。こんなによくしてもらったのに《出来損ない》でごめんなさい。
だから、いつか生まれる家族のために、せいいっぱいがんばるからね。
揺れる水面。見えない鎖。微睡む意識。霞む視界の先では薬品が流れ、管を通ってわたしに向かっていました。
今となっては、それが何かは分かりません。言われるがままに投与される薬によって、わたしの五感は少しずつおかしくなっていました。鋭くなったり、鈍くなったり、見えない物が見える日や、記憶が消える日。
そんな事が当たり前に感じられるぐらいには、わたしは長く使われていました。いつ壊れても、惜しくないのでしょうから。
しにたくない。きえたくない。わたしはだれですか?わたしはなんなのですか?わたしはひとですか?わたしはきかいですか?わたしはいま生きていますか?わたしはいま死んでいますか?どうして、くるしいのですか?
わたしは、死にたくありません
開かない扉。捻じ曲げられた机。分解された時計。廃棄処分を待つ日々を、退屈に待つだけの日常でした。
悲しみも苦しみも、絶望すらもありません。役割は果たしたのですから。きっと、新しい家族の役に立っているに違いありません。
この頃になると、結構自我が安定してきていました。まあそうですね、今のわたしに近い性格…でしょうか。そんな感じです。
あいも変わらず《出来損ない》ではありますが、試作機としては上々ではないでしょうか。
けれどあぁどうか、一目で良いから、新しい家族の顔を見てみたい。
崩れた壁。錆び付いた椅子。破れた毛布。いつからか朽ち果てていたこの部屋に、光が差し込みました。
それはとても暖かで、優しくて、誘われる様にわたしを外へ連れ出しました。外の世界は鮮やかで眩しくて、思わず目を伏せてしまいました。
その日、初めて太陽を見ました。
その日、初めて風を感じました。
……その日、初めて…人に撃たれました。
主人公の名前が決まらない…