あと、コユキはかわいい。異論は認めません!
「にははー!ここまで来ればもう大丈夫ですね、そう簡単に捕まってやるもんですか!バーカバーカ」
わたしは天使さまと会いました。
いつもと同じ、崩れた部屋の中。
日の差す牢獄で、廃棄処分が先かこのまま朽ちるのが先かと、ぼんやり考えていました。
出来ることなら
おかげで自己証明が完了してしまったのはいい思い出ですね、ふぁっきゅー白い大人達。これはじつにあんらっく。
使い捨ての試作品。能力の足りない欠陥品。どうしようもないがらくたなわたしは出来損ない。
これでわたしはQ.E.D.。ゴミくずはおとなしくしておくに限ります。
ですがそんなわたしに、天使さまは手を伸ばしてくれたのです。
「こんな所に人?……あの、大丈夫です?」
「…ぁ、あの…職員の方でしょうか…?」
その時のわたしは、失礼ながらお迎えが来たのだと思いました。だって、次に会う人はわたしを処分するために来るのものだとばかり思っていたからです。
「…職員、なんの事ですか?まぁこんな所に長居しても仕方ありませんね、一度帰りましょう」
天使さまはそう言って、わたしの手を引いて部屋から出たのです。
わたしは、待機命令に背きました。
そして同時に覚悟しました。許されるはずのない命令違反をしたのですから、わたしの暴走防止機構が作動すると思ったからです。きっとわたしの保存領域が焼き切れて、わたしは死んでしまうでしょう。
しかしそれは起こりませんでした。
理由は…いくつか考えられますが、経年劣化でしょうね。わたしは自己修復が出来ますが、あくまでもわたしの肉体に限ります。暴走防止機構は、おそらく外部装置的なものだったのでしょう。
こうして、わたしは自由になったのです。
「にはははは…」
「──…それで、連れてきちゃったと。ユウカちゃん、どうしますか?」
「……………やってやろうじゃないの!1人やったなら2人も変わんないわ!
天使さまに連れられて、やってきたのは何かの集合施設でしょうか?目まぐるしく移り変わる景色と、久しぶりの運動で目を回しながら、どこかの部屋に入りました。
そこは、天使さまの…上司?のような方がいらしたのです。
そしてなぜか、天使さまとわたしは並んで正座をしています。
「それで、貴女の名前を教えてくれるかしら?学生証と制服と……あ、先生にも相談するべきよね」
名前…名前ですか?
わたしの名前は……なんでしょうね?
「名前はありません。あえて呼ぶのならAL型試作機…でしょうか?」
「「「???」」」
名前なんて考えたこともありません。必要無かったのですから、とうぜんでしょう。ですが、天使さま達にとってそれは不思議な事のようで、わたしは名前の有無が必要な事だと悟りました。
やはりわたしは出来損ないなのでしょう。慌てて言葉を続けました。
「あ、いえ、施設の方達は、わたしを《出来損ない》と呼んでいました。ああ…そう言えば、一時期は16番と呼ばれていた事も──ゎぷっ」
「大丈夫、大丈夫よ…!コユキ、すぐに水と服を持ってきて!ノア」
「今連絡しています!すぐに来てくれるそうです!」
「わたしの名前なのですが…」
「大丈夫よ無理しないで。もう大丈夫だから、安心して」
なにやら大変な事になってしまったようです。
わたしは喋る事を止められてしまいましたし、天使さま達はバタバタと走り回っています。
それにしても、名前ですか…考えておきましょう。
できる事もないのでぼんやりとしていたら、新たに誰かがやって来ました。
“おまたせ!それで、例の子は!?”
「お待ちしてました、先生。あちらの…ユウカちゃんが抱き締めている子です」
わたしは今日、名前を貰いました。
そして、わたしが《出来損ない》ではなくなった日でもあります。
わたし史上、類を見ないほどに騒がしくて、とても心地の良い暖かな1日が始まったのです。
まず始まったのは健康診断でした。ボロボロの布切れだけを纏ったわたしは、甘く見て浮浪者ですからね。
先生と呼ばれた人物が『セリナ』と呼べば、どこからともなく表れた新たな天使さま。
「状況は把握しています。彼女を見せて下さい」
“お願いね”
ぉぉ…久しぶりの健康診断です。昔はよくやっていました。1日1回は血液検査をしたものです、懐かしいですね。わたしがあの部屋に放置されてからはずっとご無沙汰でした。
「…異常はありません、至って健康体です……」
ふふん、わたしの自己修復は大したものでしょう。なにもなくとも、長らく放置されたとしても問題ないのです。
……だから、廃棄処分を待っていたんですけどね。自分では止められませんし、どうやって身体を保持しているかも知りませんし。ほんと、どうなっているのでしょうか?
「ですが彼女…なんと言うべきでしょうか、その…人間ではありません…!」
「はい。ほとんど機械ですよ、わたし」
“うんんん???”
あれ?あ、そういえば誰にも伝えていませんでしたね。てっきり知っていてここに連れて来られているものとばかり…思い返せば、天使さまがいらっしゃったのは成り行きだった気がします。
まあ見た目は人ですからね、中身の見た目も同じですし。もっとも、色々弄られているので見た目だけなのですけれど。
わあびっくり、見た目だけならまるで人。けれど一皮むけば、頭のてっぺんからつま先まで全部改造済の怪物です。どうも、非人道兵器のなりそこないです。
新しい家族は、人か機械か…いったいどちらなのでしょうね。
「ああッ!……あ、ごめんなさい…」
“大丈夫だよ。どうしたのかな?”
「新しい家族に会いたいです」
“家族?”
「はい。正確には、わたしの後継機にあたるのでしょう。きっとその子がいるはずです。わたしは…その子に会いたい」
今も稼働しているかは知りませんし、そもそも残っているかも知りませんが…だって、ここ、わたしの知っている環境ではありませんし…そもそも…わたしがまだ動いているのも、ある意味異常事態ですし……
でも、だからこそ、家族に会いたいです。探したいのです。
なにせこのわたしをモデルにしているのですから、優秀な子に違いありません。せっかく自由に出歩けるのですから、探さない手はありません!
……それに、プロジェクト: GENESISはきっと上手くいっていないのでしょうね。きちんと実行していたら多分、天使さまはいないでしょうから…
まあそれは別にかまいません。だってわたし試作機ですし、正直どうでもいいです。当時は必死でしたけどね、死にたくなかったので。今さらなので、本当にどうでもいいことですけどね。
“えっと…もう少し詳しく教えてくれる?”
「はい」
それからしばらく、わたしは自身について、家族についてを説明しました。
その結果なのですが……
“この子は!私の子にします!!”
「駄目です!私達が、ミレニアムで面倒を見ます!!」
「どことなく私と似ていますし、私の妹として引き取らせていただきます」
ありがたい事にわたしの保護の話になったのですが、なにやら白熱しています。誰でもいいのですが…と言うか、保護とかなくてもどうにでもできそうなので、開放していただけると…
「……どうします?もう私と逃げちゃいますか?」
「いいですね、逃げてしまいましょう」
「にはは!なかなか面白い子ですね…それじゃあ、走りますよ!」
「案内はおねがいします」
このあとわたしは、自分の打たれ弱さを再確認しました。
そう言えば、稼働試験ではいつも攻撃ばかりでしたね。完全に失念していました。
わたし、とても弱いのです。
理由は知りませんが、謎の機械とその制作者らしき天使さま達の戦闘。その流れ弾に当たってしまい、意識を失いました。
「あ、起きました?」
「はい。おはようございます」
「貴女達ねぇ…」
怒っているのでしょうか?
手で目元を覆っています。
「言いたい事は山ほどあるのだけど…はぁ…コユキ!」
「ひゃぁい!」
「しばらくはアンタが面倒を見なさい。怪我をさせないように!」
「え、私が?良いんですか!?分かりました!任せて下さい!」
「この子がまともに生活できるようになるまでよ。落ち着いたらもう一度考えるわ」
えっと…だいたい分かりました。
わたしを連れて来た天使さまは、結構な問題児なのですね。ふふっ…なんだか親近感を覚えてしまいそうですが、わたしと同じと言うことはないでしょうね。だって、信用はされていそうですし。
そして、わたしの保護者にもなりました。
よろしくおねがいします。
「貴女も、もう少し危機感を持ちなさい。コユキは問題行動が多いから、貴女からも見張ってくれる?」
「なるほど。分かりました」
命令ですね。任せてください。
今まで試験の結果は振るいませんでしたが、命令違反は1度しかした事がありません。
こう見えて、昔はちゃんとしていたんですよ。
え〜っと、あれです、頭の輪っかです。いつからだったか、コレが浮かぶようになったんですよ。その頃から思考が
“それじゃあ、また明日”
「はい、ありがとうございました」
あの大人は帰って行きましたが、明日また来るようです。わたし、大人はあまり得意ではないのですが…まあ表情は抑えてますし、いやなことはされませんでしたし、別にかまいませんけど。
そして、天使さま達に囲まれてしまいました。
「その、…えっと、皆さまのお名前を…」
「あ、言って無かったわね。早瀬ユウカよ」
「生塩ノアです。よろしくお願いしますね」
「黒崎コユキです!」
助かります。これで呼び分けることができます。
あと、皆さんは天使さまではないみたいです。わたしはそっちの方が驚きです。本当に天使さまではないのですか…?
「ありがとうございます。早瀬さま、生塩さま、黒崎さまですね」
「『さま』付けは止めてくれる?私達は別に貴女の上司じゃないから」
「一度『ノアお姉ちゃん』って呼んでいただけませんか?」
「ノア!?」
「ノアお姉ちゃん?」
「うッ…!」
「にははははは!ノア先輩の弱点を見つけましたよ!」
どうしましょう。
わたし、この皆さんの事が好きになってしまいそうです。まだ会って数時間しか経っていませんが、まるで陽だまりに居るかのように心地が良いのです。
わたし、この方達の事が好きになってしまいそうです。
こうして、わたしはミレニアム?という学校?に入る事になったのです。
√ミレニアムが始まりました!
名前は…一応候補は用意できたんですけど、もう呼ばせない方向にしようかな…?
見た目ですが、少し小さくなって髪が短くなって灰色っぽいメッシュが入ったノアをイメージしています。ロリではありません(強い意志)。