1話でもしカフカが入隊を断っていたら?(リメイク版) 作:刀持ちの烏
「お疲れ様〜」
「お〜お疲れさん、じゃあな〜」
日比野は、帰っていく同僚を見送りながら満足そうに挨拶した。やっとこれで一番クッさい過程は終わった。腸作業自体も、もう少ししたら終わるだろう。
「先輩」
日比野はギョッとして振り向いた。後ろには市川が立っている。
「お…市川、お前もご苦労さん」
そう言って彼は、昼の仕返しかと思って身構える。彼は諦めたとはいえ防衛隊を目指した身だ、逆に関節技かけてやる、と考えた。だが、市川は綺麗な直角45°で礼をして、こう言った。
「おかげで、一日乗り越えることができました。ありがとうございます」
「お…おう」
日比野は困惑した。最近の人って、結構すぐに態度変わるもんなのだろうか。いや、ここで油断させて攻撃してくるのかもしれない。
しかし、彼の考えは外れた。
「あ、それから…」
市川は続けてこう言った。
「33歳までに引き上げられるなんてこと言われてましたよ、防衛隊の募集。周りからは少子化の煽りだと言われました。俺としては、入るか入らないかは他人の人生ですしどうでもいいんすけど…諦めたこと根に持ってるのかな、と思って」
なんだよこいつ、すげぇいいやつじゃねぇか。日比野は少し泣きそうになり、関節技かけようとした自分を恥じた。朝に、防衛隊入らなかったことを蔑んでたように見えたけど、午後になってから気が変わってくれたんかな?いずれにしても、そういう配慮は嬉しい、だが、
「すまんが市川、聞いてくれて悪いが、俺は防衛隊に入ろうと思えなくなってしまったんだ」
日々野は悲しそうに言った。
彼は昔から防衛隊に憧れていたし、今だって入りたいと思う感情はある。だが、今の俺が入ると…あいつが俺をどう見るかどうか…
「あ…別に勘違いだったらいいんです、ただッッ」
突如、地面が崩れて、市川の背後から異様な体躯の怪獣が飛びかかってくる。
大きさは大体3mほどで、見た目から推測するにフォルティチュードは1か2程度だろう。手持ちの武器などがあればある程度は戦えたはずだ。
だが、いくら彼が討伐大に通っている身といえど、急な襲撃にはすぐに対応できなかった。怪獣は彼の頭を押さえつけようとした。
その時だった、市川は大きく後方へと飛ばされた。突き飛ばされた方向には日比野が腹ばいになって倒れている。破片が当たったのか足を大きく怪我していた。
「市川!全力で走れ、逃げれたら119番を呼んでくれ」
日々野は怪我を負いながらも叫んだ。
「でも、先輩だけじゃ…」
市川はそう言って近くに落ちていた鉄パイプを手に取る。
銃とかではないから勝てるかはわからないが、少なくとも囮になって先輩から離すことはできるはずだ。
「人間の身体はそんなに脆くねぇ!それに、」
日比野がそこまで言いかけた時、後方から射出音がした。
市川はその音に聞き覚えがあった、銃器の授業で使ったパンツァーファウスト3だ。と言うことは、
彼がそこまで考えた時、怪獣の首が宙に吹き飛ばされた。
痛みに耐え、ぎこちなく日々野がニヤリと笑った。
「それに、まだ防衛隊員が出張っているからな」
後方から、AMSGRではない防衛隊の通常スーツを着た隊員達が駆け寄ってきた。
「サイレン、鳴ってたんですね」
市川は意識を集中しすぎて、サイレンが鳴っているのに気づいてなかった。
日比野は、後は防衛隊がなんとかしてくれるだろうと考え、地面に身を預けた。
日比野の意識はそこで途切れた。
「日比野さん、大丈夫ですかね?」
古金は、少し憂鬱そうに呟く。
あの後、日比野はすぐに病院へと搬送された。怪我は負っていたものの、幸いにも命に別状はなく、来週には退院できるようだった。
「本当に、あの状況に対応できないだけじゃなく、先輩を助けることもできなかったなんて、防衛隊員失格ですよ」
市川は大きく気落ちしていた。彼の手には、お見舞いの花束が握られている。彼は花を買うときに、お見舞いに良い花を調べていたらしく、かなりいい花束になっていた。
「市川さんも元気出してください、日比野さんが言ってたみたいですけど、この程度じゃ人間死なないですから」
彼女は、気落ちしている市川の肩を軽く叩く。
「それに、大事な新人を初日から怪我させるわけにはいかないじゃないですか、それに、本人は気にしてないだろうし」
そんなことを話しているうちに、日比野の病室に着いたようだった。
「失礼しま〜す」
ノックした後、気落ちしてる市川に変わり古金が挨拶をして中に入る。
「お〜、お見舞いありがとな」
日々野は、足を怪我こそしてたが見た感じは元気そうであった。
「とりあえずで花にしちゃいました。あ、でも結構いいの選んだと思いますよ。なんせ市川さんが調べてくれましたからね。例えば、ガーベラの花言葉は…」
日々野は、しばらく彼女と花についての話や怪我の病状の話をしてからこう言った。
「悪いが、市川と2人にしてくれないか、言いたい事があるんだ」
わかりました、と言い彼女は病室の外に出た。
市川は、ぎこちなく謝ろうとする。
「今回は…こんなことになってしまって…」
日比野は首を振った。
「そんなことはない、あの状況で助けにいってたらお前だって怪我をしていた。お前は防衛隊に入りたいんだろう?だったら尚更じゃねぇか」
「ですが、防衛隊は自分の命を犠牲にしてでも…」
「市川」
日比野は険しい顔をした。
「お前は防衛隊は命をかけていると言った、だが、今お前は防衛隊に入ってるわけじゃない。だから自分の命を天秤に掛ける義務はない」
「先輩だって身を挺して助けてたじゃないですか」
日々野はフンとでも言いそうなった感じに、
「あれは近くに防衛隊がいると分かったうえでの行動だった。はなから自己犠牲するつもりはないさ」
と、言った。
「じゃあそうじゃなかったら…」
「うん、助けはしなかった……と思う。軽蔑するなよ?」
しばしの沈黙が流れた。
市川は大きくため息をつき、そして大きく微笑む。
彼は日比野がそう言ったのは嘘だと感じ取っていた。表情に出てしまっているし、そもそも防衛隊が近くにいると分かっていても普通はあそこまで命をかけるようなことはしないはずだ。
「軽蔑なんてしませんよ。むしろ人間くさくてホッとしました」
「ありがとな。そう言ってもらえて」
「ええ、こちらこそ」
市川は病室を後にした。
さて、これからだな。そう考えた日比野は寝る前に周り見回す。
「ミツケタ」
突如、彼の周りを変な虫が周りを飛んでいた。
新種とかかな、と考えた彼は目をすぼめた。
すると、突如彼の目の前に例の虫が飛んできていた。彼は、あっと口を開けようとする。
それは虫ではなかった。触覚こそあるが、エイリアンのような口があり、手も四本しかない。まるで怪獣だ。
日比野がそう思った時、その生物が口へと入り込もうとする。
彼は急いで口を閉じようとしたが、その生物の動きは早く、すぐに開いた口の中に入り込んでいった。
突如、地面が揺れた。
「ヒェッ、地震、ですかね?でも警報来てないし」
古金は怖がりながらも、不思議そうにする。その時、市川は心配そうな顔をした。今の地震なら震度5近くあるはずだ。と言うことは、
「先輩が大丈夫か見てきます‼︎」
彼は彼女の静止も聞かず、道を引き返す。市川は病室に着くと目一杯ドアを開けた。
「え?」
市川は絶句した。
日比野のいたベットには、人間大の怪獣が横たわっていた。