1話でもしカフカが入隊を断っていたら?(リメイク版) 作:刀持ちの烏
「え?」
日比野は、市川の反応が変だったため、顔に何か付いてるのか?と思い窓を見る。
自らのいる場所には髑髏のような顔が映っていた。
2人は顔を見合わせる。
そして、ほぼ同時に絶叫した。
「うぇぇぇ!?怪獣、怪獣」
「市川、俺だよ、日比野だよ!!お願いだから引くのやめて」
日比野は、必死に自分だとアピールする。だが、市川は状況の整理に間に合っていないらしかった。
そんなことしてるうちに、外からドタドタという音が近づいてくる。
「市川さん、早すぎますよってええぇええええええ⁉︎」
いつから入って来たのか、ドアの近くにいた古金も混乱しており、腰を抜かしていた。
「えッ、怪獣!?いや人間大だし…」
「え、本当に先輩なんですか?まあ、ただの怪獣なら喋らないとは思いますが」
「ひとまず逃げるぞ、話はその後だ‼︎」
日比野は、混乱している2人に対してそう言った。
「逃げるんだったらドアから出れば……」
「バカ、すぐバレるだろ‼︎」
「もう何が何だか…」
しかし、2人はまだ冷静になっていないようだった。少し考えた日々野は再び窓の方に向く。
「行けるかどうかわからないが、とりあえず窓から出るぞ‼︎怪獣だったら行けるはずだ」
彼は、窓に手を掛けて勢いよく開けようとする。
その時、窓だけでなく、壁が開けられるとともに勢いよく剥がされてしまった。混乱している2人はおろか、日々野も唖然とした。
「どうなってんだこりゃ……」
夜はまだ始まったばかりであった。
「横浜南総合病院に小型の怪獣が出現しました。フォルティチュードは現在2、パトロール中の部隊はすぐに現場に向かってください」
「すぐ近くだな」
第3部隊第1普通科中隊第1小隊長、直間アキラは、眉ひとつ動かさないままそう言った。美形ではあるのだが、最近寝不足のため、目の下にクマが出来ている。
彼が率いる小隊は、現在、横浜市内を巡回中であった。自衛隊とは違い、防衛隊は小型の怪獣に対処するために常に付近のパトロールを行なっている。
小隊のため、確認できる人数は12人と限られているが、F2程度の怪獣ならば対応は可能と言えた。
彼らを乗せた軍用パジェロは現場へと急行した。
一体何が起きているのだろう?市川は未だに状況を理解できていなかった。
無理もない話だ。職場での先輩が、いきなり化け物になって、すぐに理解を示せる方がヤバいだろう。
市川は、何故怪獣になってしまったか日比野に聞く。
「念の為に聞きますけど、なんでこうなったんですか?」
日比野は走りながら理由を説明する。
「いろいろ突っ込みどころがあるだろうが、まず、口の中に喋る虫みたいなのが入り込んできた。そしたら何故か怪獣になってた。よくわからないと思うが、本当にそうなんだ」
「まあ、なった人が言うんだったら…そうなんですかね?」
古金は意外と冷静だった。
「なあ、古金って言ったっけ。俺、防衛隊に見つかったらどうなると思う」
彼女はうーん、と少し考える。
「まあ…殺処分からの兵器化ですかね?多分それぐらいしかないと……」
「そうか…うん、そうだよなぁ…」
日々野は大きくため息をついた。
「あっ、2人とも、もうすぐ規制線ですよ」
市川がふと気づいたように指さす。
全員は安堵した。
その時だった。突如、向こう側に閃光と音がした。
「ありゃあ、F2ぐらいだな。おおかた昨日のやつに惹かれる形で出てきたやつとかだろ」
市川は興味深そうに聞いた。
「怪獣になると、そんなことまで分かるんですか?」
日々野は首を振る。
「いや、長年の経験ってやつだ。言ってもまあ、勘のようなもんだけどな。遺体を処理したりする時に周りを見たりしてると、サイズごとの被害とか分かってくるんだわ」
「普通にすごいですね…」
二人は日比野の鋭い勘に驚いているようだった。まさに、長年の経験が生かされたものであると言えた。
「まぁ、F2といっても、これで先輩を追いかけて来る隊員の数は減るでしょう。避難は終わってるので、まずは無事を祈りましょう」
「ああ…」
日比野は、納得していない様子だった。
少女は、瓦礫の下にある自分の母親に、泣け叫びながらも呼びかけていた。
「早く…早く逃げて」
母親は自分がもう助からないだろうと腹をくくっていた。自分は瓦礫の下なんだから動けないし、すぐ近くには、人間より一回り大きく怪物がいる。完全に詰みの状況だ。
しかし、少女は逃げなかった。そして怪物は二人を攻撃しようと、手を伸ばす…。
その時だった。
何かが怪物へと殴りかかった。
日比野はなるべく加減して攻撃したつもりだった。
目の前に少女がいること、そしてここが市街地なことを考えて、そしてさっき窓を破壊したときのことを考慮すれば、その威力はなるべくは抑えたれたつもりだった。
しかし、その威力は予想以上に高いものだった。
彼の拳は敵怪獣の顔面に当たった。拳は頭蓋骨を粉砕し、そのまま顔面をただの肉片へと変えてしまう。そして、敵は続くように反動で後方へと吹き飛ばされる。そして、まだ残っていた怪獣の胴体は地面へと接触し、大きな穴を作りながら地中へとめり込んだ。誰の目からみても怪獣は原型の残らないほどやられていた。
「すっげー威力だな…これ」
「これ、人には向けちゃだめなやつですね…」
「うん……」
二人は冷や汗を流していた。
先程の日比野の言葉を借りるなら、こいつはF2と言うことになのだろう。それを軽い一撃でやったということは、怪獣の中でも、かなりの強さを持っていることになる。もしかしたら、だが、識別怪獣の可能性も捨てきれないぐらいだ。
「あ、そうだった!先輩早いところ逃げましょう」
「お、おう…」
日々野は2人に続いて逃げようとする。後方から声が聞こえる。一人の少女だった。
「あ…あの」
少女は、泣きじゃくりながらも礼を言った。
「ありがとう…」
「瓦礫とこの家に住んでいる二人しかいないようだな」
直間は不信感を募らせていた。おかしい、先程までここには2体の怪獣反応が出ていた。それは、瓦礫の山と散らばった肉片が証明している。おそらく戦ってたんだろう。もう一体は、地面に穴が空いてないことを見るに空中に逃げたのだろう。彼は、ふと辺りを見回した。被害者であろう少女がいる。
彼は部下に聞いた。
「あの少女に事情聴取するのは可能か?母親のほうは気を失っているからな」
彼の部下は二言くらい衛生隊員と話し、首を縦に振った。
直間は少女の方に向かうと、こう話を切り出した。
「お嬢ちゃん、今から聞きたことがあるんだけど、いいかな?」
少女はコクリと頷く。
「ここに散らばってやつ以外に、なんか変なやつ、例えば怪獣みたいなのとか、いなかったかい?」
「うん……だってその人に、私助けられたから」
「え?」
直間は唖然とした。
「逃げれましたね」
古金は額の汗を拭いながら言う。市川も同じような感じで一息ついている。
「人助けが出来るならやろうとするのは良いですけど…先輩、泣いてるんすか」
市川が意外に思って聞く。
「俺はな、人間でなくなったことが…正直めちゃくちゃ悲しい」
日比野は涙を拭く。市川も同情的な目で見つめる。
「だが、こうも思ったんだ。もしかしたらこの力を使えれば……」
彼は少し間を置いてからこう言った。
「もしかしたら…誰かを救えるかもしれない」
彼は、心の奥底で炎が燃え上がっている気がした。討伐大学を落ちて以降、彼が感じなかった衝動だった。