未来が視える元海兵が麦わらの一味について行く話   作:テロン

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百辺回ってワンと鳴け
忠犬リオ公と東の海


 

 

 

 

 

 

 

 

 

「船、乗るだろ?」

 

 リオの顔を覗き込んだ船長は、いつもの通り、ニッコリと満面の笑みを向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 リオは忠犬だ。

 

 

 

「じゃあ、買い出しお願いね。荷物持ちに男共連れてっていいから」

ワン!(イエス、マム!)

 

 

 はいはい、といつも通りにリオの返事を流したナミは、「あたしは他で買い物してるから、あとで落ち合いましょ」と手を振ってメリー号の船室へ戻って行った。

 旗揚げしたばかりの海賊団、麦わらの一味は補給の為、東の海のとある島へ立ち寄っていた。

 大きな街のある島だ、大抵のものは揃うだろう。買い出しメモを一読したリオは、言われた通り荷物持ちを、と甲板を見渡す。

 

 

「ウソップ!荷物持ちー!」

「おお」

 

 

 サンジはサンジで食材の買い出し、ルフィはすでに走り出しそうでゾロは別の買い物となれば選択肢はウソップしかいない。向こうもそのつもりで近寄って来たのでこれ幸いとメモを手渡した。

 

 

「量あるから、少し重たいよ」

「半分ずつだからな」

 

 

 ジト目で言うのは、前回の補給の時にリオが途中で姿を眩ましたからだろう。「ワン!(イエス、サー!)」と元気よく返せば、「おちょくってんじゃないだろうな」と溜息一つ。

 

 失敬な、リオはいつだって任務に忠実な忠犬であるのに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 生まれつき、未来が視えた。

 

 

 新聞の占い欄ほど不確かではなく、かといって何年も先まで見通せるわけじゃない。

 精々目の前の人間の、次の行動が分かる、くらい。けれど時たま、いつ訪れるかもわからない先の光景が唐突に目に浮かぶ事があった。

 それは大抵、未来の視えた人間が、大きく心を動かすことになる光景。

 

 

 例えば隣人が悲鳴をあげる未来を見た半年後、彼の息子が海賊になった。卒倒した男を見ながら、「知らなかったの貴方だけだよ」と思ったリオは賢明にも口を噤んだ。

 

 

 他にもここ最近見たのだと、犬に吠えたてられてる女の子だとか、資格試験に失敗する男の人だとか。

 平和だと言うなかれ、リオのいる島は最弱の海と称される東の海にあって、海軍支部の巡航ルート上にあり、とりわけ裕福でもないことから海賊も立ち寄らぬ、牧歌的な島だったのだ。

 ともかく、大したことの起きない島にいるリオの視る未来など、大したものではない。

 

 

 大きくなるにつれて、どうやら未来が視えるのは自分だけではないらしい、と知る機会もあったし。

 

 

 ただ、自分の視る未来については絶対に、とは言わないまでも『ほぼ確実に』起こり得る未来であると確信を持った。

 今までそれが覆された事はなかったからだ。

 

 

 未来視についての制約は恐らくいくつかあるが、その一つが自分の未来は視えないというもの。

 

 

 けれど、麦わら帽子を被ったジョリーロジャーを見かけた時、リオは初めて自分の未来を視た。

 

 

 ニッカリと笑った男の子が、リオに片手を差し出している。「船、乗るだろ?」と言う言葉に、リオは頷いていた。

 

 

 なので、先んじて乗っておくことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 補給に寄ったであろう海賊達が船を降り、遠巻きにする島民達と交渉を始めるのを横目に、リオはそっと小舟に乗り込んだ。

 

 

 小さな島なので食料や日用品を得ようとすれば、島に一つしかない市場に向かう他ない。港からは一本道だが少し遠いので、今のうちに船の裏から乗り込んでおけば、海賊達の一挙手一投足を注視している島民に見られずに出航できると思ったのだ。

 

 

 鉤縄を手すりに引っ掛けて海側から甲板に登れば、あっという間に侵入成功だ。手すりから縄を回収して、漕ぎ手の居なくなった小舟が波にさらわれていくのを見送る。5メートルか、10メートルか、離れたところで振り向いて、「初めまして、リオです」と頭を下げた。

 

 

 それ以上待たせると、鯉口が切られる未来が見えたので。

 

 

「それで?」

 

 

 続きを促した緑髪の剣士は、不審者を見るような目で──まさしく今のリオは不審者だけど──リオを上から下まで見定めた。だぼっとした上着にショートパンツ。上から踝に届くほど長い白マントを羽織っている。マントが暑苦しい以外は普通の格好だと思うが。

 

 

「この島の住人です。特技は占い。明日の天気とか、人生運なんかも時々。生まれは違う島で、家族構成は──なるほど、それもそうだね。でも貴方へ話しても、先には進まなさそうだからなァ」

「あ?」

 

 

 途中で一人納得したリオを訝しげに眺めながら、剣士の手は腰に差した剣の柄をそっと撫ぜた。

 

 

「『それが他所の船に乗り込んだ件と何の関係がある?』って言おうとしたよね。それに私が『この船に乗るからだ』と返すと、貴方は『それは船長が決める事だ』と返す。私も納得した。なのでここで船長さんを待ちましょう」

 

 

 今度こそギョッとした剣士が「未来でも見えるってのか」と呟くのが視えたので、「そうだよ」と返しておく。

 閉口した彼が興味を失ったようにマストへ去って行くのを見ながら、リオは抱えて居たボストンバッグをどさりと落とした。

 

 

 

 

 

 

 

「初めまして、リオです」

 

 

 針の筵のような島内から帰ってきた海賊達は、船内に見知らぬ女が平然と立ち尽くしているのを見て一斉に船番の男へ駆け寄った。見たところ、皆リオより少し年下だ。

 

 

「おい、誰か知らない人いるんですけど?」

「目を離した隙にレディとお近づきになりやがって! 粗相はしてないだろうな」

「泥棒!?」

「うるせえな」

 

 

 ルフィ、と唸る様な声で呼ばれたのは、麦わら帽子の少年。

 

 

「お前に客だ」

「おれに?」

 

 

 くるりとリオを向いた黒目がパチクリと瞬いて、次の瞬間にはずい、と迫ってきた。

 

 

「変な髪色だな」

「染めてるからね」

「バナナみてェ」

 

 

 会うなりの言葉は、リオの髪色が金髪ではなく、不自然に黄色かったからだろう。良い染料が手に入らず、地毛の白金が見え隠れしているのも不自然さに拍車をかけているかもしれない。肩甲骨辺りまで伸びた髪は、赤い石のついた髪ゴムで緩く一つに括って左肩から前に垂らしている。

 

 

「私、リオっていうの」

「そうか、おれはルフィだ。モンキー・D・ルフィ」

「うんうん、知ってるよ。でもなるべくフルネームは名乗らないようにね」

「なんでだ?まあいいけどよ。それでおまえ、おれたちに何か用か?」

「あれ?」

「んん?」

 

 

 おかしいな、と首を傾げた。リオが先回りしすぎて順番が食い違ったのだろうか。

 

 

「用があるのは君の方だと思ったけど」

「おれ? でも、お前の事知らねえぞ」

「そうだけど。あれ、おかしいな。この島だと思ったんだけど……。でも顔以外見えなかったしな。今じゃないのかな」

「何ぶつぶつ言ってんだ?」

「うん、なら大丈夫だ」

 

 

 まァいいか、と頷いて右手を差し出した。

 

 

「君は私を船に乗せる。だから、これからよろしくね」

 

 

 言った途端、バチン、とまた未来が視えた。

 

 

 血だらけでボロボロな男の子が、大口を開けながら気絶している。リオの未来視は、写真のように一場面を切り取るのではなくて、その一瞬にリオが入り込むような形で視える。

 なので自然とリオは辺りを見渡した。未来のこの子は周囲を知らないだろうけど。

 牧歌的な島の光景とは程遠い戦場に見慣れた顔を見つけて、あらら、と思ってる隙にバチン、と今に戻って来た。

 

 

 目の前の人を無視する形で左を向いていたリオと無理矢理視線を合わせるために、少年はビヨンと首を伸ばしている。能力者のようだ。体が伸びる系の超人系(パラミシア)、モチじゃあるまいし、ゴムとかか。

 

 

「おまえ、おれの仲間になりたいのか?」

「違うよ」

「じゃあ何で船乗ってんだ?」

「待っているものがあるから。ね、君は私を船に乗せるでしょ?」

「なんでだ?」

「なんで?」

 

 

 あれ、とお互いの疑問符が飛び交った。

 

 

「乗せて!」

「うーん。まあいいけどよ」

「ありがとう! それから、私の占いによるともうすぐ大嵐が来るよ」

 

 

 え、と固まったオレンジ髪の少女は慌てたように海上の空を見て次第に顔が青褪めていく。

 

 

「ホントだ。さっきまではそんな気配微塵もなかったのに」

「この島特有の海流でね。半年に一回くらい、予兆なく海が荒れるんだ。運が悪かったね」

「早く出航しないとしばらくこの島に閉じ込められちゃうわ。男共、出航準備!」

 

 

 それから、とリオを振り向いた少女は船長の背を叩いて、「ルフィ、いいのね? 出航するわよ!」と言い放ち、同じくリオに向かって「降りるなら今のうちによ、この船バカしか乗ってないんだから!」と叫んだ。

 

 

 乗ることが目的なのだから、リオに降りる選択肢はない。

 ゆっくりと動き出し、風を受けて加速していく船上で、リオは一度だけなんの変哲もない島を振り返った。港で余所者の出航を眺めていた島民達のホッとしたような顔を見ながら、ぎゅっと拳を握りしめる。

 

 

「リオ、お前何が出来るんだ?」

 

 

 強くなり始めた風に攫われないよう麦わら帽子を抑えた船長の言葉に、リオは「占い! あとは掃除とか、在庫管理とか、お金勘定とか。戦闘も多少は」と答えた。

 

 

「金勘定はナミがいるしなぁ。食糧はサンジが管理してるし。お前、仲間にはならないんだろ?」

「じゃあ雑用とかでいいよ。海賊船には見習いって制度があるんでしょ? そこから始めさしてよ。海賊は初めてなんだ」

「見習い……見習いかぁ!」

「うん。私が待ってるものが手に入ったら、そのときは私を正式な船員にしてね」

 

 

 どうしようかな、と逡巡しているのを待ちながら、リオは「ワン」と片手の指を犬の形にして吠え真似をした。

 

 

「その道じゃあ、リオはとっても忠実、って評判だったんだ。忠犬リオを配下に出来るなんて君は幸運だよ」

「それは占いか?」

 

 

 問いに、リオはニヤリと笑って返した。

 

 

「経験則さ!」

 

 

 少し思っていた形とは違ったが、問題はない。リオの視る未来はいつか必ず訪れるのだから、この少年に着いていけば、あの光景に辿り着く。そう思えば、手にした平穏など簡単に投げ捨てれるものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 嵐を抜けた先で改めて自己紹介をして、リオは麦わらの一味の見習いと言うことになった。普段は掃除や洗濯、他のクルーの手伝いをして、手が空いたときはナミについて海図の読み方を学んでいる。

 

 

 ただ、リオの自称する「忠犬」という言葉には皆懐疑的だった。占いの方には遊び半分とはいえそれなりに食いついたのに。特に、金運を気にするナミとか。「山のような黄金を前にしている姿が見えるね」と言えば大喜びでリオを自室に案内したのだ。

 

 

「これからリヴァースマウンテンを目指すんだよね?」

「そうね。大まかには南西に向かうだけだけど、必要最低限の補給以外はなるべく早く島を避けて最短で向かいたいの。リオがこの辺りの海域に詳しくて助かるわ」

「移住する時に結構調べたからね。その時の資料とか持って来ればよかった」

「いいのよ、奪った海図もあるし、あとはこのあたしがいれば何処へだって航海できるわ」

 

 

 頼もしい、と後ろから声がかかった。──いや、正確にはもう少しメロリんとした声だが。

 

 

「レディたち、おやつをどうぞ」

「あら、ありがとうサンジくん」

 

 

 囲んでいたテーブルに、ジェラートが二つ。続いてアイスティーの注がれたグラスが並べられた。

 

 

「リオさんの好みを聞けてなかったから紅茶にしちまったが、合わなければ別のを入れるよ」

「大丈夫。美味しそうだね、ありがとう」

 

 

 あとはごゆっくり、と言いながらスマートに去っていく姿は、ウェイターをしていたとの申告の通り、様になっている。扉の前で恭しく一礼をした背中に、横からにゅっと伸びてきた右手が絡まった。

 

 

「サンジ、おれのおやつは!」

「野郎の分はねェ!」

「狡いぞ」

「私の分食べる? ルフィ」

「いいのか!」

「よくねェ」

「よくないわよ。リオ、あんたも甘やかさないで」

 

 

 呆れたような目線が突き刺さる。盗られないようにか、ナミはパクリとジェラートを口に運んだ。

 

 

「でも私、見習いだし」

「そうだ、それよそれ」

 

 

 首を取った、と言わんばかりにナミがリオに詰め寄った。

 

 

「なんで見習い志望なの? この船、そもそも素人ばかりだし、言ったらあたし以外全員見習いよ見習い」

「おれは船長だぞ」

「はいはい、ちょっと黙ってなさい」

 

 

 で? と続きを促してくるので、リオはなんとなしにシャツの裾を引っ張った。

 

 

 半ば勢いで着いてきてしまったが、確かにちょっと説明し無さすぎたかもしれない。

 

 

「うん、じゃあ甲板に移ろっか。私の身の上話するなら、みんないた方がいいでしょ?」

 

 

 暑いから、冷たい飲み物があるといいかも、と続けてみるとサンジが仕方なさそうにウインクを寄越した。

 

 

 

 

 

 

偉大なる航路(グランドライン)出身!?」

「そう。こっちに来たのは1年くらい前かな」

「なんでまた」

 

 

 まさか目指している場所から逆走してきたとは思っていなかったのか、甲板に集まった一味は全員それぞれに驚きを返した。

 

 

「じゃあ、今目指してるリヴァースマウンテンも通ったことがあるのね?」

「ううん、出てきただけだから通ってないかな。北上しただけ」

凪の帯(カームベルト)を超えてきたってこと?」

「凪の帯?」

「東の海と偉大なる航路を隔てる海域よ。風の吹かない穏やかな海だけど、大型海王類の巣になってるの」

 

 

 こんな大きいのまでいるんだから、とナミが両手を広げるのに、ルフィは目を輝かせ、ウソップはブルリと震え上がった。

 

 

「そう。一応出来なくはないんだよ。便数は絶望的だけど、政府の船の護送もあるし」

「クリーク海賊団も偉大なる航路から逃げ帰ってきてたもんな」

「普通の船で? わお、それは自殺行為かもだ」

 

 

 それでもやるしかなかったんだろ、とゾロが口を挟んだ。

 

 

「世界最強の剣士に追われてちゃ、そんな所でも天国だろうよ」

「世界最強の剣士? 前半の海で?」

 

 

 そんな事あるかい、と思ったが、一味は全員頷いている。

 

 

「それは……運がなかったねェ」

「偉大なる航路ってあんな化け物がウヨウヨいるんだろ。よく無事だったな」

「流石に世界最強の剣士は一人しかいないと思うけど……。でもそうだね、1年前まで私の住んでいた島の近くは海賊も少なかったからまだマシだけど、街や国が海賊に襲われて壊滅、なんてよく聞く話だよ」

 

 

 そうでなくても、あまり治安は良くないが。

 

 

「へえ、でも偉大なる航路(グランドライン)にも治安の良い所もあるのね」

「まあ世界政府に加盟してて海軍がきちんと機能してるとか、自前で衛兵を維持できる裕福な島だったりとかかな」

「リオさんのいた島はどっちだったんだ?」

「前者だよ。でも少し疲れちゃって。なんの変哲もない、ずっと平和で変わり映えのしない暮らしがしたくって東の海に来たんだ」

「へえ」

「それなのに島を出て来たんだ」

 

 

 うん、と頷いてアイスティーを飲み干した。

 

 

「ほら、占いが得意って言ってるでしょ?」

「お前のそれは占いというより未来視の類だろ?」

 

 

 ゾロが口を挟んだのは、リオが力の一端をちゃんと見せたのが彼だけだからだ。

 

 

「未来視!?」

「それもあるけど、未来視自体はそんなに珍しい能力じゃないよ」

 

 

 言いながら向かいに手を伸ばしてウソップの膝元のグラスを掴めば、すぐ側を隣に座っていたルフィの膝が通過した。

 

 

「「あぶねえなルフィ! 気をつけろよ」」

「ん?」

 

 

 台詞を丸ごと被らされたウソップは、ギョッとしているが、グラスを倒しそうになったルフィは骨つき肉を頬張ったまま疑問符を飛ばした。全然興味なさそうだ。

 

 

「今の、おれの頭の中を読んだのか!?」

「ホントに未来がわかるんだ」

「ごく短時間ならね。同じことできる人は他にもいるよ」

偉大なる航路(グランドライン)ってのは化け物揃いか」

「で、そっちじゃなくて占いの方ね。キチンと制御出来るわけじゃないけど、もう少し先の未来を占えるよ。当たるも八卦当たらぬも八卦って言うでしょ? でも私は、自分の占いの結果は全部信じてるんだ」

 

 

 いくよ〜とやる気のない声を上げて、南無南無と手を擦り合わせた。

 こういうのは雰囲気って奴だ。

 

 

「なに、何を占ってるの?」

「うーん、何が出るかは私にもわからないけど、何かは出ると思う」

「なんだそりゃ」

「おい、リオさんを悪くいうなよ」

「ハアーーーホワァーーー!!!」

「おお」

 

 

 適当にそれっぽく何かを溜める素振りをして、行き場のなくなったそれっぽいやつをそれっぽく空に放っておく。

 

 

「視えた! ルフィが巨大な肉に噛み付いている!」

「どこでもありそうだなそれ」

「コラ! クソマリモ!」

「場所はジャングル!」

「よくありそうだな」

「コラァ、ウソップ!」

 

 

 両者の頭を叩いたサンジをまあまあと宥めて、リオは近辺の地図を思い起こした。

 

 

「まあ冗談はさておき、確かこの先の無人島では極上のステーキ肉が手に入るって聞いたことあるよ。その島にしかいない牛の肉なんだけど、猛獣の巣窟だからなかなか手に入らないんだって」

「ステーキ!」

「ほう。そりゃあコックとしては興味あるな」

「猛獣! 猛獣の巣窟!」

「リオ、その島どこだ!? 早く行かねえとおれの肉がとられちまう」

「ちょっと、そんな危ない所いかないわよ?」

 

 

 慌てて止めようとするナミには申し訳ないが、その気になった船長を止めることはできない。というわけで、リオの占いは、正しく遂行されるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 紆余曲折ありながらもリオの示した無人島に上陸した一行は、接岸するなり飛び出していったルフィとそれを追ったサンジとゾロの帰りを待ってキャンプを開いた。

 

 

 猛獣と戦ってきたらしい3人は満足そうで、逆に遭遇しなくてすみそうな2人は胸を撫で下ろしている。リオは早速雑用として火の準備をしながら彼らの獲ってきた獲物が捌かれるのを待った。

 

 

「ね、当たってたでしょ? 私の占い」

 

 

 程なくしてサンジの手によって豪勢なランチへと変貌したステーキ肉に舌鼓を打ちながらそう言えば、ルフィ、サンジ以外の面々が肩を竦めた。ルフィは焼いた側から食べてしまうため、サンジと焚き火のそばで涎を垂らしている。

 

 

「つってもなー。島出た時の大嵐は島の住民なら知ってそうな事だし、肉食ってるルフィなんていつでも見られるしなあ」

 

 

 この島に誘導したのだってお前だし、と料理を取り分けて来たウソップが言う。

 

 

「疑ってるわけじゃねえけどよ、あんまり実感湧かねえよ」

「お前が言うか」

「なんだとお」

 

 

 ゾロに歯を剥くウソップは、ほら話が得意なんだとか。嘘も本人が心から信じれば真実になるともいうし、そう言った意味ではリオの占いと似通っているかもしれない。

 

 

「でも、リオは占いをしてこの船に乗るって決めたのよね。どんな結果だったの? やっぱり黄金がザックザクだったりとか?」

「ううん。ただ、見たい景色が見れると思ったの」

 

 

 ほら見て、とあれだけの肉を一人で食い尽くしそうなルフィを指差した。

 

 

「すごく嬉しそうでしょ。私の占いで視れる未来は、その人が嬉しい〜とか、悲しい〜とか、とっても心が動いた時なんだ」

 

 

 それで、リオは自分の未来を視た。

 麦わら帽子の少年が、リオを自分の船に誘う未来。

 

 

「それだけ?」

 

 

 拍子抜け、といったナミの声。ほかの面々も声に出さないまでも概ね同意だろうか。

 

 

「それだけ。でも、私が未来を視たってことは、それが私にとって心動く瞬間だったってことだから。私はその時に、どんな気持ちになるのかが知りたいんだ!」

 

 

 リオの視線に気付いて、ルフィが頬を膨らませたまま振り向いた。肉を狙っていると思ったんだろう、「やらねえぞ」、なんてモゴモゴ言いながら。

 

 

「だからいつかきっと、あなたに『おれの船に乗れ〜!』って誘わせてみせるね」

「もう乗ってるけどな」

「だから、その時に正式に乗るの! それまで私は『見習い』でいいんだ!」

 

 

 答えになった? とナミを振り向けば、少し呆れたような笑みが返った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 相変わらず、自称「忠犬」は受けが悪い。占いだってみんなまだ半信半疑だ。

 今もそうだ、とリオから目を離さないようにしているウソップに肩を竦めた。

 

 

「逃げ出したりしないって」

「前科があるだろ、前科が」

「悪かったって。ちょっと知り合いがさあ……」

「まあいいけどよ。ルフィは処刑台見にいくんだって?」

「うん。海賊王になりたいって言うくらいだから、憧れとかあるのかな」

 

 

 この街、ローグタウンは海賊王が生まれ、死んだ島だ。老人達の中には、その始まりと終わりを記憶している者も多いと聞く。

 

 

 どうだろうな、とあまり興味がなさそうに言ってウソップはリオの片手に持ったメモを覗き込んだ。

 まあ、海賊王処刑の後に生まれた若い世代にとっては伝説上の人みたいなものだ。現実味はあまりない。

 

 

「あとは水だけだろ?」

「うん。買ったら早く船に戻ろう」

「なんでだ? 大きい街だし、他も色々見てこうぜ」

「占いによると嵐時々モクモク、だねえ」

 

 

 なんだそりゃ、と笑うウソップに笑い返して、リオは店先に近付いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 買い出しを終えのんびりと船までの道を行く途中、巨大魚を仕入れようとしているサンジに出くわした。きっちり半分にした荷物を抱える2人を目にしてサンジの目がきりりと細まる。

 

 

「おいウソップ、レディの細腕に何持たせてんだ」

 

 

 言いながら、目にも留まらぬ速さでリオの荷を攫っていった。サンジという男にはこういう所がある。

 片手にリオの荷物、片手に巨大魚を担いだサンジは、頭の部分を器用にウソップに預けながら「腕は疲れてないかい、リオさん」とウインクを寄越した。

 

 

「荷物返してね、サンジ。早い所船に積んじゃわないと」

 

 

 それはできない、と首を振るサンジに、リオはウソップから荷を受け取った。

 

 

「あ、こらリオさん!」

「あれ、リオ?」

 

 

 後ろからの声に振り向けば、これまた大きな荷物を背負ったナミが仁王立ちしていた。

 

 

「あんた達も。ルフィとゾロ見てない? 嵐が来そうなの。早く出航しないと」

 

 

 嵐、という単語にパッとウソップがリオを振り向いた。

 

 

「ゾロならすぐそこ。ルフィは処刑台だね」

「あらホント。で、処刑台ってそこの広場の?」

 

 

 こちらを見つけて寄ってきたゾロを見ながら頷く。

 

 

「うん。今まさに処刑されそう」

 

 

 なァんでそんなことになってるんだか。

 

 

 かの海賊王と同じ場所で、同じように首を切られそうになっているルフィに首を傾げながら、リオは一足先に船に向けて走り出した。

 広場の方の心配はしない。リオの視た未来では、ルフィはこんな所で死にはしないから。

 

 

 同じく荷物を抱えてナミとウソップが着いてきているのを察して、グン、と加速する。

 背後で雷鳴が轟き、土砂降りの雨が降ってきた。

 

 

「よいしょ、と」

 

 

 勢いのままに飛び上がり、ライオンに乗った男を蹴り飛ばす。その勢いでまたジャンプして、船内に抱えてた荷を放り込んだ。何やらメリー号に向かって叫んでいたが、どうせ何も出来やしない。

 

 

「ウソップ、ナミ! 早く乗って!」

「いやライオン、ライオンいるんですけど!?」

「大丈夫だから!」

 

 

 切り返して埠頭に飛び降り、ライオンをえいっと小突いて海に落とす。しばらくは上がってこれないだろう。ライオンが泳げるかは知らないけど。というか、なんでこんなところにライオンがいるんだろう。ローグタウンって野生のライオンいるんだったかな。

 

 

「リオ、あんたやるじゃない!」

「まあね! 船はよろしく、私はルフィたちを迎えにいって来るね。ここで戦闘してもたつくと出航できないかも」

「それはおめえの『占い』か?」

「そう!」

 

 

 訝しげにこちらを見据えるウソップが、大荒れの海を振り返って頷いた。

 

 

「モクモクだったか? 気をつけろよ」

「うん」

 

 

 出航準備を始めたナミとウソップを後ろに駆け出して、島内の気配を探る。案の定、ルフィたちはそれぞれ海兵に追いつかれていた。

 

 戦闘についてはゾロの方は心配ない。ルフィの方も、謎の男が助けに入る。ただし、出航の場面はまだリオの未来視には映っていない。海軍側の心持ち一つで出来事が前後し、最悪の場合島に残った面々が合流出来ずに出航が遅れ、リヴァースマウンテンの灯台が消えてしまう可能性が残ってる。

 

 

 ローグタウンからは迅速に出航しないと、海上で軍艦から逃げながら嵐が去るのを待たなくてはならない。

 

 

「見えた」

 

 

 吹き飛ばされたサンジと建物の間に入り込むように移動し、衝突を抑えるように背中を支えた。

 

 

「な、リオさん!?」

「手離すよ!」

 

 

 次はルフィだ。モクモクした白い煙に捕まっているルフィの元へ飛び降りて、片手を前に突き出した。

 

 

ワン!(そこまでだよ)

 

 

 犬の形の手。死角からいきなり現れたリオに驚いたように振り返った海兵は、リオの姿を見て唖然とした。

 その隙にルフィを煙から引き剥がす。

 

 

「リオ! 助かった!」

「走って! もう船が離れちゃう!」

「おう! サンジ! ゾロ!」

 

 

 追いついてきたゾロと共に走り出したルフィに安心して、リオは犬真似のままの右手をゆっくりと握り込んだ。

 

 

「やあ久しぶり、スモーカー()()!」

 

 

 爪先から徐々に黒く染まっていく右手を見ながら、ようやく頭が追いついたスモーカーはリオに「てめェッ」と怒鳴り上げる。

 

 

「なんでお前が麦わらの野郎に加担してる!! よりにもよって、海軍本部()()が!!」

 

 

 途端に背中に突き刺さる3つの視線に苦笑しながら、「元、ね」と呟いた。

 

 

「武装硬…………っと。間に合ったか。というかうっわ、大物とかそういうレベルじゃなかった……。んじゃあまたね、少佐。ワン・ポイント占い、背後にはご注意を、ってね!」

 

 

 フードの男の訪れを察知して、港へ向かうルフィたちを追いかける。

 

 

「おい、詳しく聞かせてもらうからな!」

「話はいくらでも! でも、ね、ルフィ!」

「なんだ!」

 

 

 ナミとウソップが大声でこちらを呼んでいる。サンジとゾロが船に飛び乗って、ルフィがそれに続く。

 わざと立ち止まれば、サンジが慌てて飛び降りようと欄干に足をかけた。

 制するように声を張り上げる。

 

 

「それでも、ルフィは私を船に乗せるでしょ!?」

 

 

 何事、とゾロをひっ捕まえてるナミを背景に、ルフィはニッカリと口角を釣り上げた。

 

 

「ああ! おまえはおれの船の見習いだからな!」

 

 

 シュルシュルと伸びてくるゴムの両手が、リオの身体を掴んで引き上げる。

 

 

「よし、出航だァ!」

 

 

 いよいよ偉大なる航路(グランドライン)。リヴァースマウンテンを駆け降りるメリー号を幻視して、リオは鼻歌混じりに目を閉じた。

 

 

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