明日もう1話あげて、毎日投稿は終わりです。
リオはヤルキマンマングローブの枝に腰掛け、いつも通りの薄ら笑いを顔に張り付けていた。プカプカと浮かぶシャボン玉を突いて、さてと、と立ち上がる。
「オイオイなんて不様な姿だ『PX-4』! てめェら『パシフィスタ』を一人造る為に軍艦一隻分の費用を投入してんだぜ!」
そもそも、と巨大な鉞を担いだ男がリオを振り返った。
「なんでわざわざ壊れるまで待ってやらなきゃならないんだ? パンク野郎に何て伝えりゃいいんだよ」
「試作品なんじゃないの? これ。そもそも壊されるわけないってタカ括ってたのはそっちでしょうに」
責任逃れをして、リオは首を振った。眼下では海軍科学部の作り上げた人造人間、パシフィスタの一体が無残にも停止している。その周りには、ボロボロになった麦わらの一味が各自座り込んで息を整えていた。
戦闘の様子は眺めていたが、パシフィスタ一体なら一味でかかれば何とか倒せる、というのが今の一味の実力なのだろう。軽く枝を蹴って、戦桃丸と共に地上に降りる。
「リオ!?」
「というか、うわ〜〜またいるぞ!! 七武海! もしかしてあれが本物か!?」
「あ、でもリオが一緒にいるから味方なのか?」
振り返って、一緒にマングローブの上から落ちてきたくまを見上げた。相変わらず感情は読めないが、そもそも、もうそんなもの無くなったのかもしれない。
小首を傾げて、リオはルフィたちに向き直った。
「いや、お父さん紹介するって言ったでしょ?」
「え、その鉞か!?」
「人を武器の名前で呼ぶな!」
「戦桃丸が!? まさか、違うよォ」
噛み付いた戦桃丸の代わりに否定する。この人、そんなに老けて見えるんだろうか。リオとは8つ違いなので、大体ルフィとリオの年齢差と同じくらいだ。
「じゃあもしかしてその七武海のそっくりさん……?」
「いやこれはそっくりさんじゃ……いやいや、違うから。あれェ、呼んだんだけどな。戦桃丸、ちゃんと場所伝えたよね? 何でこないの?」
「知らん」
おかしいなァ、と20番代のGRの方を見る。信号弾も打ち上がったはず……と思っていたら、ピカリとマングローブの奥が光った。
「あ、来た来た。遅い……し、またスーツそれェ?」
能力で移動してきた養父がリオの言葉に眉を顰める。毎度毎度会うたびにスーツをダサいと評しているからだ。リオはスーツと言ったら無地の白、派手な柄物を好むこの人とは趣味が合ってない。
「ちょっとォ、毎日同じスーツ着てるみたいに言わないで欲しいねェ〜〜……」
「着てるじゃ〜ん」
ヒラリと『正義』のコートが舞う。
その顔を知るロビンと、そしてリオが描いた似顔絵──正確にはウソップによる手直し版──を見たゾロ、サンジ、ウソップの顔が青ざめていった。
「大将、黄猿……!」
「え!? じゃあリオの父親って、まさか!」
「そうそう。ほら挨拶して〜」
パンパンと手を叩いたリオを無視して、養父は小さな包みを投げてよこした。
「まァ視えてると思うけど一応言っておくよォ。メルリオール、お前を遊ばせておく余裕は今の海軍にはないんだよねェ〜〜」
「世知辛いねェ。そうだお父さん、ドレークのやつ虐めたでしょ、可哀想に」
「そういうことは本気で可哀想だと思ってから口にしなよォ」
「たしかに〜」
強面なので案外海賊の似合っている同僚のことを、メルリオールは任務かな、と思いながらも静観していた。SWORD絡みだとは思うが、詳細はよく知らない。
包みを受け取って、ガサゴソと中を漁る。メルリオールが普段使いしていた拳銃と特注の軍帽だ。コートは代わりを今も手に持ってるし、こんなものだろう。
緩く結っていた髪を解き、赤い石のついた髪ゴムを左手首に通しながら頭を振る。地毛の白金と染めた黄色が混じった髪は、背中に届くまで伸びていた。マントを羽織り、拳銃を腰に差し、軍帽を頭に載せる。クマの帽子は手放しておいて良かった。流石に帽子二重は見栄えが悪い。
「リオ……?」
「それじゃあ挨拶も終わったしィ」
右手で銃を引き抜いて、クルクルと回す。ピタリと止まるのと、標的を撃ち抜くのとに時間差は無かった。
「ウグッ!」
「ゾロ!」
「おいリオ、何してんだ!」
狙ったのはゾロの脇腹。銃口の先は心臓を向いていたけど、反射で避けられた。というのも視えていたので、結果オーライだ。
「ゾロの傷が浅いのは
「手前ェ、いつから……」
答えずに、再度銃で自分の肩口スレスレを撃った。能力を使おうとしていたロビンが、慌てて生やそうとしていた手を引っ込める。
「海軍に戻る気は無いっていうの、嘘だったのかしら」
「嘘じゃないよ。思い返してごらん、そもそも私、自分から
軍帽の鍔をひきながらメルリオールは口角を上げた。多分ここは笑うところではないと知っていて、それしか表情を知らないから。
「まァ除隊願いを20は書いた記憶があるから、こういうことさえなければ元海兵と言って差し支えなかったんだけど。残念ながら、君たちに会う前も、会ってからも。……私はずっと海兵だよ。さて、改めて」
ばさりとマントを揺らし、軍帽の陰から澱んだブラウンの瞳を鋭く吊り上げる。ギチギチと音が鳴るほど銃のグリップを握り締め、溢れ出る憤怒だけで声を張り上げて。
「私は海軍本部
「なんてね?」
ペロリと舌を出せば、メルリオールが纏っていた怒気は霧散した。今のメルリオールが何かしらの感情に突き動かされて行動するということはない。
真に迫っていたのはただ、随分と慣れて、この体に馴染みきった感情であるというだけ。それだけであって、メルリオールを動かす源はこれじゃ無い。
「どうしてそこでホッと肩を落とすかな? だから死ぬんだよ、ルーキーってのは。君たちが全員揃ってこの島から出られないのは、ずっと前から私の『
もっと、単純で。
「
もっと、強大で。
「なればこそ、ここで忠犬として君たちを阻まないとね」
もっと、残酷なものにしか従わない。
ずっと言ってきたことだ。メルリオールは、忠犬である。
こうなると知っていて『悪趣味だ』と称したローは慧眼だ。まァそもそも、と口角を上げる。
「覇気も使えない今の状態じゃあ、新世界はまだ早すぎたと思うけどね」
「おい
「あ、いいよォ」
戦桃丸に頷いて、メルリオールはひょい、と右にずれた。横をルフィの拳が通過する。
伸びて無防備な腕を撃ち抜こうとして、カチ、と空虚な音と共に右手の銃は沈黙した。
「ねェ〜〜お父さん〜〜。換えの弾入ってないんだけどォ?」
「オー、換えの弾……」
「………………ガラクタじゃん」
まァ仕方ないと切り替えて、覇気を纏った手でルフィの腕を軽く弾いた。触れるだけで浸透する覇気は、脆弱な体内を異物として駆け回る。
「痛ェ!?」
「あー、とりあえず行け、『PX-1』!」
同時に、呆れ顔の戦桃丸が後ろに控えていたくまに指示を出した。軽く言っているが、先程一味総がかりで倒したパシフィスタの同型だ。今の彼らには手に余る。加えて、大将黄猿の存在。
「お父さんは少し下がってて」
「うん?」
言いながら、懐の小刀を抜いた。覇気を纏い、一気に駆け抜ける。
「武装硬化、
「一刀流 居合……」
怪我を押してゾロが立ち上がった。他に戦力になりそうなルフィとサンジは、戦桃丸の命令で動き出したパシフィスタのビームを食らっている。
「
「
力の籠ってない、覇気も載っていないヘロヘロの刀と、メルリオールが下から掬い上げるように放った小刀がぶつかる。とはいえ、かち合ったのは一瞬だった。
「ッ!?」
素早く弾いて蹴り飛ばし、追うように小刀を投げる。左肩に突き刺さり、ゾロは呻いて背中を投げ出した。
「ゾロ!」
追撃はせず、一歩後ろに下がる。
目の前を、ナミの作った雷霆が通過した。
こっちは怪我人含めて3人か。メルリオールの実力を知らないからか、それともまさか話し合いの余地があると思っているんだろうか。特に目的もなく新しい小刀を取り出せば、ロビンの咲かせた手がゾロを逃がそうと転がし始めた。
「リオ、あなたは……」
「なにか、疑問でもあるの? 海兵が海賊船に乗ってたこと? 乗る必要があったから乗ってただけだけど、何処か疑問に思うところがあったかな」
首を傾げて、開かれる前の口が発するだろう言葉を読んで、戯れにナイフの刃先を自分に向けた。
状況を可視化するように。
「なるほど、海軍との内通を疑ってる? だとしたら君たちがシャボンディまで来れるわけないよね。ロングリングロングランドの青雉も、ウォーターセブンのCP9も、スリラーバークのくまも、もちろん今回のお父さんも。私が呼んだんじゃないし、行動を知らせてもない」
強いて言うなら養父への定期連絡と、スリラーバークでの元帥への通話だろうか。それにしたってこちらが一方的に要求を捲し立てるだけで、彼らはメルリオールの行動や要求に口を挟むことは無かった。メルリオールも一味に不利になる情報は一切漏らしていない。
「だから、本当に海兵としては動いてないんだ、さっきまでは」
「なら、どうして?」
「さっき言ったでしょ。私は忠犬だ。ここで壊滅する一味が視えたから、ちゃんとそれが成されるように行動してる。それだけ」
グ、と唇を噛み締めたロビンは「まさか」と言いながら、今までのメルリオールの行動を思い返しているようだった。
「まさかリオ、あなた……
「あ、うん」
「その先に何か重要な事があるからでも、その結果誰かが救えるからでもなく!」
「うん」
誰も得をしなくても。誰も、生き残らないとしても。
どうせ、未来は変わらないから。
だから言ってるでしょ、と意味が分かってきて顔が蒼白になったナミとロビンに頷く。
例えばドラム王国で、「島内にいる私の姿は視えない」と言って上陸しなかったこと。
例えばアラバスタで、クロコダイルの罠にかかると承知の上で何も警告しなかったこと。一人で戦えば勝てるはずなのに手を出さなかったこと。
例えば空島で、無策でエネルに突っ込み早々にリタイアしたこと。
例えばウォーターセブンで、「最良の未来」と嘲笑うくせに全てを静観したこと。それなのに何故か無関係の海賊船を沈めたこと。
スリラーバークで「行かなかった未来は視えない」と上陸を薦めたこと。「全員揃ってシャボンディに到達する」ために障害となる事象の最小限を排除し、それ以外の行動をしなかったこと。
そしてここ、シャボンディで今彼らに刃を向けていること。
「私は忠犬。視えた未来に従う『未来』の
この島で、と地面を指差した。続けて自分に向けていた小刀を雑に動かし、一筋の赤い線を首に刻む。まるで、首枷のように。
ここは世界有数の観光地にして奴隷島だ。島を歩けば小一時間と経たず、奴隷とは何かを目の当たりにすることが出来る。人格も人権もその手に残らず、擦り潰された心を抱えて消え行く者。
何一つ自分の意思では行えない、隷属者。
「まァ、私は彼らと違って自分で望んでやってるから、話は違うんだけどさ」
「よく分かったわ」
「ん?」
ロビンの言葉に、メルリオールは小刀を持ち直した。その唇が何を紡ぐか知っていて、それに何を思うでもない。
既にメルリオールのそこは、焼け爛れた焦土になっているからだ。
「あなた、一度折れてしまったのね。理想を諦めて、自暴自棄になって、そして自分が最も惨めになる道を選択した」
恐らく。
侮蔑か同情か、そのような感情だった。よく視た記憶のあるものだ。メルリオールの人生において、この類の視線は飽きるほど浴びてきた。
「……昔の私なら、きっと怒るところだったんだろうなァ」
その度に噛みついていた過去を思い返しながら、メルリオールはへラリと笑った。
ふぅ、と息を吐いて小刀を振り上げる。同時に『剃』を使ってロビンとナミが庇う後ろ、未だ立ち上がれていないゾロの目の前へ。
「まずいっ!」
「やめてリオ!」
「……お前、それは……どういう感情だ?」
「別に? 何も」
「ゾロ!!」
苦痛に歪んだゾロの顔めがけ、小刀を振り下ろした。
お待たせしました。
大きく見るとシャボンディ編でようやく起承転結の起くらいのつもりです。タラタラやっていて申し訳ない。
感情移入できる主人公としては書いてなかったつもりなんですが、違和感への回答になっていれば幸いです。