未来が視える元海兵が麦わらの一味について行く話   作:テロン

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ノー

 

 

 

 

「っと」

 

 

 眩しい、と目を眇める。メルリオールの小刀を蹴飛ばした乱入者へ、養父の能力が使われた証だ。

 白髪の老人が、老体に不釣り合いな覇気を漲らせながらメルリオールを睨みつけている。ジンと痺れる片手を振って、メルリオールは冥王の足元のゾロを一瞥した。寸前で阻まれた為、その顔に傷は無い。こうなると知ってはいたけれど。

 

 

「おっさん!」

「レイリーさん!?」

「んじゃあよろしく、お父さん」

 

 

 場違いだ。素早く退いて、メルリオールはパシフィスタの方へ駆け出した。冥王が出張って来るのは知っていた。あれは大将に任せてしまおう。

 

 

「戦桃丸、パシフィスタに追加命令を」

「あ? なんだ?」

「倒す順番だよ、順番。こっちにかかりきりじゃ狂うでしょ」

 

 

 面倒くさそうにメルリオールを向いた戦桃丸は、ブン、と鉞を振り抜いてフランキーを吹き飛ばすと、「狂ってんのはお前の方だろ、メルリオール」と呟いた。

 

 

「潜入捜査でもなく海賊になりやがって。だから狂犬なんて言われるんだ。まァ、『忠犬』の手前の方がよっぽど()()()()がな」

「楽しかったよ、結構」

 

 

 言いながら、こちらに殴りかかってくるルフィの拳を弾き飛ばした。

 

 

「なんだ、さっきからゴムなのに痛ェ!」

「……君は本当に、感情豊かだねェ」

 

 

 一年も代わり映えのしない田舎に引っ込んでいたせいか、彼らのもたらす感情は鮮烈だった。『楽しかった』という言葉が一番当てはまるだろう。

 今のメルリオールには分からないけれど、きっと。

 

 

「リオ! お前船に乗るのはどうしたんだ! 嘘ついたのか!?」

「嘘じゃないよ! 本気かどうかくらい君なら分かるでしょう。残念ながら君たちの旅路はここで終わるけど、ルフィ、また私を誘ってね」

 

 

 それに、とメルリオールはルフィを思い切り殴り飛ばしながら囁いた。

 

 

「私が何もしなくても、君たちじゃパシフィスタと大将には勝てなかったでしょ?」

 

 

 未来というのはそういうものだ。メルリオールは必然の事実にそっと手を添え、順番が入れ違わないように見守っているだけ。彼らはメルリオールが裏切ったから壊滅するのではなく、ただ己の弱さ故に道を断たれるのだ。

 

 

 まず初めに、と右手で指し示す。

 

 

「ゾロからだ。パシフィスタ」

 

 

 カクリ、と首を傾けてウソップの狙撃を躱す。足を動かすまでもない。パシフィスタに向いたサンジとチョッパーの攻撃を、受け止めてやる必要もない。

 

 

「待て、『PX-1』」

 

 

 そうして放置していれば、権限を持たぬメルリオールの指示はあっなけなく妨げられた。

 3人目だ。同じ顔、姿。パシフィスタの行動を無理矢理止める乱入者。

 

 

「え〜〜また出たァ〜〜」

「どうなってんだよもうイヤだ〜〜〜!! 何人いるんだよ一体こいつら!!」

 

 

 あ、こっちが本物か。気にしてなかった。

 養父と戦桃丸の気配が僅かに強張る。彼らの身内でありながら、メルリオールだけがヘラヘラと笑っていた。

 

 

「旅行行くなら何処へ行きたい……?」

 

 

 ピュウ、と口笛を吹いてメルリオールはルフィとゾロの直線を開ける。特等席だ。最後までよく見えるように。

 手を翳したくまの前で、もにゅん、と。ゾロの姿が消えた。

 

 

「……あれ!?」

「ゾロ……!」

「ゾロ!」

 

 

 くまの能力で何処かに飛ばされたのだろう。人が住めないような島や海上でなければ生きてるんだが、そんな事は彼らに分からない。

 

 

「ゾロが……消えた!」

「てめェ、ゾロに一体何しやがったァ! 今……たった今目の前にいたのに!!」

 

 

「本当に、想像出来なかったの?」

 

 

 メルリオールは純粋な疑問として、呆然としているルフィを振り返った。

 

 

「だって、君は気付いてたよね」

 

 

 メルリオールは一度も一味に覇気のことを伝えなかったが、大将との実力差は骨身に染みているはずだ。大してパワーアップもしていないのに世界政府に喧嘩を売り、天竜人を殴り飛ばし。

 特にルフィは、メルリオールが一度も本気で戦っていないことも、()()()()()()()()()()()()()()でも、()()()()()()()()()()()ことも、海軍を辞めていないことも、気付いていたのに。

 

 

 メルリオールは全く嘘をついたつもりがない。初めに仲間になりたいわけじゃないことは伝えた。さっき言った通り、海軍を辞めたなんて言ってない。元准将だと言い、彼に直接ではなくとも、少将と呼べと強要した。ルフィだってそれを聞いていて、以降はリオを海軍少将として扱っている。

 

 

『リオは少将だぞ』

 

 

『リオって海軍なのに賞金つくのか?』

 

 

 彼は船員のことはよく見ていた。見られていることを承知でこちらもその通りに行動していた。メルリオールがメリー号の葬式を無感情に眺めていても何も言わなかったし、()()()()()()()()()()()()()ことも気付いていたし、彼らの冒険にあまり同行しないことに目くじらを立てなかった。そうして、何度願われようとメルリオールを仲間に誘うことはなかった。

 今だって、海兵という身分を明かしたこと自体には驚いてない。知っていたからだ。

 

 

 彼にとってメルリオールは、海兵の肩書きを手放さないまま見習い海賊と嘯く不穏分子だ。その時がくれば手を切るだけの部外者。益はなく、未来の害だけは確定している。それなのに何故同行を許可したのか、その理由は理解出来ないが、メルリオールにとってはどうでもいいことだ。

 

 

 メルリオールは、未来を実現するためなら海賊の肩書きだって気にしない。いつだって本気だ。本気で彼に誘われるつもりだし、本気で船に乗るつもりで誘われ待ちをしてきた。

 

 

 けれど。メルリオールが視た未来は、彼に誘われるところまでだ。

 

 

 メルリオールはルフィに()()()()()()()()()ことだけを目的に行動していて、その答えは初めから決まっている。

 

 

()()()、麦わらのルフィ」

 

 

 だから、有り得ない。海軍上層部の誰もがこの事態を予期しなかったように、メルリオールが海賊に転身することは有り得ない。

 

 

 すべて、ノーだ。もう既に現在は取り返しがつかない。活路は既にない。一味はここで壊滅する。誰一人として穏便にこの島を脱出することはない。

 

 

 メルリオールは、ルフィが何かを言おうとする前に遮って口を開いた。

 

 

「ああ、答えなくていいよ。君がなんて答えるのかも、その次の行動も、その後の言葉も、全部知っているから。君たちは本当に仲間想いだね。おかげで全滅するまでの一挙手一投足がよく分かる…………ああ。その表情も何度か視た。君が今、どんな感情なのかもね、ルフィ」

 

 

 メルリオールを一度見たルフィは、大きく息を吸って「走れェ!!」と叫んだ。

 

 

「全員ここから逃げろ! 後は助かってから考えろォ!!」

 

 

 よいこらせ、とメルリオールはその場に腰掛ける。用は済んだ。仕事は終わりだ。

 

 

「あ、おいメルリオール! 敵前で何してんだ!」

「何もなんも、これで終わりでしょ」

 

 

 なおも暴れようとするパシフィスタをくまが消し飛ばした。

 戦桃丸はキレ散らかしているが、それより養父の怪訝そうな視線がメルリオールに突き刺さっている。養父もメルリオールも任務に対するスタンスは従順で通っているが、後でまとめてお叱りを受けるだろう。

 

 

 あとはもう、くまの流れ作業だ。ブルック、ウソップ、サンジ。フランキー、ナミ、チョッパー、ロビンも。途中、くまは養父と戦闘中の冥王に何かを囁いていた。

 メルリオールは一味のみんながいなくなってようやく立ち上がり、トントン、と跳ぶように跳ねて、ルフィの背後に立つ。

 

 

「ああ、すごい渦巻いているのが分かる。複雑だねェ」

 

 

 悲しみか、絶望か、怒りか。過去の記憶に従わないと、メルリオールには感情の分類が出来ない。

 命よりも大切なものを失う時の感情、と言葉で言えば簡単だが、型に嵌ったものでもない。

 

 

「これ、今はどういう気持ちなのかな?」

 

 

 返事はなかった。ダメか、完全に思考が止まってる。

 

 

「おれは……」

「うん?」

「何だ、おれは……仲間一人も……救えない……!」

「ルフィ」

 

 

 黙って見送れば良かったのに、メルリオールはその言葉を受けてルフィの横に膝をついた。

 漫然と、記憶を探る。近い感情を、メルリオールは覚えたことがあるはずだ。どんな感情かは分からずとも、その結果が何を齎したかは知っている。

 

 

 軍帽を深く被り、『()()()()()()()()真っ白なマントを羽織り、心のない機械のようになって、ただ自分のチカラに振り回されている。この場で一番不様なのは、目の前で仲間を全て失った船長でも、機械に改造された元国王でもなく、メルリオール自身であると、リオは誰よりもよく知っていた。

 

 

 だから、彼とリオは違う。ルフィにはまだ仕事がある。定められた通り、定められた場所で、道化のように踊るのだ。

 

 

「ルフィ。残念ながら君の戦いはここでは終わらない。また立ち上がって、戦うんだよ。例え、何処にも辿り着かなかったとしても。…………君の道先に()()()

 

 

 言って立ち上がる。くまはもう、その手を振り上げていた。

 

 

「まァ……神頼みしたところで、私の未来視(カミサマ)は君の敗北を伝えているんだけど」

 

 

 幸運を(お前、負けるぞ)。確定した未来に抗う方法はない。精々、己の信じる神とやらに幸運を祈ればいい。

 誰がどれほど足掻こうと、滞りなく未来を進めるのがメルリオールの正義だから。

 

 

 もにゅん、とルフィの姿が見えなくなった。見渡せば、冥王も養父も、もう剣を引いている。

 

 

「おめェ一体どういうつもりだい…………くまァ。これは大問題だよォ」

「…………」

「別にいいでしょ。無力化は出来たんだし」

 

 

 後は養父や戦桃丸、メルリオールの3名が何と報告をあげるか次第だ。

 メルリオールはくまを見上げて口角を上げる。何をしようが、この男がまだバーソロミュー・くまである限り、ボルサリーノの娘であるメルリオールに手が出されることは無い。

 

 

「協力感謝する、くま。私の占い通りに踊ってくれてどうも。冥王には先に礼をしたからいいとして、そうだな、娘さんの命の保証とか要る? あ、要らない。そうだよねェ、私誰かの命とか保証出来ないもん」

 

 

 恐らくメルリオールの言葉で全てを察して、冥王は瞬きのうちに姿をくらませた。

 

 

「あ、私も一味として飛ばす?」

「…………この状況を笑って見ていた狂犬を……。海賊として扱う義理もない」

「ふーん、それもそっか」

 

 

 それ以上くまには声をかけず、メルリオールは近付いてきた養父の方に向き直った。その手は変わらず、能力で作った光の剣を握っている。

 

 

「相変わらずだねェ……メルリオール」

「……白ひげとの戦争で退役兵を駆り出さないといけないくらい手が足りないんでしょ」

「君は今でもわっしの部下だし、海軍本部にはメルリオール少将のデスクがあるよォ。書類も溜まって困ってる…………」

「……分かってるよ。ちゃんと仕事もしたでしょ」

「したとは言えないね……」

 

 

 養父は戦闘跡を見渡して、苛立ったように首を振った。無造作に、剣が喉元に添えられる。

 

 

「分かってると思うけどねェ。白ひげとの大戦争、勝手をする内患を抱えるわけにはいかんのよ。返答次第ではお前を始末しないといけないねェ」

「戦争結果、でしょ。聞きたいなら回りくどいことしないで」

 

 

 消せ、と主張する様に、突きつけられた剣の表面を撫ぜた。

 

 

「海軍だ。海軍が勝つよ。だから、その為ならなんでもしてあげる」

 

 

 うっそりと笑う。それしか、外界に自分の中身を伝える方法が分からない。

 

 

 メルリオールはただ、視えたことを視えたままに行動するだけだ。未来に嘘はつかないし、そのために全力を尽くす。

 軍帽の鍔を引き、メルリオールは剣が消えるのを待たずに歩き出した。

 

 






次話は木曜予定ですが、前後するかもしれません。
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