未来が視える元海兵が麦わらの一味について行く話   作:テロン

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取り返しのつかないもの

 

 

 

 

 リオという少女は、実に歪だった。

 

 

「まちがほろびます。しっているひとのなかで、いきのこるのはわたしだけ」

 

 

 燃え盛る街から、齢4つ程度の幼子が躊躇いもなく武装した海兵へ歩み寄ってくる。絶句する黄猿の元までやって来て、「あなたについていくのがいちばんよくなりそう」と笑いながら見上げるのだ。

 その後、子供の力の事を知り、街が海賊に滅ぼされると知りながら何も行動を起こさなかったと聞いた。幼子には酷だろうが、逃げもしなかったと聞いたときは、とても正気とは思えなかった。

 

 

 それは、自分にメルリオールという名をつけ、正義の味方として振る舞い出してからも変わらない。

 

 

 未来が視えるという性質に振り回され、今度は『すべてを救う』なんて大それたことに取り憑かれた。

 

 

 事実、メルリオールの未来視は視える範囲に偏りがあれども正確で、因果をすっ飛ばし、事実だけを的中させた。滅ぶ街、国、殺される人間。何もかもが事実その通りになった。

 メルリオールは、誰にも助力を求めなかった。ただ視えたものの為に、なによりもまず駆け出していく。新世界の海で漂流する彼女を拾い上げたのは一度や二度ではきかない。

 

 

 誰もが気付いていた。誰もが、貴重な未来視の能力者を自ら潰すわけにはいかず、静観していた。

 

 

 覇気が意志の力だと言うのであれば。

 

 

 メルリオールという少女はその覇気の強大さに違わず、そしてその能力にはそぐわず。

 あまりにも、感情豊かな人間だった。

 

 

 

 

 

 

 

「お呼びですかァ、センゴクさん。少将、()()()メルリオール。ただいま復隊いたしました」

 

 

 呆、と敬礼をしたメルリオールに、一度だけ視線を向けたセンゴクは、「メルリオール少将は極秘任務の遂行中だった。そうだな?」と書類に目を向けたまま言った。

 

 

「あれ、ツッコミ待ちだったんだけどなァ」

「メルリオール、二度も言わせるな」

「はァい。メルリオール少将、ただいま任務を終え帰参いたしましたァ」

「よろしい。黄猿から報告は受けている。貴様は前と同じく、黄猿の指示に従って準備を進めろ。やる事は分かっているな?」

わおーん(はァい)

 

 

 のんびりと答えて、背を向ける。元帥室から去ろうとするメルリオールに、溜息混じりの声がかかった。

 

 

「一応聞くが、何処へ行こうとしている?」

「インペルダウンと、あとシャボンディでェす」

「リオ!!」

「メルリオールですよ」

 

 

 私は、メルリオールです。

 振り返らずにそう言って、メルリオールは足早にそのフロアを後にした。一度自分のデスクに寄り、養父の顔を見ずに「行ってきまァす」と声をかける。

 

 

「帰りは?」

「明日ァ」

「軍艦は使うんじゃないよォ……」

「はァい」

 

 

 ズンズン進んで、今度は暇そうにしているクザンを蹴飛ばした。

 

 

「オジサーン、船出して!」

「ええー……メルちゃんこの辺なら泳いで渡れるでしょうに」

「インペルダウンに行ってくるから、門開けて」

「あァ……メルちゃん仲良かったもんねェ」

「いいから早く!」

 

 

 はいはい、とクザンが従うのはメルリオールへの義理でもなんでもなく、この海軍本部でメルリオールが腫れ物だからだ。意にそわないと爆発する爆弾。もう既に一度爆発済みの、だけど。メルリオールは自身の扱われ方については興味がないので、突ついたことはない。

 

 

 大将の号令で海門を開き、インペルダウンへの海流に乗る。船は移動用のものだ。帰りは護送用の軍艦に乗せてもらおう。なんにせよ、召集命令により七武海が集まりつつある海軍本部で長居をするつもりはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「あーあ、やつれちまって」

 

 

 制止も付き添いも、何もかもを『センゴク元帥』と、ついでに『大将青雉』の名で突破したメルリオールは、インペルダウンの地下深く、『大罪人ポートガス・エース』の収監された牢の前まで来ていた。聞かれて困る話をするつもりは無いが、このタイミングであれば声の聞こえる範囲に第三者はいない。その隙を作るくらいの権限はある。

 

 

「メルか……」

 

 

 応える言葉は弱々しかった。それもそのはず、彼は公開処刑を執り行うその時まで死ななければいいだけなので、最低限度の生命維持しか許されていないのだ。

 

 

「なんだ。髪……切っちまったのか。折角、伸ばしてくれたのに」

 

 

 エースの顔を視て戦場の様子を観察し、メルリオールはすぐさま踵を返した。もう、用はない。

 

 

「おいおい、冷てェじゃねェか……」

「……何?」

 

 

 振り返ったのは、義理だ。そもそも彼は、感情の無い『忠犬』メルリオールしか知らない。従って、メルリオールも彼への情は無い。

 ただ……。

 

 

 そう、ただ、アラバスタで心無いメルリオールの言葉を聞くためだけに振り返った彼の行動に対しての、義理を果たしただけだ。

 

 

「いやァ……な。どうせ最期なら、礼を、と思ってなァ……」

「礼?」

「ああ。なァ……ルフィは、元気か。まァお前が戻っちまった以上、元気じゃあねェかもしれねェが……」

「…………私が答えるとでも?」

「はは、そうか。楽しかったか? メル。あいつの船は。……面白ェやつだろ。振り回されて、突拍子もなくて……」

「さァ。少なくとも、私にそんな情動がない事は知ってるだろ」

 

 

 言いながら、メルリオールはカツリ、と一歩鉄格子へ近付いた。

 膝を折り、顔の高さを揃える。前後して、エースはゲホゲホと噎せて苦しそうな表情を見せた。ろくに水も与えられていないのに、長く喋るからだ。

 その動作に触発されたようにまた笑いながら噎せ、黙ったままのメルリオールの前で数分はそれを繰り返した。

 

 

「……満足か?」

「ふ、あー…………。うん、笑った笑った。なァメル、おれは本当に、お前に感謝してるんだぜ」

「……それで? 関係のない話を続けて、私を引き止めて何がしたい?」

「関係なくは……ねェだろ。おれの礼の話だ」

 

 

 顔を上げてメルリオールのことをジッと見つめたエースは、アラバスタで会った時のようにくしゃりと笑って、「お前、昔親父におれの事伝えてくれたんだろ」と掠れた声で言った。

 

 

「……昔? まさかお前、白ひげに『黒髪でソバカスのガキは安易に殺すな』と伝えた事を言ってるのか?」

「はは、ガキねェ」

「ありゃ……そもそも、私が伝えなくとも白ひげはお前の事を気に入ったし、その後の事について私は関係ないだろ」

「そうだとしてもだ。おれは……何度もお前の話を聞かされた。酒の席でも、戦闘中も、お前が帰った後も。正義のコートぞろびかせて、下手な大砲撃って、目ェギラギラさせてどこまでも追ってくるガキの話だ」

「…………」

「見てみてェなァって、思ったもんだ。なァメル、メルリオール」

 

 

 はは、と笑ったエースは、ガシャン、と一度鎖を揺らして力なく息を吐いた。

 

 

「涙ひとつも見せやしねェ」

「……私は警告したはずだ」

「ああ…………アラバスタでか。そうだなァ……負けるぞと、お前は言った。聞かなかったのはおれだ」

 

 

 幸運を、とかける言葉はメルリオールにとって、旅の無事を祈る言葉ではないと彼は知っていた。

 

 

 だから、と続く。

 

 

「お前、おれが死んだ後でもいい。ルフィの……あいつの船に戻れよ。今度は……ちゃんと、さ。楽しそうだったぜ」

 

 

 だから、とメルリオールも返した。

 

 

「そういうの、分かんないんだってば」

「分かるさ」

 

 

 分かるよ、お前には。根拠のないそんな言葉を最後に、メルリオールは今度こそその場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「撃ェ〜〜!」

「無理です准将!! 波が高すぎます!」

「いいから!!」

 

 

 新しくつけられたばかりの部下に歯を向いて、メルリオールは軍刀を振りかざした。

 

 

「もー! なんで当たんねェんだよ! ちゃんと狙ってんのか!?」

「だから言ってるじゃないですか!! 狙うどころじゃないんですって!!」

「ちょっと貸せ!! うわァ、当たんねェ!!」

「ね、だから帰りましょう??」

 

 

 絶叫した部下は、何をしようが命令違反になる状況に泡を吹きながら「相手は四皇です! 交戦許可は出ておりません!!」と叫んだ。

 最低限の人員で組まれたメルリオールの部隊は、軍艦を動かすのもやっとな人数だ。

 

 

「もういい、お前らは尻尾まくって逃げてろ! 私一人で行く!」

「准将!? 危険です、准将ォ!!!」

 

 

 やっと見つけた四皇の船だ。逃すわけにはいかないと大波に揺れる軍艦から飛び降りて、ぽちゃんと海に落ちたメルリオールはあっという間に波間に飲まれていった。

 

 

「准将〜〜!」

 

 

 メルリオール15歳。初出撃の記憶だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「げほ」

 

 

 風を感じて、メルリオールは目を開いた。ちょうど顔のあたりに影がかかっていて、自分が横になっている事が分かる。

 ボヤけた視界に何度か瞬いて、影になっていたのは誰かが覗き込んでいたからだと気が付いた。

 

 

「……ん?」

「あ、親父、気付いたよい」

 

 

 特徴的な話し方と、オレンジの髪。何処かで見たような、と思う間も無く目の前にズイ、と何かが差し出された。何か、というか、電伝虫だ。メルリオールの持っていたもので間違いない。

 

 

「さっきからずっと鳴ってたよい」

 

 

 うるさくて敵わない、といった言い草に、メルリオールは咄嗟に受け取って受話器を上げた。

 

 

 電伝虫がぐわりと大きく口を開ける。

 

 

『こんの、馬鹿もんがァァァ!!』

「わ」

 

 

 上官があらん限りの音量で怒鳴りつけて来た。

 

 

『目ェ離した隙に勝手に艦出しおって、あげく鼠一匹捕らえられんとはどういう事じゃ! もう一辺イチから鍛え直しちゃるけェ、首洗って待っとれ!』

 

 

 それからくどくどと、軍艦一隻動かすのにどれだけのコストがかかるのかということ、経験のない新米が自己判断で行動する事の愚かさ、実力も無いのに新世界で海賊を捕らえようとするとはなんのかんの。

 

 

 いい加減メルリオールも自身の状況が分かってきて、顔があげられなくなったあたりで、「まァまァ」と上官の後ろから別の声が入った。電伝虫の顔がでろっとダラける。もう少しダラけきるとクザンになるが、これは養父だろう。

 

 

『わっしが拾いに行くから、とりあえずそこで待ってなさいな。サカズキも……まァ……あー……』

 

 

 特に庇う言葉も思いつかなかったのか、養父はなあなあにして通話を切った。さて、残されたのはメルリオールと、辺りを取り囲む海賊たちである。

 

 

 小さく息を吸って、メルリオールは顔を上げた。やはり、目の前の男は白ひげの右腕、不死鳥マルコである。

 恐る恐る周囲を見渡せば、イゾウ、ビスタ、ジョズ……錚々たる顔ぶれだ。

 

 

バチン、バチンと未来がどんどん移り変わっていく。

 

 

 そしてその中心、メルリオールの正面には、探していた男、白ひげが酒瓶を片手にゆったりと腰かけていた。

 

 

「グララララ、たいそうな連中が出てきやがったな、小娘」

 

 

 四皇、白ひげ。これが、メルリオールと彼の初対面だった。

 

 

 

 

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