未来が視える元海兵が麦わらの一味について行く話   作:テロン

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話の途中だがデート回だ!



どんな宝石よりも美しいもの

 

 

 

 

 

「おう、探したぜ」

「…………」

 

 

 柔らかな陽射しの差し込む昼下がり。テラス席でコーヒーを前にしていたメルリオールは、平然と前の席に腰かけた青年を一瞥し、無言で電伝虫の受話器を握りしめた。

 

 

『メルリオール? ……何か聞こえた気がするけどねェ』

「……さァね。じゃあ、伝えた通りに。余裕はあるはずだから」

『大人しくしてるんだよォ……。迎えは明日の……』

「正午でしょ、分かってる。それじゃあ」

 

 

 言って電伝虫を切り、ニンマリとそれを待っていた男に向き直った。腹でも減ったのか、メルリオールのコーヒーを顔をしかめながら飲んでいる。

 

 

「白ひげの船はまだ海上だろ? エース」

「ああ。狂犬メルリオールともなりゃ、そろそろ待ち構えていると踏んでな、先に来た。視えなかったか? しっかし、よくこんなん飲めるな…………おいねーちゃん、メニューくれ!」

 

 

 店の奥に声をかけて、エースは「今の黄猿か?」と言いながら物珍しそうに店を見渡す。

 ここは新世界のとある島。比較的治安が良く、海賊にも海軍にも寛容な夏島だ。メルリオールは養父の指示で数日前からこの島での視察を請け負っていた。

 白ひげたちが寄港することは視えていたが、特に問題を起こす様子もないと思えばこれだ。差し出されたメニューにあれもこれもと指差すエース。どうせ金は持ってないんだろう。

 

 

「そう。何をしに来たのか知らないけど、分かったらさっさと……あァ?」

 

 

 見聞色の方に引っかかった言葉に、またニヤニヤし始めたエースを睨みつける。

 

 

「な、いいだろ?」

「任務中だ」

「優雅にカフェでコーヒー飲んでたじゃねェか。なんだ、嫌なのか?」

「あ? ……私にそんな機微はないって知ってるだろ」

「じゃあいいじゃねェか」

 

 

 あっけらかんと言って、届いた料理に手を伸ばす。「カトラリーをもう一式」と店員に声をかけたメルリオールは、エースの食べかけの皿を一つ引いて、フォークにパスタを絡めた。

 

 

「あ、それおれが頼んだやつ!」

「払うの私だろうが、食い逃げ野郎」

「む、じゃあもう一つ頼むか」

「いつまでここにいる気だよ」

 

 

 日が暮れるぞ、と外を行儀悪くフォークで指せば、目の色を変えて端から料理を片付け始めた。基本、子供なのだ。メルリオールもゆっくりと口に運んでいく。

 

 

「デートしようぜ」

 

 

 それが、メルリオールが視たエースからの提案だった。

 

 

 

 

 

 

 

「ふー食った食った。悪ィな! 払わせちまって」

 

 

 些か軽くなった財布を無表情で懐に仕舞い、メルリオールは先に店の外で待っていたエースを見上げた。

 

 

「ん? お前、なんでそんな顔してんだ?」

「…………別に。それじゃ」

「おい、待て待て。『それじゃ』じゃねェだろ」

 

 

 振り返ったところで片手を取られて、そのままグイ、と引かれる。振りほどけぬ強さではないが、メルリオールは抵抗しなかった。

 

 

「なに?」

「なにって、デートだろ、デート。ほら、なんかいい感じの景色とか見て、美味いもん……はもう食ったな。ともかく、遊ぼうぜ」

「…………勝手にすれば? 私は仕事がある」

「つれねぇなァ」

 

 

 エースはひょいとメルリオールの軍帽を取り上げて、腰につけた袋に手早く仕舞った。これも避けられたが、メルリオールは何もしなかった。

 

 

「お前、自分の未来は視えないんだろ? じゃあ何したって自由じゃねェか」

 

 

 言いながら、また手が引かれた。夏島の日差しを背景に、海賊が悪どく笑う。

 

 

「帽子返して欲しけりゃ今日一日付き合ってもらうぞ! メル!」

 

 

 実のところ、こうして適当な理由をつけてエースがメルリオールを誘うのは初めてではなかった。それに『デート』という題目がついたのは、今日が初めてだが。

 

 

 

 

 

 

 

「これとか、良いんじゃねェか?」

「……冗談でしょ」

「そうか?」

 

 

 ドクロが連なったシルバーのアクセサリーを片手に、エースは首を傾げた。島のメインストリートに降りてきたメルリオールたちは、なんとなしに露店を眺めている。

 その中でエースが目をつけたのが、狂気的なまでに骸骨をあしらったアクセサリーの店だ。

 

 

「兄ちゃんお目が高ェなァ。そりゃ、この島……の隣の隣の島の流行りでなァ」

「へェ。あ、こっちは色違いもあんのか」

「赤でも青でも同じでしょ……」

「この良さが分からんとは……」

「女の心ってのはそういうもんさ、兄ちゃん」

 

 

 首を振った店主とエースはそれから何事かを交渉していたが、メルリオールは半分意識を飛ばしていた。

 

 

「メル、メル?」

「なに?」

「すまん、つまらなかったか? この先に公園があるらしいから、そこ行こうぜ」

 

 

 頷いて財布を取り出そうとしたメルリオールは、露店を振り返って首を傾げる。露店の店主は返されたアクセサリーを綺麗に並べ直していた。

 

 

「買わないの?」

「ん? ああ、おっちゃんには悪ィけど、お前は気に入らなかっただろ」

「それがなに?」

「なにって、買うならお揃いにしろってマルコが…………あ」

「マルコ?」

「いや、なんでもねェ! あいつは何も関係ねェから忘れてくれ!」

「……はァ。別にどうでもいいよ」

 

 

 溜息を吐いて、メルリオールは大通りの先に足を向けた。今日様子がおかしかったのは妙な入れ知恵をされたからか。

 メルリオールが()()なってから、白ひげたちがメルリオールを見る目が少し変わった。あわよくば、とでも思っているのだろう。無駄なことを。

 メルリオールが()()()()()()()を明かさない限り、これはずっと繰り返され続けるのだろう。そしてきっと。明かしたとしても。

 

 

 メルリオールは確かにこの青年を特別視していて、その誘いを断ったことがない。

 笑える話だ。面白くはないけれど。

 何を以て『大事』だとするのか、今のメルリオールには分からないのに。

 

 

「そういや、さ……」

 

 

 ブスくれたエースが、メルリオールの後ろを歩きながら呟く。

 

 

「お前、親父やマルコたちと話すと男みてェな喋り方すんのに、おれ相手だとたまに砕けるよな」

「そりゃ、お前相手に警戒する必要もないからな」

「! それってどういう意味だ?」

「ガキだってんだよ」

 

 

 足を止めて振り返る。

 目をまん丸にした青年はまだ20にも満たない子供だ。方々で子供扱いされるメルリオールだが、それでも彼とは4つも離れている。

 

 

「メルリオールは数多の海兵と同じく、強者に厳しく弱者に甘い。そういうものだ、諦めろ」

「おれが弱いってか!?」

「へなちょこルーキーなのは事実だろ。私に警戒してもらいたいなら……そうだな」

 

 

 ゆらり、と揺れる気配にメルリオールは目を伏せた。

 

 

「少しはちゃんとエスコートしてごらん?」

 

 

 

 

 

 

 

「やっぱりさっきの所戻ろう!」

「ふうん?」

 

 

 一拍置いてエースはメルリオールの手を取った。

 

 

「いつもみたいに手合わせじゃないんだ?」

「そ……れもするけど! お前の好きなの選ぼう。そんでなんか美味そうなもん買って港へ行こうぜ。ストライカー乗せてやるよ!」

 

 

 大真面目に言って、メルリオールの手を引いたまま駆け出していく。この場に第三者でもいれば止めたかもしれないが、メルリオールは三度抵抗しなかった。

 メルリオールに視えているのは、この島でエースが捕らえられることはない、という程度のものだったから。

 

 

 大通りを逆走し、先程は目もくれなかった煌びやかな露店の前にしゃがみこむ。手が繋がっているので同じようにしゃがみ込んだメルリオールは、難しそうな顔をするエースの横顔を見ながら小さく息を吐いた。

 

 

「うーん…………これとか……?」

「好きにしなって」

「それじゃ意味ねェだろ。けど、メルってあんま宝石とか見ても嬉しそうにしないもんなァ」

「そうね」

「なんでだ? 確かに腹は膨れねェけど、綺麗だろ?」

「もっと綺麗なものを知っているから、かな」

「え、なんだそれ! どんなお宝だ!?」

 

 

 さあね、と流してメルリオールは今度こそ大きめな溜息を吐いた。

 

 

「何でもいいからさっさと選びなよ。好みを聞かれても答えられないよ」

「でもさっきのは好きじゃねェんだろ?」

「美醜がわかるだけ」

「いいよそれで」

 

 

 ニッと笑ったエースは、大通り中を指すように腕を広げて、「メルがこの中で一番綺麗だと思うものを選ぼうぜ!」と声を弾ませる。

 

 

「…………お金は持ってるの?」

「え? ……あ、そっか!」

 

 

 水を差せば、途端に顔色を青くしてポケットを探り始める。ポロ、ポロと少しのベリー札があちこちから発掘されたが、子供の小遣い程度だ。

 

 

「あー……」

 

 

 捨てられた子犬のようになったエースに同情心でも湧いたのか、露店の店主は端から小さな木箱を引き寄せて、「特別だぞ」と笑った。

 

 

「少しばかり足りないが、この中のものなら好きに選ぶといい」

「ほんとか、おっちゃん!」

「しっかり選びなよ」

「ああ!」

 

 

 こういう所がなァ、と首を振る。

 また持ち直して小箱を漁るエースは、次から次へと取り出してメルリオールに見せてきた。流石に露店で一番安い商品となると髪留めの類が殆どだ。多少の装飾がついた程度。

 

 

「メルは髪伸ばさねェの?」

「戦う時邪魔でしょ」

 

 

 いくつかの髪ゴムを両手に持ったエースはもう候補を見繕ったようだった。常に肩口で髪を切り揃えているメルリオールには不要なものだ。

 

 

「そうかァ……似合うと思うんだけどなァ」

「…………まァ、仕事中じゃなければ」

「え、メルって仕事休まねェじゃん」

「……近いうちに休むよ」

「え」

 

 

 ピシリと固まったエースを前に、メルリオールは重苦しく溜息を吐いた。

 

 

 背中に掲げた正義を焼き払ってから、そろそろ1年が経とうとしていた。エースと会ってからも、それくらいだ。その間、メルリオールは特に何もしていない。かつて世界中の海に連れ回していた部下たちはいつの間にか居なくなっていて、単身で何が出来るでもなく新世界を彷徨って。

 かつて燃え盛っていた正義感の残り火は、完全に沈黙した。

 

 

「いい機会だし、長期間の休暇を取る。何年になるか……私には視えないけど」

「辞めるのか? 海軍」

「そんな訳…………いや、そうかもね」

 

 

 辞められないと知りながら、メルリオールはそんな事を口走った。

 辞めない理由も、もう特にないのだ。メルリオールの正義はもうメルリオールの元にはない。ただチカラに従うだけなら、何処でだっていい。

 

 

偉大なる航路(グランドライン)も離れるのか?」

「さァ……騒がしくない所なら何処でも。まだ本決まりでもないし」

「ふぅん……じゃあ、東の海なんてどうだ? おれの育った島がある」

 

 

 言いながら、エースは一つ以外を木箱に戻した。

 

 

「よし、おっちゃん。これにする!」

「あいよ」

 

 

 手にしていたのは小さな赤い石のついた髪ゴムだ。安物にしてはそれっぽさを感じないが、それでも些か子供っぽさはある。

 

 

「……これが一番綺麗なの?」

「それはまた今度選ぶ!」

 

 

 また、か。この1年、メルリオールが海を離れなかった理由である青年は、夏島の晴れ渡った空のような笑顔を見せた。南の海の男だなァ、と。思う。郷愁も旧懐もありはしないが、時折リオの目は南国の浜辺を駆ける子供たちの光景を映し出す。

 

 

『リオ』

 

 

「ん? なんか言ったか?」

 

 

『私の本名、リオっていうの』

 

 

「いいや。ほら、ちゃんとお金を払いなさい」

「おう。おっちゃんありがとな!」

 

 

 気を利かせて包装までしてくれた店主に礼を言い、エースは元気よく立ち上がった。

 

 

「今日はおれの気に入ったやつにした。東の海行ったらつけてくれよ」

「行くとも言ってないし、伸ばすとも言ってない」

「はは!」

 

 

 メルリオールの手に包みを握らせて、エースは弾みのついたボールのように別の通りへ飛び込んでいく。いつになったら落ち着くのやら。

 香ばしい匂いにつられたのだろう。さっきあれほど食べたのに。

 

 

「……ちょっとエース。お金ないんでしょ」

 

 

 結局こうなる、と首を振ってメルリオールは財布片手にその後を追った。まァいい、どうせ使い道もないし。

 

 

 

 

 

 

 

「どうだった!? 気持ちィだろ!?」

「さあね。思ったよりは速かったよ」

「もっと他にあるだろ!?」

 

 

 風に掻き乱された髪を軽く整えて、メルリオールは砂浜に飛び降りた。夏島周辺の温暖な気候は小型船向きではあるだろう。2、3時間は海に出ていただろうか、夕日は既に傾き始めていた。

 砂の混じった軍靴を脱ぎ捨て、靴下を簡単に叩いて流木の上にかける。裸足になったメルリオールは、コキコキと首を鳴らしながら軽く柔軟をした。

 

 

「さて、じゃあいつも通りね」

 

 

 ストライカーを固定してきたエースに声をかけて、数歩離れて軽く腰を落とす。

 

 

「おう! 今度こそ吠え面かかせてやるぜ! メル!」

「おめでたいねェ」

 

 

 元々メルリオールとエースのコミュニケーションといえばこれだった。

 なんでもありの殴り合い。

 

 

 メルリオールが負けたことはないけれど。勝負がつく頃にはモビー・ディックの姿も見えるだろう、とメルリオールは覇気を身体に流し始めた。

 

 

 

 

 

 

「ウガー!! また負けたァ! クソ、狂犬メルリオールめ!」

「だァから、忠犬だって言ってるでしょ」

 

 

 殆ど一方的にボコボコにしたエースを転がして、メルリオールは海の方を見上げた。様子を見にきたんだろう、不死鳥の翼が目視できる距離ではためいていた。本船はもう少し後か。

 

 

「やりすぎだよい、メル……」

 

 

 よいせ、とエースの隣に降り立ったマルコは、簡単に傷を見ながらぶつくさ文句を言うエースに生返事を返している。

 

 

「海軍が海賊をボコして何が悪い……」

「あー……」

 

 

 首を振って、メルリオールは靴と靴下を置いておいた流木に腰かけた。

 

 

「まァおかげでエースもだいぶ覇気の扱いに慣れてみたいだよい」

「知らん」

 

 

 元々は、メルリオールを助ける礼として、と加入したばかりのエースの前にメルリオールを放り出したのが始まりだ。軽くあしらわれたのが不服だったのか、それからメルリオールを見かける度に挑んでくる。

 新世界歴がもうすぐ10年になるメルリオールがルーキーに負けることはまずないが、確かにエースの成長は著しい。

 そのうちメルリオールを抜く日も来るだろう。

 そもそも、相性が悪いのだ。幼い頃から熟練した自然系能力者たちに揉まれ、自然系の体を捉える見聞色の覇気が異常発達しているメルリオールは、自然系(ロギア)殺しと称されるほどこの類の能力者には滅法強い。

 

 

「あーあ、寝ちまって」

「…………はァ」

 

 

 グースカと響く鼾に溜息を吐いて、メルリオールは立ち上がった。別れる前に、念のため刺しておこう。

 

 

「変な気を回すなよ、マルコ」

「ん? ああ、エースの奴言っちまったか」

「デートだなんだと。そんな気はねェだろ、こいつには」

「さあ……それは他人には分からねェよい」

「分かるよ」

 

 

 メルリオールの睨みを流すように手を振ったマルコは「おっと」と態とらしく口角を上げる。

 

 

「まァ、もう少し付き合ってやってくれよい。それとも、他に良い男でも?」

「…………」

「……お?」

 

 

 こちらも態とらしく溜息を吐いて見せて、「面倒臭」と吐き捨てた。

 

 

「惚れた腫れたが一番嫌いだよ、私は。昔から他人のモンばっか味わわされてんだ」

「はは、少しお節介しすぎたよい」

 

 

 エースを肩に担ぎ、マルコは「まァ、なんでも『嫌』と言えるのが今のお前さんにとっちゃこれ以上ない薬だ」と囁いて翼を広げた。本船へ連れていくのだろう。

 

 

「姉弟か、師弟か、友人か。なんにせよ、変な色がないことは分かってるよい。エースにも『そういうんじゃない』と釘を刺されちまった。けど、だから付き合ってやってるんだろ?」

「妙なことを言うな。弱くて御しやすいからだ」

「はいはい」

 

 

 肩を竦めてマルコは飛び上がる。長閑な夏島に似合わぬ大嵐に塗りつぶされた視界を観察していれば、まだ去っていなかった彼が愉快そうに声をかけてきた。

 

 

「メル、戻りはいつだい?」

「明日正午」

「宿は?」

「断る」

「はは。宴は明日まで港でやってるよい」

 

 

 今度こそ大人しくマルコはその場を去っていった。なあなあな関係とはいえ、海軍将校を船に招くなど正気じゃない。

 とはいえ、目を覚ました末っ子やらがめげずにメルリオールを引っ張りに来る未来が視えた気がした。

 

 

 メルリオールが東の海に引っ込む、しばらく前の記憶だ。

 

 





恐らく皆さん信じられないと思うんですが、この小説はあらすじに『恋愛する話』と書いてあります。
とはいえ流石にこれを指して恋愛ものです、とは言ってないデス。
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