未来が視える元海兵が麦わらの一味について行く話   作:テロン

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部下君のセリフが読み辛いとは思いますが、どう表現したものか苦慮した結果です。
本当はもっとぼやかすか「こんな感じ」にすべきなんですが、そうなると読めぬ。




『狂犬』メルリオール

 

 

 

 

「ハア……ハア……ハア……ハア…………」

 

 

 荒い息の音だけが響いている。

 

 

『准将! メルさん、止まって下さい!!』

 

 

「ハア……ハア……ハア……ハア…………」

 

 

 血と泥に塗れたコートを握り締め、メルリオールはひたすらに走っていた。指先の感覚がない。利き手は肘から下がぶらぶらと揺れていて、シャツやジャケットは滲んだものと吐いたものとで真っ赤に染まっていた。

 

 

『聞こえてないんですか、メルさん!! 本部から再三に渡り帰投命令が出ています!』

 

 

「ハア……ハア……ハア……ハア…………」

 

 

 ごぽりと溢れた血液が呼吸を妨げ、息が苦しくなって頭から倒れ込む。瓦礫の破片が額を裂いて、ただでさえまともに機能していなかった視界が狭まった。この程度、何の支障も無い。

 手に持ったコートで乱暴に拭い、また立ち上がって走り出す。片足が動かなくて、引き摺りながらでも一歩前へ。

 

 

『それ以上はあなたが死にます! あなたに着いてきた私たちがここで果てるのはいい。でも、あなたは駄目だ。こんなところで死ぬ人じゃない!』

 

 

「五月蝿い! 私がここで足を止めたら……! 誰がこの国を救うんだ!」

 

 

 燃え盛る街で蹲り、メルリオールはそれでも前に進もうと足掻いていた。

 

 

『もう無理なんです! お辛くても聞き分けて下さい! 政府はこの国を壊滅と判断しました。既に兵は全て引き上げています。生き残った島民たちも皆島を離れました。()()()()()()()()()()()んです、メルさん!!」

 

 

「いるだろ。ほら、わたしにはみえる……。わたしにはきこえる。まだ、まだどこかに……」

 

 

 何も聞こえない。何も視えない。沈黙した島の未来は、暗闇に塗りつぶされている。けれど、まだ耳にこびり付いた残響が叫んでいるのだ。死にたくない、助けて、痛い、この子だけは、熱い、助けて、怖いよう、……誰か。わかってる、ちゃんと聞こえてる、私には視えてる、だから大丈夫。メルリオール(すべてを救う正義)が、必ず。必ず。

 

 

 にゃあ、と。微かな鳴き声が聞こえた。顔を上げれば、痩せた子猫が片足を引き摺りながらこちらに歩いてくる。

 その猫の向こう、投げ出された細い足があった。赤い、小さな靴を履いている。

 

 

「ほら。ほらいた……」

 

 

『メルさん……私たちの力が及ばず申し訳ありません。でも、もう分かってるでしょう。ほら、いつも言ってるじゃないですか、私の覇気は世界一なんだ! って。だから、メルさんが一番分かってますよね』

 

 

 息を、していなかった。生きた人間の気配がどこにもないことを、メルリオールは知っていた。

 

 

『場所を教えてください。なんとか歩ける奴らで迎えに行きます。私はこの通り、喉くらいしか動かないのですが……。役立たずのレクターと笑ってくれても構いませんよ。大将には私が怒られておきますから、ゆっくり休んで美味しいものでも食べてください。って言っても聞かないんでしょうけど。ほら、甘いものを食べるといいですよ。今度私の故郷のおやつを取り寄せますから、楽しみにしててくださいね』

 

 

 喋り続ける胸元の電伝虫を取り出して、その顔が真っ青に震えていることを認識して。メルリオールは長く息を吐いた。

 

 

「……死にかけなら大人しく黙ってろ、五月蝿い。この程度、いつものことだ。迎えもいらない」

『あいつら、もう向かってしまいましたよ。場所も知らないのにどうするんでしょう……。メルさん、迎えに行ってもらえませんかね』

「馬鹿ばっか……」

「ええ、あなたの部下ですから」

 

 

 通話を切って、呆然と赤く染まる空を見上げた。こうしている間にも、水平線の向こうの景色がいくつも浮かんでは消えていく。あれはどこの島だろうか。早く調べて向かわないと。ああ、こっちもか。これはまだ先だろうか。

 足を止めている時間はない。これはメルリオールの選んだ生き方で、日常だ。

 

 

 海を渡り。

 

 

誰かが死ぬ。

 

 

 地を駆け。

 

 

誰かが死ぬ。

 

 

 気付いてはいけない。振り返ってはならない。口にしてはいけない。目の前で零れていく命の方が、メルリオールのそれより余程希少で、尊くて、救われなかったものなのに。

 

 

「誰、か……」

 

 

 その先を、口にしてはいけない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「また失敗したのか」

 

 

 ふと瞬いて、リオは両手に抱え持ったカップに視線を落とした。飲み口が小さく欠けていて、誰もがそれを指摘するが、ずっとそのままにしてある。スマイルマークの描かれた赤いマグカップだった。

 残り少なくなっていたコーヒーを流し込み、抱えたままずいと差し出す。

 

 

「おかわり」

 

 

 言われた方は「自分でやれよ」と盛大に顔を顰めながらも、湯気の立つポットを持ち上げた。

 

 

「カフェイン中毒も大概にしろ。また何日寝てなかったんだ」

「さあ、分かんない」

「怪我をしたらその日のうちに、とまでは言わねェが、さっさと医者に見せろといつも言ってるだろ。おれのとこじゃなくてもいいんだ、軍医くらいいるだろ」

「軍医に見せると、マリンフォードに強制送還される」

「ったく……」

 

 

 少し、沈黙が流れた。二人しかいない場だ。リオはあまりペラペラと喋る気分じゃなくて、相手の方は難しい顔で沈黙している。

 

 

「それで? 今回は何やらかしたんだ」

「なんにも」

「嘘つけ、こっちにだって新聞は回ってくるんだ」

「なら知ってるんじゃん……」

「問診だろ、正直に答えろ」

 

 

 そう脅せばリオが素直に白状すると思っているのだろうか。「また失敗したのか」、なんて言葉を思い返してリオは唇を噛み締めた。

 

 

「次は。次はちゃんとやるもん。見とけよ、北の新聞もぜーんぶ私にしてやるんだから」

「ああ、そうだな。だが、お前は失敗した訳じゃない。あまり辛気臭い面をするな」

 

 

 一呼吸置いて、ローは仕方なさそうに息を吐く。

 

 

メルリオール(すべてを救う正義)がまだ生きて呼吸をしてるんなら、失敗なんかじゃねェだろ。お前の一挙手一投足はその為にあって、現にお前はそうしてる。なら何をしようが、『失敗』になる訳ねェ。何度言っても聞きやがらねェのに勝手に失敗扱いされると、ここまで付き合ってやってる俺の立つ瀬も無くなるだろうが」

「……は? そもそも私失敗なんかしてないんだけど。言われなくても分かってるし!」

「知ってるよ」

 

 

 ぷりぷり怒って、リオはわざと音を立てながらコーヒーを啜った。ようやく深く息が出来た気がする。ここまでを含めて日常と呼ぶのだろうと、この時のリオは自覚していた。

 

 

 男の背後に浮かぶ黄色い潜水艇を眺めながら、リオは「そういえばローの懸賞金、もうすぐ億に届きそうだね」と呟く。数年前に出航した彼らも、北の海では知らぬ者がいないくらいの海賊団になった。

 

 

「億を超えたら私のマーク範囲だ。ま、1億程度じゃまだまだだけど」

「言ったな? すぐだぜリオ、おれは偉大なる航路(グランドライン)に入って奴の尻尾を掴む。9年待った、もうじき10年だ。お前も、そのつもりで準備をしておけ」

「……うん。そうだね」

 

 

 緩く頷いて、寒空の下で小さく息を吐く。この話をする時にリオが必ず沈黙を挟むことに、彼はいつまでも気付かない。

 潮時だ。あまりにも不安定な現在だけがこの場を繋ぎ止めていて、過去だけを見る彼と未来だけを視るリオは容易く断絶する。

 

 

 きっと数ヶ月も経たず、メルリオールという正義すら苔生した過去のものになるのだろう。知っていて、知らないふりをして、あらゆることに蓋をして。

 

 

 リオは、最後になるだろうコーヒーを飲み干した。

 

 

 メルリオールが砕け散る、二月前の記憶。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、現在。

 

 

 戦場のど真ん中で、メルリオールは無感情にその様を見上げていた。

 白ひげが刺された。海兵ではなく、身内……息子に。

 

 

 別段、おかしな話ではない。きっかけは海軍の謀略だが、どこぞのフラミンゴとは違って彼自身の意思だ。

 

 

 海賊王に恨みのある傘下に、海賊王の息子奪還を命じた。死人も多く出ている、となればどこかから瓦解するのは目に見えていた。

 

 

 海岸からのパシフィスタの猛攻、エース処刑時間の繰り上げ。海兵は指示に従い、凍った湾内から広場に引き上げていく。逆に、海軍に騙された事を知った白ひげたちは士気を上げて広場へ雪崩れ込もうとする。メルリオールは元々戦場の中程にいたが、下がっていく戦線により結果的に最前線にまで紛れ込んでいた。白ひげが本格的に動き出せば何処にいようとあまり変わらないが。

 

 

「メルリオール少将、下がりたまえ!」

 

 

 名指しで届く元帥からの指令に耳を貸さず、メルリオールは最前線を突き進もうとする白ひげに向けて駆け出した。阻むように、巨人海兵が白ひげの眼前へ躍り出る。

 メルリオールの見聞色には、その両腕で空を掴む白ひげの姿が視えていた。

 

 

「十種神宝、沖津鏡(おきつのかがみ)!」

 

 

 グラリ、と世界が揺れる。島が、海が、揺れている。

 

 

 ありったけの覇気を纏ったメルリオールは巨人海兵を突き飛ばすように空を駆け、その震源地に突っ込んだ。

 メルリオールほど白ひげの能力を受けてきた海兵もいない。処刑台の防衛は養父らに任せ、メルリオールは周囲への影響を軽減すべくその能力を押さえ込んだ。

 とはいえ些細なものだ。広場へ進んでいく衝撃波に巻き込まれるような形で吹き飛びながら、素早く周囲を確かめた。氷の大地はあちこちにひび割れが走っているが、流石に落ちたものはいなさそうだ。ならば成果は上々。

 

 

「メルリオール!」

 

 

 怒鳴りつける声に、肩を竦めてその下、養父たち、三大将の近くへ飛び降りた。

 

 

「壁は?」

「今あげてるってさァ」

「ふーん」

 

 

 クザンに適当な声を返せば、「おや?」といつもよりはキリッとした声が返ってくる。

 

 

「なんか視えてんのか」

「うーん……まァどうでもいい範疇のこと」

 

 

 思案する間に、鋼鉄の防御壁が沿岸を取り囲むようにせり上がり始めた。これも今回の戦争に備えての海軍の一手だ。容易に破壊できない壁を用意し、取り囲んで一斉に砲撃する。

 ただ、一点だけ壁が上がっていない。オーズが倒れ込んだところだ。

 

 

「あららら……死んでなお邪魔するか」

「面倒だからって退けなかったの君らでしょ」

「伝えんかったのはお前じゃ」

 

 

 赤犬はそう言ってから、ボコリと能力を発動させた。マグマの拳が氷の足場に向けて降り注ぐ。

 あとあれ、まだ死んでないけど、と呟いたメルリオールは、再びの戦闘に備えて銃を抜いた。

 

 

「少し引いてください」

 

 

 小さく言って、赤犬の前へ移動する。立ち上がったオーズJr.に気を取られている大将たちを余所に、メルリオールは覇気を込めていない弾を一発頭上に撃った。

 

 

「リオか!」

 

 

 上がった水柱から、麦わら帽子を被った男が一人。先陣を切って広場へ乗り込んだ。よりによって三大将の、そしてメルリオールの目の前めがけて。

 

 

「あらら、とうとうここまで……お前にゃまだこのステージは早すぎるよ」

「堂々としちょるのう……ドラゴンの息子ォ……」

「恐いね〜この若さ……」

 

 

 メルリオールの銃弾によって砕かれたマストを放り投げながら、ルフィは「エースは返して貰うぞ〜〜」と吠える。確かに意表はついていた。けれど、なによりメルリオールの方が早い。

 

 

「十種神宝、八握剣」

 

 

 ルフィが降りてきた時には既に振りかぶっていた左足を、容赦なく側面にぶち当てる。

 

 

「ぶっ!」

「メルちゃん、加勢はいるかい?」

「それどころじゃないでしょ」

 

 

 処刑を実施しようとした処刑人が砂によって倒された。クロコダイルだ。ルフィにはマルコがついた。白ひげたちは海底に隠していた船をオーズに引き揚げさせ、無理矢理広場へ乗り込んでくる。逃げ場を失ったのは海兵の方だ。

 

 

「オー、さながら最終決戦と言わんばかりだねェ……」

「んー」

 

 

 生返事をして、メルリオールはルフィの元へと駆け出した。

 白ひげの能力が広場を荒らしていく。

 

 

「十種神宝、蛇比礼!」

 

 

 揺れる広場の振動を利用して掬い上げるように放った斬撃を、マルコの翼が受けた。

 

 

「ッ、メル!」

「くそ! ギ、ギア……!!」

「十種神宝、蜂比礼!」

 

 

 技を使おうとしたルフィに割り込むように突きを放ち妨害すると、メルリオールはマルコへ銃口を向けた。弾に込められた覇気が、メルリオールにはバチバチと破裂する雷のように見える。

 

 

「十種、道返玉(どうへんぎょく)

「おっと」

 

 

 回避に動いた所を、メルリオールの背後から光線が貫いた。その隙にルフィを後方に蹴り飛ばす。白ひげの付近まで飛んで行ったことを確認して、メルリオールは処刑台に飛んでいくマルコに再び銃口を向けた。

 

 

「ぬうェい!!」

 

 

 が、撃つまでもなく、不死鳥は冗談みたいな拳骨ではたき落とされた。

 

 

「とうとう出てきた……!」

「伝説の海兵が!」

「お父さん、マルコを抑えて!」

「ん!?」

 

 

 突然の指名に驚いた養父が手を止めて振り返る。その足がどこを向いていたかは、本人とメルリオールにはよく分かっていた。

 

 

「メルリオール……お前、分かってるんだろうねェ?」

「はーやーく!」

 

 

 二手、三手先に光線を撃とうとしていた地点にメルリオールが銃口を向けるのを見ながら、養父は正義のコートを翻した。

 

 

 後はクザンとジョズがぶつかるのを確認し、赤犬が白ひげを抑えに向かうのを見て、銃を下げる。メルリオールがちょっかいをかけれる戦いじゃない。

 あれ如きで、白き怪物は倒れない。

 

 

 汚れひとつないマントをはためかせ、処刑台への階段を駆け登る。

 メルリオールは忠犬だ。だから必ず、未来は実現させる。

 

 

 そして。

 再びエースへ処刑の刃が迫った時。

 

 

 戦場を、幼い王の覇気が駆け巡った。

 

 

 

 

 





ピノコニーを終わらせてくるので次回更新まで間が空くかもです。


ということで、次で戦争編が終わることもあり今のうちに置き土産として現状を整理しておきます。
余計な情報入れたくない方は飛ばしていただいて大丈夫です。


○メルリオールの認識
・メルリオールは未来に従う忠犬
・感情は無く、従って誰かに情を抱くことはない
・未来を変えないために頂上戦争に参加している
・この戦争は海軍が勝ち、処刑は必ず成される


○他者からの指摘
・サンジの指摘(2話:冬島とコーヒー)
 「リオさんは好きな料理はある?」
 「一番年上だからとか、見習いだからって自分を押さえつけてないかい」
・ゾロの指摘(10話:分からない)
 「お前、自分の感情は薄いんだろ」
 「ルフィは私を誘うよ。これは絶対だ」に対して、「それなら、ただ待ってりゃ良かっただろうが」
・ロビンの指摘(14話:『忠犬』メルリオール)
 「あなた、一度折れてしまったのね。理想を諦めて、自暴自棄になって、そして自分が最も惨めになる道を選択した」
・スモーカーの指摘(19話:正義の牙城)
 「変わらない未来に従うだけの木偶の坊なら、手前は裏切る必要すらなかったはずだ」
 「この戦争の結果も視えているなら、お前は何もする必要がないはずだ」
 「自分のことが分からねェ奴」


○前話までのリオの行動
東の海:勝手に船に乗り込む
ローグタウン:スモーカーとルフィの戦闘に介入
ドラム:行動なし
アラバスタ:クロコダイルとルフィの第1戦を観戦、住民避難にたしぎたち海兵を使う
空島:行動なし
DBF:一部試合介入
LRLL:青雉と交戦
エニエスロビー:無関係の海賊船を沈める、海兵狩り、ルッチ戦後のルフィを迎えに来る、メリーでの逃走を援護
スリラーバーク:オーズゾンビへ射撃(当たった)、夜明け対策の暗幕設置、くまと交渉しゾロの負担を一部を引き受け
シャボンディ:人間屋からの逃亡幇助、黄猿と合流し敵対
戦争前:インペルダウンでの会話(エース)、シャボンディでの会話(ロー)、心臓を預ける、マリンフォードでの会話(スモーカー)
戦争開始:処刑台での会話(ガープ)、ルフィとの交戦、海賊への射撃(当たってない)


メルリオールは信頼出来ないですが、一緒に旅をしてきたリオのことはちょっとは信じてやってくれるといいなぁ、と思ってます。何せ元脳筋海兵、そんな難しいことは考えていないので。


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