未来が視える元海兵が麦わらの一味について行く話   作:テロン

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生まれた時から決まっていたこと

 

 

 

 

「リオお前……知っていたな!」

 

 

 処刑台の上まで駆け上り、ルフィの覇王色を眺めていたメルリオールに、センゴクは青筋を立てた。また、呼び名が前に戻っている。

 まァ、この人は昔からなにかとメルリオールの面倒を見ていたから、仕方ないのかもしれない。

 

 

 どうやって成り代わったのか、処刑人に扮した海賊まで気を失っているのを見下ろして、メルリオールは「あんまり怒ると血圧あがるよ」と首を振った。

 何の能力か、広場から処刑台まで橋がかけられ、ルフィが駆け上がってくる。その前に、ガープ中将が立ちはだかった。

 

 

「無理だね、あの人には」

「……ガープ……」

 

 

 見もせずに首を振ったメルリオールに、センゴクは「何を視た、リオ」と歯を噛み締めた。

 

 

「言ってるでしょ、海軍の勝利だ」

 

 

 だからずっと、メルリオールはそのために行動している。

 結局、孫を殴れなかったガープが墜落し、ルフィは処刑台に足をかけた。すぐさま鍵を、と取り出すその目に巨大化していくセンゴクは見えていないのだろう。

 

 

「おめでとう、ルフィ」

 

 

 平坦な声のメルリオールは、鍵が養父の光線で破壊されるのを見ながら言った。意地が悪いとか、煽ってるとか、悪趣味だとか。これもまたその類の行為であることは自覚して、処刑台の端で佇んでいる。

 

 

「ああ……鍵が!」

「リオ、そこを退きなさい。こうなれば私の手で処刑するのみ!」

 

 

 あまり頭も回っていないのだろう、混乱するルフィにセンゴクの張り手が迫る。ルフィは一先ずエースを守るために、腕を膨らませて迎え撃った。けれど、ただ弾き飛ばされただけ。

 

 

 援護のためか、下からいくつもの大砲が処刑台を狙う。

 

 

「大通連・嘴」

 

 

 着弾の瞬間、抜いた左の軍刀を砲弾に叩きつける。バラバラに折れた刀を投げ捨てると同時に、弾に詰まった火薬が爆発した。爆風に煽られ、守るべきだった処刑台は見るも無惨に崩れていく。ルフィも、紛れ込んでいた海賊も、海楼石の錠に繋がれたエースも放りだされて落ちていく。

 

 

 生身に戻り、メルリオールの体を外へ投げ出したセンゴクの腕に逆らわず、左手で抜いた銃口を頭上に振りかざした。

 爆発の中、なおも赤い炎が燃え上がる。

 

 

 エースの炎だ。処刑台を飛び出し、戒めから解放され、大罪人ポートガス・D・エースは空に真っ赤な炎を撒き散らした。

 

 

「解放おめでとう。さて」

 

 

 覇気を纏った弾丸は、的確に炎の身体を貫いた。戦場に響いた銃声は、耳障りな反響音を晒している。

 

 

 狂ってる、とは言われるのはこういう所からだろう、とメルリオールも自覚はしてる。

 

 

「ッ、メル!!」

 

 

 ギン、とメルリオールを睨む瞳は、その手首に見知った髪ゴムを見つけてじわりと揺れた。

 どうでもいい。

 

 

 どうせ、この後死ぬんだし。

 

 

 ざわり、と広場が揺れた。解放されたエースに湧いていた海賊たちの一部が、そして一部の海兵が、メルリオールが左手で翳した銃を一点に見つめている。白い銃身を金で縁取りした儀礼的な見た目の銃だ。事実、メルリオールはこの銃──『凪』を特別な意味合いで使っていた。2年振りに抜いたその銃は、良く手に馴染む。

 

 

「左を……」

「撃ちやがった!」

「なるほどねェ……」

 

 

 メルリオールは二刀二挺を一組ずつ両腰に装備しながらも、利き手の左で銃を持たないことは知られている話だった。状況に合わせて右手を刀と銃で切り替え、左手では刀のみを扱う。壊れた場合はその場に投げ捨て、残った銃は使わずに無手に移行するだけ。

 

 

 見聞色の覇気を存分に使った正確無比な銃撃は、利き手からは飛んでこない。

 

 

 ただしそれは、戦闘においてという話だ。

 

 

 この銃は、宣告だ。

 メルリオールは死を視た敵に対し、必ず左手に『凪』を持ち撃ち抜いてきた。散々宣言もした。この銃が持つ意味を、メルリオールは常々公言してきた。狂犬の時は、そこにいくつかの理由があったように思う。

 

 

 けれど、今の忠犬メルリオールにとって、それは死刑宣告に過ぎない。ここで必ずお前は死ぬ、という宣言だ。

 未来に隷属する忠犬が、処刑対象の末路を宣言した。

 

 

「エース!! やめろリオ!」

 

 

 拳を伸ばしてきたルフィの腕を巻き取って、上に向けて吹き飛ばす。案の定落下する重力を攻撃に変えたルフィは蹴りを弾丸のようにして突っ込んできたが、メルリオールが添えるように差し出した銃身に自ら突っ込む結果となった。ビリビリと、受けた衝撃が体を伝っているだろう。対してこちらにダメージは無い。

 

 

「んなっ!」

「ポートガス・D・エースは死ぬよ」

「死なねえ! おれが死なせねぇぞ」

「決まってるんだ、ずっと前から!」

 

 

 言いながら、武装色を纏った腕で殴りつける。ほら、覇気もまともに使えないルーキーには、そんな夢物語を語る資格なんてない。

 

 

「私の視た未来は絶対だ! あいつは死ぬ! ここで、私たち海軍に殺される! 絶対に!」

 

 

 吹き飛んだルフィを見据えながら、かつて正義を抱いたマントを握りしめる。戦いに汚れた手が、べっとりと白いそれを汚していった。もう遅いのだ、何もかも。

 未来が変わるわけがない。変わってはならない。

 

 

 だって、もし、仮に、万が一にでも。……今になって、未来が変わったら。()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「私は一体、これまで何をして来たの……?」

 

 

 これまで救えなかった人々も、変わらないと諦めて見捨てた人々も。すべて、メルリオールの責任だ。

 それはメルリオールが、自分の意思で、自分の手で、虐殺を為すことと何が違うのだろう。

 

 

「ッ……ハ、先に逃げてろルフィ。メルの気遣いを無駄にすんな。おれァもともとだ」

「エース……、一度でも、私に勝ったことはあったっけ?」

「悪いな、メル。何の忠告も聞かなくてよ」

 

 

 腹に空いた風穴を簡単に焼き止めたエースは、跳ねたルフィを拾い、海の方に向かって投げた。抵抗するようにエースに向けて伸ばされる手を、巻き起こる炎が阻む。

 

 

「待て、エースも一緒に行くんだ!」

「お前にゃあいつの相手は無理だ。メルにお守りされたくなきゃ、しっかり生き延びろ」

 

 

 なあそうだろう、とエースの視線がメルリオールを貫いた。

 

 

「ちっと過保護すぎやしねェか? メル。ずっと他の海兵にやられねェようルフィ転がしてたろ。最初はヒヤヒヤしたが……つまり、今ここでは死なねェんだな? あいつは」

「……それは。それは君が一番良く知ってるんじゃない?」

「ハハ! なるほど! なるほど、そりゃあおれは死ぬかもな!」

 

 

 弟を死なせる兄がいるわけない。

 

 

 ()()()()()()()()()()で、頭がクラクラしそうだ。笑って、両者共に息を吸う。

 ドン、と音を立て、エースの拳が火を吹いた。彼の代名詞。

 

 

「火拳!」

「十、種……」

 

 

 右手で抜いた銃からは、何も発射されなかった。メルリオールの頬を撫でた炎は、広場の海兵たちを吹き飛ばしていく。重力に従って落下すれば、グイと肩を引かれた。養父だ。

 

 

「メルリオール! 邪魔だよォ、下がってなァ……」

「ッ……」

「おっと」

 

 

 光線と炎がぶつかった。崩れ落ちた処刑台の方へ背中を押されたが、メルリオールの仕事はまだある。震える手で再び『凪』を抜き、引鉄に手をかけた。銃口は下を向いたまま、視線だけを海へ。

 

 

「そうか、お前にも視えたか」

 

 

 大海賊白ひげは、ニッと笑って思い切り拳を空に叩きつけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「今から伝えるのは……!! 最後の船長命令だ! よォく聞け……白ひげ海賊団!」

 

 

 胸の刺し傷から、そして大小様々な傷から血を流しながら、老兵は吠えた。

 

 

「お前らとおれはここで別れる! 全員必ず生きて! 無事新世界へ帰還しろ!!」

 

 

 能力による衝撃が、何の遠慮もなく島を崩していく。メルリオールは一発しか撃たなかった『凪』を、腰のホルスターではなく服の下に仕舞い込んだ。もう、不要だ。

 メルリオールがすべき仕込みは全て済んだ。これから何をせずとも、視た未来は達成される。白ひげの時代は終わる。エースは死ぬ。海軍は勝って……。けれど多大な犠牲を出し、長く偉大なる航路(グランドライン)に君臨した正義の根城、マリンフォードは落ちる。

 

 

「メルちゃん」

 

 

 この戦場でサボりでもあるまいに、と届いた声に振り返った。流石に無傷でもないクザンが、血に汚れながらもメルリオールを見下ろしている。

 

 

「殉じたいなら、送ってやるがどうする? まァ……流石に敵前逃亡とか、理由つけてくれると助かるがねェ……」

 

 

 緩慢に顔をあげて、パチパチと瞬いた。よく、顔が見えない。あまりにも多くのものを右から左に流し続けていて、どういうつもりでの発言なのかも読めない。メルリオールは戦争前に予見された通り、既に役立たずの置物だった。

 

 

「この状況で?」

「何でもいいさ」

「理由が分からないけど……。そうしたいように見えた?」

 

 

 首を傾げたメルリオールに、クザンは少し肩を竦めて首を振った。

 

 

「いやァ、全然。けど、お前さんはその為にわざわざ()()を裏切って、恨みを買ってまでここに来たんだろ」

「は? なにそれ、何の話か分かんないや」

「おじさんに言わせたいの? これでもお前を小さい頃から見てたんだわ。底が抜けてる……。いや、他人のすべてを受け取る為に()()()()()()()()のがお前さんだ。底無しの善意でしか動かない。例えそれが誰の目にも善意に見えなくとも。奴らがこの海を渡っていける強さを手に入れられるように、深く傷付くことがないように。情を向けられちまった以上、お前の死に誰もが悲しまないように。……死装束でしょ、それ」

 

 

 多くを救ってきた海兵の手が、メルリオールを指差していた。

 白、白、白。ネクタイまで白い軍服を見下ろして、メルリオールはヘラりと笑う。

 

 

「だから、何を言ってるのか分かんない。死ぬつもりがあるなら最初からそうしてる。私は自分の未来が視えないの。つまり、そんな事はありえない」

「そう、ならいいんだけど」

「変なこと言わないで」

 

 

 短く言って、メルリオールはまた戦場の方へ視線を向けた。引いていく白ひげ海賊団に、追討する海軍。それを阻む白ひげ。加勢にとコートをはためかせた元上官の背中に、メルリオールは軍帽の鍔を強く握りしめた。

 

 

「……疲れた」

「おォ? まァ……」

 

 

 メルリオールは『占い』に限らず見聞色に優れ、なおかつ『占い』のせいでアンテナが常に最大となる欠陥を抱えている。既に他人の感情を右から左へ流すだけの装置のようになっていたとしても、これだけの戦場はメルリオールにとって大きな負担だった。

 

 

ならどうしてここにいる?

 

 

 メルリオールに関係なく、心があちこちへと跳ね回る。死んでいくもの、殺すものの感情が同じ様に届き、加えて未来からも『占い』が届く。どんなに強大であれ、それはメルリオールのものではない。だとしても、望まぬ方向に勝手に心が動かされているのは事実だった。

 

 

なら何が分からないんだ?

 

 

 弱音を吐くのはメルリオールらしくないか。考え直して「忘れて」と首を振る。

 

 

 右足が前に出た。武器を仕舞い、無手になった体で戦場を夢遊するように歩く。流れ弾の一つも寄ってこない。今この場で、メルリオールだけが目的もなく歩いていた。

 

 

 花畑を歩いている。

 砕けたガラスの上を歩いている。

 バージンロードを歩いている。

 金塊の前を歩いている。

 ゴミ山の上を歩いている。

 

 

 血と汗と泥に塗れた、石畳の上を歩いていた。

 

 

 少し離れたところで、元上官のマグマの拳がルフィやエースの方に襲いかかった。自然系の能力者同士には、稀に明確な上下関係があり、赤犬のマグマグの実は、エースのメラメラの上位にあたる。そのため、エースが赤犬の拳を受けようとすると、一方的に燃やされる形となるのだ。

 

 

「あーあ」

 

 

 事実だけどなァ、とぼやいたクザンの言葉が小さく後ろに聞こえた。赤犬が、エースを挑発するように言葉を重ねているのだ。

 事実、海賊王の時代から白ひげはひとつなぎの大秘宝(ワンピース)を取りもせず、現状維持を選ぶ様に新世界に鎮座していた。理由は……。

 恐らく、本人にとって最も大切なものがそれではないから。

 

 

「白ひげは敗北者として死ぬ! ゴミ山の大将にゃあお誂え向きじゃろうが!」

「白ひげはこの時代を作った大海賊だ! この時代の名が、白ひげだ!!」

「やめろエース!」

「エースが……燃えた!?」

 

 

 赤犬に突っ込んだエースがマグマに燃やされた。

 そう、ここだ。このすぐあとを視た。自然と足がルフィの方へ向く。赤犬の標的も、ルフィの方を向いた。

 

 

 意識が逸れたルフィが赤犬に殺されそうになり、弟を庇ったエースは赤犬に殺される。お陰でルフィは助かるが、それにショックを受けて、気絶するほど心が動く。

 ルフィと初めて会った時、リオが視たのはその光景だ。

 

 

 全速力で走りながら、リオは頷いた。

 

 

 そう、未来が変わらないことをしっかり確認して、それで安心しよう。だから────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「リオ。お前さん、何しちょる」

「っあ」

 

 

 ジュウ、と武装色を貫通して、肉が焦げる音がする。嫌な匂いが漂って。

 

 

周囲に、バチンと白い稲妻が走った。

 

 

「え?」

 

 

 リオの覇気で減衰したのか、咄嗟に引いたのか。リオのちっぽけな心臓を貫いただけの燃える拳に、掴んだ右手が焼け爛れていく。左手から伝わる炎が、涼しいくらいだった。

 

 

「メ、ル……?」

 

 

 エースを押し退けて、リオの体はルフィを殺そうとした赤犬の前に飛び込んでいた。その拳を胸に受けて、兄弟を背中に庇って、リオは、敬愛する師に敵意を向けている。体から迸る白い稲妻が、鍛え上げられた腕に確かな傷跡を刻んでいく。

 

 

 何故。────何故?

 

 

「お前、それはおれの……!」

「あ、リオ……」

 

 

「メルリオール!」

 

 

 後方から文字通り光速で飛来した養父に、右手が素早く、今日一度も抜いていない右の刀を引き抜いて翳した。

 

 

「ッ!?」

 

 

 ()()()()()()刀身で、反射した光線が見当違いの所へ突き刺さっていく。何故。何故、こんなものを準備した?

 また声を上げようとしたエースは、腹の銃創が傷んで顔を顰めた。そうしたのはリオだ。

 

 

 何故?

 

 

「待てメル、おい! やめろ……!」

「問題ない、行け!」

 

 

 叫んで、リオは無理矢理赤犬の拳を引き抜いた。力の限りエースを後ろに投げたつもりで──実際は少し後ろに押されただけで、倒れ込むエースとルフィを蹴り飛ばす。

 

 

 少しでも、海へ。

 

 

 慌てて二人を抱えたジンベエが、暴れる両者を押さえつけて背中を向けた。心臓は問題ない。元々、リオのそこは空洞になっている。

 

 

 何故?

 

 

 ──何故かなんて、自分が一番よく、分かってるんじゃないのか。

 

 

 何のためにここまで来た。何のためにあの優しい人たちを傷付けた。

 

 

「ごめんじゃないだろ、馬鹿……」

 

 

 例え、これまでの自分を否定するものであっても。例え、それが自殺紛いの行為だったとしても。何をすればいいか分からなくなって、何をしたいかすら言えなくなっても。

 

 

義弟(おとうと)を死なせる姉が、いるわけないでしょうが……!」

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「馬鹿はそっちだ! 今まで一度も……!」

「やってくれたのう、リオ!」

「十種神宝……沖津鏡(おきつのかがみ)!」

 

 

 覇気を高速で循環させ、鏡返しの様に攻撃を受け流す、対能力者用の技。

 この人に鍛えてもらった技だ。4つの時に拾われて、7つの時に引き合わされ、14で入隊し、22で折れるまで。リオの海軍人生はこの人の元にあった。この人の正義を信じていた。

 

 

「自分が何をしてるか分かっちょるんか!」

「さァ…………。分からないんです、ずっと。分からないままでも進めていた『メルリオール』は、あなたに期待してもらった通り、強い海兵だったかもしれないけれど。私は……リオは、そうではありませんでした、師匠」

 

 

 2年間、ずっと考えていた。無自覚で、無意識だとしても。何度も反芻して考えていた。

 あの日、あの時、メルリオールやサカズキたちの行動に『正義』はあったか?

 

 

 無いと思ったから折れた。では、海軍に『正義』は無いか?

 

 

 それは否だ。

 

 

 ここ以上に正義を誇り、正義に邁進する組織は無い。仮に正義が人に宿るなら、それは海軍を置いて他にない。軍の頂点に座すのは、大将でも元帥でも総帥でもなく、『正義』という概念だ。

 

 

 けれど。正義は『すべてを救う』事はない。義憤に燃えるメルリオールはどのように見えただろう。必ずどこかで折れると思いながら、彼らはメルリオールに何を思っていただろう。メルリオールが語る『すべて』に彼らが含まれていたことを。彼らは、どう思っていただろう。

 

 

「海賊は、悪だ。正しくは、ない。けど……」

 

 

 何もかもが正しい人間なんていない。誰もが正しくありたいと思っていて、けれどもこの世界はそうはさせてくれない。悪人が時に身内に優しいように、正義が時として誰かを傷付けるように。

 

 

「あなたも。正しくはなかった」

 

 

 さようなら。眩しいまでの、『正義』の人。

 

 

 呟いて、リオは白いマントを脱ぎ捨てた。そういえば、これはコートを捨てたメルリオールに怒ったサカズキからの餞別だったなァと思い返せば、ガクリと足から力が抜けた。覇気の使いすぎだろう、ガス欠だ。

 エースは、ルフィは、少しは逃げれただろうか。

 

 

「リオ……」

 

 

 横から飛来した閃光が、今度こそ加減なくリオを蹴り飛ばしていった。光速をその身に受けた身体が、面白いように吹き飛んで戦場を転がっていく。軍帽も吹き飛んで、染めた黄色い髪が力無く地面に落ちる。

 

 

「……」

 

 

 光から人型に戻った養父は、あくまで理性的な目でリオを見下ろしていた。貫かれた胸をざっと確認した後、無言で膝を着き服の襟を掴む。

 

 

「ウ、グッ!」

 

 

 首元を掴んで勢いよく地面に叩きつける手は、リオの意識を的確に狩りにきていた。

 

 

「サカズキ、どうやら『大罪人』を殺すのはそこじゃなかったらしいねェ。もういいらしいから、トドメは頼むよォ」

「リオ! おいジンベエ離せ!」

 

 

 もう一度リオを地面に叩きつけて、養父は赤犬にへらりと笑った。

 

 

「フン、壊れた道具ほど邪魔になるものもないわい」

「しつけはしておくよォ」

 

 

 そう言いながら、養父はリオをゴミのように蹴飛ばし、近くにいた海兵に「地下牢へ」と指示を出した。

 

 

「メル!」

「メルリオール! しっかりしろよい!」

 

 

 メルリオールの名を呼ぶ海賊たちに、そういえば名前も教えていなかったのか、と思った。教えていたら、何か、違っただろうか。

 

 

『リオ!』

『私の名前、███████・リオって言うの!』

 

 

 伝えていたら、何か、変わったんだろうか。

 もう遅い。もう、何もかも取り返しがつかない。

 霞む視界で、山のようなマグマが燃え盛る。

 

 

「ジンベエ」

 

 

 遠く離れているはずなのに、その声はリオによく聞こえた。

 

 

「ルフィと、…………おれのねーちゃんを頼む」

 

 

 それから、と血を吐きながら。

 

 

「ルフィ、みんなに伝えておいてくれ」

 

 

 愛してくれて、ありがとう。それが海賊王の子、大罪人ポートガス・D・エースの最期の言葉だった。

 ああ、知っていた。視ていた通りの結末だ。リオがした事は、遺す言葉が一つ増えたくらいのもので。

 

 

 知っていた。未来が変わらないことなんて、生まれた時から。

 

 

 薄れていく意識に血を吐きながら、リオの戦争は終わった。

 

 

 

「ROOM」

 

 

 聞き慣れた声と共に。

 






詳しい話は次とその次で。


善意でやったことが結果として人を傷付けることはあるし、ただの悪意が人を救うこともある。誰かにとっての正義は誰かにとっての悪だし、逆もまた然り。
頂上戦争当時は赤犬のことが大嫌いでしたが、大人になってみると彼の正しさを感じるようにもなりました。
ワンピのこの辺の匙加減が作者は大好きです。

でもエースが死んだことは恨んでるカモ!
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