未来が視える元海兵が麦わらの一味について行く話   作:テロン

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昨日2話あげてる&今日も2話あげるのでお間違いなきよう。

夜用事があるので普段と違って12時/13時に上がります。






百辺回ってワンと鳴け

 

 

 

 

 あれから一週間と少し。

 既に少し前に女ヶ島には着いていて、ルフィはもう目覚めたらしいと聞く。男禁制の国にハートの海賊団が入ることは許されず、クルー以外には内密に匿われているリオも、ジンベエやハンコックの前に姿を見せることはなく、船の中で大人しく過ごしていた。

 

 

「ロー」

「絶対安静、あと一週間だ」

「後で一週間寝てるから」

 

 

 寝すぎて疲れた、と甲板に上がり、岩場に貼られた幕の内側まで登る。先ほどまで暴れていたルフィは、そのまま島の中へと入っていったようだ。ハートのクルーに借りたシャツとズボンは着心地はいいが、似合っているかは分からない。

 暫定処置、と目に巻かれた包帯を撫でる。

 

 

「ジンベエは?」

「追っていった」

 

 

 アレを、と後ろを指で差された。森の奥から微かに破壊の音が聞こえる。目を閉じてなければ、リオもルフィの感情に引き摺られていただろう。

 

 

 一方、クルーの方はどこ吹く風で女人国に夢を馳せている。

 

 

「女なら私がいるじゃねェか」

「いや、リオは……な?」

「まァ……な?」

「クマじゃないし」

「クマはいねェよ、女人国だって言ってんだろ!」

「ごめん……」

「まず私に謝れよ」

 

 

 ベポを軽く小突いて、リオはローの隣に座り込んだ。ルフィの麦わら帽子を物憂げに眺めている姿も、その表情も、目を塞いだリオは感じ取ることが出来る。いつだってリオの前には現在とは違う光景が広がっていて、それが暗闇になったところで大した違いは無い。

 

 

「少し、行ってくる」

「ああ」

包帯(コレ)取っても良い?」

「駄目だ」

「だよなァ。でも、ローはもう船出すつもりだろ」

 

 

 チラリとリオの方を見たローに、「私のこと待つ気ないじゃん」と文句をつけておく。

 

 

「治療費を請求してやってもいいんだが?」

「あ〜ァハイハイ、職失って素寒貧の元海兵をいじめて楽しいかね。まァ、使ったもんの補填くらいはするさ、七武海になったらサカズキさんにでも請求しといて。あの人のせいだし」

「遠回しにおれを殺そうとするな」

 

 

『まだ見ておくものがある』

 

 

 そう言って提案を断ったリオに、ローは特に何も言わなかった。

 

 

「やらなきゃいけないことが残ってるんだ。私がどんなふうに成れ果てたとしても、これだけは成し遂げなきゃならない」

「ああ、待たせたな。また、迎えに来い。先走るなよ」

「うん」

 

 

 頷いて、リオはズキリと傷んだ胸に笑った。この痛みが愛おしいと思えるくらいには、リオはただの人間だった。

 

 

「にしても、顔ぐらい見たっていいでしょ。これじゃ何の為に目を残したのか分からないなァ。……次いつ会えるか分からないし。あーあ! ローにもっと私との出会いを喜んでくれる甲斐性があれば今の私でも視れるかもしれないのに」

「気味の悪い事を言うな」

「君の顔が見えなくなるのは惜しいと言ったんだ。ローも、私の瞳が見えなくなるのは惜しいだろ?」

 

 

 ハ、と軽く鼻で笑ったローは手にしていた麦わら帽子をリオに手渡した。

 ふふ、と笑ってリオは立ち上がり、そのまま振り返って女人国とを隔てる幕を超えていく。

 二人にさよならは不要だった。別れなんて腐るほど経験しているし。

 リオが会いに行く限り、途切れないものだと知ったから。

 

 

 じゃあね〜なんて、昔から変わらず純粋な白くまの声に片手を振って、リオは女ヶ島の森に入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 破壊の跡を追えば、二人は簡単に見つかった。お互いボロボロなのに、まだ傷の浅いジンベエがルフィを背負おうと四苦八苦している。苦戦しているのは身長差と、ルフィの側が腕にほぼ力が入っていないのもあるだろう。

 

 

「手を貸そうか」

 

 

 暴れたせいか開けた場に踏み入って、リオはこちらを向いてアングリと口を開ける二人に口角を上げる。

 

 

「お前さん……メルリオール准将、いや、少将か! てっきりあの時……」

「リオ! うわァァ、リオ!」

 

 

 ドタバタと騒がしい。体を動かしたルフィがジンベエの背中から崩れ落ち、それを咄嗟に支えようとしたジンベエが倒れ込んだ、といったところか。

 リオの方から近付いてやれば、ルフィは腕を伸ばしてリオに触れてきた。

 

 

「イテテ、なんで私の頬を伸ばすのさ」

「生きてる!」

「そうだな」

「でも、胸に穴が……それに、その目はどうした。後でやられたのか!?」

「いや、これは違う。怪我はしてない」

 

 

 首を振って、片手に持っていた麦わら帽子を差し出した。頭に載せてやろうと思ったが、少しズレたかもしれない。

 

 

「お前さん……トラファルガー・ローの船におったのか。腕がいいとは思っとったが、まさかあの傷で生きとるとは」

「まァ仕込みがあって……説明すんの面倒くせェな。あ、こらルフィ」

 

 

 ジンベエによじ登って、リオと視線を合わせようとしたルフィにしゃがんでやれば、「見聞色か」と納得したような声が上から振った。

 

 

「こりゃ、聞いていた以上に精度が高いのう」

「聞いてた? あァ、そうか白ひげか」

「リオ! リオ!」

「はいはい」

 

 

 今のリオに視線は意味をなさないのだが、呼ばれた通りに顔を向ける。

 

 

「何から聞きたい?」

「そういう意味じゃねェぞ」

「そう? じゃあ一方的に謝罪をしておこう」

 

 

 唇を湿らせて、血の味の滲んだ喉を開く。

 

 

「私は君の船に乗る未来を視て、その直後にエース処刑の未来を視た。だから、その前後で行動理由が違う、んだと思う。自分の中でも、まだ整理できてないんだけどね。最初は何も考えず、衝動で船に乗った。その次に、あの場に参加することを目的にしたのかな。エースを解放出来るだろう君が力をつけて、ちゃんとこの戦争に参加するように。私が、確実にあの場面に立ち会えるように」

 

 

 だから彼らの旅路を見守っていたし、強敵を前に必要最低限の手出ししかしなかったし、危機感を煽るように手酷く裏切って、ついでにそれを手土産とした。

 

 

 メルリオールは海兵の立場に囚われてはいたが、同時に戦力外の海兵だった。電伝虫で一本、「海軍が勝つ」と宣言するだけで御役御免の。

 誰も東の海のあの島から連れ出さない。自分の足で出頭し、かつ、目の届く場所に置いておかなければならないと判断されないと、あの場に行けない。実際には、リオが何をしようとしているか悟った父が理由をくれたけど。

 

 

「ごめんね、私は()()()()()()()()()()()んだ。私にとっては、誰の心も等しくて……。君のことも、この戦争で死んだ海兵のことも、海賊たちのことも、まだ出会ったことのない人も、ずっと傍にいた人ですら。私が人に線を引くとしたら、それは『視える』か、『視えないか』だ。私以外の誰もが、心という贈り物を私にくれている。そうである以上私にとっては誰もが大切で……、同時に、誰も大切じゃない。だから、私は酷く冷徹にも見えるだろうし、馬鹿なことをしているようにも見えるだろうし……。君に、不義理をした」

 

 

 誰もが傷つかない道があるのなら、それが最良だ。リオだけが傷ついて終わる話なら、それでもいい。けれども、この世界はそんなに優しくは出来ていなくて、動く度に誰かが血を流す。

 その傷に、リオはちゃんと向き合えていなかった。

 

 

 首を振って、リオは「君の船に乗せてもらうの、やめたから」と続けた。

 

 

「元々、ただ視えた未来に従いたくて乗っただけだ。もうこれに振り回されるつもりもないし、最後にしたい」

 

 

 だから、と言いながらスルスルと包帯を解いていく。目線は下に落とした。余計なものが視えると困る。

 幸い、少し視えた限りでは修行に励む程度のものだった。

 

 

「君に私を誘うつもりが少しでもあるなら、今すぐか、遥か遠い未来にしてくれ。私は一度頷いて、その後首を振る。君の船には乗らない」

 

 

 それで、リオの視た未来は凡そ清算される。そうしたら、きちんと今に向き合って生きてみたい。

 

 

「船乗らねェでどうするつもりだ。海軍に戻んのか?」

「いやァ。無理だよ、帰ってくるなと言われてる。もう未来を視る気のない私は、彼らからしても用済みだろう」

 

 

 思い返せば頂上戦争の開戦前、養父は珍しく雑談としてリオに未来を聞いた。その時、『最後だろうから』と添えて。

 ローに回収されるリオを阻まなかったのが最後通牒だろう。

 

 

 リオは、もう海兵ではない。そのように生きる事はできない。世界の仕組みという奴に絶望した時点で、正義を背負う資格を失っていたのだろう。

 『メルリオール』がまだ生きて言葉を発していたこと自体がそもそも間違いだった。とうに死んだ骸をリオが後生大事に引き摺って、形も分からない癖にそれを真似して、自分をその死体だと思い込んで、中身が無いままに意味の無い言葉を垂れ流していたに過ぎない。

 

 

「これからは、そうだな。一つ、残った仕事があるんだけど。それが終わったら、人の寄り付かない絶海の孤島にでも住んでみようかな。私は今まであまりにも過去と今を蔑ろにしてきた。もう未来に囚われるのはおしまいにして、今まで受け取ってきたものにちゃんと向き合いたい」

 

 

 リオの言葉に嘘が含まれていないことくらいは分かるだろう。ルフィの手がリオの頬に触れて、目を合わせるためにグイ、と持ち上げられる。慌てて目を閉じても、ルフィの口がへの字に曲がったのが分かった。

 

 

「お前はおれの船に乗るぞ」

「ふふ、ルフィも未来視ができるの?」

「できねェ! 未来なんて知っても面白くねェし。おれはおれのやりたいように生きるし、何かに従うなんてまっぴらだ」

「うん。私もそう。だからここでおさらばだ」

「やだ!」

 

 

 じんわりと伝わる感情に、リオは懐かしいものを感じて小さく笑った。

 

 

「君が私に、そこまで情があるとは思わなかったな」

 

 

 エースの弟か、と噛み締める。エースは、あの子はリオの感情が見えていたのだろうか。

 

 

 ルフィにとってリオは、当然船に押しかけてきて、いつかこの船に乗るんだと勝手にほざいてる、宙ぶらりんな存在だったはずだ。なぜか海賊をやっている、海兵の女。何を見ても楽しそうにしない、冒険に心躍らせることもない、まともに戦いもしない半端者。目的地まで相乗りしている、余所者。

 最悪のタイミングで裏切って、その割に結局何も成し得なかった。

 

 

 では、何故彼はリオを船に乗せたのだろう。

 

 

「目ェ開けろよ」

「できない。もう未来は視たくない」

「いいだろ視えたって」

「君ねェ……あ、こら!」

 

 

 無理矢理開かせようとするルフィに抵抗していれば、隣で分からないなりに話を聞いていたジンベエがワタワタとルフィの手を引いた。

 

 

「ルフィくん、嫌がっとろうが」

「いいから開けろ〜〜! 大事な話する時は目ェ見て話せ! あ、わ!」

「ルフィくん!」

「ッと」

 

 

 暴れすぎてジンベエの体から滑り落ちそうな所を慌てて支えれば、思わず開いた瞳にほど近いところで、ルフィは「シシシ」と笑った。

 麦わら帽子の男の子。リオのやんちゃな義弟(おとうと)が、少し大人びた顔で話す小さな子供の話。泣き虫で、無鉄砲で、人の話を聞かない手のかかる弟。

 顔を見ても、リオの未来視はあの時の光景を写さなかった。

 

 

 そっか、と笑う。

 

 

 東の海で麦わら帽子の海賊旗を見た時、リオは慌てて荷物をまとめて船に飛び乗った。逃しちゃいけないと思った。

 あのまま朽ちてはいけなかった。海に出なければならなかった。これが最後の機会だと思った。この子なら、リオを引き戻してくれるのではないかと期待した。

 

 

 だって、彼は。彼らの船は、出会う人々すべてを笑顔にしていく夢の船で。リオが望んだ『メルリオール』は、そういう人間だった。

 

 

 あの子の弟なら間違いはない。あの子にそうしてやれなかった分、せめて、あの子の宝物だけは。リオにだって、弟をどうやって慈しむべきかは分かるはずだから。

 

 

 あれは別に、いつもの未来視ではなかったのだ。リオに自分の未来を視る力はない。だから、きっとあれは……。

 

 

 あれは、リオが『こうなりたい』と、ただ願った夢なのだ。

 

 

 彼は他人の夢を笑う人間でも、無碍にする人でもなかった。それだけの話。

 

 

「おれにお前の未来は視えねェけど、自分の未来ならずっと視えてるぞ!」

「……うん。うん」

 

 

 人は誰にだって、未来を思い描く力がある。

 

 

 ああなりたい、こうなりたい。人が未来に描く予想図を、『夢』と呼ぶ。そこには光があって、音があって、匂いですらあるだろう。

 

 

 誰に強制されるでもなく、ましてや神からの言葉でもなく。人はいつも自由に夢を語っていた。

 

 

 自分の未来を視るために、特別な力なんか必要ない。

 

 

「おれは、夢を叶えるために海に出た!」

「うん」

「お前だってそうだろ。自分で選んで、海に出た」

「うん」

「座って待ってれば叶う未来なら、お前はずっとあの島に籠ってればよかったんだ!!」

「そうだね」

 

 

 けれどもリオは、ルフィの船に乗った。いつか絶対に誘われるんだと言いながら。絶対なら、リオは何もしなくても良かったのだ。

 

 

「お前の夢なら、おれは叶えてやれる。だから、おれの夢はお前が叶えろ!」

 

 

 すっと息を吸ったルフィが、唇を強く噛み締めた。

 

 

 

「おれは、海賊王になるんだ!!!」

 

 

 

 偉大なる航路を外れた凪の帯の島の奥で。たった3億程度の海賊が夢を語った。

 

 

「先は長いぞ、ルーキー」

 

 

 覇気はお粗末、仲間は散り散り、船も遠くに置いてきた。新世界の壁は分厚く、足りないものはいくらでもある。

 指折り数えたリオに、ルフィは真っ直ぐ手を差し出した。

 

 

「ああ。だから、一緒に叶えてくれ」

 

 

 動かずに、リオはその傷だらけの掌を見つめた。

 

 

 この手を取る資格が、リオにあるだろうか。

 

 

『お前、おれが死んだ後でもいい。ルフィの……あいつの船に戻れよ。今度は……ちゃんと、さ。楽しそうだったぜ』

 

 

 全部投げ捨てて、自分の為に生きる権利が、リオにあるだろうか。

 

 

 答えはノーのはずだった。

 メルリオールという海兵ならば、そう答えなければならなかった。

 

 

「本当に、私の夢を叶えてくれる?」

「ああ」

「助けてって言ったら、助けてくれる?」

「当たり前だろ」

「私の大事なものを……。一緒に、大事にしてくれる?」

「しつけェぞ。仲間ってそういうもんだろ」

「大変だよ。その道じゃあリオは狂犬って評判だったんだ。わけわかんないことばっかするし、無差別に周囲に噛みつくし、全部大事にしたいのに、何が大事なのかすら分かってない」

「ああ。それで?」

「それで……。私は強くもないし、頭も悪いし、小さい頃の甘っちょろい夢を馬鹿正直にずっーと掲げて、現実も見れてない奴なんだ」

「同じだろ、おれと」

 

 

 静かな声に、唇を噛み締めながらその少年の顔を見上げた。

 

 

「だからみんなでそれをホントにしようとしてるんだ。ゾロ、ナミ、ウソップ、サンジ、チョッパー、ロビン、フランキー、ブルック。みんな同じだ、リオ」

 

 

 目を逸らすなと言われているようだった。名を挙げられた仲間たちと共に、少年がリオの横をすり抜けて走り出す。かつてメルリオールがこの海にその名を刻んだように、これからは彼らがその後を駆け抜ける。新しい時代の風が吹いていた。この海で生きる以上、無視できないものだ。置いて行っても良かっただろうに、その手はリオに向けて差し出されている。

 

 

「お前はずっと、夢を見てる奴の顔をしてた。なあ、リオ」

 

 

 

 船、乗るだろ?

 

 

 

 リオの顔を覗き込んだ船長は、いつもの通り、ニッコリと満面の笑みを向けた。

 

 

 その一言で、思い浮かんだいくつもの言葉が掻き消えていく。無遠慮に、強引に、今リオの頭の中が暴かれた。見守る対象だったはずの少年が、その才能を開花していく。

 

 

ワン(イエス、キャプテン)

 

 

 小さく呟いて、リオは差し出された手をそっと両手で包んだ。

 何て単純な夢だろう。頂上戦争を一と数えるなら、何とこれで百回も失敗したことになる。でもきっと、無意味じゃなかった。百辺グルグルと同じところを駆け回って。

 

 

 リオはようやく一つ、夢を叶えたのだ。

 

 

 

 





これにて第一部、[完]。

麦わらの一味を名乗るなら生半可な理由じゃ許せないカナ……。1回ボロクソに折れてそれでも踏ん張って堂々と夢を語ってくれないとネ……。の前編としての第一部でした。『堂々と夢を語る』は後編にお預け。


この後次の章に繋がる短い話があって、残りは第二部が二章構成の予定です。

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