未来が視える元海兵が麦わらの一味について行く話   作:テロン

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迷子と失策と友人

 

 

 

 

「敵対するつもりは、なんじゃったか?」

「や、それはゾロが……!」

「いくらなんでもやりすぎだ! おれ達ァ威嚇して逃げるつもりだったんだよ!」

 

 

 瞬きの間に──というほどでもないが、戻ってきたゾロが暴れまわり、他のみんなもちょっとだけ……という感じで反撃していると、なんと竜宮城を制圧してしまった。

 

 

 とっても叛逆者っぽい。なんて、刀を抜いたまま思った。ちゃっかりリオも攻撃してしまったので同罪である。

 

 

 ただの悲しい誤解だ。リオはあんまり悲観的ではなかったし、重く捉えても無い。未来視に振り回されるつもりがもう無いというのもあるし、思ってた以上にみんなが強くなっていてご満悦というのもある。竜宮城の兵士たちだって訓練を積んだ魚人たちなのだ、2年前だったら相当苦戦しただろう。

 

 

「む、そのマントの『M』の字……」

「ん?」

 

 

 ニコニコしていたリオはネプチューンの声に振り返った。相手は山のような体躯なので、礼儀として見上げる体勢になる。

 

 

「その白いマント、容貌が変わっていて気付かなんだが……おぬしもしや、海兵の『狂犬』メルリオールか?」

「リオのこと知ってるの?」

「ちょっと、ナチュラルに返事しないでよナミ! それ昔の話でしょ!」

「海賊『メルリオール』と同一人物じゃったとは」

「あー、まァ……」

 

 

 本名ではなく偽名の方で出ているらしい手配書の事を思い出し、リオは曖昧に頷いた。

 

 

 もうリオは周囲にメルリオールとは呼ばせていない。それは過去のもので、もうリオが背負う気は無いからだ。

 だとしても、未だリオは『メルリオール』としての方が名が通っていた。

 

 

「未来視の出来るおぬしがノコノコとこの城に姿を現した……ふむ、確かに気になるんじゃもん」

「すごい、単に考えなしなだけだったのにいい感じに捉えてくれてる!」

「黙ってなさいアンタ!」

 

 

 パチ、と口を塞がれた通りにリオは押し黙った。

 というかもしかして、白ひげたちは何処でもメルリオールの話をしていたのだろうか。ジンベエも話を聞いていたようだし、と2年前に少し言葉を交わしただけの元七武海に思う。

 彼には個人的に謝罪しなければならないこともあって、出来れば早く合流したいのだけど、一体何処にいるのだろう。

 

 

「ともかく、あたしたちは魚人島を滅ぼそうなんて思ってないわよ」

「もう魚人島にはいられねェな……サニー号はどこだ? すぐに船を出そう」

「でもサニー号はこの島に突入した時コーティングが取れちまったぞ!?」

「というかマントの模様って?」

「あら気付いてなかったの? 黒で四本線が走ってて、アルファベットの『M』みたいになってるわよ」

「あァ……なるほど、それで『メルリオール』で手配されたのか」

 

 

 ナミから離れたリオは、少し逡巡してから刀を仕舞った。メルリオールとは、リオの偽名であると同時に、生き方や正義の名前だった。

 マントの送り主は、正義を背負わなくなっても『メルリオール』であった過去を捨てられはしないと強調するつもりで、Mの模様を入れたのだろう。今の今まで気付かなかったリオもリオだが、彼も彼だ。

 

 

「もう『海軍のリオ(メルリオール)』じゃ、ないんだけどな」

 

 

 『リオの正義(メルリオール)』を捨てたリオには、未来視も海兵という立場もいらないのだ。それでも手配書は、『メルリオール』の名を掲げている。そしてきっと、リオ自身心の何処かでその事実に安堵していた。

 多分、だからこそこのマントにはMが刻まれ、海賊メルリオールが手配されているのだ。

 

 

 呟いて、リオは部屋を出ようと振り返った。

 

 

「ルフィが心配だから、ちょっと探しに行ってくるね。変なことしてないといいけど」

 

 

 みんなの意識が何か──リオに聞こえなかった──に逸れた隙に、リオは広間を抜け出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うーん。こりゃァ……やらかしたかな」

 

 

 竜宮城内をいくら探ってもルフィの気配がなく、リオは突貫でシャボンを自分の顔の周りにコーティングし、捜索範囲を広げて泳ぎ回っていた。魚人島にはシャボンの出るサンゴがあるのだ。見た目的に嫌なものを思い出すので、この方法だけはしたくなかったが仕方あるまい。

 

 

 暫く探し回っても、城の者だろう気配はあるが、やはりルフィのものはない。どうやら入れ違ったようだ。ルフィのことだから、何か別のことに興味を惹かれて勝手に何処かへ向かってしまってもおかしくない。

 

 

「どうしようかな。このまま探しても意味なさそうだし、いっそ街に戻るか」

 

 

 水を蹴るようにしてともかく下を目指す。竜宮城まで運ばれた記憶を振り返る限り、これでいいはずだ。広間の方では何やら戦っているような感じもするが、残ったみんなの強さならさして問題ないだろう。

 

 

「ッ、なんだ?」

 

 

 横合いから何かが超スピードで突っ込んでくるのを察して、刀を抜く。

 

 

大通連(だいとうれん)・曙!」

 

 

 大振りに斬り上げるような斬撃が、リオの体より大きい何かを砕いた。ついでにシャボンも裂いたかもしれない。上に、魚人が一人乗っている。海中の乗り物のようなものだろうか。何処かへ行く途中だったようだ。

 

 

「んお?」

「一般人じゃなさそうだけど、竜宮城の衛兵……でもないな?」

 

 

 少なくとも広間にはいなかった人物だ。だとすると、今ゾロたちと小競り合いをしている魚人の仲間か。

 水中の魚人は陸上の何倍も強い。油断なく刀を構えるも、攻撃が飛んでくることはなかった。

 

 

「なんだ、人間か……邪魔をしやがった……ハズだ!」

「あァ……なんか魚人なのに動きが鈍いと思えば」

 

 

 なるほど、魚人だとそうなるのか。

 

 

「能力者か。何処に行こうとしてたかは知らんが、溺れて死ぬことはないんだろ? しばらくそこで頭冷やしてな」

 

 

 人魚や魚人が能力者になると、水中で呼吸が出来るのに変わりはないが、人間の能力者と同じく泳げなくなるらしい。乗り物に乗って何処かへ向かう途中だったようだが、海中で撃墜されると救助が来るまで動けない、と。

 

 

 やはり妙な集団が城を襲っているな、と理解したリオは飛んできたやつを適当に蹴飛ばした後、広間には引き返さず一路街を目指した。

 

 

 

 

 

 

 

「マズイなァ……どんどん違う道に迷い込んでる気がするなァ」

 

 

 サンジ、チョッパーを置いていったマーメイドカフェの辺りまで戻ってきたが、二人の気配すらない。

 何処に行ったんだろうか。もうとっくに回復して移動しているのか、リオたちと同様マダムの占いによって店を追われたのか。

 

 

 何やら表通りがザワザワとしているのを、建物の裏から伺いながら息を吐いた。

 

 

 生き方を変えたとはいえ、未来視を元に先手を打って必要な場所へ駆けつけていた頃の癖が抜けていない。なんなら2年間単独行動していたのもあってつい一人で飛び出してしまった。

 今は何も視えてないし分かって無いのだから、せめてもう少し情報把握に動くべきだ。今から上にある竜宮城に戻るのは骨が折れるし、かと言って島内に心当たりもない。

 

 

「あーあ、間違えちゃった。どう考えても、城の賊を片付けてからみんなで一緒に探しに行けば良かったなァ……」

「賊?」

「え」

 

 

 思ったよりも近くの気配にリオは慌てて飛び退いた。刀の柄に手をかける。制限しているとはいえ、リオの見聞色をすり抜ける人物など、並大抵の相手では……。

 

 

「なんだ、お前か」

「お前とはご挨拶ね」

 

 

 メルちゃん、と笑った知り合いにリオは肩の力を抜いた。

 

 

「なんでここに居る、クザン。まさかロビンのストーカーか?」

「滅多な事言わんでよ。これでもここまで来るのに苦労したんだから」

 

 

 メルちゃん電伝虫出ないし、と続く言葉にリオは肩を竦めた。慣れた冷気が空気を伝い、独特の緩い空気が場を弛ませる。

 

 

 海軍大将青雉──だったのは過去の話だ。この男は大将の座をサカズキさんと争った後、海軍を去った。奇しくもリオと似たような立場ではあるが、彼の現状についてはリオも詳しくない。

 

 

「それは悪かったな」

「あァ……もうメルちゃんって呼ばない方がいいんだったか?」

「気にしないでいいって言っただろ。今更別の呼び方される方が変な感じだ」

 

 

 クザンとはこの2年間の間に一度だけ接触をした。思い切り胸に穴を開けて姿をくらましたリオが生きていることは彼もビブルカードで承知の上で、加えてリオはルフィと共に戦争直後のマリンフォードに舞い戻っている。

 様子を見にきた、以上の理由がありそうだったクザンは、目と耳を塞いだリオに安心したようにへらへらと去っていった。良い友人を持ったと思う。

 

 

 マーメイドカフェで取り出したリオのビブルカードケースには、クザンのものも収まっている。あの時は頭上を指していたから、この数時間の間に新世界側から入島したばかりなのだろう。

 恐らく、麦わらの一味復活の報を見て。

 

 

「随分派手にやったらしいじゃないの」

「前より慎ましやかだろ」

「嘘つけ。どうせ全部吹っ切れたような態度演じて、から回ってるんでしょ。そゆとこ真面目なんだから」

「おいうるさいぞ」

「今も思いつきで適当に行動して進退窮まってるんだろうし」

「事実でも言っちゃダメなことってあるんだからな! で、わざわざ何の用?」

「礼を言ってほしいぐらいなんだけどねェ、こっちは……」

 

 

 ほい、と軽く投げ渡されるものを受け取って、リオは形を確かめるように撫でた。耐水加工はしてあるようだが、封筒のようだ。

 

 

「メルちゃんのお望みの情報ね、それ」

「……読めないんだが?」

 

 

 サングラスに触れたリオに、クザンは首を振って「タダじゃあ……ねェ」と伸びをする。

 

 

「はァ? ちょっと見直したのになァ」

「メルちゃんが昔みたいに可愛い口調で話してくれたら、ここで読み聞かせをしてやってもいい」

「弱ってた時のこと容赦無く突くなァ……。お前を甘やかしてどうすんだよ。やだね、気持ち悪い」

「ちょっとはオジサンを喜ばそうとかないのかね、この子は」

「本気だったら考えてたよ」

「あららら」

 

 

 全く残念そうに見えないクザンは、手の甲でリオが抱えた封筒を軽く叩いて、「まァ、元気そうで良かったよ」と呟いた。

 

 

「ちゃんと自分の心に従って生きろって言われたんだろ? ならそれは、仲間に読んでもらいな。今なら出来るだろ」

「まァね。……ありがとう、クザン」

 

 

 片手を振って去っていくクザンを見送る。気配が消えた後、リオは封筒を懐に仕舞い、シャツの上から撫で下ろした。

 

 

 こうやってずっと、甘やかされてきたのだろう、と考えながら。

 

 

 

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