未来が視える元海兵が麦わらの一味について行く話   作:テロン

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誤字報告、非常に助かります。ありがとうございました!

しばらくは2、3日に1回くらいのペースで投稿出来そうです。


砂漠と煙草と家族

 

 

「海軍が来てるね」

「え」

「まあ、騒ぎを起こさなきゃ大丈夫でしょう」

 

 

 いやいや、と首を振った一行が影も形も見えなくなった船長の向かった先を指差した。

 アラバスタの港町、ナノハナ上陸直後の一幕である。

 

 

「ま、まあ、ここには元々必要物資の調達で寄っただけだから! 早めに買い物を済ませて船を出しましょう」

「それなら私はすぐに出航できるように船番してるね。海軍に顔を見られてルフィと結び付けられると困るし」

 

 

 そうね、と頷いたナミが財布の中身を確認しながらあれこれと頭の中でそろばんを弾いている。

 

 

「ビビ、店の案内をお願いできる? なるべく手分けして早めにあのバカを回収しましょ。リオは状況みながら船をよろしく」

ワン!(イエス、マム!) でも、なるべく目立たないようにね」

 

 

 とは言ったものの、彼らが街に入った途端、リオは戦闘の気配を感じ取った。どちらも本気の戦いではなさそうだが、慌ただしく動き回るいくつもの気配。これは海軍に見つかったかな。

 確か、アラバスタに大規模な駐在兵は無かったと思うけど。と記憶を辿ってみたものの、管轄外の海域の配備までは流石に記憶になかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 案の定海兵と揉めた一行が大荷物片手に船に飛び乗って来た。すぐさま出航し、追ってきていたのがローグタウンで出会ったスモーカー率いる兵であること、またルフィの兄が現れその足留めを買って出たことを聞いた。

 

 

「お兄さんも海賊なのね」

「エースは強いんだ!」

 

 

 どのくらい強いか、と語るルフィに一味と一緒に頷きながら、ルフィの兄……と顔を顰める。

 

 

「まあ、次やったらおれが勝つけどな」

「誰が誰に勝つって?」

「あ!」

「げ」

「ん?」

 

 

 潰れたカエルみたいな声を出した女を気にしてか、メリー号の欄干に足かけた男は、テンガロンハットを持ち上げながら不思議そうにリオを見た。

 

 

 その目が溢れんばかりに見開かれていく。

 

 

「マジか、久しぶりだなァおい! ()()()()()()()()!」

 

 

()()だって言ってんだろうが!」

 

 

 すかさず怒鳴り返した後、リオはわざとらしく「コホン」と咳払いしてリセットした。

 

 

「あー、やっぱりお前か。今でも脳味噌が揺れてる気がする〜」

「ん? なんだ、どうしたんだ。お前本当にメルリオールか? いや、つーかなんでオヤジのグラグラくらって生きてんだよ毎回! おかしいだろ!」

「あーあ。そうか、そうかこうなるかァ」

「なんだリオ、エースと知り合いか?」

 

 

 弟が親しげにリオに声をかけたのに驚いたのか、エースは目をかっ開いてルフィを自分の方へ引き寄せた。

 

 

「ルフィ! まさかとは思うがあいつはお前の仲間なのか!?」

「仲間じゃないんだ! けど見習いでいいって言うから船に乗せてやってる」

「お前……!」

 

 

 心底呆れたような目で弟を見て、エースは深く溜息をついた。代わりにリオを睨みつけて、「東の海でスローライフを送るって言ってたじゃねェか」とぼやいた。

 

 

「送ってたよ、1年くらい」

「早ェよ、帰ってくんの。いや、帰ってきたわけじゃねェのか。なんか頭おかしくなっちまったとか?」

「だとしたら東の海のせいだろうね」

「いや、お前元から狂犬だろ」

 

 

 肩を竦めて、リオは話についていけてない一味に向けてエースを指差した。

 

 

「白ひげ海賊団二番隊隊長、火拳のエース。懸賞金は……5億くらいだっけ?」

「どうだっけな」

「あ、白ひげって知ってる?」

 

 

 リオの問いにエースはムスッとしたが、それを打ち消すぐらいルフィ以外はブンブンと頷いた。

 

 

「白ひげの船になるべく近寄って、威嚇射撃して帰るのも仕事のうちだったりするんだよね、海軍」

「そんなわきゃあるか! てめェだけだそんなん、命令違反上等の狂犬がよォ」

「あーあー聞こえなーい」

 

 

 ぼやくリオを無視して、エースは一味に「ルフィがいつも世話になってる」と頭を下げた。

 

 

「まあいい、メル……狂犬がいるのもこの際いい。いや良くねェけど、おれが首を突っ込むことじゃない。一応、元はお前を誘いに来たんだ、ルフィ」

 

 

 白ひげ傘下に誘うエースを見ながらリオは、これ白ひげに許可取ってるんだろうか、と内心呆れ返った。

 すげなく断ったルフィにそうだと思ったと頷いて、エースはルフィにビブルカードを投げ渡す。

 

 

 いくらか言葉をゾロやナミたちと交わして、最後にもう一度ルフィに声をかけて立ち上がった。もう行くのだろう、嵐のような男だ。

 

 

「ああ、少し待て、エース」

「ん?」

 

 

 ここで大人しく振り返るあたりが白ひげ海賊団に可愛がられる所以なのだろうな、とリオは年数でいえばエースより長く白ひげという海賊を見てきた者として思った。

 

 

 不思議な気分だ。今はリオの方が海賊船のクルーとして立っていて、彼の方は一人で船を離れようとしている。

 もう二度と会うことはないだろうと思っていたのに、リオは今偉大なる航路(グランドライン)にいる。

 

 

「幸運を」

 

「!」

 

 

 他にかけるべき言葉はいくらでもあったはずなのに、リオが言えるのはそれだけだ。この海に取り返しのつかないことは多くあって、リオも数えきれないほどの『取り返しのつかないこと』の果てにここにいる。

 

 

 驚いたような顔をしたエースは、ややあってくしゃりと笑顔を見せた。馬鹿なやつだ。

 

 

「ああ。まあ、お前も。ごめんな。ルフィを頼む」

 

 

 頷いて、エースは小舟とともに勢いよく去っていった。

 

 

「あれホントにルフィの兄貴か?」

 

 

 と疑うクルーの声を尻目に、いつか視た未来の光景を思い描く。

 

 

大口を開けて気絶する少年のすぐ目の前、倒れ伏す見慣れた青年。

 

 

 ……あれ、死んでたよなァ、絶対。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ビビの案内に従って砂漠を超えるも、辿り着いたのは反乱軍の拠点ではなく、既に死んだ街となったユバだった。現在一行は目的を打倒クロコダイルへと変更し、彼が根城としているというレインベースへと向かっていた。

 

 

 ちなみにサンジの買ってきた変装用の衣装を丸っと無視したリオは、相変わらず私物の白いマントを羽織っている。これはリオのトレードマークで、よほどのことでもない限り外すことはない。ルフィの麦わら帽子なんかと同じ枠だ。味方に化けて騙してくる敵がいるとかで仲間の証の包帯を腕に巻いているが、それ以外は長袖のパーカーにショートパンツといつも通りの格好だった。

 些か暑苦しいが、幸いリオは暑いのは得意だ。

 

 

 さて、クロコダイルである。

 

 

 アラバスタの背後で謀略を巡らせているのは彼だという。今のところ、リオの占いはかの七武海については何も告げていない。

 

 

 自然系の悪魔の実の能力者にして策謀家。正直言って覇気の使えない麦わらの一味が相手を出来るとは思えないが、向こうが格上であることは皆承知の上だろう。

 少なくとも、すぐさま誰かが死亡するような事にはならないらしい。リオの占いは対象者が近くにいればいるほど、感情の振れ幅が大きいほど頻度が高くなるので、ここまで一緒に行動して視えないのであればそう大きな事は起きない、と言う事だ。

 

 

 ただどうも、戦闘にはなるみたいだな、と前方に見えてきたレインベースの街並みを確認しながら思った。

 

 

 

 

 

 

 

「まずは水を買わないとね」

「くれぐれもバロックワークスに見つからないように!」

「私もついていこうかなァ」

「ダメよリオは。もし海兵がいたらどうするの。さあルフィ、ウソップ、頼んだわよ」

 

 

 ビビとナミの指示に従って砂漠で失った物資の補充にあたる。既に海兵が街中に展開していたため時間の問題だとは思ったが、案の定買い出しに出たルフィとウソップが海兵に見つかった。

 こうなると直接クロコダイルの元へ駆け込んだ方がまだ勝算がある。

 

 

「レインディナーズへ!」

「待って、全員は向かわない方がいいかも」

「なんでだ?」

 

 

 リオの忠言に、ルフィは首を傾げた。

 

 

「…………いや、いいか! 向かいましょ!」

 

 

 クロコダイルの性格上どう考えても罠が仕掛けられているからだが、それをこの場で説明するより強引に打ち破った方が早い。

 

 

「占いか?」

「違う!」

「おし」

 

 

 短いやり取りの末に、それぞれがクロコダイルの取り仕切るカジノへ向けて駆け出した。

 

 

「ッ、メルリオール!?」

「やあスモーカー、また会ったね」

「ッチ、お前は後だ!」

 

 

 ルフィがご丁寧にスモーカーを引っ付けてきたのには気付いていたが、リオは干渉せずにナミとウソップと共にカジノに向かった。ルフィを追いかけ店内に駆け込んで行く、スモーカーを含む一行の後ろを追いながら、リオは一瞬どうするべきかを思案する。

 

 

 罠にかかるであろう皆を外から助けてあげる方が理にかなっているが──。

 

 

 

バチンと視界が切り替わる。

 

 

 

 目の前に何かを睨むビビがいる。けれどもリオはそれ以上に、背後の檻の中、顔を顰めたリオ自身を確かに見た。

 足を止めずに走り込む。バチンとまた切り替わった景色の中で、さっき視た海楼石の檻がリオたちを閉じ込めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「占いはどうなってるんだよ!」

「私に言われてもなァ」

 

 

 ウソップの言葉をしれっと流して、リオはゆったりと足を組んだ。これがルフィ相手だったら、リオは真摯に謝っていただろう。その辺の機微を察してウソップの目線は冷たい。

 ちなみに、隣には非常に不機嫌なスモーカーが腰掛けている。

 

 

「本当に海賊に堕ちやがったんだな、メルリオール」

「見習いだけどね」

 

 

 海賊に変わりはねェだろ、と煙草を燻らせるスモーカーに首を振る。

 

 

「クロコダイルだって王下七武海。海軍が首輪をつけた事になっている海賊だ。今の私と大して変わらないと思うけどね」

「チッ」

 

 

 ここで舌打ちをするあたり、七武海制度反対派か、とリオは内心呆れ返った。本人を前によくその態度を取れるな。

 

 

「思わぬ獲物が釣れたなあ、メルリオール准将。金魚の糞は辞めたらしいな」

 

 

 何が面白いのかクツクツと笑うクロコダイルは、主賓を待つと言ってのんびりとしている。十中八九ビビの事だろう。リオの占いとも一致している。

 

 

「あなたは相変わらず真面目に世界政府に尻尾を振ってるんだね。同じ忠犬として、親近感を覚えてたんだよ」

 

 

 ワンワン、と両手を犬の形にすれば、右からも左からも、勿論前からも棘のような視線が突き刺さった。

 

 

「ハッ、狂犬がよく言う」

「顔見知りのよしみだ、リオのワン・ポイント占いをしてあげよう」

「あァ?」

 

 

 リオは両手の犬をパクパクと動かした。勿論、煽っている。リオには恐怖心などというものはないし、かといって人を怒らせて楽しむ感性も無いが、准将と呼ばれたことで昔の自分に少し引っ張られているのかもしれない。

 

 

 クロコダイルはリオの事を知らない。何故リオが不相応な地位についていたのか、なんの仕事をしていたのか。能力も、強さも何もかも。

 金魚の糞は言い得て妙だ。殆どの人間は、リオがただ上司の後をついて回る犬っころと思っていただろう。

 

 

「ピエロとはくれぐれも仲良くね」

「とうとう頭がイカレたか」

「狂犬、なんて呼び名をつけたのは海賊(そっち)だと思うけど?」

「違いねェな。海軍本部には面白おかしくお前の顛末を報告しといてやるよ」

 

 

 クロコダイルの視線がつい、と隣のスモーカーに流れた。

 

 

「隣の野犬と一緒になァ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後ビビが連れてこられてから始まったクロコダイルのご高説を、リオは殆ど聞いちゃいなかった。まァどうせ叶わぬ夢である。

 一人檻の外に取り残され、捕まった一味のために奮戦するビビを見ている方がよっぽど建設的だ。

 

 

「ビビ、無理しなくてもいいよ」

 

 

 水に沈もうとする部屋の中でリオは優雅に足を組んでいた。なんで水没しかけてるんだろう。あ、ここで始末する気だからか。

 

 

 ルフィやスモーカーといった能力者は少しでも体が水に触れぬよう、足を椅子の上に上げている。

 もう踝ほどまで流れ込んできた水をなんとなしに蹴飛ばして、リオは最悪床を抜いて能力者を抱えながら泳ぐか、と考えていた。

 

 

「そうだぞ、無理はすんな! でも助けてくれ」

「助けてくれ〜〜死にたくなーい!」

 

 

 バナナワニの巨体相手に這々の体で逃げ回るビビは、食い千切ろうと迫る顎を辛くも躱し、檻を振り返った。

 

 

「みんな! もう少しだけ我慢してて!」

 

 

 助けを呼びに行く、と言い残して、ビビが上階へ向けて駆け出した。サンジとチョッパーを探しに行くのだろう。

 

 

 とはいえ刻一刻と部屋は水に沈んで行く。ナミはなんとかバナナワニに檻を噛み砕いてもらおうとしているが、この檻は海楼石製のようだし上手くはいかないだろう。

 

 

「おい、メルリオール」

 

 

 肝が据わっているのか何なのか、奮闘するルフィたちを気にせず、スモーカーは隣のリオに声かけた。

 

 

「なに? というか、メルリオールって言うの止めてくれない?」

「じゃあ何だ」

「メルリオール()()閣下、とか?」

 

 

 気に入らなかったのか、ギロリと睨まれた。

 

 

「辞めた身で勝手に階級を上げるな、舐めてんのか」

「なら海賊リオでいいよ」

「くだらねえ。なァ、あの女の顔はお前も覚えてる筈だ」

「ああ、ニコ・ロビン?」

 

 

 クロコダイルの後ろに控えていた人物の名前を口にすれば、「そうだ」と肯定が一つ。

 

 

「お前ら何を知っている? クロコダイルとニコ・ロビン、懸賞金7000万オーバーの二人で組んでやる事がただの国盗りとは思えねェ」

「さあ? 知らないよ」

「本当にか? お前も一時は海軍に籍を置いた人間だろ! これは放っときゃ世界中を巻き込む大事件に発展しかねねェぞ」

「悪いけど、七武海の管理もこの辺りの情勢も管轄外なの! しかももう1年前!」

 

 

 これに関しては本当に知らないのでリオは正直にそう答えた。

 

 

「ルフィは何か知ってる?」

 

 

 紆余曲折あれど、ビビを、ひいてはこの国を助けると決めたのはルフィだ。だからそう差し向ければ、振り返って至極当然のように「知らねェ!」と叫んだ。

 

 

「おれがあいつをぶっ飛ばすのにそんな理由要らねぇよ!」

「……そうか」

 

 

 あっさりと引き下がるのを見てリオは少し、スモーカーという男を見直した。海軍で昇進するのは難しいタイプかもしれないが、叩き上げの人間としては理想的だ。正義感があり、固定観念に囚われず常に頭を使える人間。

 

 

 部下に欲しがる人は少なそうだけど、と思いながらまたワーキャーと騒ぎ出したルフィたちに近寄った。

 

 

「あと5秒くらい我慢して」

「とうとう占いか!」

「違うけど」

「違うのか!」

 

 

 ビビとサンジの気配が近付いてくる。無事に助けを呼べたようだ。クロコダイルが釣り餌に本物を使うとは思えないので、なるべく多くのバナナワニを始末してもらってから床抜きかな、と腕を捲った。

 

 

「メルリオール」

 

 

 3度目の呼びかけに、リオは察してその少し前に振り返る。睨まれながらもリオの名前を言い切ったスモーカーは、一瞬視線を彷徨わせた後に咥えていた葉巻を全て抜き去った。

 

 

「──元、准将」

 

 

「…………なに」

「おれァ、あんたの掲げた正義が陰ることはないと思ってた」

「そう」

 

 

 言いたい事は受け取った、という意味で頷いた。戸惑いの中にいるスモーカーに、殆ど交流のなかったリオが伝えられるのはそのくらい。

 

 

「あ、そっか。君と会ったのは私がまだ忠犬じゃなかった時だっけね」

 

 

 懐かしい、と呟けばスモーカーの手の中でグシャリと葉巻が握りつぶされ、消えていった。

 

 

 

 

 

 





お察しかもしれませんが、リオには原作キャラの知り合いが結構います。父と言ってるのが誰なのかも、鋭い方は早めに気付くのではないかと思われます。ないしょにしてね。
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