未来が視える元海兵が麦わらの一味について行く話   作:テロン

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『白鳴』のメルリオール

 

 

 

 

 前方に飛び出て、大軍の後方、ルフィの覇王色を耐え切った魚人たちに向けて攻撃態勢に移る。

 

 

十種神宝(とくさのかんだから)八握剣(やつかのつるぎ)

 

 

 使い慣れた技。だけど、これだけじゃ終わらない。

 耳を塞いでいてもなお、高らかに空を裂く音を知覚する。体表を駆け、空気を揺らし、戦場に己を主張する()()

 

 

「──(グランデ)!」

 

 

 地面に叩きつけた左脚が、バチバチと衝撃波を伴って地面を裂いていく。

 リオの最大の武器は四肢でも刀でも銃でもなく、その異様に発達した覇気だ。2年の修行、そして何より自由意志を取り戻したリオは、自身の覇気を周囲に押し付けることができるようになった。

 

 

 地割れに飲み込まれた魚人たちの上で、リオの掲げた刀が光る。

 

 

「大通連・暁──震!」

 

 

 始めに作ったひび割れと十字になるように下された斬撃は、途中で細分化した稲光となって見聞色で捉えた個人個人へと降っていった。

 

 

 戦場を白い稲妻が駆け巡る。リオの二つ名、『白鳴』の意味するもの。真白い閃光を引き連れて、晴れた空に雷鳴が轟いている。

 この稲光だけが、目を封じたリオに知覚出来る光景。かつて、リオにしか視えなかった雷霆。

 

 

 地を砕き、肉体を切り裂き、縦横無尽に駆け巡る。

 

 

 人の感情が波形を描くのであれば、()()()()()()()()()()()

 

 

 ()()()()()()()()()()は、その光景から()き雷()と名付けられた。

 

 

「……ん?」

 

 

 一味の誰もが、2年前より格段に強くなった。圧倒的な戦力差をものともしていない。このまま充分に押し切れるはず、と思った所で、島民や一部の敵の意識が空に逸れた。

 

 

「何あれ!?」

「ノア!?」

 

 

 刀を仕舞い、一番近くにいたナミの元へ駆け寄る。今のリオだと、人に聞いた方が手っ取り早い。

 

 

「どうかした?」

「リオ、それが、空から巨大な舟が降ってきたの……! このままじゃ、シャボンが割れて島が滅茶苦茶になっちゃうわ」

「ありゃ、魚人街にあるノアという舟じゃ。だが……あれほどの舟、動かせる動力があるなど聞いたことがない!」

 

 

 ジンベエの言葉を考える隙も無く、空から巨大な人間が広場に降ってきた。自由意思というより、投げ飛ばされたような感じで。確か、魚人島に来る前に出会った気配だ。その時場にいたのは──。

 

 

「バンダー・デッケン!」

「まさかあれは、マトマトの能力か!」

「マトマト……?」

 

 

 復唱したリオは、嫌な予感に冷や汗を垂らした。移動系の能力者──というより、能力の行使による副次的な移動。竜宮城内で適当に転がした魚人の能力者。確かにどこか覚えのある気配だとは思っていたが、あの時のゴースト船か。

 

 

「ご、ごめーん、私のミスかも! 蹴っ飛ばして空気のあるとこに落としちゃったかな。で、そのバンダー・デッケンの狙ってるものって?」

「しらほし姫じゃ!」

「オーケー、ジンベエは広場をよろしく。……ルフィ!」

 

 

 大声をあげ、背後のサニー号へ駆け上がる。

 

 

「リオ! お前、いけるか?」

「止めるだけならいけると思う! ただ、それだと重力で落ちてくる……!」

「分かった! よわほし、今行くからそこ動くなよ!」

 

 

 マストに足をかけ、空を駆け上がって行く。近付けば、嫌でもその巨大な舟体を感じられた。ゆっくりと魚人島へ向けて落下していく。

 今止めるわけにはいかない。しらほし姫の誘導に沿って一度舟を島から離さないと。舟から伸びる鎖に捕まって、リオは舟とシャボンの位置を確認した。やはり、シャボンが大きくたわんでいる。

 サンジに飛ばしてもらったルフィが、リオの近くにへばり付いた。

 

 

「リオ、ホーディが後ろにしがみついちまってるの分かるか!?」

「うん」

「おれはあれを何とかする。リオはよわほしについてやってくれ」

「了解」

 

 

 頷いて、再び空を蹴る。魚人島のシャボンは多重構造になっているとはいえ、これ以上ノアが落下すればシャボンが割れてしまう。魚人たちは死にはしないだろうが、深海にあって光差すこの島は失われてしまうのだ。

 

 

「しらほし姫、竜宮城との連絡通路は通れるか!?」

「は、はい。リオールさまですね。今向かっております!」

「リ……?」

「違いましたか? メル・リオールさまと伺っておりましたが……!」

「あァ……惜しい! メルリオールは本名じゃないし、メルも苗字じゃ……まァいいや。よし。船を持ち上げたら、そのまま横に泳いでくれ。……っと!」

 

 

 銃を抜き、飛んできていた短剣を撃ち落とす。デッケンがノアの甲板で姫を狙っているのだ。

 

 

「通路に入ります、リオールさま、シャボンを!」

「ああ」

 

 

 しらほし姫に捕まったまま、シャボンの出るサンゴで空気を確保した。連絡通路に突っ込んだリオたちは、すぐさま外海へと抜けて舟を引き剥がしていく。

 

 

「あれは……」

「お兄様方!」

「王子たちか!」

 

 

 流石に海中で銃弾は頼りない。デッケンの追撃をどう捌くべきかと躊躇したリオの前に、二人の王子たちが姫を守るべく割って入った。

 

 

「父曰くあのノアは傷付ける事も許されぬ舟ラシド! したがってどこかにぶつける事なく海底へ戻さねばならない!」

「なんだって!?」

 

 

 既に海溝にぶつかりそうなノアに、リオは口を挟んだ。

 

 

「む、君は……」

「リオ。ルフィの仲間だ! 私ならあの能力を解除出来ると思う。ただ、移動するなら早くしろ。能力者が意識を失えば能力は解除されるぞ! そうなれば再び島に落下して全部おじゃんだ!」

「わかりました、海底へ誘導すればいいのですね!」

「ぶつからないようにだ! なるべく上を目指せ!」

「横! せめて直撃コースを避けてから上に!」

 

 

 王子とリオの言葉に頷いたしらほし姫と別れ、リオは近付いてくるノアに向き直った。ルフィも、ホーディも、同じようにノアの甲板を目指している。

 

 

「ホーディを止めて、ルフィ!」

 

 

 リオの声に、ルフィの腕がホーディを捉えた。海中故に威力は落ちていそうだが、リオが間に合った。シャボンに包まれた舟体に降り立ち、同じく甲板に立っていたデッケンと向かい合う。

 

 

「お前は、竜宮城で邪魔をした人間……のハズだ!」

「さァ、後は綱引きの時間だ」

 

 

 目の前のデッケンには目もくれず、甲板に足をつけたリオは覇気をノアに注ぎ込み始めた。

 

 

 バチン、バチンと、舟体をリオの代名詞となった白い稲妻が駆け巡る。

 2年前まではリオの頭の中にだけ響いていた音。それが今、誰の目にも見える形となって表出している。

 

 

 相変わらずしらほし姫を追うノアが、ガクンと速度を落とし始めた。リオの覇気が能力を封じ込めているのだ。これが能力による『攻撃』である以上、覇気で干渉出来る。船尾の方に偏らせ、舟体を水平に持っていく。

 このまま島から引き剥がし、安全な海底まで下ろしてから能力者を気絶させれば良い。

 

 

「貴様、一度ならず二度までも……!」

「デッケンは殺すなよ! 昏倒させるのもダメだ。意識を奪わない程度に生かしておけ!」

「無茶を言うな!」

 

 

 リオに襲いかかったデッケンを、間一髪で二人の王子が阻んだ。彼らも実力者だ、任せておいていい。

 問題は、とルフィの方へ意識を向ける。もう一人の王子が付いているようだが、海中の魚人相手は骨が折れるだろう。

 

 

「この雷、舟体に影響はないんだろうな!?」

「た、ぶん!」

「多分じゃ困るんだソラシド!!」

「未知の舟の耐久なんかわかるかァ! ──ッ!」

 

 

 ぞわり、と背筋に悪寒が走った。

 

 

「これさえなけりゃあ、お前たちは動けもしない……!」

「大通連……」

「そこじゃねェ、逃げろリオ!」

 

 

 咄嗟に感じた方向へ刀を振ろうとしたリオは、ルフィの声にその場から飛び退いた。雪崩れ込んでくる海水の気配に、急いで体の周りにシャボンを発生させる。ノアを包んでいたシャボンが破られたのだ。深海一万メートルの深海では、人間はシャボンに包まれていないと水圧で潰れてしまう。

 リオが離れた事で、ノアが速度を上げていった。最悪それはいい、魚人島から遠ざかる──が。

 

 

「これ以上離れちゃあ困る」

 

 

 グサリ、と。ホーディの持つ三叉槍がデッケンを貫いた。

 

 

「お前が死ねば、この船は魚人島へ落ちていくんだろう?」

 

 

 

 

 

 

 

 リオの元にいた王子の片方が、背にリオを乗せてグン、と加速した。同じく王子の背に乗ったルフィと並走するように泳いでくれる。能力の解除された巨舟は、ゆっくりと魚人島へ向けて落下していく。直上ではないが、掠りでもしたら魚人島はその余波で吹き飛ぶだろう。こうなればリオの覇気どころではない。

 

 

「ごめん、もう重ね重ね本当にごめん。水中の魚人の速度を見誤った」

「いや、あれは特殊だ。薬で手に入れた偽りの力」

「ともかく、あの舟ぶっ壊してでも止めるしかねェ。空気無くなっちまったけど」

「それもまずは……」

 

 

 ルフィとリオを離した王子達が、武器を切り結んだ。もちろんホーディとだ。代わりにしらほし姫の手に乗せられる。

 

 

「ホーディ! 島にどれだけの命があると思っている! 一体何なんだ貴様ァ! 過去お前の身にどれ程の事があった!? 人間は一体お前に何をした!?」

 

 

 王子の問いに、ホーディは暫しその手を止めた。リオはその隙に、イヤーマフに手をかける。

 

 

「何も」

 

 

 そう答えた声が、一年半振りにリオの耳に入ってきた初めの声だった。

 感情が、ない。恨みがない。怨みがない。憎しみも、怒りも。

 

 

「リオ、お前……ちょっとだからな! すぐ戻せよ」

「電伝虫」

 

 

 短く言って、ルフィの手元を指差す。変わらず目は見えていない。リオの真骨頂である未来視にだって至らない。けれど、今まで以上にによく視える。短期的な未来視。見聞色による、常に先手を取る力。

 

 

 数秒待って、ルフィの手元の電伝虫が声を上げた。魚人島の警備兵から、空気を送れるという旨の連絡。それから。

 

 

 片手の銃が火を吹く。

 

 

「ッ!」

「助かった!」

 

 

 王子を狙った三叉槍を弾いた。続く数射が、胴体を貫いていく。水中故にかなり射程が頼りないが、リオの腕なら問題ない。

 

 

「なるほど、それは至極簡単で心地良い」

「下等、種族が……この程度、擦り傷にもならん!」

「だけど、私はそれを肯定できない」

 

 

 殺意を向けてくるホーディを遮った視界で睨んで、リオは銃を握りしめた。射程を掴んだか、あっという間に距離を取る彼を、銃口でピタリと追いかける。

 

 

 ホーディは。まるで2年前までのリオだ。

 

 

「他者から受けた思想に身を投じ、現実から目を背け、『天から選ばれた』と嘯く。自分を見ているようで吐き気がするよ、ホーディ。それは楽だよな。全能感すら感じるだろう。けれど……空っぽだ」

 

 

 見聞色の覇気は、人により得意な分野が分かれる。気配に敏感なもの、遠くの敵を見抜くもの、人や動物の感情を聞きとるもの。リオのそれは、『対人間』に恐ろしく特化した上で、思考や思想、そして感情をより深く見透かす力だ。枷を一つ外せば、それだけで手に取るように思考が読める。

 

 

 ホーディはただ思想に酔っているだけだ。魚人至上主義。人間差別。

 自分を、人間を殺し尽くす『正義』を執行する選ばれし者として信じて、その通りに動いているだけ。自分に都合の良い事実だけを見て、他人の恨みを飲み干して、勝手に代弁して。

 

 

 リオもそうだった。勝手に絶望して、自分の力の奴隷になるように生きてみて、何も考えず、何も感じないと嘯いて、これが『正義』だと思い込んで。結果、大切なものを失った。

 何かの言いなりになるのは楽だ。誰かに与えられる指針は都合が良い。でもそれは逃避だ。流されているだけだ。

 狂犬をやってた時だって同じ。自分の意思だと思い込んで、他人から言われた通りに、他人のやり方で、他人の正義で駆けずり回っていた。本当にリオの意思でやった事など、ごく僅かだ。

 

 

 けれど、もう違うのだ。

 

 

 受け取ってきたものは返したい。それが、リオだ。受けた恩を返す、その相手がもういなくても。

 

 

「そんな空虚な思想じゃ、この島は壊せない。何より、私はそれを許さない」

 

 

 もう、正義を背負う海兵では無いけれど。

 魚人島は、メルリオールなんかを娘にしようとした海賊が20年守った島だ。この程度で彼から受け取ったものを返せはしないが、だからと言って何もしないような非情な人間では、もう決してない。

 

 

 そして。目の前の彼ですら、白ひげの掲げた旗に守られていた、一つの命であると知っている。

 

 

「いつか……。()()()()()()()()()。まだ、君は生きているのだから」

 

 

 深海の底でそんなことを言って、リオはルフィを振り返った。

 

 

「舟へ」

 

 

 右手でノアを指差して、白い銃の引鉄を引く。一発、二発と追い込むように。

 意識が霞んでいく。枷を外した影響が、すぐ側まで迫っているのを感じた。聴覚だけだとしても、今のリオが解放できるのは数分がせいぜいだ。それを超えるとリオはリオでなくなるから、気絶しようとセーフティが働く。

 

 

「甲板で、あれを倒す。ルフィ」

「ああ!」

「それから……マヨネーズ……」

「マヨネーズ? 何言ってんだお前」

「あー、いや」

 

 

 変なものを受信した。首を振って、リオはしらほし姫にルフィを連れて甲板へ向かってもらうよう頼んだ。ずり下げていたイヤーマフはもう戻しておく。

 

 

「前の『占い』ほどじゃないけど、しらほし姫、一つだけ」

「はい?」

「……君が望むなら、きっと奇跡が起きるよ」

 

 

 そして、ルフィが会話していた魚人島の警備から、ありったけの空気がノアに向けて発射された。ホーディを殴り飛ばしたルフィがその中へ飛び込む。これが最後の戦いだ。ホーディの打倒、ノアの停止。

 

 

「それから、こびりついた怨念との」

 

 

 ルフィの拳は、誰かを彷彿とさせる炎を纏ってホーディへと突き刺さる。あの炎もきっと、リオが受け取ってきたものだった。

 







世界にはリオ・グランデという地名がいくつかあり、同時に同名の河川もいくつかあります。これが名前の元ネタだったりします。
その町や川自体に何かあるわけではないですし、何かにかかっていると言う訳でもないですが、強いて言うなら橋というのは川にかかるもので、リオの恋愛相手(?)の名前は地名であり、同時に橋の名前にもなっているという小ネタでした。


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