未来が視える元海兵が麦わらの一味について行く話   作:テロン

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宴と食事と竜宮城

 

 

 

 

 海王類の支えにより、落下寸前のノアの動きは止まった。ホーディの攻撃により重傷を負ったルフィを抱え、リオは運ばれていくノアを背後にしらほし姫の手によって島内に降りていく。

 

 

「う、うちのルフィが血だらけなんですけど……!!!?」

「すみません、すみません! 今お医者さまのところへ急ぎますので!」

「しらほし姫は謝らないで! 何も悪くないんだから。あーあ、私がニキュニキュの能力者だったら代わってあげれたんだけど。ごめんねルフィ〜〜」

 

 

 ギャーギャー騒ぎながら広場に戻れば、戦いは既に決していた。喚いているうちに自分の方も目眩が襲ってきて倒れ込む。ホーディと戦ったわけでもないのにヘロヘロなのは一時イヤーマフを外したからで、イヤーマフを外したのは少しでもルフィに有利な戦場を用意するためで、決戦の場まで同行したのはリオが過保護だからだ。

 

 

 リオは、全然弟離れができないタイプの駄目な姉だった。

 甘いと言われればそれまでだが、昔から甘っちょろい理想を抱いてきた身で、加えて2年前のこともあって周囲の怪我に敏感になり過ぎているかもしれない。

 

 

 みんなが集まっているところに降ろされれば、ウソップが駆け寄って来る。

 

 

「リオ、怪我はないか?」

「う、ん……。それよりルフィを。噛まれた後そのままにしてた、から。出血が……」

「おい、大丈夫そうには見えねェぞ」

 

 

 抱えたルフィをゾロが受け取って、そのまま疲労で動けていないチョッパーの元へ連れて行く。横では王子達が生きていたらしいデッケンとホーディを拘束して連れ帰っていた。

 

 

「ロビン、おれのリュックに止血剤が入ってる。それから輸血をしねェと。血液型『F』はうちだとリオだけか」

「そ、うだ、ね。よっしゃ、来い!」

 

 

 フラついたリオを支えていたウソップが、「他探した方がいいんじゃねェか」と首を振る。腕を捲ってやる気だけは見せておくが、これはダメかもしれない。

 

 

「大丈夫かお前」

「うん。気絶、しかけなだけで。一旦、落ちる……」

「あ、おい!」

 

 

 無理矢理持たせていた意識がプツリと落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んあ、損した気分!」

 

 

 叫んで起き上がり、リオは辺りを確認する前に目の前の膳に飛びついた。美味しい匂いがする。

 

 

「あー、リオ! やっと起きたのか!」

「リオ、もう始まってるぞ! というか終わりそうだ!」

「なーんで起こしてくれないの!」

 

 

 チョッパー、ウソップの言葉にブスくれると、すぐ横からサンジの手が伸びた。

 

 

「リオさん、喉が乾いてないか? 厨房を借りて特製ジュースを作ってみたんだ」

「わあ、ありがとう! ルフィは?」

「まだ会場だと思うよ」

 

 

 受け取って、取り分けておいてくれたという料理に手を伸ばした。周囲には寝こけているゾロと、酔い覚ましをしているナミもいる。寝ているリオを宴の場に転がしておくわけにもいかず、少し離れたところまで連れてきてくれたらしい。

 サンジは甲斐甲斐しく世話を焼いてくれるが、ひとしきり人魚達にメロメロした後だというからさもありなん。

 

 

「あーー、この2年、何が辛かったって外に出るとおにぎりとかサンドイッチとか、手で掴んで食べれるものしか食べられなかった事だよ……。サンジのご飯に慣れちゃうと、なくなった時にあんまり力が出ないね」

「船に戻ったらリオさんの好きなものをいくらでも作るよ。白米とパンならどっちが好みだい?」

「パンかなァ。あ、でもこれ美味しい」

「デザートもあるよ。こっちは少し酸味が効いていて……。甘みが強い方が好みだったかな」

「確かに甘党だけど、柑橘類も好きだよ。良い匂いがする」

「他に味の好みは?」

「いたのは幼少期だけだし、まともな料理を食べた記憶もないんだけど、一応生まれは南の海だから、その辺りの料理が口に馴染むかな」

偉大なる航路(グランドライン)出身じゃなく?」

「うん。故郷が滅びたから父さんに引き取られただけで、血は繋がってないんだよ。南国生まれなの私。昔は南国の花とか見かけたらお土産に摘んで帰ったりしてたなあ」

「土産? 誰にだい?」

「あ。…………………………。だ、誰だろねェ?」

「強引に誤魔化したな」

 

 

 サンジは追及を避けてくれたけど、その他の質問は絶えなかった。聞きたくてたまらなかっただろうリオの食の好みを聞きにきた、といったところだろうか。一度好きな食べ物を聞かれた記憶があるけれど、あの時のリオは自分の好き嫌いがあまり分からず適当に答えてしまった。

 

 

 重度のコーヒー党だという話もせず、紅茶を嗜まない話もしなかったか。多分、サンジには見抜かれていたけれど。

 

 

「紅茶よりはコーヒー派。でも一度サンジが淹れてくれた後味がすっきりする紅茶、あったよね」

「レモンティーかな」

「それかも。あれは好きだった」

「また淹れるよ。そうだ、こっちはカルパッチョで、白身魚の上にスライスした玉ねぎと……」

 

 

 サンジの説明を聴きながら、うんうんと頷いて促されるままに腹を満たしていく。料理は視覚からの情報が8割、という言葉もあるらしいから、リオが最大限食事を楽しめるように気を使ってくれているのだろう。

 

 

「あーんしようか?」

「遠慮しておくね」

「クールなリオさんも素敵だね♡」

「もう……」

 

 

 彼も変わらないな。

 なんと言ったものか、と思案していれば、サンジは少し照れたように煙草に火を付けた。

 

 

「いや、ゴメンね、リオさん。少し嬉しくなって」

「……ん、んん?」

 

 

 なるほど、とサンジが伝えようとしている事を読み取って、リオはまた言葉に詰まった。そういえば、2年前リオの感情についてゾロに指摘された時、彼はサンジの方が早く気付いていた筈だ、と言ったっけ。

 誰よりもリオの好みを知ろうとして、ロクな答えが返ってこず。

 それだけでよくもまあそこまで推察したものだ。女性に対しての嗅覚というか、執念だろうか。

 

 

「2年前の私の感情のこともそうだけど。よく分かるね。そんなに分かりやすかった?」

「まァ……おれのリオさんへの愛ってことにしておいてくれ。嫌なら控えるが、そうじゃないなら大目に見てくれると助かるよ。レディに親切にするのは習慣なんだ」

「嫌じゃないよ、ありがとう。……あの。君の目には、()()見えた?」

 

 

 ()()見えたという意味か、ぼかすように告げた言葉にサンジは一瞬顔を歪ませた。

 その態度自体が、何より雄弁な回答だ。

 

 

 リオには一つだけ、抱くことの出来なかった感情が、ある。

 

 

「もち、ろん。リオさんは愛の人だから」

「あはは! そうか。そうだといいんだけど。そのうちちゃんと紹介するから、どう見えるか教えてよ」

「そ、れは……勘弁してくれ」

 

 

 ふふ、と笑ってリオは後ろ手を着いた。

 手の止まった皿を前に横からナミがいくらかを摘んで行く。

 

 

「あんた達、食べないならもらっていくわよ?」

「事後承諾だねェ……まァいいけど」

「ナミさん、会場から貰ってこようか?」

「そうねェ……」

 

 

 ナミはツマミが欲しいだけなんじゃと思うが、指摘せずにリオは伸びをした。

 

 

「はー、美味しかった。やっぱちゃんと食べれてるかどうかで違うもんだね。2年前なんか、スローライフのせいでずっとヘロヘロだったもん」

「鈍ってたってことかい?」

「そうそう。ゆっくりペースでね。3日に1回水を飲んでー、5日に1回なんか摘む、みたいな。あんまお腹空かなかったしね」

 

 

 昔を振り返りながら頷く。

 健啖家という程ではないけど、リオはサンジのご飯は美味しくてモリモリ食べてしまう。竜宮城の料理も同じくらい美味しかった。

 一味だとルフィがかなり顕著だが、リオも食事は好きだし、食べたご飯がそのまま活力になるタイプだ。いや、大体の人間がそうか。コックの仕事の偉大さが伺える。

 

 

「ちょっ、ちょっと待ったァ!」

「スローライフのスローってそういう意味じゃないぞリオ!」

「サンジくん!? サンジくんが固まっちゃったわ! リオあんたのせいよ!」

「ぐえ」

 

 

 ビビり組が突撃してきたせいで、リオは普通にひっくり返った。

 

 

「な、なに!?」

「おれ、会場から他のも持ってくるな! 美味しいの沢山あったぞ!」

「ちょ、待ってチョッパー、昔、昔の話だから! あーごめん、サンジの地雷踏んじゃったかな。でもほら、船に乗ってからは毎食サンジが作ってくれるから、旅の後半はちゃんと島に上陸したり戦ったり出来てたでしょ?」

「おいワン公それ以上喋るな! 黙ってサンジの飯を食え!」

「食べてんじゃん!」

「ゾロは寝るな!」

 

 

 ギャーギャーやって、壊れたロボットみたいになったサンジを前に皆であたふたして、最終的にリオとナミがスプーンを持って「あーん」とかやり始めたあたりで慣れた気配が近付いてきた。

 

 

 あ、と視線がそちらに向く。

 

 

「なんだ、お前らもここか!」

「ルフィ……に、ジンベエもか」

 

 

 同じくそちらを向いたリオは、崩していた足を正座に直してジンベエの方へ向いた。リオの寝ている間に、ルフィはジンベエを一味に誘ったらしい。今は無理、と断られたそうだが、彼の合流もそう遠くない話だろう。料理を持てるだけ運んできたルフィは、すぐに座って食べ始めている。

 

 

「丁度良かった。ジンベエ、少し話が。本当は2年前にしておくべきだったんだが」

「メルリオール元少将。そりゃァ、わしに言うてもらわんでも結構」

 

 

 タイの兄貴の話じゃろ、と続けてジンベエはリオの前に腰を下ろした。

 

 

「矢張り、知ってたか」

「わしは結局、七武海の任を受けた。今はこの通り返上したが、その過程があって今がある。失われたもんは多いが、何もかも無くした訳じゃありゃせん。そもそも、海兵に海賊捕縛を謝られても困る。わしらは海賊で、お前さんは海兵じゃった。それだけだろう」

「参った、君にそれを言わせてしまったな」

「それに、タイの兄貴は……。そうか、お前さんならそれも知ってるか」

「人間への血液提供を拒んでいる魚人島から、魚人の輸血用血液を入手するのは難しくてね。島まで行く前に、私の一つ上の上司で握り潰された」

「その方が良かったじゃろ。また余計な争いの火種になりかねん」

「そうだな」

 

 

 何の話、と首を傾げたナミに、リオはジンベエが頷くのを待ってから、「かつての魚人海賊団の船長を狙った捕縛作戦に、私が……というより、私の未来視が深く関わってた、って話だよ」と呟いた。

 

 

「もっと早く話しとけば良かったけど、私は七武海には近付かなかったし、2年前も慌ただしくてね」

「メルリオールの海賊嫌いは有名じゃったからな。わしも噂しか知らなんだ」

「別に嫌いじゃなかったんだけど……」

 

 

 郷愁を払うように首を振ったジンベエは、モグモグしているルフィの首根っこを掴んで「話の途中じゃ」と叱り飛ばした。

 

 

「お前さん、赤犬と青雉の大喧嘩は知っとるのか」

「赤犬と青雉が!?」

「やっぱりか……。リオはまァ今の状態じゃあ仕方ないとして、海軍元帥の交代すら知らんとは」

「あー、サカズキさんの? それなら私知ってるよ」

 

 

 どうやらジンベエはルフィに世界情勢を叩き込もうとしているらしい。無駄だと思うけど。

 

 

「おれもそれ知ってるぞ!」

「リオは新聞読めないんじゃないの?」

「人から聞いたの。センゴクさんが引退してからあの二人、元帥の座を争って大喧嘩。結果サカズキさんが元帥に、クザンは海軍を去った」

「詳しいな。その通りじゃ。今の海軍本部はサカズキ元帥の元、より強力な正義の軍隊になっておる」

 

 

 それから、とジンベエはリオに視線を戻した。

 

 

「黒ひげ、ね」

「ああ。奴は元々白ひげ海賊団の古株。オヤジさんの縄張りについても熟知しており、オヤジさん亡き後瞬く間にその海域を制覇した」

 

 

 黒ひげは頂上戦争の最中、グラグラの力を白ひげから奪い、またそれ以外にも能力を奪い取る術を手に入れ、現在は四皇の一角に数えられている。

 

 

「その辺りはお前さんも詳しいか」

「いや、流石に目と耳塞いだままじゃ黒ひげと直接交戦は出来ないし、してないよ」

「そういう意味じゃないわい! というか塞いでなきゃ一人で突撃するつもりじゃったんか!」

「あれは放っておくほど面倒になる手合いだろ」

 

 

 肩を竦めたリオは、立ち上がって「ついでにネプチューン王にも謁見しておきたいんだけど」と伸びをした。

 

 

 

 

 

 

 あっちの方かな、とキョロキョロしながら、案内してくれるというサンジに甘えて着いていく。宴会場はどんちゃん騒ぎが続いていて、リオはそれなりに寄り道をしながら、王の元へ辿り着いた。ロビンが何か話をしていたようだが、彼らはリオたちの姿にピタリと口を噤んだ。

 

 

「リオ、目が覚めたのね」

「うん。この後宴に戻って一頻りはしゃいでみるよ」

 

 

 丁度いいんだよね、と続けた言葉に疑問符を返されたので、「一応治療中って事になるから」と言いながらサングラスのつるに手を当てた。

 

 

「思い切り感情を表に出す練習、っていうの? ちゃんと自分の感情を自覚できてれば、今回みたいに耳のを少し外しただけで気絶、なんて事にはならないんだって」

「そう。でも、リオは……。また未来を視るつもりがあるの?」

「ううん、それは無いよ。けど、ちゃんと自分の目で見たいものがあるから」

 

 

 ニッと笑って、リオは着いてきてくれたサンジの手を軽く叩いた。彼の手を離れて歩き出す。

 

 

「受け取ってきたものは返したいし、私からもあげたいものはある」

 

 

 これもその一環かもしれない。静かに話を聞いていたネプチューン王の前に立ち、随分と身長差のあるその顔を見上げる。

 

 

「天竜人の書状。あの効力は、ちゃんと今もある。地上には……あなた方の選択を待っている者もいる」

「……今は、考えなければならない事が山積みなんじゃもん。じゃが、今年のレヴェリーには必ず」

「うん」

 

 

 頷いて、リオはすぐに踵を返した。「戻るのかい?」なんて片手を差し出すサンジに掴まって、広間を目指す。竜宮城が恩人に向けるありったけの宴。

 いつか、この魚人島の風景を自分の目で見に来れたらいいな。なんて心に刻んで、魚人島での冒険は幕を閉じたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、ここからがリオの本当にやりたかったこと。もしくは、やらなきゃならないこと。

 

 

 

「じゃあリオ、お前うちの見習いはクビな!」

「うん。約束守ってくれてありがとう」

 

 

 

 未来視が無いままでその光景に辿り着くことが、リオの次なる目標だ。

 

 






あと島2つでこの章も終わり。(最後おまけでひとつありますがあそこは島と呼んで良いのか)
この話の目的地は頂上戦争じゃないという話をどこかでしたような気がしますが、リオの目的地はそこになります。
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