魚人島を出港し、サニー号はついに新世界の海へ。途中、リオの知らないところでルフィが盛大にビッグ・マムに喧嘩を売ったらしいがともかく。
「へえ、魚人島にも
「ええ。リオは海兵時代に見つけたことは無いの?」
「無いね! 目的もなくうろちょろすることって無いし、
「ふふ。なら確かに、リオが見つけることは無いわね」
甲板でお土産に包んでもらった魚人島のお菓子を食べながら、リオはロビンに頷いた。このお菓子がマムに目をつけられた原因だと聞いてリオは心の中で泣いたけど、こうなったらもう食べるしかない。
「どんなことが書いてあったの?」
「ええ、教えてあげるわ。リオも興味があるの?」
「んー、ロビンみたいに歴史に興味がある訳じゃないんだけど、一応Dについては知っておきたいかな。正直、Dの使命とかどうでもいいと思ってるのも事実なんだけどね」
シャボンディでロビンはレイリーにDについて尋ねたが、回答は得られなかったらしい。この2年でリオも、レイリーに同じ質問をしたことがある。
返答はその時と変わらず。
今知るべきでは無い。知る気があるのなら、自分で探し出せ。
「Dの一族。ルフィは何も知らないみたいだけど、海軍側も状況は同じなのね」
「多分ね。ひょっとすると知ってる人もいるのかもしれないけど、私は知らない。Dの末裔たちも、殆どがその意図を継いでいないんじゃないかな。知らなきゃいけないことなのかどうかも分からないし」
「でも、知りたいのね?」
「
「無関係ではない?」
頂上戦争の前、古馴染みが「こっちも無関係とは言えねェ」と呟いたことを思い出した。リオは自分のルーツを探りたいとは思わないけれど、彼の言葉を借りるなら確かに無関係では無いのだろう。
「うん。過去ってのは逃げられないものだから」
「そう。なら知ってしまった後、それが知らなくていいことだと気付いてしまったら、あなたはどうするの?」
「考古学者がそれ聞く? ま、そしたら私もレイリーみたいに口を噤むんじゃないかな。君は知るべきじゃないよって」
「あら、そういうこと。リオあなた、他にDの知り合いがいるのね? その意味を知りたがってる」
「うわ、正解だけど読みが鋭すぎて怖いよロビン!」
ひゃーっと両手を上げて、リオはふと頭上に顔を向けた。もうすぐ水面に辿り着く、ような。
「ええ、明るくなってきたわ」
「そっか。いよいよだね。……確かに私はロビンの知らないDを一人……。ううん、
その真実が不都合だった誰かが歴史から消したのか、それとも自分たちにとって悲しい真実だったから受け継がなかったのか。
真実が常に幸せを齎すわけじゃない。知らなかった方が良かったことが多くあることを、リオも、そしてロビンも身に染みて知っている。
ロビンはリオの表情に少し言葉を詰まらせて、ゆっくりと肩を上下させた。
多分その動揺は、リオが言葉の裏にそっと忍ばせた『知らない方が良かった』真実を汲み取ってしまったからだ。
「……。そう。そうだったのね。だとしても、解き明かすのが学者だと。……私は思っているわ」
しっかりと紡がれた言葉に、リオは笑って合わない視線を合わせるように彼女へ顔を向けた。
「うん。君の夢は素晴らしいと私も思う。出来れば誰の夢も、否定はしたくないよね。だから、知れてよかったって笑えることを願ってるんだ」
せっかく新世界と名の着いた海を渡るのだから、『これまで』を脱ぎ捨てて、そんな夢のような理想が現実になればいい。
海上への浮上直後、大波がサニー号を襲った。大粒の雨と暴風が吹きつけ、あっという間にびしょ濡れだ。
天候最悪、海は大荒れ。新世界の洗礼は早くも一味に降りかかっていた。ケロッとしているのはリオくらいだが、そのリオにとっても実に3年ぶりの新世界だ。
「見ろ! あの島で火山が噴火した!」
「うお〜〜島だァ!!」
「ルフィよく聞いて! あの島は3本ある指針がどれも指してないの!!」
大波と嵐に揺れながら、ナミが必死にルフィに縋り付いている。どうやら目視できる距離に島があるが、見るからに異様な光景となっているらしい。ルフィがマヨネーズで食べようと釣った深海魚も、海の温度で焦げてしまったようだ。楽しみにしてたんだけどな。
と、それはさておき。
「え、もしかしてめっちゃ燃えてる島!? ヤッター! 行こう、そこ行こう!!」
「リオまで! あんた見えてないのね、海まで燃えてるのよ!?」
「ヤッター!
「乗り気だな、リオ! よォし、上陸だァー!」
「イェーイ!!」
テンションを上げたリオとルフィにナミをはじめビビリ組が必死に縋り付いたが、船に救難信号がかかってきたらしく、ルフィの一存で上陸が決定した。
サンジから弁当を受け取り、リオはニコニコでミニメリー号の船首に立つ。ここからなら自力で飛んでいける。
「じゃ、私先に行ってるから! 早く来てね!!」
「待てリオ! おい、おれたちも早くいくぞ!」
「ちょっとリオ、あんたもしかしてこの島のこと知って……ちょ、リオ!? こら待ちなさい、リオ〜!!」
思ったよりは暑い島だ、とマントを腕にかけてパタパタと仰ぐ。お弁当を食べながらゾロ、ロビン、ウソップを連れたルフィの合流を待って、リオはパンクハザードの門を蹴り砕いた。
「ちょっと待て、今世界政府と海軍のマークが無かったか!?」
「うん? わはは、見えなかったな! なんせこちとら視界制限中なので!」
「ことごとく燃えてんな……!」
島に入れば、一気に熱波が肌を襲った。元上官で暑いのは慣れているリオは気にせず進んでいく。
「ん? 今一瞬、電伝虫が鳴かなかったか?」
「え? ああ、お昼だからね」
「昼だからってなんだよ」
ウソップの言葉によいせ、と手持ちの電伝虫を取り出した。多分暑さで参ってる。
「ほら私、時計も見えないから時間が分かる手段が必要なの。だいたい毎日教えてくれるんだよ」
「電伝虫にそんな習慣あったか?」
「そこはほら、色々と」
「ふーん」
「ところでリオ、この島が世界政府の管轄ということは、あなたはどうしてこの島が燃えているのか知ってるの?」
「うん。ほら、海軍元帥の座を巡ってサカズキさんとクザンが戦ったって話あったでしょ。その舞台がこの島ってわけ」
「赤犬の……? それじゃあ、余波だけで島が燃え続けているのね」
「そういうことだね。でも、もちろん彼らが今でもここにいるわけじゃないから安心して!」
胸を叩いて、マントを扇風機代わりに振り回しながら島を進む。
「それじゃあ電伝虫の声、『寒い』って言ってたのは、青雉のせいってことか?」
「あー、多分ね!」
「なんだ多分って」
「実際来たことはないもん!」
言って、妙な気配に立ち止まる。
「なんかヘンなのいない?」
「変というか、ドラゴン〜〜!?」
「エーッ!? 見たい!!」
ドラゴンを倒すと、どうやらその背中に人間が刺さっているということらしい。けれど引っこ抜いても下半身しか存在しない。死体では無いようだ。
ルフィたちによると下半身だけのはずなのに喋っている、と言うがリオには聞こえていない。何か特殊な方法で話していたのだろうか。
それはともかく、だ。
「下半身だけの人間!? ヤッター! どこで斬られたのかな」
「なんでお前ェはずっとテンション高ェんだ」
「ふふ!」
ドラゴン肉をその場でバーベキューしながら、リオはロビンに「どんな服着てるの?」と尋ねてみる。
「見慣れない服ね……。靴も変わってるし」
「見ろよ〜ホラ! くっついたぞ〜〜! こういうの何て言うんだっけ! ウソップ!」
「ケンタウロスか?」
「ケンタウロス〜〜わっはっは!」
「趣味が悪いわよ、ルフィ」
楽しそうだ。
「おい、お前ら! こっち来てみろ!」
「ゾロ! いたか!? サムライと斬られた奴!」
「サムライ?」
「なんだリオ、話聞いてなかったのか?」
ドラゴン肉の余りをルフィに持たせたウソップが呆れた目をした。
「もしかして電伝虫? それなら私、電伝虫越しの声は聞こえないよ! 目の前にいないと」
「何!? じゃあ教えてやるがな、この島にはサムライがいて、そいつに斬られた奴から救難信号が届いたんだ。きっとあの下半身を切っちまったのがそのサムライだ!」
「エ、それは違うと思うけど」
言いながらゾロの元へ向かえば、島の奥に雪山が見えると言うことらしい。近付いてみれば、なんかケンタウロス的な生物がいるとか。
とりあえず島の状況が分かったところで、とサニー号に通信を入れると、ウソップの通訳によれば船にはブルックしかおらず、甲板には積荷を盗もうとする賊、あたりは雪と氷に閉ざされているらしい。
「島の向こう側ってことだね」
「サニー号で積荷を盗もうとしてた奴らって何者だ?」
「……なるほど。リオ、ガスマスクをしてたらしい」
「ほう」
「じゃあ意識を失う様なガスを撃ち込まれたのでは? 書き置きもないのなら4人共どこかへ連れ出された可能性が……」
ロビンの推理にブルックも同意したそうだ。船の近くに大きな建物があると言う。そこで待機してもらえる様に指示を出し、電伝虫を切ってルフィの方を見る。いつのまにかケンタウロスと仲良くなって、殴り殴られをしていた。
「ケンタウロスにも色々いて楽しいな!」
「馬だけじゃないの?」
「おう、こっちは……キリン、こっちはヒョウだな」
「へー」
「みろよ、こいつらの持ってる子電伝虫、『CC』って文字が! 野生のケンタウロスじゃねェな、たぶん何かの組織だ」
「野生というか、そもそもケンタウロスはいないでしょ……」
「いるだろ目の前に」
「ウーン」
ともかく氷の大地の方へ行こう、とはなったが真ん中に湖が横たわっている。ロビンとルフィは泳げないが、ウソップがボートを出してくれた。
「全員乗れそう? 私寒いのヤダからこっちで待っててもいい?」
「大丈夫そうよ」
「お前一人じゃ連絡とれねェだろ」
「リオ、これがオールだ」
「はーい……。あれ、なんか向こう岸、ケンタウロスがいるかも〜!」
「さっきのやつの仲間か?」
「また友達作れるぞ〜!」
「お、ウーン、敵意がある様な……」
と思ってる隙に撃ってきた。ルフィが跳ね返しているが、水上にボートじゃあこっちが不利だろう。
「私が行って片付けてくるね」
「待てリオ、友達になるんだ、倒しちゃダメだ!」
「え、そうなの?」
「いやリオ、行ってこい! このままじゃ沈むぞ!」
「う、ん……待って、レーダーにピキンと来た! 絶対そうだ、あっちの方!」
「おいバカ犬! 前見ろ前、撃たれんぞ!」
思い切り明後日の方を指差したリオを小突いて、ゾロが柄に手をかけた。
「分かってるよ!」
ゾロが砲弾を斬り捨てるのに合わせて飛び上がる。
「あ」
「げ」
と思ったら、水面近くに落下した砲弾でボートがひっくり返った。
「ル、ルフィ〜〜ロビン〜〜!」
「こっちはいい、もうあいつら全部やってこい! いいな、ルフィ!?」
「うん、ぼういいよ……」
「うわァ、寒そう」
船長のGOと共に飛び出して、左半分に構えられていた銃を全て斬る。右半分の方は。
「ナイス、ブルック!」
「ヨホホホ、間に合って良かった!」
ちょうど合流したブルックが対処してくれた。
「リオは着なくていいの? あったかいわよ」
「でも、ケンタウロスが着てたやつでしょ?」
ツンツン、とボコボコにされたケンタウロスを突きながらリオは首を振った。
「変な匂いはしないわよ?」
「そうじゃなくて……」
リオは俯いて、「手袋はもらおうかな」と呟いた。
一味は一匹残ったボスのケンタウロスを乗り物にして、ブルックが見た施設の方へ向かおう、となっている。その前に、湖に落ちて凍えていたみんなと、骨だけど寒々しいブルックは倒したケンタウロスから防寒着を剥ぎ取っていた。
リオはマントがあるし、とロビンにもらった手袋を握りしめてボスタウロスに飛び乗る。マントで体を完全に包んでしまえば少しは熱が保たれるだろう。
「よし、じゃあ出発だ!」
「ええ、道は覚えていますので指示しましょう」
「ん? なんか軍艦みてェのないか?」
「軍艦?」
ホラ、と指差すルフィの腕の先を辿ってリオは意識を集中させた。
「あ〜〜〜!!」
突然大声をあげて立ち上がったリオに、みんなの視線が突き刺さる。
「な? 軍艦だろ?」
「じゃあ海軍が来てんのか!?」
「えー!? さっきまでここには何も……」
「わー!!」
不思議そうにするブルックをよそに、リオはそのまま走るボスタウロスから飛び降りた。
「おいリオ!?」
「あれ、あそこ誰かいるぞ!!」
「お前は!」
「ロー!!」
ボスタウロスを追い越してローの元に駆け寄る。なんか知った気配が足元に倒れているがともかく。
「ローだ!」
「リオ…………ったく、面倒な……」
飛び付いたリオをひらりと避けて、そのまま雪に突っ込みそうな所で首根っこを掴まれた。流石、雪国でのリオの扱いに手慣れてる。
このやり取りも随分と久し振りな気もするが、順調にリオの治療が進んでいる証拠だろう。ついでにグルンと回されて、怪我がないかを見られた。信用がない。
まァ、海軍時代のリオは常に何処かしら怪我をして、ろくな治療も受けずに走り回っていたのでしょうがない。
「シャボンディのヒューマンショップで会った奴だな」
「トラファルガー・ローね。リオに尻尾が見える気がするわ」
追いついてきたゾロとロビンに、ルフィが「そうそう、トラ男! 白ひげの戦争からおれとリオを逃して、傷も治してくれたんだ!」と駆け寄ってきた。
「こんなトコで会えるとは思わなかった。良かった! あん時ゃ本当にありがとう! リオのことも!」
と指差され、リオはぷらん、とぶら下げられたまま片手を上げる。
「傷を、と言ったけれど……」
「ああ、おれの胸のとか、リオも胸貫通してたもんな!」
「ね!」
「かんつ……よく生きてたわね」
「まァね」
へへん、と笑えばそのまま頭から雪に落とされた。
「ぶ」
「あの時のことは……ともかく。おれもお前も海賊だ。忘れるな」
「そうだな!
屈託無く笑うルフィに、ローは無言を返した。リオは雪に突っ込んだ頭を上げて、寒い寒いと体を震わせる。流石に直に雪は堪える。
「それよりリオお前、なんでこの極寒に薄着でいる?」
「そうよリオ、さっきの人から貰ったコート、もう一着あるわよ」
「え、うーん……へくちっ」
「寒がりのくせに」
「リオ、こっちにいらっしゃい」
ロビンに手招きされ、リオはローから離れてボスタウロスによじ登る。意地を張っていたら本格的に風邪を引きそうだ。
今のリオは魚人島でナミに選んでもらったコーディネートをそのまま着ていた。七分丈のトップスとスカートだから、間違っても冬山でする格好ではない。
ロビンはリオが登り切ると後ろの方まで連れて行って、内緒話をするように顔を寄せた。
「トラファルガー・ローは真っ黒なロングコートを着ていて」
「ん?」
「私の手にあるのも、同じ黒いコートよ。金糸で袖と襟のラインを縁取りしてある。よくリオに似合うと思うわ」
「……本当?」
「ええ」
マントを一旦ロビンに預けてコートを着込んだ。あったかい。マントは例によってコートの上から羽織っておく。不恰好だろうが、これが無いともう落ち着かないし。
「ありがとうロビン!」
「ふふ、どういたしまして」
「うん。ロー!! 着替えたぞ!」
ローはまた飛びかかったリオを同じように無視して、地面スレスレでプラプラと揺らされた。
「ったく、調子付くとすぐこれだ」
「懐かしいって言えよ〜」
今度はブランコの要領でルフィに投げ渡される。文句をつけようとしたが、あまり時間もないようだ。
後ろから集団が走ってくる。
「スモーカーさん!」
「わっ、海軍?」
「おいマズイぞルフィ! 海軍だ」
「ああ」
ルフィにボスタウロスまで投げ飛ばされ、リオは流石に自分で着地した。
心臓を取られて転がっていたのはやっぱりスモーカーのようだ。気絶してて良かった。顔を合わせたら何を言われるか。
「あんまいじめてあげないでよ、ロー。スモーカーみたいな海兵は貴重なんだから」
「お前はどっちの立場なんだよ」
「トラ男! ちょっと聞きてェんだけど!」
「研究所の裏に回れ……」
くい、とローの指が方向を示す。
「お前らの探し物ならそこにある。また後で会うだろう」
「なら、
ボスタウロスの頭までよじ登り、ローを指差したリオの言葉に、ローは「それも後だ」と吐き捨てた。
「ふーん。じゃあトンズラしよう、ルフィ」
「大丈夫かなケムリン達! トラ男に敗けたのかな!」
「大丈夫大丈夫、死んでないしその心配もないから」
少し後ろを気にしていたがルフィも飛び乗って、一行はローの指示通り建物の裏手を目指した。
シャボンディ上陸時とかも当時のリオにしてはテンションが高かったはず
どちらも久しぶりの再会だからですね
デフォルトがこれなので、シャボンディ時のローも内心「!?!!?!?」だったことでしょう