未来が視える元海兵が麦わらの一味について行く話   作:テロン

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虜囚と毒ガスとバカ

 

 

 

 

 話し合いの結果、チョッパーとローは先に研究所に向かい、子供達に投与された薬について調べることになった。シーザーの研究室付近を調べるため、まだ敵対を知られていないローの手でチョッパーを忍び込ませる手筈だ。

 

 

 その他、シーザー捕縛チームのリオ、ルフィ、ロビン、フランキーは別口で研究所に忍び込み、ナミとウソップは子供達が目を覚ました時に備えてこの場で待機。侵入チームはさらに覇気使いを分散させてリオ組とルフィ組に分かれ、それぞれシーザーの居場所を捜索する計画だ。

 ついでに騒ぎを起こして研究所内の警備を混乱させておくとロー達が動きやすい。

 

 

 モネは子供達の側に転がしていくわけにもいかず、かと言ってトドメを刺すのも、と皆躊躇したため、倒した透明な巨人と共に、道すがらローの手で離れたところに置いて来ることになった。あまり研究所から離れていると怪しまれるので、2人は大まかに話がついた時点で出発している。

 

 

「戦い方的にフランキーが私とで、ロビンがルフィと。これで良いよね」

「ええ」

「じゃあこっちはフランキーのビームで穴あけて侵入しようか」

「良いなそれ。任せておけ!」

 

 

 フランキーとハイタッチして、リオは腕をブンブンと振り回した。やる気を表現しているのだ。

 

 

「よし、じゃあどっちが先に捕まえるか競争だな!」

「ナミ、ウソップ。サンジ達が戻ってきたら状況の説明をよろしくね。同盟の事も」

「おう、分かった」

「サンジを説得するのが一番骨が折れそうだけど」

「……そうね」

「ナミが言えば一発だろ」

 

 

 呆れた物言いのウソップ達に見送られ、リオ達は先に能力で飛んでいったローを追いかけるように研究所を目指した。

 

 

「表側はルフィ達に任せよう」

「そうだな、起こそうとしなくても騒ぎになる」

「その辺りはロビンに任せましょ。侵入口はフランキーに任せるね」

 

 

 頷いたフランキーの先導で少し回り込むように移動して、ビームで侵入口を確保する。平然と政府の研究所の分厚い壁を破っているが、彼も中々人間らしさを失っているような。

 

 

「右と左、どっちに行く?」

「左だな。親玉がいるのは一番奥と相場が決まってる。そうだ、ついでにベガパンクの研究資料が残ってねェか探してみてェ。昔はここで研究してたんだろ?」

「そうだね。部屋を探すついでに漁ってみよう」

 

 

 どうせローはメカ関連の研究は調べてないだろうし、と頷いて、リオはルンルンのフランキーに着いて研究所に侵入した。

 

 

 

 

 

 

 

「この辺には居ないんじゃないの? そろそろ移動しない?」

「待て待て、すげェのが出てきたぞ」

「エーン、また増援が来たよー」

 

 

 声だけで嘆いてみせて、リオは警備兵たちを蹴り飛ばした。連中、妙な兵器は持っているが大して強くない。

 

 

 一部屋一部屋確認していくフランキーに付き合っていると、当然ながら警備に見つかり戦闘になった。増援を呼ばれる前に、と見敵必殺を心がけたが、矢張り騒ぎというのは伝播するもので、次から次へと戦う羽目になる。一度催眠ガスのようなものを撒かれたらしく、その時はフランキーが逃げ道を作ってくれたが、それ以外はリオに任せて資料漁りに精を出していた。

 

 

「っと。あれ、これで終わりかな?」

「こっちもこの辺りだな。次に行こう」

「何が出てきたの?」

「そりゃあ見てのお楽しみだが……いや、お前ェ見れなかったな、残念だ。髪色を自在に操る薬の研究だった。サイボーグ関連のものじゃねェが、応用出来る筈だぜ」

「へえ、面白そうだけど」

 

 

 頷いて、リオは部屋を出るフランキーに続いた。かなり奥の方まで入り込んではいると思う。来る途中連絡通路のようなものをいくらか通ったし、警備の配置も密になってきた。

 それでもまだ全力で潰しに来ていないのは、モネを潰したおかげもあるかもしれない。他に手を取られて、連携に穴が生じている、とか。監視カメラらしきものもフランキーが見つける傍から壊しているし、こちらはかなり悠長にしていられる。

 

 

「髪の色って、割とアイデンティティじゃないの。だいたい遺伝するものだし」

「ん? ああ、別に髪そのものを変えようって言うんじゃねェ。それに、他に転用できないか試してみるのが面白い所さ。ハズレでも過程が残る。まァ、これはチョッパーの分野な気もするがな。宴会芸くらいにはなるだろ」

 

 

 そういやァ、と続けて、フランキーはリオを見下ろした。

 

 

「リオは髪、染めてただろ? いや、染めるのやめただろ、か? なるほど、見た目で親との繋がりを表現する。泣ける話じゃねえか」

「いや、ごめん。私の言い方が悪かった。これだと見た目が似ていないと親子じゃない、なんて聞こえるね」

()猿だから黄色、なんじゃねェのか?」

「そうだけど、別にあの人の髪が黄色いわけじゃないし。今思えば、海軍時代の私ってどれもこれも借り物なんだよね。目的も手段も、武器も、正義も、見た目も」

 

 

 ロシナンテに言われた正義を目的にした。サカズキさんの正義を手段にした。失った友人を思って作った銃を手に、海軍の軍服を着込み、どうせ公表しないからと養父の好きな色を纏った。

 

 

「だから、偽名なんだ」

 

 

 メルリオール。それまでのリオとは違うもの。リオの目指す理想の海兵には、リオのままではなれないと思ったから。

 

 

「良くやってたと思うぜ。まァおれはリオの海兵時代を見ていたわけじゃねェけどよ。探してみれば出るわ出るわ、海兵メルリオールの珍道中!」

「珍道中言うな!」

「神出鬼没、されど一度会えば軍刀振り上げ地の果てまで、ってな」

「妖怪の説明みたいだね、我ながら……」

 

 

 苦笑していると、フランキーは「悪いことじゃねェだろ」と首を振った。

 

 

「それだけ海兵メルリオールが恐れられてたって事だ。それも、海賊たちにな。陸の連中は有難がってたぜ」

「そう? ありがとう。でも反省はしてるんだ。受け取るばかりで何も返してこなかった。走り続けるだけなら誰にでもできるからね」

「それは……ん? 待て」

「どうかした?」

 

 

 片手で制止されて首を傾げる。

 

 

「何か騒がしいな。あっちの方からだ」

「ルフィたちかな」

「そうならいいが……」

 

 

 顎に手を当てたフランキーは、一度頷いてから走り出した。リオも何とか気配を探ってみる。

 

 

「あれ……チョッパー?」

 

 

 先行した筈の仲間の気配に、なんだか嫌な予感がした。

 

 

 

 

 

 

 

「も〜、普通逆だよ、逆」

「シーッ! リオ、シーッ!」

 

 

 リオよりよっぽど大きな声で、チョッパーがしゃがみこんだリオの口を塞ぎにきた。

 

 

「んで、ルフィたちは捕まっちまったと?」

「そうなんだ! ルフィとロビンと、あとローと海軍も! 海楼石の鎖で檻に捕まってる」

「でも、何もするな、って言われたんでしょ?」

 

 

 うん、と頷いてチョッパーは何処かから飛んできたという丸まった紙に書かれた文書を見せた。走り書きで『何もするな』と書いてあるらしい。状況的に多分ローだ。

 

 

 研究室らしき部屋を覗き込みながら震えていたチョッパーを発見し、離れた所に呼び寄せたリオとフランキーは、別行動中の面々がシーザーに敗北したらしい事を知った。部屋には見たことの無い男がおり、ローや海兵──これは多分スモーカー──と言い合いをしていたらしい。

 

 

「それ、ヴェルゴって名前じゃない?」

「そう言ってた! 基地長をやってるらしい」

「え、あいつ3年前は大佐じゃなかったっけ。変わらず真面目に階級上げに徹したか……人手不足だもんなァ、海軍」

「知り合いか?」

「悪い意味でね。これでようやくスパイ確定、と」

 

 

 外面は大層良いのだ、あれは。海賊と繋がっている疑惑があっても、監視の前では一切尻尾を出さない。勤務態度も良好で確かな成果を上げてくる。

 限りなくクロ、けれど証拠はない。

 基地長ということは中将まで上がったのだろう、睨みを利かせてくるリオがいなくなればこんなものか。

 

 

「捕まえたからには目的があると思うんだけど、シーザーは何か言ってた?」

「そうだ、実験をするって言ってた。4年前の事故はやっぱりシーザーが起こした実験で、また同じような毒ガス兵器をこの島に撒くって! 研究所内は密閉されてて安全だけど、外に出されたルフィたちが心配だ。それに、ゾロたちも、ナミたちも、まだ外かもしれねェ。子供たちはシーザーが連れ戻したみてェだけど」

 

 

 毒ガスか、と頷いてリオはおや、とフランキーを見上げた。

 

 

「フランキー、私たちこの研究所に大穴開けてこなかったっけ」

「オウ……まァ……見方によっちゃあそうかもしれねェ」

「んー、またやっちゃったな」

 

 

 なんだかずっと、良かれと思ってやったことが空回っているような感覚がある。魚人島でも、ここパンクハザードでも。

 というか、未来視を捨ててからずっと。

 

 

「なんでそんな軽い感じなんだ!? じゃあおれたちも危ないじゃねェか!」

「連携を潰しながら倒してたおかげでシーザーもまだ気付いてねェんだな。流石にそろそろ気付くだろうが」

「よし、チョッパーは最初の予定通り動いて。薬の方は大丈夫そう?」

「あ、うん。鎮静剤も作れると思う」

「じゃあ子供たちは頼んだ。またアメを食べちゃったらまずいからね」

「穴を開けたのは正面の棟だけだ。研究所なら万が一に備えてシャッターで一部分だけを隔離出来る筈だぜ。あいつらは外に取り残されねェよう、全員で奥に逃げ込まねェといけない」

 

 

 頷いて、リオは立ち上がった。この後手後手に回る感じが、未来視のない冒険というやつだ。

 

 

「私はルフィたちの方に行くけど、フランキーはどうする?」

「サニー号が気になる。シーザーを捕まえるのはいいが、その後ガスに包まれた島から脱出する手段が必要だろう?」

「分かった、そっちは任せる」

 

 

 頷いて、三者それぞれが走り出した。リオはチョッパーが覗いていた研究室──ではなく、階段を駆け下りる。正面玄関まで逆戻りだ。来た道を引き返すように空を蹴った。

 

 

「ルフィ!」

「リオ! あれ、フランキーはどうした!?」

「それより、早く走って! ここは安全じゃないよ!」

 

 

 玄関前のロビーは、自力で檻から脱出したローたちと、入り口にいたであろう海兵たち、外にいた仲間たちも駆け込んできてごった返していた。

 流石にリオが助けるまでもなかったか。いや、そうじゃないと困る。囚われのお姫様を助けるなんて、どう考えてもリオ側の仕事じゃない。

 

 

「やっぱり、フランキーが?」

「そう! 大穴開けて来ちゃった! 悪いけどガスは入ってくるから、奥に逃げて! ……で、良いんだよな、ロー!?」

「お前ら、余計なことを……!」

 

 

 ロビンに頷いて、ローの隣まで駆け寄った。リオのいる通路の下は混沌としている。ゾロたちはボスタウロスに運んでもらったらしく、横を走ったり上で寛いでいたり様々だ。スモーカーとその副官はリオの近くにいるが、他の海兵がゾロたちに武器を構えている。

 

 

「メ、……白鳴!!」

「スモーカーさん、それは後で!」

 

 

 条件反射のように噛み付かれたが、これは停戦中と見て良いのだろう。よくよく考えれば、別にリオがスモーカーに対して何かをしたことはないし、絡まれる筋合いは無いはずだ。

 

 

「久しぶり、スモーカー。元気そうじゃん」

「……まァいい。今は別にやることがある」

「じゃあ下の止めて走らせて!」

「メルリオールだって!?」

 

 

 階下から向けられた視線に、リオは身を乗り出した。海兵たちの手が止まる。

 

 

「メ、メル准将ちゃん!」

「おい、もう准将じゃねェ、少将になったんだ!」

「そうでもねェよ、もう海賊だ!」

「えー! おれ達のメルちゃんが……!」

「海賊なら、敵になるのか……!? メルちゃんが……!?」

 

 

 あーあ。口々に勝手なことを言ってリオを見上げる海兵たち。揃いも揃って覚えのある気配。頭が痛い。

 

 

「こんなすぐお前らに会うとは思わなかったよ! G-5のバカ共、沈められたくなけりゃァ、スモーカーの指示で手と足動かせ! まずは奥、走る!」

「うおお、結局沈むのは一緒なのにこの態度!」

「うるせェ、いつもその後拾ってやってただろうが!」

「それでまた沈むんだよね、メルちゃん!」

「そこまで撃沈はしてねェよ!」

 

 

 手すりを殴りつけて、言う通りに走り出した海兵たちに叫んだ。頭が常人の3個分ほど足りてないバカ共だが、リオとはそれなりの付き合いになる。新世界を飛び回っていたリオが寄港するのは殆どG-5だったし、一時期は所属もしていた。その時からバカはバカのまま変わらない。

 

 

 まァ、要するに、メルリオールの元部下だと言えるだろう。正確には直属の部下ではなくて、手が足りない時にダースで攫って連れ回していたというか。

 

 

 態度に問題はあるが、腕っ節はそれなり、という扱いづらい海兵の行き着くところ、G-5基地。なんと、メルリオールもその定義に当てはまっていたので最初の異動はG-5だった。

 サカズキさんの直属になるにあたって所属は本部へと戻ったが、基本的には勝手に軍艦を動かして新世界を飛び回っていたリオにとって、管理が杜撰でやりたい放題なG-5は都合が良かったのだ。

 

 

「スモーカー、お前も苦労してんな!」

「半分くれェはお前の責任だろうが……」

「あいつらがバカなのは生まれつきだよ!」

 

 

 もう一度手すりを殴れば、ローが「R棟66と書かれた扉を目指させろ」と呆れ混じりに口を挟んだ。

 

 

「外気に触れず、裏の港に出られる唯一の出口だ」

「スモーカーさん!」

「ああ。たしぎ、お前はあいつらに着いてガキ共を見つけ出せ」

「はい!」

「麦わら屋、お前たちもだ」

「お、やっとか!」

 

 

 スモーカー、ルフィがそれぞれ頷いて動き出す。

 

 

「リオがたまに口が悪い理由、なんだか分かった気がするわ」

「あ、いや。あー……」

 

 

 もだもだしているうちに、ロビンはふふ、と笑ってゾロたちの方へ向かってしまった。

 

 

「自前だろ」

「言うなよ」

 

 

 一人残ったローに首を振って、「悪化したのはあいつらのせいだよ」と言っておく。

 メルリオールをやるに当たって男口調を心がけたリオだったが、あのバカ共のせいで磨きがかかったのは事実だろうし。おかげでかなりこの口調が染み付いてしまって、今では気合を入れると自然と口調が荒くなってしまう。

 

 

「で、心臓はまだ取り返してないの?」

「これからだ。おれはSAD製造室の方へ行く」

「分かった、シーザーはこっちに任せて」

 

 

 頷いて、「手酷くやられたねェ、ヴェルゴ?」と囁いた。心なしか、息が乱れている。

 最初に会った時「それは?」と指を差した通り、ローの中に心臓が無いことは気付いていた。大方潜入のための交換材料にでもしたのだろうが。

 

 

「……次は問題ねェ、お前も油断はするな」

「その心配はしてないよ、分かってるだろ。君も、私も」

 

 

 肩を竦めたローが能力を発動させた。何度か飛んで、二人して棟の奥へ移動する。先行した皆を一瞬で追い越してしまったようだ。

 

 

「手を出せ」

「うん」

「さっきいた玄関口を下とすれば、上部に4つ、円形の別棟がある。さっきのがA棟、その上に今いるB棟。連絡通路は接続部の一本だけだ」

 

 

 言いながら、ローの指がリオの手のひらに地図を描いていく。

 

 

「B棟の上部に小さめのR棟。その左右にC棟、D棟。連絡通路がこの辺り。おれたちが目指すべき『R棟66』通路は棟内から伸びる運搬用通路だ。SAD製造室はD棟」

「シーザーのいたメイン研究室がC棟だね。分かった、じゃあ裏の港で」

 

 

 頷いて、ローはまた能力を行使した。気配が消える。

 

 

「……さて、と」

 

 

 息を吐いて、軽く屈伸をした。リオも切り替えないと。

 そろそろ、はしゃいでるばかりじゃいられない。

 

 

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