今後も出来ればこのくらいの文量でいきたい。
なんとかVIPルームを脱し、スモーカーに見逃された一行はチョッパーの呼んだヒッコシクラブとかいうでかい生き物の上に飛び乗った。
このままクロコダイルが狙う首都アルバーナを目指す事に否やは無いが、スモーカーの言っていた事も気にかかる。王下七武海が悪魔の子を秘密裏に抱えてまでやる事が、軍事的に特筆すべきことのない
世界会議の参加権か、始まりの20家の有する空白の100年にまつわる何かか。
リオの視た限りクロコダイルの目論見は失敗するようだが、彼の求めたものが次なる火種にならないといいが。
なんて、今のリオには関係ない話か。
「ッ、追われてるよ」
突如刺す様な気配に思考を中断する。クロコダイルだ。
ビビを押し退けて、飛んできたフックを硬化させた右腕で跳ね返す。
「リオさん!?」
「おれが残る!」
ガウン、と鳴った衝突音に驚いたビビの後ろから、ルフィが走りだしてヒッコシクラブを飛び降りた。
「ちゃんと送り届けろよ! ビビを宮殿までちゃんと!」
ニッと笑ったルフィの顔を見たゾロが、すぐさまチョッパーにアルバーナへの前進を指示した。
「いいかビビ。クロコダイルはあいつが抑える。反乱軍が走り始めた瞬間にこの国の制限時間は決まったんだ」
バチンと視界が切り替わる。
続け様に何度も。
そのどれもで、気絶したB・W社の構成員が横たわっていた。
最後に、雨の降りだすアラバスタ王国。
「ルフィさん! アルバーナで待ってるから!」
叫んだビビを見ながら立ち上がり、リオは「私もここで降りる!」と後方へ駆け出した。
「おいリオ! 船長命令聞いてねェのか!」
「聞いた上でだ! 詳しく話している時間はないけど、未来はもう固まった! 私がいるのはコッチだ!」
服の端をつかもうとするゾロの手をすり抜けて、勢いよくジャンプする。
「ビビ! 私はこの国が解放される未来を占った! 絶対に挫けるなよ!」
「ッ、武運を!」
仲間の証を巻いた腕を掲げる。それ以上、言葉は不要だった。
ルフィの元までリオが駆け寄るのを、クロコダイルとニコ・ロビンは悠然と待っていた。
有り体に言って舐められてる。が、それでもおそらくリオの事は多少警戒しているはずだ。腐っても准将まで登りつめた、手札を全く知らない元海兵。海楼石の檻に大人しく閉じ込められていたため警戒も緩んだとは思うが、後はクロコダイルがどこまで慎重派なのかどうかだ。
ルフィのことは賞金額で格下と決めてかかってるきらいがあるが、リオがいるだけで侮ってくれず、初めから殺しにかかってくる。
「置いてかないでよ、ルフィ」
「お前、先行ってろよ! 船長命令だぞ」
「あっちは大丈夫なの。占いもしたし!」
「邪魔だ!」
「やだ、ここにいる!」
ムン、と口を引き結んだルフィは、「じゃあ仕方ねェな」と胸の前で拳を打ち鳴らした。
「いい、ルフィ。悪魔の実は大きく分けて3つに分類されるの。あいつのは中でも自然系と呼ばれる実。スモーカーやエースと同じく、物理攻撃は通用しないよ」
「敵前で講義か? 随分と舐めた真似をしてくれる」
「舐めてるのはそっちでしょ」
フフ、と笑ったニコ・ロビンが先にアルバーナへ向かうと言って背を向けた。追う必要はないだろう。
ルフィの足元に刺さった砂時計を見る。この砂が落ち切るまではこちらの相手をしてくれるらしい。3分のリミットはすでに始まっている。
「リオ、いるのは構わねェけど、あいつはおれがやるからな」
「うん。手は出さないよ。勝ったらルフィは疲れてるだろうから、アルバーナに連れてってあげるね」
「ならいい!」
ルフィはリオにそれ以上は口にしなかった。これでもお互いの気性については理解し合えているはず。それに、これはどちらかというとクロコダイルに伝えるための宣言だ。
「二人でかかってきても良いんだが? 准将」
「リオは少将だぞ!」
「あ?」
「お?」
言い返す前のルフィの言葉に、リオはなるほどそう来たか、と肩を竦めた。口から出たなんとやら、だ。確かに少将を名乗ったのはリオだった。
振り返り、数歩下がってしゃがみ込む。同時に見聞色の範囲を目の前の戦場にだけ絞り込んだ。
元々リオは見聞色に相当の自信を持っているし、占いのこともある。
「
鞄から水筒を取り出して、始まった戦闘を前に観客気分で飲み干した。
「で? 次はお前か? メルリオール元准将」
一切の手出しをせず、ルフィが流砂に飲み込まれていくのを縁で見下ろしているリオ相手に、クロコダイルが笑い混じりに声をかけた。
誰もかれも元准将と。当てつけだろうか?
「目当ては古代兵器なんだ」
「…………さてなァ」
「あ、誤魔化さなくても大丈夫。もう視えたから」
ルフィが完全に流砂に飲まれ姿が見えなくなった。
「…………よし。さて、どうする? クロコダイル」
「あ?」
「私は覇気が使えるよ」
ホラ、と指先を硬化させてみせる。
自然系悪魔の実への対抗策は2つ。
ひとつは自然現象そのものへの性質の理解。氷は熱に弱いだとか、火は水に弱いだとか、そういった変化したもの自体が持つ弱点を突くこと。これはさっきの戦いの最後でルフィが見つけ出している。
もう一つが、覇気だ。
「あなたの能力と私の覇気、どちらが上か試してみる?」
急いでるんでしょ、とアルバーナの方角を振り返る。
「船長を庇いに出てくるには少し遅かったんじゃねェか? 生憎、あのバカは腹に風穴開けて砂の下だ」
「私は君に有利な提案をしてあげてるよ。戦うの? それとも先を急ぐの?」
「お前を生かしておく理由がねェな。海賊に転身したとはいえ、今でも海軍上層部と繋がってたら面倒だ」
「そう。じゃあスモーカーも追いかけて殺さないとね」
「ありゃただの単独行動、命令違反の処罰待ちだろ。どうとでもなる」
犬仲間なのに、と片手を犬の形にしてリオは悲しんでみせた。顔は、笑っていたかもしれないが。
「仕方ないなァ。私も後が詰まってるんだ、さっさと終わらせようか」
折角穏便な提案をしてあげたのに、と首を振り、リオは勢いよくその場からジャンプする。
「は?」
「じゃあね、クロコダイル。
目の前の、流砂の中へ向かって。狂犬が、と呟く声を背中に、リオは乾ききった砂の中に溺れていった。
もちろん、自殺ではない。
しばらくしてからルフィの腕を引き、流砂を脱出する。そのまま待てばアルバーナへの足が来ることは分かっていたので、せっせとルフィの応急手当をしたり、水分補給をしたり、肉を買いに走ったりと忙しい。
「私も一緒に乗せていける?」
「ああ、2人くらいなら問題ないとも」
「わー助かる。走って行くと流石に隼には追いつけないからね」
対クロコダイル用の戦い方を準備するルフィと一緒に、ビビの臣下であるペルの背中でしばしの休息を取る。彼も大怪我を負っていたが、動物系能力者の例に漏れず、頑健な肉体を持っている。
「見えてきた、アルバーナです」
「着いたらまず私を降ろしてもらえる? 城壁の近くとかを飛んで貰えば勝手に飛び降りるから」
「承知しました」
グッと足に力を込め、高度が下がるに合わせて街の様子を見渡した。リオの占いで視た景色とさして変わりはない。
「ルフィ、
「おう! もう負けねェからよ」
頷いて、高い建物へ接近した瞬間にペルから飛び降りた。壁面を靴裏で擦りながら滑り降りる。地面まで降りる直前、ペルとルフィがクロコダイルに投げ落とされたビビをしっかりと受け止めた事を確認した。
さて、次はこちらの仕事だ。
「なんだ!? 上から人が落ちてきたぞ!」
「誰だ! 海賊の仲間か!?」
「貴様ら、誰に銃を向けている!!」
「!?」
いきなり目の前に落ちてきて怒鳴り散らしたリオに、海兵たちは目を剥いた。狙い通り、リオが着地したのはアルバーナ入りした海兵のところだ。
「な、なんだ貴様は」
「待て、この女、ローグタウンで見かけたような……」
充分に注目を集めたところで、演技めかしく羽織っていた白いマントをはためかせる。
「私は
「少将!?」
「待て、聞いたことがあるぞ! 確か史上最短で将官まで駆け上がった女性将校の名だ!」
「なに!? し、失礼しました、少将閣下!」
「この部隊の指揮官は誰だ?」
「あ、はい! 海軍本部たしぎ曹長です! スモーカー大佐より指揮権を預かっています!」
メガネをかけた黒髪の女性が勢いよく手を挙げた。そう、勢いが大事だ。
「よし、たしぎ曹長! お前たちは早急にアラバスタ王国の救援に動け! 宮前広場に午後4時半、砲撃が行われるそうだ!」
「午後4時半……!? もうそんなに時間がない!」
「いいな、海賊の捕縛も重要な任務だが、我々は市民の安全を第一に守らねばならない! 部隊を分けてそれぞれ対処しろ! 人手が要る!」
はっ、と敬礼する海兵たちに片手を振って散開させる。どうもスモーカーがリオの立場に半信半疑だった様子から、部下にはまだ詳しくは情報を開示していないと踏んで正解だった。大丈夫か、田舎の海兵。
ネームバリューだけで相手を信用するなんて懲罰ものだが、リオには関係ないし存分に絞られてくれ。南無南無。
「少将閣下はこの後どうされるのですか!?」
「私は別行動だ! 佐官以下に開示できる情報は無い!」
「あ、はっ失礼いたしました! ご武運を!」
部下と同じように敬礼する曹長に威厳たっぷりに頷いて踵を返す。スモーカーあたりに通信を入れられたらアウトだ。
「ああそうだ、君はスモーカーの直属だな?」
「はい、その通りであります!」
「ならあれにこう伝えておけ。『お前の正義は間違ってない』。分かったな!」
「はい、必ず!」
よし、と頷いて走り出す。タイムリミットは後15分。先んじて王宮にでも潜り込んで、祝杯をあげていようか。
リオが視た占いは絶対だ。
必ず訪れる未来を視るのだから、それは不変である。
ルフィはここでは死なないし、クロコダイルは国を盗れない。よって、アラバスタは解放される。
寝込むルフィの枕元で、リオはホッと息を吐いていた。上手くいくと知っていても、こうして無事な姿を見ると力が抜ける。ルフィには、リオのことを正式に船員に誘ってもらわないといけないので、リオのことを置いていったり、こんな所で倒れられたら困るのだ。
「チョッパー、手伝おうか?」
怪我人の治療に奔走するトナカイに声をかければ、あれと、それと、と仕事を山積みにされた。
「ちょっと多いけど、頼んでもいいか?」
「うん」
腕いっぱいに包帯を抱えて立ち上がる。
麦わらの一味によってクロコダイルの陰謀が暴かれ、反乱が収まってから一夜明けた。ルフィはまだ眠りこけているが、船医であるチョッパーに任せておけば大丈夫だろう。一味の他の面々も既に起き始め、それぞれ動き始めている。
どこもかしこも人手が足りない。王宮に匿われながら、怪我の殆どないリオは復興作業を手伝っていた。
王宮の正面から街に降りて、怪我人の収容された野外テントへ向かう。街に刻まれた破壊の後は痛々しいが、トンテンカンテンと修復作業の音がひしめき合っていた。
「ビビ、怪我の様子はどう?」
一つ目のテントを潜れば、あくせくと働く王女の姿がある。
「私は何ともないわ。それよりみんなの方が重傷よ。でも、心配してくれてありがとう」
二人で話す機会はあまりなかったから、と微笑むビビは、王女として混乱極める宮中を手伝いながら王都の復興に勤しんでいた。
「王女様の心配くらいするさ、これでも世界政府のワンコロだよ」
ワンワン、とふざけてみせれば、「元、でしょ」と強めに訂正が入った。
「リオさんはもう立派な海賊なんだから」
「立派かなァ」
「そうよ。本当に、ありがとう」
「それはルフィに言いなよ。私は何もしてないよ。じゃ、ハイこれ」
ざっと体に異常が無さそうなのを確認して、リオはビビに荷物の一番上を差し出した。チョッパーから預かった傷薬だ。無傷とはいえない体だ、せめて跡が残らないように、と言っていた。
「患部に塗り込んで、だって。腫れが引かないようならチョッパーの診察を受けてね」
「分かったわ」
「それじゃ、また」
「…………ウン! また!」
何か思い詰めたような間に首を傾げる。
「どうかした?」
「ううん、何でも。そうだ、リオさんはどうしてルフィたちの船に乗ったの?」
クルーの皆はそれぞれ夢があるからだって聞いたわ、と話を逸らせたようで逸れていないビビの問いに、リオは「見たい景色があったから」と素直に答えた。
「景色?」
「うん。船に乗れって誘ってもらうの」
「え!?」
ギョッとしたビビがリオに掴みかかった。そのまま、慌てたようにリオの事を引っ張って、人気のない路地裏の方へ連れて行く。振り払うわけにもいかないので、慌ててこのテント用の包帯を入り口横のカゴに投げ込んでおいた。
「別の船に乗るつもりなの!?」
「なんで?」
「なんでって……。だって勧誘待ちって事でしょ!? もっと良い条件を提示されたらメリー号を降りちゃうのね!?」
「降りないよ?」
え? と疑問符を飛ばすビビは、「ナンパされてみたいだけ?」と誤解を招きそうな事を言いだした。
「だって誘ってもらうのってルフィにだもん。だからそれまで船に乗って待ってるんだ」
「どういう事!?」
リオを見るビビの目は、かつてリオを『狂犬』と称した海賊たちと似通っている。
「じゃあ、リオさんはルフィさんに直接誘ってもらいたくて、でも誘ってもらえなかったから見習いとして船に乗って海賊になったって事?」
「うーん、そうだね」
「海兵だったのに?」
「うん」
口をパクパクとさせたビビは、周りに誰もいないことを確認して、言いにくそうに「ルフィさんのこと、好きなの?」と小さな声で言った。
「どうしてそうなるのさ」
「だって!」
ぎゅ、と手が握りしめられる。
「それってルフィさん自体が目的って事でしょ!?」
「ええー、なんでそうなるかな」
「リオさんが忠犬って、私はよく分かってなかったけど、そっか、ルフィさんに従うって事なのね!」
参った、これは否定しても逆効果らしい。年頃の女の子が恋愛の香りを嗅ぎ取ってしまえばもう手がつけられない。全くの勘違いなのに。
勝手に妄想を繰り広げているのを横目に、リオは次なる目的地へ向けて歩きだした。
全く。リオは人間の感情の中では、惚れた腫れたが一番嫌いだ。反吐が出る、とまでは言わないけれど、似たようなもの。砂漠の国にいるのに、しんしんと雪が降っているように思えて、それも━━。なんとも、思わないけれど。
半壊した街並みを縫うように歩けば、プルプルプル、と電伝虫が鳴き始める。
「はいはい、なんでしょうか!」
『ああ、メルちゃん?』
「ん?」
手が塞がっていたので電伝虫の顔を見ていなかった。懐からなんとか引っ張りだして、荷物の上に乗っける。
見上げればそこには、知り合いのメンドくさそうな表情が忠実に再現されていた。
「わはははは、マジでかけてくるんだ。どうも。占い希望?」
『そっちはいいや。メルちゃん、今アラバスタだろ?』
「そう。お土産いる?」
『よろしく〜』
「は〜い」
話が続きそうだったので、通りに出る前に踵を返して回り道を選んだ。聞かれて困るようなものでもないけど、聞かせたい話ではないし。
『で、メルちゃんの賞金額なんだけどさあ。どれくらいがいいか揉めてるのよ。ならもう本人に聞こうって事になってね』
写真は広報用によく撮れてるやつがあるからそれでもいい? と緊張感なく聞いてくる。
「え〜見習いなのに懸賞金つくの?」
『ついてほしくないの?』
「私昨日上官ヅラして海軍に指示出しちゃった〜」
『あららら。スモーカーがおかんむりだったよォ』
「あら〜」
『まァメルちゃんは一応まだ何もしてないからなァ』
つけなくてもいいかァ、と恐らく面倒くさいが理由の9割を占めているだろう結論に至って、『元気にしてるの、メルちゃん』なんて雑談に移行した。恐らくこうなることを見越しての人選であろうから、リオも何も言わない。
「そうだ、ルフィはいくらになるの?」
『1億だってよ』
「他は?」
『えー、ちょっと待って。えーっと、あー、うーん。めんどくさいなァ』
「使えないなァ」
『もー。あ、あったあった。海賊狩りが6000万。東の海じゃ有名だったんでしょ?』
「知らないよ〜」
『1年も暮らしてたんじゃないのォ』
「そうなんだけどね〜。でもそうか、1億か〜」
もう少し行くかと思ったが、新興海賊団はそんなものだろうか。ゾロも、初手配で6000ならびっくりルーキーなのかもしれない。
「まァいいや、海賊と海軍として会ったら、くれぐれもよろしくね〜。オ・ジ・サ・ン!」
『コリャ参った、殺す気でいかせてもらおうかなァ』
「待ってる〜」
のんびりとした声を最後に通信を切った。海賊と海兵が仲良く会話なんて、密通か、余程気が触れているか、どちらかだ。まあ、海軍もこんな新興海賊団に内通者を送るほど、人手を余らせている組織じゃないけれど。
「もー、他に聞きたいことあるくせに」
ボヤきながら元の通りに電伝虫を仕舞う。ルフィが目覚めるまで後2日。出航までは3日。
今のうちに必要物資を揃えておかなきゃな、と荷物を抱えて駆け出した。
土日なので明日もう1話あげます。
よろしくお願いします。